知的所有権判例ニュース |
真正商品の並行輸入の主張が斥けられた事例 |
---|
大阪地方裁判所平成8年5月30日付判決 |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告ヤマトインターナショナル(株)は,後記1記載の登録商標(指定商品は旧第36類−洋服等)を有していたところ(原告は同登録商標をシンガポールのリー社から昭和54年に譲り受けました),被告(株)オカモトコーポレーションは,平成4年に後記記載の被告標章1,2を付したシャツを輸入し,日本国内で販売しました。
そこで,原告は,被告に対して,商標権侵害を根拠として,同シャツの販売の差止,損害賠償の支払等を求めて,平成5年に大阪地方裁判所に訴訟を提起しました。 |
2.争点 | ||||
本事件の争点は多岐に及びましたが,ここでは,以下の2点を取り上げることとします。
|
3.裁判所の判断 |
大阪地方裁判所は平成8年5月30日に判決を言い渡し,まず上記@の争点に関して,
「被告標章1は,筆記体のCrocodileの文字を左側に,左方を向いた鰐の図形を右側に配しているという要部において本件登録商標と同一であり,しかも,Crocodileの文字自体の表示態様及び左方を向いた鰐の図形自体も酷似しているから,全体として本件登録商標と類似するものであることは明らかである(類似するというより,むしろ実質的に同一であるとさえいうことができる。)。」(被告標章2についても同様に判断) と判示し,次に上記(2)の争点に関しては, 「商標法の目的は,商品の出所表示機能,品質保証機能を果たすことを本質とする商標を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用(いわゆるグッドウイル)の確保を図るとともに,併せて需要者の利益に資することにある。そうすると,国内における登録商標と同一の商標を付した商品が国外から輸入され,国内で販売される等する場合,当該商品が国外において右商標を適法に付された上で拡布されたものであって,かつ,右国外で商標を適法に付して拡布した者と国内の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視されるような特殊な関係があるときは,両商標が表示し又は保証する商品の出所,品質は同一ということができ,出所表示機能及び品質保証機能を何ら害するものではないから,当該商品を国内において販売等する行為は,いわゆる真正商品の並行輸入として,商標権侵害行為としての違法性を欠き,許容されるものというべきである。但し,国内の商標権者が登録商標の宣伝広告等によって当該商標について独自のグッドウイルを形成し,当該商標と国外で適法に付された商標の表示し又は保証する出所,品質が異なるものであると認められるときは,前記商標権の機能からして,真正商品の並行輸入として許容されるものでないことは当然である。」 「原告は,経営面においても資本面においてもシンガポールのリー社とは全く関係なく,本件登録商標を付した商品の開発から,デザイン,原材料,縫製メーカー,販売力法,広告宣伝方法まですべて独自に決定し,素材メーカーに対しても注文を付けていることが認められ,したがって,被告会社が被告商品を輸入して販売した平成4年当時には既に,原告は,シンガポールのリー社,香港のクロコダイル社等に依頼することなく,本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものと認められるし,被告商品は,原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質,形態等において差異がないと認めるに足りる証拠がないというのにとどまらず,差異があるものと推認される。」 「以上によれば,少なくとも,平成4年(1992年)以降において,香港のクロコダイル社及びシンガポールのリー社がマレーシアのクロコダイル社等とともに被告ら主張のクロコダイルグループというべきグループを形成しているとの事実は認められないのみならず,そもそも,原告が被告ら主張のクロコダイルグループの一員であるとの事実を認めるに足りる証拠はないから,仮に被告商品がマレーシアのクロコダイル社によって国外において適法に「クロコダイル」商標を付して拡布されたものであったとしても,シンガポールのリー社から原告が本件商標権を譲り受けたからといってマレーシアのクロコダイル社が原告と同一人と同視されるような特殊な関係があるといえないことは明らかであり,また,被告会社が被告商品を輸入して販売した平成4年当時には既に,原告は,シンガポールのリー社や香港のクロコダイル社等に依拠することなく,本件登録商標について独自のグッドウイルを形成していたものであり,被告商品は,原告が本件登録商標を付して販売している商品と品質,形態等において差異があるから,被告会社が被告商品を日本国内に輸入して販売した行為は,本件登録商標の出所表示機能,品質保証機能を害するものであり,前記1に説示したところにより,真正商品の並行輸入として違法性を阻却されるものでないことは明らかである。以上に反する被告らの主張は,採用の限りでない。」 と判示し,原告の請求を認容いたしました。 |
4.検討 |
真正商品の並行輸入の問題は,これまで数多く論じられてきておりますが,本件では,原告は,自ら登録商標を有すると共に,指定商品を製造,販売しているのに対して,被告は,マレーシアから,原告登録商標とほぼ同一の標章を付したシャツを輸入して販売しております。
被告が販売するシャツ上の標章が,マレーシア国内で適法に付されたものであるのか否かは,判決からは必ずしも明らかでありませんが,仮にこの点が肯定されたとしても,判決の事実認定によれば,原告製品と被告商品は,品質の点で異なり,また出所も同一とは認められないということであります。 そうであるとすると,本件で,被告のシャツの輸入を適法視できる事情は見当たらないということになり,また,本件が真正商品の並行輸入といえるのか否かも疑問であることからは,判決の結論は是認できるものと考えられます。 |