発明 Vol.99 2002-11
知的所有権判例ニュース
ルービックキューブの商品形態について
不正競争防止法による保護を否定した事例
「東京高等裁判所 平成13年12月19日判決」
水谷直樹
1.事件の概容
 (株)ツクダオリジナルは,昭和55年以来,我が国で独占的に回転式立体組合せ玩具「ルービックキューブ」を販売してきました。
 これに対して,(株)ラナは,「ルービックキューブ」の類似品を販売していたため,(株)ツクダオリジナルは,(株)ラナに対して,平成12年に,上記類似商品の販売の差止めならびに損害賠償の支払いを請求して,東京地方裁判所に訴訟を提起しました。
 東京地方裁判所は平成13年10月31日に判決を言い渡して,(株)ツクダオリジナルの請求を棄却しました。
 そこで,(株)ツクダオリジナルは,東京高等裁判所に控訴しました。

2.争点
 上記事件での争点は,
 「ルービックキューブ」の形態は,控訴人((株)ツクダオリジナル)の周知な商品等表示に該当するか。
 特に,ルービックキューブの形態が,特定の機能,効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態である場合にも,当該形態に対して法的保護を認めることが可能であるのか,
 でした。

3.裁判所の判断
 東京高等裁判所は,平成13年12月19日に判決を言い渡し,
 「不正競争防止法2条1項1号は,周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するため,実質的に競合する複数の商品の自由な競争関係の存在を前提に,商品の出所について混同を生じさせる出所表示の使用等を禁ずるものと解される。そうすると,同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない商品形態にまで商品等表示としての保護を与えた場合,同号が商品等表示の例として掲げる『人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装』のように,商品そのものとは別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なり,同号が目的とする出所表示機能の保護を超えて,共通の機能及び効用を奏する同種の商品の市場への参入を阻害することとなってしまうが,このような事態は,実質的に競合する複数の商品の自由な競争の下における出所の混同の防止を図る同号の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって,同種の商品に共通してその特有の機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ない形態は,同号にいう『商品等表示』に該当しないと解すべきである。
 そして,このことは,同項3号において,『他人の商品と同種の商品が通常有する形態』のみならず,『同種の商品がない場合にあっては,当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品が通常有する形態』についても,これを同号の保護の対象から除外している趣旨とも整合するものである。」
 と判示したうえで,ルービックキューブの基本形態(本件商品形態)である「全体形状が正六面体であり,その各面が9個のブロックに区分され,各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈していること」につき,
 「以上の認定判断を総合すれば,本件商品形態は,同種の商品に共通する機能及び効用に由来する数少ない選択肢である上,本件商品形態を避けて他の商品形態を採用した場合,一般需要者にとって代替可能な商品として市場において原告商品とは競合し得ない商品となってしまい,そのようなものはもはや同種の商品ということはできない。そうすると,本件商品形態は,原告商品と同種の商品に共通してその機能及び効用を発揮するために不可避的に採用せざるを得ないものと解するのが相当であり,したがって,商品等表示に該当しないものというべきである。」
 との判断を示して,上記の基本形態は,保護されるべき商品等表示であるとはいえないと判示しました。
 判決は,上記のとおり判示したうえで,控訴人の「ルービックキューブ」と被控訴人商品との間に,上記の基本形態以外に共通している形態が存在しているのかを検討しましたが,何ら類似点は存在していないとして,結論として控訴人の控訴を棄却しました。

4.検討
 不正競争防止法2条1項1号所定の「周知な商品等表示」の保護を巡っては,これまで商品の形態が,商品の機能や効用により決定される場合に,そのような場合の商品形態も,上記「周知な商品等表示」として保護することが可能であるのか否かが争われてきました。
 この点につき,判例,学説は,保護を肯定するのか否かにつき,肯定と否定との間で立場が揺れてきました。
 この点について本判決は,商品の形態が商品の機能,効用を発揮するために不可避的に決定される場合には,当該商品の形態に対する法的保護については,基本的にこれを否定することを明らかにしています。
 もっとも,本判決は,上記結論を出すにあたって,機能,効用により決定される商品形態を採用しない商品が,市場において,当該商品形態を採用した商品の代替可能な商品となり得るのか否かについても,併せて検討しています(もっとも,本判決では,上記認定のとおり,代替可能な商品とはなり得ないことを認定しています)。
 すなわち,本判決は,商品形態が商品の機能,効用により決定されるのか否かの点だけではなく,当該形態を伴わない商品が,当該形態を採用した商品との関係で,市場において代替可能な商品となり得るのか否かについても検討したうえで,結論を出しています。
 以上のとおり,本判決は,商品形態が商品の機能や効用により決定される数少ない選択肢の一つであり,当該形態を採用せずには,市場において代替可能な商品を製造することもできない場合には,当該商品形態に対する法的保護を否定することを明らかにしたものです。
 本判決は高裁レベルの判決であり,今後の実務において大変重要な判決となるものと考えられます。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業,1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。