知的財産権判例ニュース |
放送番組転送サービスに関して 送信可能化権侵害が認められなかった事例 |
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「知的財産高等裁判所 平成18年12月22日決定」 |
水谷直樹 |
1.事件の概要 |
被抗告人(株)永野商店は、顧客(利用者)からの依頼に応じて、顧客が所有するソニー製の「ロケーションフリーテレビ」を構成する主要な装置である「ベースステーション」の寄託を受け、顧客からの個別の選択に応じて、放映中のテレビ番組を顧客指定の場所に送信するサービス「まねきTV」を提供しておりました。
これに対して、抗告人(株)フジテレビジョンは、被抗告人による上記サービスの提供は、抗告人が有する著作隣接権の1つである送信可能化権(著作権法99条の2)を侵害しているとして、当該送信可能化(サービスの提供)の差止めを求めて、平成18年に東京地方裁判所に仮処分の申し立てを行いました。しかし、同裁判所は平成18年8月4日付にて同申し立てを却下する旨の決定を下しました(同決定に関しては、平成18年11月号の本欄で取り上げておりますので、「まねきTV」サービスの内容等の確認を含めて、同欄を参照してください)。 そこで、抗告人が知的財産高等裁判所に抗告を申し立てたのが本事件です。 |
2.争点 |
本事件での争点は、原審と同様に、被抗告人が提供しているサービス「まねきTV」において、被抗告人自身が放送の送信可能化を行っていると評価し得るのか否か、すなわち、被抗告人において送信可能化権の侵害が認め得るか否かとの点でありました。
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3.裁判所の判断 |
知的財産高等裁判所は、平成18年12月22日に決定を下しましたが、前記争点について、
「(1)ベースステーション等の『自動公衆送信装置』該当性について ア 抗告人は、被抗告人が本件サービスに供している多数のベースステーション、分配機、ケーブル、ハブ、ルーター等の機器は、有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり、一つのアンテナ端子からの放送波を、このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信しうる状態にしているから、全体としてみれば、一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものであると主張する。 しかし、ベースステーションによって行われている送信は、個別の利用者の求めに応じて、当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり、送信の実質がこのようなものである以上、本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても、『自動公衆送信装置』該当性の判断を左右するものではない。 イ 抗告人は、被抗告人がベースステーションのポート番号の競合を避けるための設定を行っていることを認めており、ルーターにおいて『ポートフォワーディング』を用いる設定を行っているから、多数のベースステーションを統合したシステム全体を一台のコンピュータとして認識できるようにしていると主張する。 しかし、甲第13及び第14号証により一応認められる事実としては、『ポートフォワーディング』(IPマスカレード)は、一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術であるが、各端末が『1対1』の送信を行う機能しか有しないときは、この技術を用いたとしても、『1対1』の送信しかできないのであって、『1対多』の送信が可能になるものではない。したがって、『ポートフォワーディング』を用いる設定を行っていても、そのことから直ちにベースステーションを含む一連の機器が全体として、1台の『自動公衆送信装置』に該当することにはならない。」 「(2)送信可能化行為の主体について ア 抗告人は、被抗告人が電気通信回線であるインターネット回線に接続されているベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力していることは、著作権法2条1項9号の5イの『情報を入力すること』に当たり、また、既に放送波が入力されているベースステーションを電気通信回線であるインターネット回線に接続して、利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることは、同号ロに当たると主張する。 しかし、前記引用に係る原決定掲記の事実関係によれば、ベースステーションは『1対1』の送信を行う機能のみを有するものであって、『自動公衆送信装置』に該当するものではないから、被抗告人がベースステーションにアンテナを接続したり、ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても、その行為が送信可能化行為に該当しないことは明らかである。 イ 抗告人は、被抗告人が『ベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力している』とも主張する。 しかし、アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、受信機に接続して受信設備の一環をなすものであることは、技術常識であるから、被抗告人がベースステーションにアンテナを接続しても、ベースステーションへの送信を行ったことにはならない。