発明 Vol.104 2007-7
知的財産権判例ニュース
放送番組録画転送サービスに関して
著作権侵害が認められた事例
(東京地方裁判所 平成19年3月30日判決 平成18年(ヨ)第22046号)
水谷直樹
1.事件の概要
 債務者(株)日本デジタル家電は、「ロクラクIIビデオデッキレンタル」という名称のサービスを提供しておりましたが、その内容は、本件仮処分決定によれば、「『ロクラクIIビデオデッキレンタル』との名称で債務者が行っている事業は、ハードディスクレコーダー『ロクラクII』(以下『ロクラクII』という。)2台のうち1台を日本国内に設置して、受信するテレビジョン放送の放送波をその1台に入力するとともに、これに対応するもう1台を利用者に貸与又は譲渡することにより、当該利用者をして、日本国内で放送される放送番組の複製及び視聴を可能とするサービス」というものでした。
 これに対して、債権者(株)東京放送および同静岡放送(株)は、これも本件仮処分決定によれば、「債務者の行為は、債権者株式会社東京放送(以下『債権者TBS』という。)が著作権を有する別紙著作物目録記載の著作物(以下『本件著作物』という。)及び債権者静岡放送株式会社(以下『債権者SBS』という。)が著作隣接権を有する別紙放送目録記載の放送(以下『本件放送』という。)に係る音又は影像を複製する行為に当たるから、債権者TBSの本件著作物についての複製権(著作権法21条)及び債権者SBSの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権(同法98条)を侵害するとして、債権者TBSにおいて、本件著作物を複製の対象とすることの差止め、債権者SBSにおいて、本件放送に係る音又は影像を録音又は録画の対象とすることの差止めを求めて」、平成18年に東京地方裁判所に仮処分命令の申立てを行いました。

2.争点
 本事件での争点は、
《1》債務者は、債権者(株)東京放送にかかる著作物および債権者静岡放送(株)にかかる放送の複製行為を行っていると評価できるか
《2》保全の必要性の有無
でした。

