知的所有権判例ニュース |
廃棄予定の特許実施品の販売が 特許侵害行為であると認められた事例 |
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〔大阪地方裁判所平成8年2月29日付判決〕 |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告フィガロ技研(株)は,ガス感知素子(ガスセンサ)に関する特許権を保有しており,同特許実施品であるガスセンサを製造,販売しておりました。
被告中国興業(株)は,原告の取役役会長(但し,代表権は有さず)からの紹介で,原告が製造した上記ガスセンサのうち,不良品として原告に在庫品として保管されていた製品を,原告から廃棄処分することを依頼されて引き取った別会社を通じて購入し,これを,更に第三者に対して転売しておりました。 そこで,原告は,被告に対して,被告の上記行為は,原告のガス感知素子についての特許権を侵害するとして,平成6年に,損害賠償の支払いを求めて,大阪地方裁判所に訴訟を提起いたしました。 |
2.争点 |
本事件の争点は,多岐に及びますが,本稿で取り上げる争点は,被告の上記行為が,原告の特許権を,文字どおり侵害するのか否かという点でありました。
本事件では,被告の上記販売行為が,原告の取締役会長からの紹介を契機として惹起されていることから,この点が,特許侵害の有無の結論にどのように影響するのかが問題となりました。 |
3.判決 |
大阪地方裁判所は,平成8年2月29日に判決を言渡し,上記争点のうち,まず,被告の販売したガスセンサが,原告の特許発明の構成要件を全て充足しているのか否かに関して,「イ号物件は,・・・・・・本特許発明の構成要件をすべて具備し(右(一)及び(二)が構成要件ア及びエを充足し,同様に(三)及び(四)が構成要件イを,(五)が構成要件ウを各充足する。),本件特許発明の技術的範囲に属することが明らかである。」と判示して,被告の販売したガスセンサが,形式的には,原告の特許発明の技術的範囲に属することを認めたうえで,更に,被告の上記販売行為が実質的に違法性を有するのか否かについて,
「被告会社がイ号物件を新コスモス電機株式会社に販売した行為は,本件特許権を侵害するものであり,かつ,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たることが明らかであるところ,被告らは,被告会社がイ号物件をパルエンジニアリング株式会社から購入して新コスモス電機株式会社に販売したのは,原告の創業者で代表取締役社長であった甲野の指示に基づくものであり,甲野が当時既に代表取締役社長を退任して取締役会長となり代表権を失っていたとしても,同人は,原告のセンサ販売業務を担当していたものであり,結局被告会社は原告の指示に基づいてイ号物件を購入,販売したことになるから,違法性を阻却される旨主張する。 しかし,イ号物件の取引の経緯についての右1認定の事実によれば,被告会社は甲野の指示に基づいてイ号物件を購入,販売したものであるところ,イ号物件はもともと原告商品の不良品であり,廃棄(解体)処分することを前提に荒木産業株式会社に売却されたものであって,それが,当初はシールを貼り替えただけで,その後は再生処理をも施されたうえで,パルエンジニアリング株式会社を経由して被告会社に販売されたもの(いわば横流し)であり,そして,甲野は,被告松本にイ号物件の取引を持ち掛けた昭和62年後半より前の昭和61年2月27日に既に原告の代表取締役社長を退任し(同年3月24日登記),代表権のない取締役社長に就任していたものであって,イ号物件の取引当時,原告と新コスモス電機株式会社との間の原告商品の取引の担当者とされていたとはいえ,もとよりそれは正規の原告商品の取引についてであるから,イ号物件は,原告すなわちその代表権限を有する原告代表取締役の意思に基づいて流通に置かれたものでないことが明らかであり,被告会社によるイ号物件の購入,販売が甲野の指示に基づくものであるからといって違法性が阻却されるとすることはできない。」 と判示して,被告の販売行為の違法性が阻却されることを否定したうえで,原告の損害賠償の請求を一部認容いたしました。 |
4.検討 |
本事件では,被告の販売したガスセンサが,原告特許の侵害品であるのか否かが問題となりましたが,ここで問題となっているガスセンサは,原告が特許実施品として製造した製品でしたから,このガスセンサが,原告特許発明の特許請求の範囲を全て充足することは,ある意味では当然と言えるものでありました。
従って,ここでの実質的な問題点は,1,2項で述べた事情のもとで,被告の販売行為が,形式的には特許侵害にあたるとしても,実質的に違法性が阻却されるのか否かとの点でありました。 そして,判決は,この点について,前項で引用したとおりの理由により,違法性が阻却されることがない旨を判示いたしております。 このように廃棄が予定されていた製品が,権利者の意思に反して流通に置かれた場合に,同製品の販売が権利侵害を構成するのか否かについては,廃棄を予定していた,登録商標を付した商品(真正商品)の販売について,これを商標権侵害と判示した判例が存在しますが(本誌平成8年2月号88頁参照),本判決は,特許侵害の有無についても,結論として同様の結論を判示しております。 特許権の用尽(消尽)は,特許権者が,特許実施品を,自らの意思により流通に置いた場合に,これが生ずることは言うまでもありませんが,本事件は,判決が具体的に指摘するとおり,このような場合には該当しないものと考えられます。 なお,本件では,被告の行為を誘発したのは,原告の取締役会長であったことからすると,被告の主張も無理からぬところがあるとも思われますが,結果として,上記結論は,やむを得なかったものとも考えられます。 |