知的所有権判例ニュース |
不正競争防止法に基づく 商号変更請求等が認められた事例 |
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水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告ソニー(株)は,「ウォークマン」につき,旧第11類(電子応用機械器具等)をはじめとして,旧第17類(被服等),同22類(はき物等)その他の類に登録商標を有しておりました。
被告(有)ウォークマンは,靴,被服類専門の小売販売業者であり,商号がウォークマンであるほか,商品の包装用袋,レシート上等に,複数の“ウォークマン”の標章を表示しておりました。 そこで,原告は,被告に対して,商標法,不正競争防止法に基づき,包装用袋等からの標章「ウォークマン」の表示の抹消,被告の商号の変更,損害賠償の支払等を請求して,平成3年に,千葉地方裁判所に訴訟を提起いたしました。 |
2.争点 |
同事件の争点の主要なものは,
《1》被告の包装用袋上等での「ウォークマン」の表示は,商標としての使用にあたるか 《2》原告登録商標と被告標章との間の類否 《3》不正競争防止法に基づく商号変更請求の可否でした。 |
3.裁判所の判断 |
千葉地方裁判所は平成8年4月17日に判決を言い渡し,まず上記《1》の争点につき,
「被告標章は,これが商標の本来有する機能である自他商品識別機能を発揮する態様で使用されている場合に商標として使用されているものと認めるのが相当であるところ,・・・・・・前期包装用袋に表示された被告標章は,被告が販売した商品を直接収納するものであり,当該商品が被告の責任により選択され販売されたことを表示して他の販売業者の選択販売に係る商品と区別する機能を発揮する態様で使用されていると認めることができる。」 と判断して,包装用袋上での“ウォークマン”の表示が商標としての使用であることを認めたうえで,被告標章が表示されているレシート等についても同様に判断して,いずれも被告標章「ウォークマン」の使用態様は商標としての使用であることを認め,更に上記争点《2》については,被告標章が「ウォークマン」であることから,両者の類似性についても肯定し,被告の包装用袋上等での“ウォークマン”の表示は,原告の登録商標の侵害であることを認めたうえで,最後に上記《3》については, 「新法(不正競争防止法のこと−解説者注)2条1項1号所定の『混同を生じさせる行為』は,周知の他人の商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,商品の容器若しくはその他の商品又は営業を表示するもの)と同一又は類似のものを使用する者が,自己と右他人とを同一の商品主体又は営業主体と誤認させる行為のみならず,自己と右他人との間にいわゆる親子会社関係,系列関係,あるいは業務提携関係,ライセンス提携関係等,組織上,経済上,取引上何らかの特別な関係が存在するものと誤認させるおそれのある行為を包含し,必ずしも両者間に競争関係が存在することを要しないものと解するのが相当である。 ところで,前記認定によれば,《1》原告の『ウォークマン』表示は,我が国において高度に著名な表示であり,《2》『ウォークマン』という言葉自体『ウォークマン』表示とともに初めて世に出た造語であってその表示に係る商品主体との結び付が強く,《3》現実に『ウォークマン『表示により原告自体を連想する人が極めて多く,《4》広範な商品について使用許諾が行われ,《5》その中には被告の取扱商品である靴類及び被服類が含まれており,《6》右使用許諾にあたっては『ウォークマン』表示を使用する商品の品質管理及び『ウォークマン』表示を宣伝広告に使用するについて原告ないしソニー企業株式会社の相当厳格な管理統制が及ぶこととされており,更に,《7》著名商品に係る著名表示の使用についてその主体により右のように管理等がなされているものが多いことは,取引者及び需要者により一般的に承認されあるいは想定され得ているところでもある。そして,これらの状況のもとで,被告が有限会社ウォークマンの商号のもとに「ウォークマン」という名称を営業活動及び営業施設について使用し,更には被告標章を前記のとおり被告の取扱商品について使用するのであれば,一般取引者及び需要者が,原告と被告との間には前記のとおり組織上,経済上あるいは取引上何らかの特別な関係があると誤認するおそれがあると認めるのが相当である。」 「以上によれば,被告は,原告の周知商品等表示と同一である『ウォークマン』の文字を被告の営業活動及び営業施設に使用してはならず,また,右営業活動及び営業施設に『有限会社ウォークマン』の商号を使用してはならないから,原告の請求中,これらの使用差止めを請求する部分は理由がある。」 と判示して,原告の請求をいずれも認容しました。 |
4.検討 |
本事件は,原告が,被告による「ウォークマン」の使用につき,商標としての使用と認められる部分については,商標権侵害の構成で,商号等の営業表示としての使用と認められる部分については,不正競争防止法違反の構成により,いずれもその使用の差止等を請求したものです。
前者について一言すれば,「ウォークマン」が携帯用カセットテーププレーヤの名称として,普通名称化しつつあるとの指摘を受けることがありますが,本件は靴,被服等での「ウォークマン」の使用が問題になった事例であるため,この点は特に争点となっておりません。 また,後者については,従来は,自らの商号と同一,類似の商号を使用する第三者に対して,不正競争防止法違反を根拠として,その商号の変更を請求する事例が比較的多かったとも思われますが,本件は,著名な商品名を,そのまま商号に採用したことを根拠に,その商号変更の請求を行った事案であり,この点が相違しておりますが,結果は十分に是認できると考えられます。 |