発明 Vol.106 2009-4
知的財産権判例ニュース
 取引者・需要者が本件商標に接したときに
 「PUMA」ブランドのピューマの動物図形を連想する
ことがあるとしても、本件商標を「PUMA」ブランドの
 商標とまで誤って認識するおそれはないとされた事例
(知財高裁平成21年2月10日判決平成20年(行ケ)第10311号)
生田哲郎/森本晋
1.はじめに
 本件は、第5040036号の登録商標(「本件商標」)に対して、プーマ社が登録異議の申し立てをしたところ、特許庁が、本件商標は次ページの引用商標1に類似するから商標法4条1項11号に違反するとして、本件商標の商標登録を取り消す旨決定したことから、原告が決定の取り消しを求めた事案です。
 本件商標は、意識的であるか無意識的であるかは分かりませんが、著名な引用商標1に依拠して創作された商標ではないかと考えられます。本判決は、著名な他人の商標に依拠したと思われる商標に関する商標の類否判断の一事例としての側面を有しており、大変参考になる事案です。

2.裁判所の判断
 裁判所は以下のとおり判示して、特許庁の決定を取り消しました。

(1)商標の類否の判断基準
 「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして、商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、これら3点のうちその一つにおいて類似するものでも、他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。」

(2)外観
 「・・・・・・本件商標と引用商標1とはないしの文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通しているものの、その違いは明瞭に看て取れるものである。」

【本件商標】 【引用商標1】
(登録第3324304号)
画像提供:プーマジャパン(株)
指定商品第25類「Tシャツ、帽子」
指定商品第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、運動用特殊衣服、運動用特殊靴

(3)観念
 「本件商標の動物図形からは直ちに特定の動物を想起しうるものではなく、という文字は『シーサ』『シ・サ』『シサ』と様々に読めるものであって直ちに特定の観念を想起させるものではないがという文字からは『沖縄のオリジナル』『保護者、守護者』『獅子犬』などの意味を読みとることができ、の文字及び動物図形と相まって、沖縄にみられる伝統的
な獅子像である『シーサー』の観念が想起される。」
 「・・・・・・本件商標に描かれた動物図形は『シーサー』の特徴とされているいくつかの点を備えているということができ、動物図形だけをみて直ちに『シーサー』と理解されることがないとしても、の文字や及びの文字とあわせて見れば、『シーサー』を描いたものと理解することができるものである。」
 「したがって、本件商標からは、沖縄にみられる獅子像である『シーサー』の観念が想起される。」
 「引用商標1にはと大きく表記されており、上方に向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって、動物の『ピューマ』の観念が想起される。」
 「また、引用商標1はドイツのスポーツシューズ、スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す『PUMA』ブランドの商標として著名であり(乙2、乙5〜7)、引用商標1からは『PUMA』ブランドの観念も生じる。」
 「したがって、本件商標からは沖縄にみられる獅子像である『シーサー』の観念が生じ、引用商標1からはネコ科の哺乳類『ピューマ』、『PUMA』ブランドの観念が生じるから、両商標は観念を異にする。」

(4)称呼
 「本件商標からは、の文字あるいは上記のような沖縄の獅子像の観念から『シーサ』あるいは『シーサー』の称呼が生じる。」
 「引用商標1からはの文字から『ピューマ』あるいは『プーマ』の称呼が生じる。」

