知的所有権判例ニュース |
ゲームソフトの同一性保持権侵害 の主張が否定された事例 |
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[大阪地方裁判所平成9年11月17日付判決] |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告コナミ(株)は,ゲームソフト「ときめきメモリアル」の著作権者であり,同ゲームソフトを,平成6年以来販売しております。
同ゲームは,いわゆる恋愛シミュレーションゲームであり,プレイをしながら高校生であるプレイヤーの能力(体調,文系,理系,芸術,運動,雑学,容姿,根性,ストレスの9種類であり,数値化されている)が一定ポイント以上になると,女生徒から愛の告白が受けられるという内容になっております。 被告スペックコンピュータ(株)は,本件ゲーム用のメモリーカードを輸入,販売しており,このメモリーカードには,ゲームのプレイ開始当初から,プレイヤーの上記能力を示す数値を高ポイント化することが可能なデータが収納されており,また,本件ゲーム中に登場するキャラクター「藤崎詩織」のアイコンが収納されております。 そこで,原告は,一定以上のポイント獲得を目指して工夫してプレイすることこそ,本件ゲームの重要不可欠な骨格であるから,被告のメモリーカードは,本件ゲームの映画の著作物としての同一性保持権を侵害し,同時に「藤崎詩織」のアイコンを収納していることから複製権をも侵害するとして,被告に対して,損害賠償の支払いを求めて,平成7年に,大阪地方裁判所に訴訟を提起いたしました。 |
2.争点 |
同事件での争点は,
《1》 原告が主張する同一性保持権,複製権の侵害が認められるか 《2》 仮に上記が認められたとして,その場合の損害額の算定いかん でありました。 |
3.裁判所の判断 |
大阪地方裁判所は,平成9年11月17日に判決を言い渡し,まず上記《1》の争点について,
「本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより,映像としてモニターに,音としてスピーカーに出力されるところのものは,通常の映画と比べて映像の連続的な動きという点では格段に劣るものではあるが,一応『映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている』(著作権法2条3項)ということができるので,映画の著作物に準ずる著作物に当たるということができる。」と判示したうえで, 「原告は,…(被告メモリーカードは)本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリー中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きにするものであり,まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリーの改変にほかならないと主張する。 しかしながら,高校の卒業間際の・・・時点において,憧れの女生徒から愛の告白を受けるために必要な項目である『デートの回数・中身,(以下省略)』について,一定の条件を満たすようなデータになっており,残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるというゲームの展開状況は,本件ゲームソフトが予定している多種多様のゲーム展開のうちの一つとして当然予定されているところといわざるをえず,かかる時点,状況におけるデータをメモリーカードに保存することも,そのようなハッピーエンディング直前のデータが既に入力された状態でプレイを始める(再開する)ことも本件ゲームソフトの当然予定したところであり,そのハッピーエンディング直前のデータの入力を,プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするか,他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえず,更に,その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして,本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも,プレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえないから,本件メモリーカードのブロック12,l3に収められているデータを使用するとハッピーエンディング直前データが与えられることをもって,本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはできない。」 「以上のとおりであるから,本件メモリーカードは,本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し,同一性保持権を侵害するものであるとはいえない。」 と判断し,更に上記《2》の争点については, 「本件ゲームソフト用に作成された『藤崎詩織』のキャラクターのアイコンは,本件ゲームソフトにおける『藤崎詩織』という人物の容ぼうを創作的に表現した著作物というべきところ,本件メモリーカードに保存されている『藤崎詩織』のキャラクターのアイコンは,右の本件ゲームソフト用に作成された『藤崎詩織』のキャラクターのアイコンと同一であることは,前記のとおり当事者間に争いがなく,・・・証拠によれば,本件メモリーカードの販売価格は1個当たり2,980円であることが認められ,また,弁論の全趣旨によれば,本件ゲームソフトのキャラクターを他社が使用することを原告が承諾する場合,その使用料は通常複製物一個当たり商品価格の7%であることが認められるから,被告は,原告に対して,使用料相当額の損害金として,原告の請求する合計14万6,000円(2,980円×7%×700個)を支払うべき義務があるというべきである。」 と判断して,原告の請求中「藤崎詩織」のアイコンの無断複製の点についてのみ損害賠償請求を認め,その余の請求を棄却いたしました。 |
4.検討 |
本事件では,被告販売のメモリーカードは,本件ゲームのコンピュータプログラムそれ自体は改変しないものであるため,専ら映画の著作物に関する同一性保持権の侵害の有無が争われました。
裁判所は,この同一性保持権の侵害を否定しましたが,その理由として,ゲームソフトは,映画の著作物であることが認められるとしても,ストーリー展開は一様ではなく,被告メモリーカードを使用した場合も,予定されている展開の一場合にすぎないことを挙げております。 著作者人格権としての同一性保持権の行使を,どこまで認めるかは,それほど簡単な問題ではありませんが,映画とは異なり,ストーリーが固定されておらず,プレイヤーの参加によりストーリーが展開していくことを予定しているゲームソフトの場合には,このインタラクティブ性を看過することはできないものと考えられます。 ゲームソフト,更にはマルチメディアタイトルのようなインタラクティブ性を特徴とする著作物において同一性保持権行使の可否およびその範囲については,今後,より突っ込んだ検討が必要になると考えられます。 |