発明 Vol.101 2004-7
知的所有権判例ニュース
記事の見出しの
著作物性が否定された事例
「東京地方裁判所 平成16年3月24日判決」
水谷直樹
1.事件の概要

 原告(株)読売新聞東京本社は,「Yomiuri OnLine」とのタイトルのウェブサイトを開設して,同ウェブサイト上に日々のニュースを,「見出し」および「記事」の構成にてアップロードしておりました。
 これに対して,被告(有)デジタルアライアンスは,原告からライセンスを受けて,原告ウェブサイト上の上記ニュースを,自己のウェブサイト上に掲載している「Yahoo!Japan」にリンクを張り,その際に,リンクボタンの多くを,上記原告ニュースの「見出し」と同一の語句としておりました(以下「被告リンク見出し」といいます)。
 被告は,さらに,被告に登録をしたユーザに対して,上記「被告リンク見出し」を,ユーザの画面上に表示することを可能とさせておりました。
 そこで,原告は,被告に対して,被告が被告ウェブサイト上で「被告リンク見出し」を表示することは,原告の著作物の複製権侵害であるとともに,被告がユーザに対して,「被告リンク見出し」を送信することは,同様に公衆送信権侵害であるとして,上記行為の差止めおよび損害賠償を求めて,平成14年に東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました。

2.争点

 左記事件での争点は,以下のとおりでした。
《1》 原告のWebsite上のニュースの「見出し」は著作物に該当するか
《2》 仮に上記《1》が否定された場合に,被告の行為を不法行為と評価することが可能であるか

3.裁判所の判断

 東京地方裁判所は,平成16年3月24日に判決を言い渡し,まず,上記《1》の争点について,
 「著作権法による保護の対象となる著作物は,『思想又は感情を創作的に表現したもの』であることが必要である(法2条1項1号)。『思想又は感情を表現した』とは,事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが,事実を基礎とした場合であっても,筆者の事実に対する評価,意見等を,創作的に表現しているものであれば足りる。そして,『創作的に表現したもの』というためには,筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方,言語から構成される作品において,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が現れていないものとして,創作的な表現であると解することはできない。」
 と判示したうえで,原告が著作権侵害を主張している個々の見出しについて検討しましたが,原告が著作物性があると主張していた以下の見出し,すなわち,
「いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」
「『喫煙死』1時間に560人」
「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」
「ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷」
「男女3人でトンネルに『弱そうな』男性拉致」
「スポーツ飲料,トラックごと盗む・・・・・・被害1億円7人逮捕」
「E.Fさん 赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
につき,いずれも慣用的ないしはありふれた表現等であるとして,創作性を否定いたしました。
 判決は,そのうえで,
「《1》YOL見出しは,その性質上,簡潔な表現により,報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり,表現の選択の幅は広いとはいえないこと,《2》YOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され,多くは20字未満の字数で構成されており,この点からも選択の幅は広いとはいえないこと,《3》YOL見出しは,YOL記事中の言葉をそのまま用いたり,これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ,これらの事実に照らすならば,YOL見出しは,YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり,著作権法10条2項所定の『事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道』(著作権法10条2項)に該当するものと認められる。以上を総合すると,原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと,また,本件全証拠によるもYOL見出しが,YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから,YOL見出しは著作物であるとはいえない。」
 と判示しました。
 次に,上記《2》の争点については,
「YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。」
 と判示し,結論として原告の請求を棄却いたしました。

4.検討

 本事件では,記事の見出しの著作物性の有無が争われました。
 判決は,まず,言語による作品において,ごく短い場合,表現形式に制約があり,他の表現が想定できない場合,表現が平凡かつありふれた場合には,創作性が否定されるという一般的基準を示しました。
 判決は,そのうえで,本事件で具体的に問題になった見出しにつき検討をいたしましたが,これらの見出しにおいては,いずれの見出しも,慣用的な表現やありふれた表現等であるとして,結論として,記事の見出しの創作性を否定しております。
 判決の上記の結論は,引用されている個々の記事の「見出し」を前提とする限り,おおむね相当であると考えられます。
 なお,新聞記事の無断利用の有無が争われた事件としては,これまで日経新聞要約翻案事件(東京地裁平6.2.18),ウォール・ストリート・ジャーナル事件(最判平7.6.18)等が存在しております。
 これらの事件では,新聞記事の翻案権侵害や編集著作権侵害の有無が争われており,記事の内容自体の無断利用,個々の記事というよりは,新聞全体における記事の無断利用の有無が争われておりました。
 これに対して,本事件では,複製権および公衆送信権侵害の有無が争われましたが,争われた対象は「見出し」であり,記事本体の内容ではない点で相違しております。
 いずれにしましても,本判決は,今後の実務において参考になると考えられます。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業,1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。