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放送番組録画システムを販売した事業者につき、 著作隣接権等の侵害主体性を認めた事例 |
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(大阪高等裁判所 平成19年6月14日判決 平成17(ネ)3258号等) |
水谷直樹 |
1.事件の概要 |
控訴人(株)クロムサイズは、「
大阪地方裁判所は平成17年10月24日に判決を言い渡し、被控訴人らの請求を認容いたしました。 そこで、控訴人が大阪高等裁判所に控訴したのが本事件です。 |
2.争点 |
本事件での争点は、
《1》控訴人商品の使用により、同商品のハードディスクに録画される放送番組は公衆送信されると言えるか 《2》控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送番組を送信可能化すると言えるか 《3》控訴人は侵害行為の主体であり得るか でした。 |
3.裁判所の判断 |
大阪高等裁判所は、平成19年6月14日に判決を言い渡しましたが、まず、「選撮見録」の内容について、
「ア 控訴人商品は、テレビ放送受信用チューナーと放送番組録画用ハードディスクを備えたサーバー並びに各利用者用のビューワー及びこれを操作するコントローラーからなる。 イ サーバーは、集合住宅の共用部分(管理人室等)に設置されて多数のビューワーに接続され、また、チューナー部がテレビ放送受信用アンテナに接続される構造となっている。 各使用者用のビューワー及びそのコントローラーは、集合住宅の居室に、各戸1台ずつ設置され、各ビューワーとサーバーとの間が有線回線で電気的に接続される。また、ビューワーにはテレビ受像機が接続されることを予定している。 ウ 『選撮見録』は、そのサーバーによって、テレビ放送から、あらかじめ選定され設定された最大5局分の番組を、同時に、1週間分録画することができる。 ・・・・・・放送番組の録画は、サーバーの記憶装置上に行われ、各放送番組に係る音及び影(映)像の情報は、1週間経過後に自動的に消去される。 エ 放送番組の録画は、ビューワーからの録画予約指示によって自動的にされる。 録画予約モードには、『個別予約モード』と『全局予約モード』があり、各ビューワー毎に設定することができる。・・・・・・サーバーに接続された複数のビューワーから、同一の番組について複数の録画予約(「全局予約モード」の設定による予約も含む。)がされていても、1つの放送番組は、1サーバーにおいては、1か所にしか録画されない」 「オ 録画された放送番組の再生は、ビューワーからの再生指示によって自動的にされる。 各利用者が、ビューワーを用いて、既に録画予約(「全局予約モード」に設定した場合を含む。)の指示をしてある番組の中から、再生すべき番組を指定して再生の指示をすると、サーバーから当該ビューワーに録画してある番組の音及び影像の情報が信号として送信され、各利用者は、当該ビューワーに接続されているテレビ受像機を用いてその番組を視聴することができる。」 と認定したうえで、前記《1》、《2》の争点につき、 「ア 控訴人商品においては、入居者の番組再生の要求に基づき、録画した番組の音及び影像の情報信号が有線回線を介して当該ビューワーに送信されるのであるから、受信者によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信が行われるものであることは明らかである。」 「控訴人商品においては、番組の録画は、録画予約をしたビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ1組のみの音及び影像の情報が記録され、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の信号として送信されるものであるから、人数の点を別とすれば、控訴人商品の使用者は、『公衆』であることを妨げる要素を含んでいるものではない。 ・・・・・・1サーバーに接続されるビューワー数は、設置場所によって異なるとしても、集合住宅向けに販売される以上、少なくとも前記認定の24戸以上の入居者が使用者となることに照らせば、控訴人商品の利用者の数は、公衆送信の定義に関して『公衆』といい得る程度に多数であるというべきである」 「以上によれば、控訴人商品においては、法2条1項7号の2にいう『公衆送信』が行われるものである。」 「利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより、控訴人商品のサーバーに、放送番組に係る情報が記録され、これによって、当該情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組が録画されることにより、その放送は『送信可能化』されるということができる。」 「以上のとおりであるから、控訴人商品の使用時において、控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を『送信可能化』するものということができる。」 と判示したうえで、《3》の争点につき、 「一般に、放送番組に係る音及び影像を複製し、あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは、実際に複製行為をし、公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ、前記認定事実によれば、控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体は、サーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが、これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから、上記指示信号を発する入居者が実際に複製行為、公衆送信・送信可能化行為をするものであり、したがって、少なくとも、その主体はいずれも、現実にコントローラーを操作する各居室の入居者ということができる。 