知的財産権判例ニュース |
登録商標中の「スーパーフコイダン」の部分には 出所識別力が認められないと判断された事例 |
---|
(東京地方裁判所 平成19年7月26日判決 平成18(ワ)28323号) |
水谷 直樹 |
1.事件の概要 |
原告(株)自然健康館は、指定商品を第29類「海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品」、第32類「清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース」とする商標「『自然健康館』と『スーパーフコイダン』からなり、両者を2段併記したもの」を有しておりました。
![]() そこで、原告は被告に対し、被告標章は原告の商標権を侵害しているとして、被告標章を使用することの差し止め、損害賠償の支払い等を求めて、平成18年に東京地方裁判所に訴えを提起いたしました。 |
2.争点 |
本事件での争点は、
《1》 本件商標と被告標章とは類似しているか 《2》 被告標章の使用は、商品の品質、原材料の表示(商標法26条1項2号)に該当するか 《3》 被告は、被告標章について先使用権(商標法32条1項)を有するか でした。 |
3.裁判所の判断 |
東京地方裁判所は、平成19年7月26日に判決を言い渡しましたが、まず争点《1》につき、本件商標中の「フコイダン」の意義に関して、主に本件商標出願前の学術文献、業界誌、雑誌、新聞、辞書等を引用したうえで、
「『フコイダン』という用語の意義について 前記認定事実によれば、『フコイダン』とは、90年以上前に発見された海藻に含有される硫酸化多糖類のことであり、学術用語として使用されていた。そして、本件商標の出願時(平成16年10月)の数年前から、業界誌や雑誌における紹介記事において、『フコイダン』が海藻類に含有される物質のことであり、これを抽出した健康食品ががん細胞に対し効果があるものとして、注目されていることが記載され、商品名に『フコイダン』を含む健康食品が多数の企業から販売されていることも記載されている。 したがって、『フコイダン』との用語は、本件商標の出願時(平成16年10月)において、いわゆる健康食品の取引者及び需要者の間で、海草類に含有される硫酸化多糖類で、健康食品の主成分に用いられる物質であり、がん細胞等に対し効果があるといわれているものとして、広く知られていたことが認められる。 オ なお、平成19年4月現在では、健康食品を販売するインターネットショップの『フコイダン』をタイトルとするウェブページにおいて、・・・・・・『フコイダン』の文字を含む多数の製品が販売されている(乙34の1ないし3)。」 と認定したうえで、 「(2)本件商標の要部について ア 証拠(乙4ないし9)によれば、いわゆる健康食品の分野では、『スーパー・ルテイン』、『スーパー・イソフラボン』、『スーパーDHA』、『スーパーコエンザイムQ10』、『スーパープロポリス粒』、『スーパーレシチン』のように、原材料の名称に『スーパー』を付した商品が多数販売されていることが認められる。 イ 証拠(乙10ないし19(各枝番を含む。))によれば、いわゆる健康食品を指定商品とした商標登録出願において、原材料の名称に『スーパー』の文字を付した商標は、『スーパー』の文字が商品の誇称表示として一般的に使用されていることから、商標法3条1項3号に該当するとして登録に至らなかった例が、多数あることが認められる(具体例として、『スーパーアガリスク』、『スーパー・ルテイン』、『スーパーイソフラボン』、『スーパーダイズ』、『SUPER/COLLAGEN/スーパーコラーゲン』)。 また、『ピュアフコイダン/PUREFUCOIDAN』、『ナノフコイダン』、『ダブルフコイダン』、『トリプルフコイダン』、『プラチナフコイダン』が商品の品質、原材料を表示するものにすぎず、商標法3条1項3号に該当するとして拒絶査定を受けていることが認められる。 ウ 既に述べたとおり『フコイダン』は、海藻類の成分を抽出して作られた健康食品の原材料を表示する用語である。そして、いわゆる健康食品において、『スーパー』は、商品の誇称表示として一般的に使用されている用語である。したがって、本件商標権の指定商品である『海藻エキスを主材料とする液状又は粉状の加工食品』又は『清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース』の分野では、『スーパーフコイダン』という用語は、高品質の『フコイダン』、すなわち、高品質な、海草類に含有される硫酸化多糖類が含有されていることを記述するにすぎないのであって、それ自体では出所識別力を有せず、本件商標の要部とはなり得ないというべきである。そして、『フコイダン』を名称に含む様々な健康食品が販売されている状況に照らせば、本件商標は、『自然健康館』という製造元の表示と相まって初めて出所識別力が生じるというべきであり、『自然健康館スーパーフコイダン』という本件商標全体が要部であると解するのが相当である。 