知的所有権判例ニュース |
スクール情報誌の編集著作権侵害が 否定された事例 |
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「東京高等裁判所 平成17年3月29日判決」 |
水谷直樹 |
1.事件の概要 |
原告(株)リクルートは,各種学校やその講座内容を掲載したスクール情報誌「ケイコとマナブ」を編集,発行しております。
これに対して,被告(株)プロトコーポレーションも,同種雑誌である「ヴィー・スクール」を編集,発行しております。 原告の「ケイコとマナブ」は,分野別の「モノクロ情報ページ」というページにおいて,独自の観点からスクール・講座情報を分類,配列したうえで,誌面の前小口(書籍の背と反対の部分)に,ツメ見出し(スクールの分類を示すもので「英会話」,「パソコン」,「医療&福祉・教育」,「フード&料理」,「ダンス」等々を内容としている),カプセル(ツメ見出しを大分類とした場合の小分類であり,例えばツメ見出しが「英会話」である場合のカプセルは,「発音」,「ヒアリング」,「英検」,「TOEIC」等々を内容としている),アイコン(講座,スクール等の特徴を示すもので「駅前」,「予約制」,「初心者対象」,「給付制度対象」等々を内容としている)が掲載され,これに加えて巻末にスーパーインデックス(掲載項目のインデックスであって,大分類,小分類からなる)が掲載されております。 原告は,これらのツメ見出し,カプセル,アイコン,スーパーインデックスは編集著作物であるとして,被告の「ヴィー・スクール」上の見出しは,これらの編集著作物の著作権を侵害していると主張して,「ヴィー・スクール」の発行差止め,損害賠償の支払いを求めて,平成15年に東京地方裁判所に訴訟を提起しました。 東京地方裁判所は,平成16年3月30日に原告の請求棄却の判決を言い渡しました。 そこで,原告が東京高等裁判所に控訴したのが本件事件です。 |
2.争点 |
本件事件での争点は,
《1》 控訴人(原告)主張の「モノクロ情報ページ」上のツメ見出し,カプセル,アイコン,スーパーインデックスに著作物(編集著作物)性が認められるか 《2》 仮に,上記に著作物性が認められた場合に,被控訴人(被告)雑誌は,控訴人(原告)の著作権を侵害しているか でした。 |
3.裁判所の判断 |
東京高等裁判所は,平成17年3月29日に判決を言い渡しましたが,上記争点《1》に関して,「モノクロ情報ページ」につき,
「(ア)控訴人情報誌東海版平成14年4月号には,モノクロで印刷され,控訴人の広告主から出稿されたスクール・講座情報が掲載された分野別モノクロ情報ページがあり,これらのページは,・・・・・・各スクールごとに,《1》スクール名,《2》住所,《3》最寄駅,《4》スクールの特徴を示すアイコン(『スクール便利ポイント』),《5》カプセル(講座内容を表す分類指標),《6》講座の特徴を示すアイコン(開講時間,受講制度,レベル,講師に関する事項等,講座・コース独自の特長及びメリットに関する『特長アイコン』と,受講料の支払方法及び割引に関する特長,メリットに関する『○得情報アイコン』がある。),《7》資料請求番号,《8》コース名,《9》講座開講日時・費用,《10》入学金・受講料の割引を示すマーク,《11》コース内容,《12》スクール情報,《13》地図,《14》交通案内及びフリースペースから構成され,これらの情報は,『情報の見方』の記載に従って配置されている。」 「(イ)上記分野別モノクロ情報ページにおいて,スクールは,ツメ見出しの分類により,『英会話』,『外国語&語学の仕事』,『パソコン』,『デジタルクリエイティブ』,『エンジニア』,『ビジネス資格&スキル』,『建築・インテリア・CAD』,『フラワー』,『マスコミ・ファッション・デザイン』,『キレイ』,『癒し&健康』,『医療&福祉・教育』,『専門スキル』,『フード&料理』,『ミュージック』,『絵画・アート・書&クラフト』,『文化教養』,『スポーツ&乗り物』,『ダンス』の順に配列されている。」 「控訴人情報誌東海版平成14年4月号の分野別モノクロ情報ページは,広告主から出稿されたスクール・講座情報を素材として,これらの素材を,読者の検索及び比較検討を容易にするため,五十音順等の既存の基準ではなく,控訴人の独自に定めた分類,配列方針に従って配列したものであり,その具体的配列は創作性を有するものと認められるから,編集著作物に該当するということができる。しかしながら,上記(ア)の配置方針自体は,スクール名,住所,最寄駅,コース名,地図などの読者が当然に必要とする情報を誌面に割り付ける際の方針,すなわち,アイデアにすぎず,表現それ自体ではない部分である。