知的所有権判例ニュース |
音楽CDのタイトルに対する商標権行使を否定した事例 |
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水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告山中博治氏は,指定商品を旧第24類のおもちゃ,人形,レコード等とする「UNDER THE SUN」の登録商標を有していたところ,被告(株)フォーライフレコードは,シンガーソングライターの井上陽水のCDアルバム「UNDER THE SUN」を製造,販売いたしました。
そこで原告は,被告に対して,CDアルバムのタイトルとして「UNDER THE SUN」を使用することは,原告の上記商標権の侵害であるとして,約1億円余の損害賠償の支払いを求めて,平成6年に,東京地方裁判所に訴訟を提起いたしました。 |
2.争点 |
上記訴訟での争点は,被告が製造,販売するCD盤のタイトル「UNDER THE SUN」が,文字どおり商標として使用されているのか否か,という点でした。
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3.裁判所の判断 |
東京地方裁判所は,平成7年2月22日に判決を言い渡しましたが,判決中で,まず,一般論として,「(商標法−筆者注)36条,37条及び26条の法意に照せば,第三者が登録商標と同一又は類似の商標を指定商品又はこれに類似する商品について使用している場合でも,それが,その商品の出所を表示し自他商品を識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されていると認められる場合には,登録商標の本質的機能は何ら妨げられていないのであるから,商標権を侵害するものとは認めることはできない。すなわち,26条1項2号の『当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称,産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状,価格若しくは生産若しくは時期・・・・・・を普通に用いられる方法で表示する商標』に該当しない商標についても,出所表示機能,自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については,右に述べた理由により,商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない。」と判示したうえで,本件CD盤上での被告標章の使用態様について,「本件CDのCD盤の表面の上部には,被告標章を構成する『UNDER THE SUN』の文字が比較的大きくかつ太い書体で横書きで表記されており,その下に,シンガーソングライターである『井上陽水』の名前が同様の大きさで横書きで併記されている。右CD盤表面の左側には,比較的小さな文字で横書きで,収録曲の題名が1番から11番まで表記されており,その10曲目に『UNDER THE SUN』の曲名が記載されている。また,右CD盤の表面の右側には,フォーライフ商標が比較的小さく記載されている。」(なお,判決中では,このほかにジャケット上での使用態様についても事実認定しているが,スペースの関係で引用を省略いたします)と認定し,さらに,「以上に
よれば,被告標章並びにフォーライフ商標及び被告の社名の具体的な表記の態様をみると,被告標章は,前記認定のアルバムタイトルの一般的な表記の態様と何ら異なることはなく,また,フォーライフ商標及び被告の社名も,前記認定のアルバムにおける製造,発売元の一般的な表記の態様と何ら異なることはないのであり,したがって,本件CDに表示されている被告標章は,専ら本件CDに収録されている全11曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムに対して付けられた題号(アルバムタイトル)であると認められ,本件CDの需要者としても,被告標章を,専ら本件CDの内容である複数の収録曲の集合体すなわち編集著作物である本件アルバムについて付けられた題号(アルバムタイトル)であると認識し,有体物である本件CDを製造,販売している主体である被告を表示するのは,アルバムタイトルとは別に本件CDに付されているフォーライフ商標や被告の社名であると認識することは明らかである。よって,本件CDに使用されている被告標章は,編集著作物である本件アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず,有体物である本件CDの出所たる製造,発売元を表示するものではなく,自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されているものと認められる。」と判示して,被告CDは,本件商標を無断では使用していないと判示し,結果として商標権侵害の事実を否定して,原告の請求を棄却いたしました。
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4.検討 |
商品が,本やCD等の著作物である場合に,その題号に対して商標権行使が可能であるのか否かについては,これまでさまざまな議論が行われてきました。
本判決は,本CD盤およびジャケット上に表示されているタイトル「UNDER THE SUN」は,その表示態様からして“自他商品の識別機能”を果たしておらず,専ら著作物の題号としてのみ使用されているとして,商標権の禁止権の効力を及ぼすべきではないと判断いたしました。 著作物上の題号の表示に対する商標権の行使の可否をめぐっては,これまで「POS事件」,「気功術実践講座事件」等の判決がなされてきましたが,いずれも,結果として商標権侵害を否定してきております。 その理由としては,商標の本質的機能からすると商標としての使用と認められないことを根拠とするもの(POS事件判決),使用の態様が商標法26条1項2号の態様に該当することを根拠とするもの(気功術実践講座事件)等に分かれております。 本件判決も,これらの系列に属する判決の1つといえますが,今後は,現在の人気商品であるゲームソフトのタイトル(ゲームソフトは,製造,販売業者と著作権者が同一人であることが多い)に対する商標権行使の可否についても,果たして上記判決と同様に解し得るのか否かが問題となるように考えられます。 |