発明 Vol.94 1997-10
知的所有権判例ニュース
商標の類否が問題となった事例
[東京地方裁判所平成9年3月31日判決]
水谷直樹
1.事件の内容
 原告ハワード(株)は,後出の原告商標「UNITED」につき,指定商品を被服,布製身回品等(旧第17類)とする登録商標を有しておりました。一方で,被告カイタック(株)は,後出被告標章(2件)を,自ら販売するポロシャツ,紳士用スラックスに付して販売しておりました。
 そこで,原告は,被告に対して,被告が被告標章を付したポロシャツ等を販売することは,原告の有する商標権の侵害であると主張し,損害賠償の支払を請求して,平成6年に,東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました(なお,本件では,標章使用の差止自体は請求されておりません)。
 
2.争点
 上記事件での争点は,文字どおり原告登録商標と被告標章の類否でした。

3.裁判所の判断
 東京地方裁判所は,平成9年3月31日に判決を言い渡し,上記争点のうち,被告標章「UNITED COLLECTION」中の「COLLECTION」の部分を取りあげて,『「コレクション」という語は,国語辞典には,@集めること,収集,A収集品,特に美術品,書物などの収集を意味するものとして記載されており,外来語として日常的に広く用いられていること,及び,衣料品業界においては,特定の商標に「COLLECTION」又は「コレクション」の語を組合わせた商標は,特定の商標が付された複数の商品の集合又は特定の商標と同じ出所の商品を表示するものとして用いられていることは,いずれも当裁判所に顕著である。』
『したがって,被告標章1及び同2に接する取引者及び需要者は,「COLLECTION」の部分は,いずれも特定の商標が付された複数の商品の集合又は特定の商標と同じ出所の商品を表示するものであると認識するにとどまり,「UNITED」の部分を自他商品の識別機能を果たす部分であると把握し,被告標章を「UNITED」商標の商品の集合,又は,「UNITED」商標の商品と同じ出所の商品を表示するものと認識することが多いものと推認することができる。』
『以上によれば,被告標章1及び同2は,いずれも取引者及び需要者によって,「UNITED」の部分が自他商品識別機能を果たす部分であると把握されることが多いのであるから,その構成文字全体に対応して「ユナイテッドコレクション」称呼を生じるほか,自他商品の識別機能を果たさない「COLLECTION」の部分が省略されて,「UNITED」の部分に従って「ユナイテッド」という称呼も生じるものであって,これが本件登録商標の称呼と同一であることは明らかであり,また,その外観においても,自他商品の識別機能を果たさない「COLLECTION」の部分よりも,「UNITED」の部分が自他商品の識別機能を果たす商標とし取引者及び需要者により把握されるのであるから,本件商標と被告標章1,本件商標と被告標章2は,いずれも類似の商標であるということができる。』
と判断して,原告の請求を認容いたしました。


4.検討
 本件は,原告の登録商標「UNITED」と被告標章「UNITED COLLECTION」およびこれを上下に二段表記したものの間の類否が問題になった事例です。
 本判決は,上記で引用したとおり,被告標章の要部は,衣料品業界の実情をも勘案すると,「UNITED」の部分にあると判断して,上記で引用したとおりの理由から,両者の類似性を認めております。
 もっとも,特許庁での通常の審査実務では,原告登録商標に遅れて被告標章を商標出願した場合には,被告標章中の「UNITED」,「COLLECTION」のいずれかについて,既登録もしくは先行して出願中の商標があるか否かを検索して,これが存在すれば拒絶理由通知を発するとの取扱いをする場合が多いようにも考えられます。
 これに対して,本判決は,上記の場合よりも,もう一歩踏み込み,衣料品業界における上記標章の使用の実情等をも考慮して,前記引用のとおり被告標章中の要部,すなわち,自他商品の識別機能を果たす部分は「UNITED」であると判断しております。
 ところで,特許庁での審査においては,通常,先行する登録商標と出願中の商標との間の類否を,実際の使用の実情にまでは踏み込まずに,いわば静的に判断するのに対して,商標侵害訴訟においては,被告標章の使用の実情をも勘案したうえで,両者の類否を,いわば動的に判断するという点で相違すると考えられており,この相違が本件でも現れているように考えられます。
 いずれにしても,判決は,上記判断を前提として,被告標章は,原告商標権を侵害すると結論しておりますが,結論としてオーソドックスな判断であると考えられます。
 なお,本事件では,上記3項で判決文としては引用しておりませんが,原告登録商標と被告標章とを比較した場合に,相互に類似していると感じるのか,そうでないのかについて,原,被告が共にアンケート調査を行い,その結果を証拠として,それぞれ裁判所に提出しております。
 そして,判決は,両者が提出したアンケート結果についても,詳細に検討を行っており,実務的には興味深いものがあります(詳しくは判決文にあたってください)。
 商標侵害が問題となる際の商標の類否,不正競争防止法違反が問題となる際の混同の有無等につき,アンケート調査を行うことは,我が国の従来の実務では,それ程多くはなかったようにも思われますが,外国,特に米国でのこの種の訴訟においては,むしろアンケート調査を行い,その調査結果を証拠として提出することが通常であるとも言われております。
 我が国においても,今後このような方向で,アンケート調査が実務に定着していくことになるのか否かについては,大いに興味をそそられるところです。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業,1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。