知的所有権判例ニュース |
漫画が原作品の二次的著作物であることを認め, 原作品の著作者の権利行使を認めた事例 |
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「最高裁判所 平成13年10月25日判決」 |
水谷直樹 |
1.事件の概容 |
被上告人名木田恵子氏は漫画「キャンディキャンディ」の原作者,上告人五十嵐優美子氏は漫画「キャンディキャンディ」の作者です。
上告人は,連載中の上記漫画のコマ絵を他の雑誌表紙上に掲載し,また連載中の漫画の主人公の絵を作成して上記とは別の雑誌表示上に掲載し(表紙絵),また新たに書き下ろした主人公キャンディの原画に基づきリトグラフや絵葉書を作成しましたが,これに対して被上告人が,上告人のこれらの行為は,被上告人の「キャンディキャンディ」の原著作者の権利(著作権)を侵害するものであるとして,原著作者としての権利の確認を求めるとともに,原画の作成,複製,配布の禁止を求めて,平成9年に東京地方裁判所に訴訟を提起しました。 上告人は平成11年に東京地方裁判所で敗訴したために(被上告人の請求が認容されました),東京高等裁判所に控訴しましたが,平成12年に控訴棄却との判決が下されたため,さらに最高裁判所に上告したのが本事件です。 |
2.争点 |
本事件の争点は,
《1》 被上告人は漫画「キャンディキャンディ」について原著作者としての権利(著作権)を有しているか, 《2》 上告人が新たに作成したリトグラフ,葉書用の原画は,被上告人の原著作者としての権利を侵害することになるか, でした。 |
3.裁判所の判断 |
最高裁判所は平成13年10月25日に判決を言い渡し,
「原審の適法に確定したところによれば,本件連載漫画は,被上告人が各回ごとの具体的なストーリーを創作し,これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にし,上告人において,漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き,おおむねその原稿に依拠して漫画を作成するという手順を繰り返すことにより制作されたというのである。この事実によれば,本件連載漫画は被上告人作成の原稿を原著作物とする二次的著作物であるということができるから,被上告人は,本件連載漫画について原著作者の権利を有するものというべきである。そして,二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し,原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し,上告人の権利と被上告人の権利とが併存することになるのであるから,上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。したがって,被上告人は,上告人が本件連載漫画の主人公キャンディを描いた本件原画を合意によることなく作成し,複製し,又は配布することの差止めを求めることができるというべきである。 以上によれば,被上告人が本件連載漫画の一部である本件コマ絵及び本件連載漫画の主人公キャンディの絵の複製である本件表紙絵につき原著作者の権利を有することの確認と,本件原画を作成し,複製し,又は配布することの差止めを求める被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は,正当として是認することができる。」 と判示して,上告人の上告を棄却しました。 |
4.検討 |
本判決は,漫画の原作者が漫画の作者に対して,連載中の漫画のコマ絵や前記表紙絵を他の雑誌上に掲載することにつき,原作者は原著作者としての権利を有していること,換言すれば原著作者の同意なしにコマ絵や表紙絵を他の雑誌上に掲載できないこと,ならびに漫画の主人公の原画を新たに作成して,これをリトグラフ,絵葉書として複製,配布することについても原著作者の同意なしに行うことができないことを,最高裁判所として認めたことを内容としています。 一般に漫画の原作者と漫画作成者との関係については,両者が共同で協議したうえでストーリー等を決めていく場合には,作成された漫画は原作者と漫画家の共同著作物と解する余地があると思われますが,これに対して,原作者がまず原作を作成し,これに基づき漫画家が漫画を作成していく場合には,原作と漫画との関係は,原著作物と二次的著作物の関係に立つことが多いものと考えられております。 本判決は,上記引用のとおり,本事件で認定された事実関係のもとでは,原作品と漫画との関係は,上記のうちの後者の原著作物と二次的著作物の関係に立つものと認定しています。 上告人は,この点につき,原作品に依拠して作成された漫画と,原作品に依拠することなく作成された原画等を分けたうえで,少なくとも後者については原作品との間で二次的著作物の関係には立たない旨を主張していましたが,この主張は,控訴審でも上告審でも排斥されています。 |
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この点については,控訴判決中でも述べられていますが,著作権法28条(二次的著作物の原著作物の著作者は,二次的著作物の利用に関して,二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する旨を規定)が,原著作者として権利行使可能な部分について,二次的著作物中の原作品に依拠して作成された部分と二次的著作物中の著作者の独自の創作性のみが発揮されている部分とを区別することなく規定しているのは,上記の基準により漫画が原作品との間で二次的著作物の関係に立つ場合とそうでない場合とを明確に区別することが困難であること,原作品と漫画との間に二次的著作物の関係が存在していると認定された場合には,二次的著作物中の原作品に依拠して作成された部分と二次的著作物中の著作者の独自の創作性のみが発揮されている部分とを区別することなく,全体として原著作物に依拠して作成されているとの前提で条文を規定されていることによるものとも考えられます。
以上のとおりですが,本判決は,上記の争点について,最高裁判所としての立場で解釈を明らかにしたということが可能ですから,本判決は,今後の同種事案において,実務上重要な判決の1つとなるものと思われます。 |