3.裁判所の判断
 東京地方裁判所は、平成19年3月30日に決定を言い渡しましたが、左記《1》の争点については、
「ア 複製主体
 著作権法上の侵害行為者を決するについては、カラオケ装置を設置したスナック等の経営者について、客の歌唱についての管理及びそれによる営業上の利益という観点から、演奏の主体として、演奏権侵害の不法行為責任があると認めた最高裁判例(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決)等も踏まえ、行為(提供されるサービス)の性質、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合考慮して判断すべきである。」
「イ 検討
(ア)本件サービスの目的
 債務者が行う本件サービスは、・・・・・・利用者が、手元に設置した子機ロクラクを操作して、離れた場所に設置した親機ロクラクにおいてアナログ地上波放送を受信し、これを録画することによりテレビ番組を複製し、複製した番組データを子機ロクラクに送信させ、子機ロクラクに接続したテレビ等のモニタに、当該番組データを再生して、複製したテレビ番組を視聴することができるというサービスを、利用者に対し提供するものである。用いられる親機ロクラクにおいて受信できるのが日本国内のアナログ地上波放送であることから、親機ロクラクは、日本国内に設置されることが必要であるが、子機ロクラクの設置場所については、ブロードバンドのインターネット環境等が必要となるほかは、機器の機能及び設定環境による制約はなく、日本国内外の設置が可能である。」
「(イ)親機ロクラクの設置場所及びその状況
a本件モニタ事業実施時、債務者が利用者に対しレンタルしていた親機ロクラクは、・・・・・・債務者事業所内に設置されていたが、そこでは、債務者において、債務者事業所のテレビアンテナ端子に分配機が接続され、分配機の各出力端子と各親機ロクラクのアンテナ入力端子が、アンテナ接続ケーブルで接続され、電源は、電源コンセントから供給され、各親機ロクラクと高速インターネット回線とは、ハブ及びルーターを介して接続されていたのであって、本件モニタ事業における親機ロクラクの機能を発揮し得るように、債務者によって、一体として管理されていたということができる。
b本件モニタ事業終了後、本件サービスが開始されたが、利用申込書において、・・・・・・親機ロクラクの設置場所の確保について債務者が一切関与しない旨が示され、・・・・・・現在、債務者事業所内に、本件サービスに利用されている親機ロクラクは存在しない。しかしながら、・・・・・・債務者が主張する事実関係の不自然さや本件保全手続における対応からすれば、利用者が債務者とかかわりなく親機ロクラクを設置しているような例外的な場合を除いて、親機ロクラクのほとんどが、取扱業者を通じて提供される設置場所に移動された後においても、債務者は、親機ロクラクの設置、維持、環境整備等に関して、債務者事業所内に親機ロクラクを設置していた場合と同様に、その管理を継続しているものと考えざるを得ない。
 そうすると、本件サービスに供されている債務者所有の親機ロクラクのほとんどが、債務者の実質的な管理支配下にあり、債務者は、これらの親機ロクラクを、本件サービスを利用するための環境の提供を含め、一体として管理しているものと解すべきこととなる。」
「(ウ)利用者の録画可能なテレビ番組
 本件サービスにおいて、親機ロクラクは、実質的に債務者の管理する設置場所に設置されている場合がほとんどであると認められ、その場合は、利用者が録画することができるテレビ番組は、同設置場所において受信できるアナログ地上波放送に限定されることになる。
(エ)本件サービスを利用する際の送受信の枠組み
 本件サービスを利用する場合には、・・・・・・債務者においてあらかじめ設定したメールアドレスを用い、債務者の管理するサーバを経由して、指示やデータの送受信が行われることとなる。
(オ)本件サービスによる利益の帰属
 債務者は、本件サービスによって、・・・・・・『初期登録料』及び『レンタル料』を取得している。
(カ)小括
 以上の事情を総合考慮すれば、債務者が、本件サービスにおいて、大多数の利用者の利用に係る親機ロクラクを管理している場合は、別紙サービス目録記載の内容のサービス、すなわち、本件対象サービスを提供しているものということができ、この場合、債務者が、本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を管理し、それによる利益を得ていると認められる。」
「ウ まとめ
 以上から、債務者は、本件対象サービスにおいて、本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり、債権者TBSの本件著作物についての複製権(著作権法21条)及び債権者SBSの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権(同法98条)を侵害するものといえる。」
 と判断し、次に上記《2》の争点については、
「2 争点2(保全の必要性)について
 債務者は、本件サービスの利用者が正当な用法に従って子機ロクラクを操作して行う親機・子機間の個別のメール通信を遮断する権限も機会もなく、もとより、他のメール通信と区別して、一部のテレビ番組録画用のメール通信を選別して遮断することなどおよそできないし、ファームウェアの修正で、ロクラクの他の機能に影響を与えずに、メール通信だけを遮断することなどできない旨主張する。
 しかしながら、債務者は、本件対象サービスにおいて、自らが本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているのであり、このことと、本件対象サービスの利用者による放送番組の録画が、私的使用目的で行われるか否かとは、直接関連するものではなく、本件申立ては、本件対象サービスにおいて、債務者が行っていると評価できる複製行為の差止めを求めるものであるから、利用者が正当な用法に従った行為を遮断する権限がない旨の債務者の上記主張は、その前提において誤りがあり、これを採用することはできない。そして、本件仮処分命令についての履行が技術的に全く不可能であるとは認められない(例えば、本件著作物及び本件放送に係る番組を除外した番組表が提供されるようにすることなどが想定される。)ので、その点から保全の必要性を欠くということもできない。
 なお、本件サービスに関連して、利用者自身が、日本国内の自宅など、債務者が管理していると解される場所以外の場所に、親機ロクラクを設置して利用する例外的な場合も考えられるところ、債権者らの本件申立ては、本件対象サービス、すなわち、別紙サービス目録記載のサービスにおける本件著作物及び本件放送に係る音又は影像の複製の差止めを求めるものであり、同サービスは、債務者が親機ロクラクを日本国内に設置することをその内容とし、上記の、利用者が自宅に設置するなどの場合を含まないから、上記差止めを認容しても、債務者が、上記1において認定、検討した態様において管理する場所に親機ロクラクを設置している場合のみが対象となり、著作権又は著作隣接権侵害が問題にならない態様のものまでがその対象に含まれるものではないことは明らかである。」
 と判断し、結論として、債権者らの仮処分申立てを認容いたしました。

4.検討
 本事件では、債務者が提供するインターネット録画サービスが、債権者らの著作権、著作隣接権を侵害するか否かが争われました。
 本事件は、録画ネット事件、招きTV事件と同様に、サービス提供者自身が、著作(隣接)権侵害を行っていると評価できるのか否かが争点となりました(録画ネット事件は肯定、招きTV事件は否定)。
 もっとも、本事件では、上記2事件とは異なり、番組の複製を行っている親機が、どこに設置されているのか(支配管理性を裏付ける事実)が争点となり、この点に関する債務者の答弁内容が曖昧であったために、上記の認定につながったものと考えられます。
 換言すれば、番組の録画が親機で行われていることは争いがないところ、この親機が債務者の支配管理下にあると認められれば、これまでの判例の流れからして、複製権侵害が認められやすい事案であったといえるかと思います。
 本事件は、この点で、事実認定により結論が左右される事案であるといえますが、これまでの一連の判決に一事例を加えたものとして、今後の実務において参考になるものと考えられます。



みずたに なおき
1973年東京工業大学工学部卒、1975年早稲田大学法学部卒業後、1976年 司法試験合格。1979年 弁護士登録、現在に至る(弁護士・弁理士、東京工業大学大学院客員教授、専修大学法科大学院客員教授)。
 知的財産権法分野の訴訟、交渉、契約等を多数手掛けている。