発明 Vol.101 2004-9
知的所有権判例ニュース
インクリボン外箱上の適合機種メーカー名の表示が,
商標権侵害に該当しないと判示された事例
「東京地方裁判所 平成16年6月23日判決」
水谷直樹
1.事実関係

 原告ブラザー工業(株)は,商標「ブラザー」および「brother」を,第9類の指定商品「電気通信機械器具」,第16類の指定商品「印字用インクリボン」を含む各指定商品において,登録商標として登録しておりました。
 原告は,これと共にファクシミリを製造,販売しておりました。
 これに対して,被告(株)オーム電機は,原告が製造するファクシミリ用のインクリボンを製造し,被告ダイニック(株)は,これを販売しておりました。
 被告らが製造,販売するインクリボンの外箱には,「ブラザー用」,「For brother」と表示されておりました。
 そこで,原告は,被告らが製造,販売している原告製造のファクシミリ用のインクリボンは,原告の商標権を侵害していると主張して,上記インクリボンの製造,販売の差止め等を求めて,平成15年に東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました。

2.争点

 本事件での争点は,
《1》 被告らのインクリボンの外箱上の「ブラザー用」,「For brother」の表示(標章)は,本件商標の商標的な使用であって,本件商標権を侵害するか
《2》 仮に,上記《1》が肯定された場合に,原告の被った損害額はいくらになるのか

3.裁判所の判断

 東京地方裁判所は,平成16年6月23日に判決を言い渡しましたが,まず,上記《1》の争点につき,
 「(1) オ 被告製品の性質等
(ア) 被告製品は,ファクシミリに用いられるインクリボンであって,消耗品である。すなわち,インクリボンにより印字するタイプのファクシミリを購入したユーザーは,インクリボンを使い切った場合,再度の使用ができないため,新しいインクリボンを購入する必要が生ずる。
 一般に,各種機器類において,当該機器類と消耗品との適合関係が限られていることも少なくなく,このような場合には,ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように,商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われており,ユーザーもその点を十分に認識し,消耗品購入の際の参考としている。
 また,消耗品を製造,販売する者は,機器類を製造,販売する者と常に同一者であるとは限らず,むしろ,一般的には,消耗品を製造,販売する者は,機器類を製造,販売する者と異なる場合が多い。
(イ) 被告製品は,原告の製造に係るファクシミリの特定の機種に用いられるインクリボンである。ところで,原告の製造に係るファクシミリに使用することができるインクリボンは,原告製のファクシミリにのみ使用することができ,他社製のファクシミリには使用できない。したがって,原告の製造に係るファクシミリに使用できるインクリボンを販売する者は,消費者が,他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起する必要がある。そのために,例えば,当該インクリボンの外箱等に,原告の製造するファクシミリに使用するためのインクリボンである旨を表記することが不可欠となる。」との事実認定をしたうえで,
 「被告製品の外箱の長方形の面のうちの2面の中央部のもっとも目立つ位置には,被告製品の普通名称である『インクリボン』の表示や,被告製品の用途を示す『普通紙FAX用』との表示が,いずれも消費者の目を引く白抜きで,その他の文字よりも大きく記載されている。」
 「これに対し,被告標章は,前記アの用途等を示す記載と比較して小さく記載されている。また,前記(1)のとおり,取付方法の記載された面に表示された被告標章を除き,被告標章1の前には『For』の文字が付加され,被告標章2の後ろには,『用』との文字がそれぞれ付加されている。そして,『For』は,『〜のために』といった目的を意味する中学で学習する基本的な英単語であり,『用』は,接尾語的に用いられる場合には,何かに使うためのものという意義を有する語である。したがって,被告製品の一般需要者は,被告標章を含む『For brother』,『ブラザー用』,『新ブラザー用』の表示について,被告製品が,原告製造のファクシミリに使用できるインクリボンであることを示すための表記であると理解するものと認められる。」
 「被告旧製品においては,被告標章と同じ又は小さく,英語表記であるものの,被告オームの名称が記載され,住所等が記載されているが,その記載態様からすれば,これらの記載は,被告オームの連絡先を表示したものと認識できる。また,被告新製品においては,上記の記載に加え,被告標章とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく被告オームの名称が英語表記で記載されている。被告オームに関する以上の表示は,被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示といえる。」
 「前記(1)のとおり,当該機器類と消耗品との適合関係が限定されているような場合に,ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように,商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われており,消費者も,そのようなことを十分に認識し,消耗品購入の際の参考としている。また,被告製品は,原告の製造に係るファクシミリの特定の機種にのみ使用できるインクリボンであって,被告が,インクリボンを販売するに当たっては,消費者が,他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起することが不可欠であり,そのような目的に照らすならば,被告標章の表示は,ごく通常の表記態様であると解される。」
 「以上の点を総合すれば,被告が被告製品において前記認定の態様で被告標章を用いた行為は,被告標章を,被告製品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用する行為,すなわち商標としての使用行為であると解することはできない。
 したがって,被告らによる被告標章の使用は,本件商標権の侵害には当たらない。」
 と判示して,結論として原告の請求を棄却いたしました。

4.検討

 本事件は,原告が,原告が製造,販売しているファクシミリ用のインクリボンを製造,販売しているサードパーティである被告らに対して,商標権侵害を根拠として,インクリボンの製造,販売の差止めを求めた事案です。
 これに対して,判決は,インクリボンの外箱上に「ブラザー用」,「For brother」と表示することは,原告の商標権侵害には該当しないと判示いたしました。
 判決は,その理由として,「ブラザー用」,「For brother」の表示は,被告製品が原告製品のファクシミリ用のインクリボンであることを示すためのものであること,これとともに,本件では消耗品であるインクリボンとファクシミリとの間の適合関係が限定されていること,外箱上には被告名が表示されていること等を挙げて,上記表示は商標としての使用に該当しないと認定しております。
 判決は,上記の理由を挙げることにより,本件で原告の商標権侵害は認められないと結論づけております。
 ところで,コピー機,プリンター,ファクシミリ等においては,消耗品の利益率が高いために,ビジネス全体の利益を,機器本体の販売利益プラス消耗品の販売利益により確保していくことが,少なくないといわれております。
 このため,サードパーティが消耗品のビジネスに参入してきた場合に,これを中止させるための根拠のひとつとして,特許権,商標権等の侵害が検討されることがあるといわれております。
 本件が,このケースに該当しているのか否かは,判決文からは明らかではありませんが,本判決は,前記で引用したとおり,「ブラザー用」,「For brother」の表示は,商標としての使用に該当しないとして,原告の請求を棄却いたしております。
 本判決は,上記の点において,今後の実務で参考になるものと考えられます。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業,1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。