また,上記(イ)の分類自体も,同様にアイデアにすぎず,表現それ自体ではない部分であると認められる上,仮に,分類項目を素材としてとらえることができるとしても,スクール・講座情報を掲載する情報誌において,読者による検索の便宜のため,同種のスクールをまとめて分類する必要があることは,当然のことであり,その分類項目も,英会話,外国語,パソコン,資格など,実用性の高いスクール・講座情報を先に,音楽,海外,スポーツなど,趣味性の高いスクール・講座情報を後に,かつ,類似するものが近接したページに掲載されるよう19種類のツメ見出しの分類に従って配列したにすぎないものであるから,その選択,配列に表現上の創作性を認めることはできない。 控訴人は,上記具体的なスクール・講座情報及び具体的な編集物である控訴人情報誌東海版平成14年4月号を離れ,分類,配列体系の項目である『学ぶ内容』ないし編集体系を構成する分類項目を素材とし,編集体系を表現としてとらえるべきであると主張する。しかしながら,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),アイデアなど表現それ自体でない部分は,著作権法の保護の対象ではないと解すべきところ,控訴人の主張する具体的な編集物を離れた編集体系自体は,上記のとおり,選択,配列のアイデアにすぎないというべきであり,また,仮に,分類項目を素材としてとらえることができるとしても,その選択,配列に表現上の創作性を認め得ないものであるから,これを著作権法の保護の対象と解することはできない。したがって,控訴人の上記主張は,いずれにしても採用することができない。」と判示し,ツメ見出し,カプセルにつき, 「具体的な編集物を離れた編集体系自体は,選択,配列のアイデアというべきであって,著作権法の保護の対象と解することはできないことは上記のとおりであり,分野別モノクロ情報ページ中のツメ見出し,カプセルも選択,配列のアイデアにすぎないというべきである。」と判示したうえで,上記《2》の争点に関しては,控訴人雑誌と被控訴人雑誌上のスクール情報の具体的配列につき対比したうえで, 「以上対比したところによれば,控訴人情報誌東海版平成14年4月号の分野別モノクロ情報ページと被控訴人情報誌東海版平成14年10月号ないし同年12月号のカテゴリー別スクール情報ページは,配置方針及び分類は類似しているものの,その具体的配列は,同一性又は類似性があると認めることはできず,上記類似性を有する部分は,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性が認められない部分であって,上記各カテゴリー別スクール情報ページから上記分野別モノクロ情報ページの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,上記各カテゴリー別スクール情報ページは,上記分野別モノクロ情報ページを複製ないし翻案したものということはできない。」と判示し, 「控訴人情報誌東海版平成14年4月号分野別モノクロ情報ページ中のツメ見出し・カプセルは,編集著作物ということはできないから,被控訴人が,被控訴人情報誌東海版平成14年10月号ないし同年12月号のカテゴリー別スクール情報ページにおいて,小分類・大分類を表示した被控訴人各情報誌各号を編集,発行した行為は,控訴人各情報誌のツメ見出し・カプセルの編集著作物の複製権又は翻案権を侵害するということはできない。」と判示して,結論として控訴人の控訴を棄却しました。 |
4.検討 |
本事件は,スクール情報誌のモノクロ情報ページに掲載されているツメ見出し,カプセル等の著作物性ならびに著作権侵害の有無が争われた事案です。
本判決は,ツメ見出し,カプセル等の分類項目ないし分類体系はアイデアであるとして著作物性を否定し,他方で,上記ツメ見出し,カプセル等の分類体系のもとで編集されている冊子(個々の掲載情報の具体的配列)については編集著作物性を肯定しております。 もっとも,この具体的配列のレベルの対比においては,「ケイコとマナブ」と「ヴィー・スクール」とでは,掲載されているスクールの内容も,掲載内容も同一であるとはいえないとして,複製権侵害を否定し,翻案権侵害も否定しております。 他方で,具体的配列を離れて,ツメ見出し,カプセル等の分類体系それ自体については,アイデアであって,表現とはいえないとして,著作物性を否定しております。 控訴人による本件訴訟提起の理由は,被控訴人に控訴人情報誌のツメ見出しやカプセルを無断で使われてしまったとの点にあるかと思われますが,裁判所は,上記の理由を挙げることにより,控訴人の請求を認容いたしませんでした。 著作権法12条1項は,「編集物(データベースに該当するものを除く,以下同じ)でその素材又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する。」と規定しておりますが,本判決は,著作権法12条1項が規定している「配列」とは,配列体系,配列方法のことではなく,上記「配列」に従って配列された素材の具体的配列を指していると解しておりますが,結論として相当であると考えられます。 本判決は,表現とアイデアの分離という著作権法上の原則を,具体的な事案において確認ならびに適用したものとして,今後の実務上で参考になると考えられます。 |