知的所有権判例ニュース |
カラオケ装置のリース業者につき 不法行為(著作権侵害行為の幇助) に基づく損害賠償責任を認めた事例 |
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(大阪高等裁判所平成9年2月27日付判決) |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告(社)日本音楽著作権協会は音楽著作権者から著作権の支分権である演奏権,上映権等の信託譲渡を受けて音楽著作権の管理を行っている社団法人です。被告景山ら2名はスナックを経営し,同スナック内で顧客に対してカラオケサービスを提供しておりましたが,原告との間では音楽著作権の利用許諾契約は締結しておりませんでした。また,被告エース(株)は,上記被告景山らに対して,カラオケ装置をリースしているリース業者でした。
原告は,被告ら3名に対して,被告景山ら2名に対しては著作権侵害に基づき,被告エ−ス(株)に対しては不法行為に基づき,損害賠償の各支払いを求めて,昭和63年に大阪地方裁判所に訴訟を提起いたしました。 同地方裁判所は,平成6年に判決を言い渡し,被告らに対して,共に損害賠償の支払いを命じました。 これに対して,被告らが,大阪高等裁判所に控訴したのが本事件でした。 |
2.争点 |
本事件での主な争点は,カラオケ装置のリース業者である被告エース(株)が,損害賠償責任を負うのか否かとの点でした。すなわち,本事件では,被告景山らは,利用許諾を受けないままスナック内で来客にカラオケを歌わせていたわけですから,音楽著作物につき,演奏権,上映権(テレビ画面上に歌詞が表示されるため)の侵害を行っていたことはほぼ明らかと言えますが,カラオケ装置のリース業者である被告エ−ス(株)は,直接には上記演奏,上映行為には及んでいないために問題となりました。
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3.判決 |
大阪高等裁判所は,平成9年2月27日に判決を言い渡し,以下の理由を述べて原判決の判断を是認いたしました。
「控訴人会社は,自ら本件装置を操作するものではないが,被控訴人が管理する音楽著作物の上映権及び演奏権を侵害するおそれの極めて高い,業務用カラオケ装置をユーザーに提供することを内容とする,リース業務を日常的に反復継続する者として,被控訴人が控訴人会社に対する損害賠償請求の起算日とする昭和62年4月1日当時には既に本件装置のユーザーが被控訴人の許諾を得ないまま本件装置をカラオケ伴奏による客の歌唱に使用すれば,被控訴人が管理する音楽著作物の上映権及び演奏権を侵害することになることを知っていたか,仮に知らなかったとしても容易に知り得たのであるから,これを知るべきであったというべきである。 しかるところ,控訴人会社は,控訴人則子及び同隆が被控訴人の許諾を得ないまま本件店舗において本件装置を使用して客に歌唱させていることを認識しながら,右著作権侵害の結果を認容しつつ,本件リース契約を継続,更改して本件装置を提供し,控訴人則子及び同隆による前示本件著作権侵害行為に加担したというべきである。 仮に右のように認識してあえてこれを行ったものではないとしても,前記のようなおそれの極めて高い本件装置をリースする控訴人会社としては,《1》本件装置につきユーザーとリース契約を締結(契約の更改を含む。)する際,ユーザーが本件装置を被控訴人の許諾を得ないままカラオケ伴奏による客の歌唱に使用する事態をも予測した上,右のような態様で使用すれば被控訴人が管理する音楽著作物の上映権及び演奏権を侵害することになるので,本件装置を右目的のために使用することには被控訴人との間に著作物使用許諾契約を締結することが必要であることを伝え,これを周知徹底させて契約を締結したり,《2》契約締結後も随時右使用許諾契約締結の有無を調査確認した上,未だ許諾契約締結に至っていない場合には,速やかに被控訴人との間の許諾契約の締結に努めるよう促すべき注意義務があり,《3》さらに,ユーザーがどうしてもこれに応じない場合には,リース契約の解消を検討し本件装置の引き揚げに努めるべき注意義務があるというべきである。ところが,控訴人会社は,これらの注意義務をいずれも怠り,何ら適切な著作権侵害防止措置を講じないまま前記著作権侵害行為に及んだ控訴人則子及び同隆との間で本リース契約を継続,更改して本件装置を提供したのであるから,その点において控訴人会社に過失があるといわざるを得ず,控訴人会社は,少なくとも控訴人則子及び同隆の前記著作権侵害行為を幇助した者として,民法719条第2項に基づき共同不法行為責任を免れないというべきである。」 |
4.検討 |
本判決は,カラオケ装置を設置して,来店する客にカラオケを歌わせていたスナック経営者,およびこのスナックに対して,カラオケ装置をリースしていたリース業者の双方について損害賠償責任を認めております。このうち,スナックが音楽著作権から利用許諾を得ないままで,来店する客にカラオケを歌わせたとするならば,これが音楽著作権の演奏権,上映権等を侵害するものであることは,昭和63年3月15日の最高裁判決以来,ほぼ確定してきたものと言ってよいと考えられます。
これに対して,上記リース業者の責任を,どのような根拠に基づき認めていくことが可能であるのかについては,問題が生じます。 本事件の原審判決は,著作権侵害行為を行っているスナック経営者に対してカラオケ装置をリースしている以上は,リース業者もスナック経営者と共同して不法行為を行っているものと判示しており,本判決も上記引用の理由を示して,同様の判断をいたしました。 上記判示は,リース業者に対しては極めて厳しいものと言えそうですが,リース業者は,著作権侵害行為を組成するための設備を提供していると評価することが可能ですから,同行為を,別の観点からは,特許法が規定する間接侵害行為に類似する行為であると評価することも可能であるかと考えられます。 もっとも,著作権法は,間接侵害について規定しておりませんので,本判決は,被告エ−ス(株)の責任を認める根拠として,不法行為の構成を採らざるを得なかったものと考えられます。 なお,本件では,カラオケ装置のリース業者に対して,カラオケ装置のリースの差止めまで請求できるのか否かも問題となりますが,従来の通説的見解からすると,不法行為に対する救済としては損害賠償を原則としているため(民法709条),差止請求まで請求することは困難ではないかとも考えられます。 |