知的所有権判例ニュース |
ドメインネームと不正競争防止法 |
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神谷 巖 |
1.事件の概要 |
本件は,新聞やテレビでも取り上げられ,有名になりました。東京地方裁判所や大阪地方裁判所等の知的財産権専門部の判決ではありませんが,今後同種の裁判例が増えてくると予想されますので,一読の価値があります。
本件の概要を簡単にいいますと, インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名を使用し,かつ開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し,「JACCS」という営業表示を使用する原告が,被告による上記ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は,不正競争行為(不正競争防止法第2条第1項第1号,第2号)に当たるとして,上記ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における上記表示の差止めを求めたものです。 原告は,割賦購入斡旋等を主たる事業とする株式会社であり,被告は,簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする有限会社です。ドメイン名とは,インターネットに接続しているコンピュータを認識する方法であり,インターネット利用者は,ドメイン名を入力することによって,特定のホームページ等に到達することができます。ドメイン名については,各国のネットワークインフォメーションセンターが一元的に割当てを管理していて,国際的な一意性を保証するため,先願主義の原則が採用されています。日本においては,社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)がドメイン名の割当てを管理しており,一般の企業に割り当てられるcoドメインについては,申請者が法人登記をしていること,申請ドメイン名が既存のドメイン名と一致しないこと及び原則として1組織1ドメインであることの条件を満たす場合に割り当てられ,完全な先願主義が採られています。この場合,ドメイン名と企業の商号との一致は要求されていず,ドメイン名については申請者がそれぞれ自由に決定して申請し,JPNICが上記基準を満たせばほとんどそのまま割り当てています。 |
2.争点 |
原告は,次のように主張しました。原告は,「ジャックス」をその商号の要部として昭和51年から継続して使用しており,原告が発行するクレジットカードや原告従業員の名刺,全国ネットで流すテレビコマーシャル,新聞広告には,「JACCS」が使用され,「JACCS」は原告の営業表示として,全国的にかつ本来の需要者を超えて知られるようになっており,周知かつ著名になっている。そしてドメイン名は無作為の文字集合ではなく,その登録者により意図的に選択されたものであり,通常その者の名称を反映したものであることはインターネット使用者にはよく知られたことであるから,事実上,登録者やその商品・役務を識別する機能も有している。被告は,本件ドメイン名のもと,本件訴訟提起前において,ホームページにおいて被告が販売する商品(携帯電話,簡易トイレ等)の宣伝をしており,現在においても被告のホームページのリンク先においては靴などの宣伝がなされていること等の諸点に鑑みれば,被告が本件ドメイン名を「商品等表示」として使用していると解することができる。現在の被告のホームページでは,「JACCS」の表示は使用されていないが,今後被告がホームページにおいて再度 「JACCS」の表示を使用する可能性があり,その場合には原告の営業上の利益が侵害されるおそれがある。本件ドメイン名は,原告の営業表示「JACCS」を小文字にしたにすぎず,原告の営業表示と同一又は類似である。
被告は,この原告の主張事実を争うほか,権利乱用の主張をしました。しかしその権利乱用の主張は,被告が取得したドメイン名を原告に高く売りつけるのが当然である,という趣旨のもので,妥当性がないことが明瞭なので,ここでは省略します。 |
3.裁判所の判断 |
平成12年12月6日,富山地方裁判所は,ほぼ原告の主張を認め,次のように述べて,「JACCS」の使用差止,登録ドメイン名の使用差止請求を認容しました。
ドメイン名が常に登録者と結びつきのない無意味な文字例であるわけではなく,むしろ,登録者はドメイン名を使える文字と組み合わせて,可能な限り,自己の名称等を示す文字や登録者と結びつきのある言葉を示す文字例をドメイン名として登録している場合が多い。そしてインターネットを利用する者においても,ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも,ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには,当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。そして,このようにドメイン名がその登録者を識別する機能があることからすれば,ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには,ドメイン名が,当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり,ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か,すなわち不正競争防止法第2条第1項第1号,第2号所定の「商品等出所表示」の「使用」に当たるか否かは,当該ドメイン名の文字列が有する意味と当該ドメイン名により到達するホームページ表示内容を総合して判断するのが相当である。本件で,被告は,本件ドメイン名の登録を受けた後,ホームページを開設し,その画面には,「ようこそJACCSのホームページヘ」というタイトルの下に,「取り扱い商品」「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPONKAISYO,INC.」のリンク先が表示されており,右リンクの画面において,簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がなされていた。上記ホームページの表示内容(リンク先も含む)は,携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり,上記ホームページの画面には大きく「JACCS」と表示されていて,ホームページの開設主体であることを示しており,ドメイン名も「jaccs」で,「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば,その場合の本件ドメイン名は,上記ホームページ中の「JACCS」の表示と共に,ームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており,「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。 |
4.検討 |
この判決は,結論においても妥当であり,また論旨の運びも優れているものと考えます。先願主義というルールを悪用して他人が将来必要とすることを見越して申請登録したものを保護する必要はないと考えます。
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