(5)観念および称呼に関する被告主張について
 「以上に対し被告は、引用商標1の著名性を考慮すると、本件商標と引用商標1とに観念上の錯誤が生じ、その結果、本件商標から『周知著名なプーマの商標』(「PUMA」ブランド)の観念及び『プーマ』の称呼が生じると主張するので、この点につき検討する。」
 「『PUMA』ブランドは、・・・・・・、『俊敏に獲物を追いつめ、必ずしとめるプーマのイメージ』をブランド・マークとしたものである(乙2、3)。」
 「『PUMA』ブランドに関して、ピューマの動物図形を用いた商標で我が国で商標登録されたもの・・・・・・の商標の構成(は)・・・・・・多岐にわたるが、上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているピューマが側面から見た姿でシルエット風に描かれているという点で共通している。」
 「これらのピューマの図柄は、体全体の輪郭が流れるような曲線によって描かれている点や、先端だけ若干丸みを帯びた細長い尻尾が右上方に高くしなるように伸び、大きく後ろへ伸びた後足と対称をなしている点で特徴的であり、全体として敏捷でスマートな印象を与えるものである。このようなピューマの図柄は、上記各商標(著者注:省略)においてほぼ統一されたものとなっている。」
 「そして、我が国において販売されているスポーツシューズ、スポーツウェア、バッグ等のカタログでも、上記商標(著者注:省略)に描かれているものと同様のピューマの図柄が商品に使用されている(乙5〜乙7)。」
 「以上によれば、『PUMA』ブランドは、上記のような特徴的なピューマの図柄によって取引者・需要者に印象付けられ、記憶されているものということができる。」
 「これに対して本件商標における動物図形は、たしかにその向きや基本的姿勢、跳躍の角度、前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度、胸・背中・腹から足にかけての曲線の描き方において上記『PUMA』ブランドの商標と似ている点があるものの、取引者・需要者に印象付けられる特徴は『PUMA』ブランドの商標とは異なるものである。
 すなわち、本件商標に描かれた動物は、『PUMA』ブランドのピューマに比べて頭部が大きく、頭部と前足の付け根部分とが連なっているために、上半身が重厚でがっしりした印象を与える。また、『PUMA』ブランドのピューマには模様は描かれず、輪郭のラインやシルエットですっきりと描かれているのに対し、本件商標では首、前足・後足の関節、尻尾に飾りや巻き毛のような模様が描かれている。さらに、『PUMA』ブランドのピューマの特徴である、右上方に高くしなるように伸びた細長い尻尾の代わりに、全体的な丸みを帯びた尻尾が描かれている。
 このように本件商標の動物図形は、『PUMA』ブランドのピューマとは異なる印象を与えるものである。」
 「そうすると、『PUMA』ブランドのピューマを記憶している取引者・需要者は、本件商標に接したときに『PUMA』ブランドのピューマを連想することがあるとしても、本件商標を『PUMA』ブランドの商標とまで誤って認識するおそれはないというべきである。」
 「したがって、本件商標から『PUMA』ブランドの観念や『プーマ』の称呼が生じるということはできない。」

(6)結論
 「以上のとおり、本件商標と引用商標1とは、外観においても観念・称呼においても異なるものであり、本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから、本件商標は引用商標1に類似するものではなく、決定は商標法4条1項11号該当性の判断を誤ったものである。」

3.検討
 本件では、「PUMA」ブランドの商標やその動物図形の著名性を考え合わせますと、意識的であるか無意識的であるかは分かりませんが、本件商標が引用商標1やその動物図形に依拠して創作された可能性は否定できないものと思われます。このような、他人の著名な商標に依拠したと思われる商標について、商標権を与えるべきではないとの考え方もあり得るところです。特許庁の異議の決定の背景にもそのような価値判断が働いていたのかもしれません。
 しかしながら、商標の類否は、特段の事情のない限り一般的な取引者・需要者を想定し、一般的な取引者・需要者の注意力を基準として、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって判断されます。
 本件では、一般的な取引者・需要者の注意力をもってすれば、本件商標と引用商標1を区別することは十分可能と考えられますから、本判決の結論は正当と考えます。



いくたてつお
1972年東京工業大学大学院修士課程修了、技術者としてメーカーに入社。82年弁護士・弁理士登録後、もっぱら、国内外の侵害訴訟、ライセンス契約、特許・商標出願等の知財実務に従事。この間、米国の法律事務所に勤務し、独国マックス・プランク特許法研究所に在籍。

もりもとしん
東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。生田・名越法律特許事務所において知的財産権関係訴訟、ライセンス契約案件等に従事。