エ 原告は、自然健康館は小さめに記載され、また、製造元を示すにすぎないので、要部となり得ないと主張する。しかし、既に述べたとおり『スーパーフコイダン』単独では要部となり得ないのであるから、製造元を示す『自然健康館』と『スーパーフコイダン』との表示が相まって出所識別力を発揮するものと認めるのが相当である。原告の上記主張は採用することができない。 また、原告は、原告が、フコイダンという用語を初めて使用したと主張する。しかし、前記認定事実によれば、原告が初めて『フコイダン』の名称を健康食品に使用したと主張する平成13年夏には、既に複数のフコイダンとの表示を冠する商品が存在していたのであるから、原告の主張は採用することができない。そして、前記認定事実によれば、原告の商品『スーパーフコイダン』は『フコイダン』を含有する商品の一つとして紹介されているにとどまり、数多くある『フコイダン』関連商品の中で『スーパーフコイダン』という名称が特別に出所識別力を有するに至っていると認めることもできない。」 「(3)本件商標と被告標章との類否について 本件商標の要部は、『自然健康館スーパーフコイダン』であるから、その称呼は、『しぜんけんこうかんすーぱーふこいだん』である。これに対し、被告標章の要部は、『SUPER FUCOIDAN』であるから、その称呼は、単なる『すーぱーふこいだん』であり、両者は類似しない。 また、本件商標の観念は、『自然健康館のスーパーフコイダン』であるのに対し、被告標章の観念は、単なる『スーパーフコイダン』であるから、両者は類似しない。 さらに、本件商標の外観は、『自然健康館』と『スパーフコイダン』を2段に記したものであるのに対し、被告標章は、『SUPER』と『FUCOIDAN』と『スーパーフコイダン』を3段に記し、これらの文字と6本の横線を菱形状に表した二つの図形とを組み合わせたものであるから、両者は類似しない。 このように、本件商標と被告標章とを対比すると、被告標章からは、本件商標において出所表示機能を有している『自然健康館』を含む称呼・観念・外観を全く生じないのであって、両者は出所の誤認混同を生じ得るものではなく、類似しないものと認められる。 したがって、被告による被告標章の使用は本件商標権を侵害するものではない。また、原告が差止めを求めている別紙被告標章目録記載1の標章は、『SUPER』と『FUCOIDAN』と『スーパーフコイダン』を3段に記したもの(前記横線模様がないもの)であるから、これも本件商標とは非類似であることは明らかである。」 と判示し、その余の争点につき判断することなく、原告の請求を棄却いたしました。 |
4.検討 |
本件は商標権の侵害に関するものですが、原告の登録商標が「自然健康館」と「スーパーフコイダン」とを2段に表示したものであるのに対して、被告標章の骨子は、「SUPER」、「FUCOIDAN」、「スーパーフコイダン」を3段に表示したものでした。
このことからすると、原告商標と被告標章との共通部分は、「スーパーフコイダン」の部分ということになります。 もっとも、この「スーパーフコイダン」については、本判決が認定しているとおり、「スーパーフコイダン」のうちの「スーパー」の部分は、商品の誇称表示として一般的に使用されているものであり、他方で「フコイダン」の部分は、海藻に含有される硫酸化多糖類に関する学術用語とのことであります。これとともに、本件商標の出願前から、「フコイダン」の表示を冠した健康商品が販売されていたとのことであります。 本判決は、これらのことを前提としたうえで、本件商標中の「スーパーフコイダン」の部分からは出所識別力が生じないと認定いたしました。 そのうえで、本判決は、本件商標の要部は、「自然健康館スーパーフコイダン」という本件商標の全体であると認定しております(なお、本判決も当然の前提としているものと考えられますが、実質的にみて、本件商標中で出所識別力が認められるのは、本件商標中の「自然健康館」の部分であると考えられます)。 上記のとおりですが、被告標章の骨子は「SUPER」、「FUCOIDAN」、「スーパーフコイダン」を3段に表記したものでありますから、両者は、上述したとおり、「スーパーフコイダン」の部分だけを共通にしております。 そして、この点に関しては、本判決が認定しているとおり、同共通部分には出所識別力が認められないことから、本件商標と被告標章とは、結論として非類似であると判断されたものであります。 本件商標は、商標中の一部に商品の原材料名が含まれている商標に関するものですが、このような商標についての商標権行使に際しては、商標権者としても、自己の商標の要部につき、事前に十分検討しておくことが必要であることを、具体的に示しているものと考えられます。 本判決は、登録商標の一部に商品の原材料名が使用されており、登録商標を被告標章との間の共通部分が、この原材料名である場合の登録商標と被告標章との類否について判断した事例として、今後の実務上で参考になると考えられます。 |