知的所有権判例ニュース |
セット商品の形態模倣を認めた事例 |
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(大阪地方裁判所平成10年9月10日判決) |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告マツイコーポレーション(株)は,小熊の人形,タオルハンガー,小熊の絵が描かれたタオル類,籐カゴの組み合わせからなるタオルセットを販売していたところ,被告シャディ(株)も,組み合わせを同一にするタオルセットを販売開始いたしました。
そこで,原告は,被告に対して,被告の行為は不正競争防止法2条1項3号の形態模倣行為にあたるとして,平成7年に,損害賠償請求の訴を大阪地方裁判所に提起いたしました。 |
2.争点 |
上記訴訟での争点は,以下のとおりでした。
@ 被告のタオルセットは,原告のタオルセットの模倣品であるか。 A 仮に@が肯定された場合に,原告がそのタオルセットに,第三者の登録商標を無断で使用していた場合にも@の結論は変わらないか。 |
3.裁判所の判断 |
大阪地方裁判所は平成10年9月10日に判決を言い渡し,上記@の争点につき,上記組み合わせ商品中の小熊およびタオルハンガーに関し,「小熊の人形については,原告商品及び被告商品は,その大きさ,色及び表情においてほぼ同一のものであり,加えて,左耳の上に白いポンポンのついた赤色の三角錐状の帽子をかぶせている点,胸部分に丸い輪のタオルハンガーが取り付けられている点も同一であり,これらは小熊の人形を特徴づけており,見る者の注意を惹くところでもあるから,全体としてほぼ同一の形態であるということができる。
被告は,小熊が持っているアクセサリーの相違,タオルハンガーの色の相違を指摘する。しかし,まずアクセサリーについては,原告商品では枝状であり,被告商品では袋状であるといった違いがあるものの,いずれも小熊が両手で持つように配置されている上に,いずれも色彩が赤と白から成っているものであって,前記のような小熊の人形自体の全体的な同一性に照らすと,些細な相違にとどまるというべきである。 また,タオルハンガーについても,色彩において原告商品では赤茶色,被告商品では茶色がかかった黄色といった差異があるものの,その形状,大きさ及び取付場所はほぼ同一であり,さらに前記のような小熊の人形自体の全体的な同一性に照らすと,やはり些細な相違にとどまるというべきである。」として,両者は同一の形態である旨判断し,小熊の絵の描かれたタオルについても同様に判断いたしました。そのうえで, 「以上を総合すれば,原告商品一ないし六と,被告旧商品一ないし六及び被告新商品一ないし六とは,全体としてそれぞれ実質的に同一の形態であると認めるのが相当である。 また,原告商品の販売の開始は,被告商品の販売開始の約11か月前であり,被告が被告商品を製造するに当たっては既に販売されていた商品を参考としたこと,小熊をモチーフとするタオルセットの形態には,他に選択する余地があり得るにもかかわらず形態も取り合わせも実質的に同一の商品を販売したことからすると,被告は,被告商品を製作するに当たり,原告商品を主観的に模倣したものと推認される。 以上により,被告商品は,原告商品の形態を模倣したものと認められる」と判示いたしました。 次に,Aの争点については, 「「BEAR’S CLUB」の商品名を付した原告商品を販売することは丸高衣料の商標権を侵害するものであったといわざるを得ないところ,被告は,本件において原告が不正競争防止法による保護を主張している原告商品の形態中には,丸高衣料の商標権を侵害する部分が含まれていたことを根拠に,自ら商標権侵害によって取引秩序を乱した原告に,当該侵害商品の形態の保護を求める資格はないと主張する。 しかしながら,不正競争行為の被害者に他人の商標権を侵害する点があったとしても,それだけでは直ちに当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法の権利を主張する妨げとはならないものと解すべきである。けだし,不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保するために,一定の行為類型を不正競争行為とし,それを規制したものであって,この趣旨を実現するためには,右のように解することが必要であり,また,右被害者自身の商標権侵害行為は,不正競争行為とは別個の法律関係であって,商標権者と右被害者との間において別途規律されることが可能であり,それで足りるからである。もっとも,不正競争防止法の前記趣旨からすれば,不正競争行為の被害者による商標権侵害行為自体が,単に第三者との間での別途の規律に委ねるだけでは足りず,被害にかかる不正競争行為を事実上容認することとなっても,なおかつ規制する必要があると考えられる程度の強い違法性を有する場合には,当該被害者が不正競争防止法上の権利の主張をすることが許されない場合もあるものと解される。 先に認定した事実によれば,本件で丸高衣料の商標権を侵害したのは原告商品の形態のうち「BEAR’S CLUB」のロゴの部分であり,原告商品の形態全体からすれば枝葉に属する部分であるにすぎず,また原告は,本訴提起後に丸高衣料からクレームが寄せられると,約2か月後には和解契約を締結し,商品名及びロゴを変更するとともに和解金を支払っているのであって,これらの事実からすれば,本件で原告が不正競争防止法に基づき原告商品の形態の保護を求めることは,なお妨げられないというべきである。」と判断し,原告の請求を認容いたしました。 |
4.検討 |
本判決は,セット商品の形態模倣を認めた事例ですが,判決は,右結論を下す前提として,個々の商品の形態の同一性の有無を検討し,相違点があるとしても,その相違点が同一性の範囲内の些細な相違にとどまるのか否かにつき検討しております。
形態模倣を判断するにあたっては,一方が他方の全くのデッドコピーでない場合でも,相違点が些細な相違にとどまる場合には,形態模倣を肯定してよいものと考えられており,本判決も同様に判断したものと考えられます。 また,判決は,自ら商標権侵害をなした者が,不正競争防止法違反の請求をなす資格を有するのか否かについても,上記のとおり判示しておりますが,この判断も,結論として相当であるものと考えられます。 |