発明 Vol.100 2003-09
知的所有権判例ニュース
商品の機能,効果により決定される商品形態に
対する不正競争防止法による保護を否定した事例
「平成15年5月22日東京高等裁判所判決 平成15年(ネ)366号」
水谷直樹
1.事実関係

 原告PCフレーム協会は,崖地の斜面等を安定させる工事において使用,施工される特定形状の斜面受圧板の普及に努める団体であり,原告(株)ピー・シー・フレームは,上記斜面受圧板につき特許権を有しており,原告PCフレーム協会の会員企業に対して,同特許のライセンスを行い,同会員企業は同ライセンスに基づき,上記斜面受圧板を,崖地等の斜面工事において使用してきました。
 他方で,被告斜面受圧板協会は,原告協会と同様の事業を行い,被告(株)エスイーほか2社は,自ら製造,販売をした斜面受圧板(PUC受圧板)を使用して工事を行っていました。
 原告らは,被告らの上記行為は,不正競争防止法2条1項1,2号所定の不正競争行為に該当すると主張して,被告らによる受圧板の製造,販売の差止め等を求めて,平成13年に東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました(原告(株)ピー・シー・フレームが保有していた特許権は,この訴訟提起の時点で存続期間を満了していた模様です)。

2.争点

 本事件での争点は,原告らの斜面受圧板が,不正競争防止法2条1,2号所定の商品等表示に該当するのか否かでした。
 特に,本事件では,斜面受圧板の形状が,機能と結びついて決定されている場合においての法的保護の可否が問題となりました。

3.裁判所の判断

 東京地方裁判所は,平成14年12月19日に判決を言い渡しましたが,同判決中では,商品の形態が,商品の機能ないし効果と必然的に結びついているような場合には,当該形態については,不正競争防止法上の保護が受けられないことを明らかにしたうえで,本事件で,原告らの斜面受圧板と被告らの斜面受圧板の基本的な構成態様に共通している部分は,機能と必然的に結びついたものと言わざるを得ないと認定して,結論として,原告主張の商品形態は,不正競争防止法による保護を受けることができないとして,原告らの請求を棄却しました。
 原告らは,同判決に不服であるとして,東京高等裁判所に控訴しました。
 東京高等裁判所は,平成15年5月22日に判決を言い渡しましたが,上記争点について,
 「上記PCフレームとPUC受圧板に共通する形状が,プレストレストコンクリート製の受圧板の機能上要求される要素から当然に導き出される,すなわち,機能と必然的に結び付いた形状であり,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の商品等表示に該当しないとした原判決の判断には,何ら誤りはないというべきである。」
 「しかし,控訴人らが,プレストレストコンクリート製の斜面受圧板を独占的に販売してきたことは,控訴人らがPCフレーム工法に関して特許権等を有しており,他者が同種の斜面受圧板を製造・販売することが制限されていたためと認められる。特許権等の知的財産権の存在により独占状態が生じ,これに伴って周知性ないし著名性が生じるのはある意味では当然のことであり,これに基づき生じた周知性だけを根拠に,不正競争防止法の適用を認めることは,結局,知的財産権の存続期間経過後も,第三者によるその利用を妨げてしまうことに等しい。そのような事態が,価値ある情報の提供に対する対価として,その利用の一定期間の独占を認め,期間経過後は万人にその利用を認めることにより,産業の発達に寄与するという,特許法等の目的に反することは明らかである。
 もっとも,このように,周知性ないし著名性が知的財産権に基づく独占により生じた場合でも,例えば,知的財産権の存続期間が経過し,第三者の同種競合製品が市場に投入されて相当期間経過するなどして,知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で,なお控訴人製品の形状が出所を表示するものとして周知ないし著名であるとの事情が認められるなどのことがあれば,不正競争防止法2条1項1号,2号を適用する余地はあろう。しかし,本件では,そのような事情は一切認められない。
 機能と必然的に結び付いた形状であっても,その出所表示としての周知著名性があるときは,不正競争防止法2条1項1号ないし2号の周知著名性の要件を充足するという観点に立ったとしても,本件における上記状況の下では,これを認めることはできないというべきである。」
 と判示して,控訴人らの控訴を棄却しました。

4.検討

 本事件では,特許権が存在していたことにより,同種競合製品が市場に参入することができず,この結果として,特許権者の特許実施品の商品形態が仮に周知であった場合に,特許権の存続期間満了後に,当該商品形態につき,今度は不正競争防止法による別途の保護が可能であるのか否かが問題になっています。
 本事件の第1審,第2審判決は,いずれも商品形態が,商品の機能と効果に必然的に結びついている場合には,当該商品形態は,不正競争防止法の保護を受けることができない旨を明らかにしています。
 この点については,ルービックキューブに関する東京高等裁判所の判決(本誌平成14年11月号を参照)の流れを踏襲したものといえるものと考えられます。
 もっとも,控訴審判決は,この点につき,さらに,特許権による保護の下で,競合製品が市場に登場し得ないことに起因して,特定の商品形態が周知になったとしても,特許権の存続期間満了後に,第三者により同種製品が市場に投入され,相当期間経過後においてなお当初の商品形態が周知性を維持しているのであれば,この場合には,当該商品形態に対する不正競争防止法による保護の余地があるかのように述べています。
 この指摘には大変興味深いものがあります。
 もっとも,ここで,商品の形態を,商品の機能や効果により必然的に定まる商品形態と,そうでない商品形態とに分けた場合に,後者の場合のみならず,前者の場合についてまで不正競争防止法による保護を認める趣旨であるのかといえば,おそらくはそこまでを認める趣旨ではないようにも考えられます。
 (上記引用した控訴審判決中の判示も,「機能と必然的に結び付いた形状であっても,その出所表示としての周知著名性があるときは,・・・・・・周知著名性の要件を充足するという観点に立ったとしても」という仮定の議論を行っているように思われます)。
 いずれにしましても,商品の機能や効果により決定される商品形態について,不正競争防止法による保護を認めないことは,判例上もほぼ固まりつつあるといってよいように考えられます。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業,1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。