知的所有権判例ニュース |
不正競争防止法に基づきドメイン名の 使用差止等の請求を認めた事例 |
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水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告ジェイフォン東日本(株)は,携帯電話サービスを主要な業務としておりましたところ,被告は「j−phone.co.jp」のドメイン名を登録し,これを使用したウェブサイトを開設いたしました。
そこで,原告は,被告に対して,不正競争防止法に基づき,上記ドメイン名の使用の差止め,ウェブサイト上での「J−PHONE」,「ジェイフォン」等の表示の差止,損害賠償を求めて,平成12年に東京地方裁判所へ訴訟を提起いたしました。 |
2.争点 |
同事件での主要な争点は,以下に示す2点でした。
(1) 被告が上記ドメイン名を使用することは,不正競争防止法2条1項1,2号所定の「商品等表示」の「使用」に該当するか (2) 原告の「J−PHONE」というサービス名称は,原告の営業表示として「周知」ないし「著名」なものであるか |
3.裁判所の判断 |
東京地方裁判所は,平成13年1月30日に判決を言い渡しましたが,まず上記(1)の争点につき,ドメイン名につき一般論を展開したうえで,
「ドメイン名の登録者が,その開設するウェブサイト上で商品の販売や役務の提供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し,あるいは注文を受け付けているような場合には,ドメイン名が当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得ることになり,そのような場合においては,ドメイン名が,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう『商品等表示』に該当することになる。 そして,個別の具体的事案においてドメイン名の使用が『商品等表示』の『使用』に該当するかどうかは,当該ドメイン名が使用されている状況やウェブサイトに表示されたページの内容等から,総合的に判断するのが相当である。 これを本件についてみるに,本件ウェブサイトにおいては,レッスンビデオ,携帯電話機,酵母食品等についての販売広告とともに注文の受付がされているところ,ウェブページ上には前記のとおり『J−PHONE』の語を含む表示がされており,この表示においては『J−PHONE』の語が本件ウェブサイトの開設者を示すものとして用いられていることが明らかである。そうすると,本件ウェブサイトにおいて,『J−PHONE』の語は,本件ウェブサイトを開設し,ウェブサイト上で前記商品を販売する者を示すものとして用いられていると認められる。」 「以上を総合すれば,本件ドメイン名は,本件ウェブサイト中の『J−PHONE』の表示とあいまって,本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能を有していると認めるのが相当である。したがって,被告の本件ドメイン名の使用は,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう『商品等表示』の使用に該当するものというべきである。 また,被告が本件ウェブサイト上に表示した本件表示は,『J−PHONE』,『ジェイフォン』,『J-フォン』を横書きにしたものであって,本件ウェブサイト上の前記の『J−PHONE』と同一ないし類似するものであるから,被告がこれらの表示を使用する行為も,不正競争防止法2条1項1号,2号にいう『商品等表示』の使用に該当するものである。」 と判示し,次に上記(2)の争点については, 「上記<1> に認定の事実によれば,本件サービス名称(『J−PHONE』― 筆者注)は,全国的な広告宣伝活動の結果により,現在においては原告及び原告関連会社の営業を示す表示として著名であり,不正競争防止法2条1項2号にいう『著名な商品等表示』に該当するものと認められる(なお,本件サービス名称が現在関東周辺地区において周知であることは,当事者間に争いがない。)。……本件サービス名称は,被告が本件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点において既に全国規模で広く認識されていたものであり,この時点において不正競争防止法2条1項2号にいう『著名な商品等表示』に該当していたものと認められる。」 と判示し,結論として原告の請求を認容しました。 |
4.検討 |
本事件は,原告の携帯電話のサービス名称である『J−PHONE』と同一文字列を含むドメイン名「j−phone.co.jp」を登録した被告に対するドメイン名の使用差止等の請求を,不正競争防止法2条1項2号に基づき認めた事案です。
ドメイン名は,それ自体で直ちに不正競争防止法2条1項1,2号所定の「商品等表示」に該当するとはいえませんので,本判決は,ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に該当するのか否かについて,ウェブサイト上で商品や役務に関する情報の提供等がなされているか否かを検討したうえで(これが認められた場合には,当該ドメイン名は,上記商品や役務の出所を識別する機能を有することがあり得ることを本判決は認めております),ウェヴサイト上の表示内容をも勘案して総合的に判断すべきと判示しております。 上記判示内容は,不正競争防止法2条1項1,2号の規定内容からすると,当然のこととも考えられますが,本判決は,同条同号に基づく保護を受けるための要件を明確にしたということができると考えられます。 もっとも,同法2条1項1,2号の適用を前提とした場合には,(1)ドメイン名の使用が「商品等表示」の使用に該当していること,(2)保護が求められている商品名,サービス名称等について「周知性」または「著名性」が認められること,(3)ドメイン名が,単に「登録」されているのみならず,実際に「使用」されていること等が要求されますので,これらの要件の1つでも欠くようなケースについては,同条同号に基づく保護が困難になる場合があるものと考えられます。そこで,上記(1),(2),(3)各要件のすべてについてまでは充足していない場合にも,法的保護を可能とすることを目的にして,今国会で不正競争防止法が改正され,新たに不正競争行為の類型として, 「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的で,他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し,若しくは保有し,又はそのドメイン名を使用する行為」 が導入されました(同法2条1項12号)。 同規定の導入により,今後は,不正競争防止法2条1項1,2号のみならず,同条12号によっても,この種の事案に対する法的保護が可能となりましたので,今後は,より広範な法的救済が可能となるものと考えられます。 |