しかし、現実の複製、公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても、その過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている等の場合には、その者も、複製行為、公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、複製行為、公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。」 「控訴人商品は、『全局予約モード』をもってその本来的な使用態様とするもので、『個別予約モード』は、実際には殆ど利用されることのない機能にすぎないということができる。」 「控訴人商品が、既にみたとおり、予約指示に基づく録画によって作成される単一のファイルを他の使用者も使用する構成になっている以上、これを集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステムとしての本来の用途に用いる場合には、被控訴人らの複製権等を侵害せざるを得ないし、また、控訴人商品を上記本来の用途に用いる以外には、社会通念上、経済的、商業的ないしは実用的であると認められるような他の用途が全く考えられず、控訴人においても、その使用者がそのような用途に用いることを前提としてこれを製造・販売し、あるいは後記のようにこれを維持・管理しているものであることは明らかである。」 「過去に控訴人が販売しようとした『選撮見録』については、その購入者等と控訴人との間で、保守業務委託契約が締結されることが想定されていたこと、従来、保守業務の対価は、導入先によって異なるが、月額で、1戸当たり1200円ないし1600円程度、1サーバー当たりにすると3万円ないし4万円程度(いずれも消費税別)とされていたこと、保守業務にあたっては、固定グローバルIPアドレスを取得して控訴人商品のサーバーをインターネットに接続し、控訴人において、インターネットを介してリモートコントロールで作業するものとされていたこと、保守業務委託契約では、サーバーの設置場所を施錠すること及びその鍵の管理を控訴人が受託するものとされていたこと、保守業務委託契約では、控訴人商品の設置者が、控訴人の確認なく控訴人商品の移設や改造を行ったときには、契約が解消されるとされていたことが認められる。」 「『選撮見録』を含む控訴人開発の録画機器は、現時点においても、控訴人による外部からのリモートコントロールを要するものであり、『選撮見録』販売後も、その安定的な運用のためには、控訴人において、なお一定の保守管理を必要とするものと推認するのが相当である。」 「控訴人は、控訴人商品の販売によって利益を得られるばかりでなく、その販売後も、保守業務上の収入のほか、控訴人商品の使用者に複製等の行為を支障なく継続させることによって、控訴人商品の声価が高まり、その後の販路拡大等に大きく寄与することは明らかである上、既販売先においても、控訴人商品の使用による機器の劣化による買替え需要も望めないではなく、継続的に利益を受けることができる。」 「以上によれば、控訴人商品においては販売の形式が採られており、控訴人自身は直接に物理的な複写等の行為を行うものではないが、控訴人商品における著作権、著作隣接権の侵害は、控訴人が敢えて採用した(乙21)放送番組に係る単一のファイルを複数の入居者が使用するという控訴人商品の構成自体に由来するものであり、そのことは使用者には知りようもないことがらであり、使用者の複製等についての関与も著しく乏しいから、その意味で、控訴人は、控訴人商品の販売後も、使用者による複製等(著作権、著作隣接権の侵害)の過程を技術的に決定・支配しているものということができる。のみならず、控訴人商品の安定的な運用のためには、その販売後も、固定IPアドレスを用いてのリモー(ト)コントロールによる保守管理が必要であると推認される上、控訴人は、控訴人商品の実用的な使用のために必要となるEPGを継続的に供給するなどにより、使用者による違法な複製行為等の維持・継続に関与し、これによって利益を受けているものであるから、自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として、規範的な意味において、独立して著作権、著作隣接権の侵害主体となると認めるのが相当である。」 と認定をして、結論として控訴人の控訴を棄却いたしました。 |
4.検討 |
本事件においては、集合住宅に対して放送番組の録画システムを販売している事業者が、著作権、著作隣接権の侵害主体になり得るのか否かが問題になりましたが、本判決はこれを肯定いたしました。
本判決の原判決は、上記事業者が著作隣接権等を侵害する主体であることまでは認めておりませんでしたが、本判決は、上記引用のとおり、これを肯定しております。 本判決は、控訴人商品を本来の用途に用いた場合には、被控訴人等の複製権を侵害せざるを得ず、これ以外には社会通念上、経済的、商業的ないし実用的であると認められる他の用途が認められないと述べておりますが、これは特許法101条(間接侵害)が規定する「のみ」の要件についての判例における解釈そのものにほかなりません。 この点からすると、本判決は、侵害専用品を提供する事業者、すなわち特許法においては間接侵害者とされる者につき、著作隣接権等の侵害の侵害主体性を認めたと評価することが可能であるとも考えられます。 いずれにいたしましても、上記の侵害行為の主体性の認定の問題に関しましては、侵害専用品を提供する者についてまで、侵害行為の主体性を拡張していくことが、解釈により可能であるのか、あるいは法改正を要するのかにつき、議論が分かれるものと考えられ、今後の議論が期待されるところであります。 |