また、分配機は、単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく、アンテナを複数の受信機で共用するために、アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数の給電線と接続させるとともに、それに伴う抵抗の調整を行うにすぎないことは、技術常識であるから、被抗告人が分配機を介してアンテナとベースステーションとを接続しても、『1対多』の送信や『有線放送』をしたことにはならない。」 「(3)『送信可能化行為』該当性の判断 ア 前記引用に係る原決定掲記の事実関係及び前記(1)(2)に判示したところに照らせば、本件においては、次の各事情を指摘することができる。 (ア)ベースステーションの機能 本件サービスにおいて用いられるベースステーションは、あらかじめ設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しかなく、1台のベースステーションについてみれば、『1対1』の送受信が行われるもので、『1対多』の送受信を行う機能を有しない。 (イ)本件サービスにおけるベースステーションの利用形態 本件サービスにおいては、利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在するところ、各ベースステーションからの送信の宛先は、これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており、被抗告人がこの設定を任意に変更することはない。 (ウ)送信の契機等 各ベースステーションからの送信は、これを所有する利用者の発する指令により開始され、当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており、被抗告人がこれに関与することはない。 イ 本件において、ベースステーションの機能、利用形態及び送信の契機等の上記の各事情を総合考慮すれば、ベースステーションないしこれを含む一連の機器が『自動公衆送信装置』に該当するということはできず、ベースステーションから行われる送信も『公衆送信』に該当するものではない。被抗告人の行為は、単に各利用者からその所有に係るベースステーションの寄託を受けて、電源とアンテナの接続環境を供給するだけであって、著作権法99条の2所定の送信可能化行為に該当するものではない。」 と判断して、原審決定の結論を支持し、抗告人の申し立てを却下いたしました。 |
4.検討 |
本決定は、被抗告人の「まねきTV」サービスが、抗告人の送信可能化権(著作隣接権)を侵害するか否かの点につき、原審の結論を維持いたしました。
本サービスは、利用者が自ら遠隔で操作、選択した放送番組を、利用者に転送することを内容としておりますが、遠隔操作の対象となる設備(ベースステーション)が、被抗告人の下に設置されているため、転送を行っている主体が被抗告人であると評価することが、可能か否かが争点となりました。 この点につき、自ら対象行為を直接行ってはいないが、規範的な観点から、当該行為を行っていると評価することが可能か否かが問題となった事件としては、クラブキャッツアイ事件判決(最高裁昭和63.3.15)、ファイルローグ事件判決(東京高裁平成17.3.31)、録画ネット事件決定(知財高裁平成17.11.15)等が存在しております。 これらの判決、決定においては、サービス提供者が、自ら対象行為を直接行っていないとしても、 《1》提供しているサービスの目的、性質 《2》問題となる行為に対する管理、支配性の如何 《3》問題となる行為を通じての図利性の如何 等の諸点を総合的に考慮したうえで、対象行為を直接行っていない者についても、規範的な観点から行為の主体性を肯定することが可能であることが判示されてきております。 上記の3件の判決、決定は、いずれも上記3要件を適用したうえで、サービス提供者につき、行為主体性を肯定いたしております。 これに対して、本決定は、同様の枠組み内で検討しているものの、結論としては行為主体性を否定しております。 特に、本事件と上記録画ネット事件とは、いずれも視聴可能区域外への放送番組の転送をサービス内容としている点で共通しておりますが、行為主体性の判断では、逆の結論となっております。 すなわち、 《1》本事件では、ベースステーションの所有権は利用者に帰属していること──これに対し録画ネット事件では、テレビパソコンの所有権は、サービス提供者に帰属していると認定されていること 《2》本事件では、番組転送の際に使用されるソフトウェアは、すべてソニーが開発したものであり、被抗告人が独自に準備したものは利用されていないこと──これに対し録画ネット事件では、サービス提供者が調達したソフトウェアが使用されていること 《3》本件では、利用者によるベースステーションへのアクセスに際し、サービス提供者のサーバ等での認証は要求されていないこと──これに対し録画ネット事件では、上記認証を受けることが要求されていること 等の相違を踏まえたうえで、両者は、サービス提供者による管理、支配性の点で画然とした差異があるとして、本決定では、結論として、ベースステーションは「自動公衆送信装置」に該当せず、被抗告人は送信可能化行為の主体たり得ず、被抗告人の行為は送信可能化行為に該当しないと認定しております。 前記のとおり、本決定においては、「まねきTV」サービスが著作隣接権を侵害しない適法なサービスであることが判示されており、この点で、同種のサービスであったとしても、事業モデルの構築の仕方次第で判断内容が変わることが明確にされております。 この点において、本決定は、実務に与える影響が大きいものと考えられます。 |