知的所有権判例ニュース |
商標登録の取消審判請求が問題となった事件 |
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水谷 直樹 |
1.事件の内容 |
日本の医薬品メーカーの三共(株)は,昭和63年に,商品分類を第4類(旧分類),指定商品を「せっけん,歯みがき,化粧品,香料類」として,「ビトンハイ」,「VITONHI」等の標章の商標出願を行いましたが,フランスのルイ・ヴィトン社の登録商標「VUITTON」を引用されて,拒絶理由通知を受けました。
そこで,三共(株)は,ルイ・ヴィトン社に対して,上記登録商標の使用許諾を求めましたが,拒否されたために,平成2年7月4日付で,上記登録商標「VUITTON」について,不使用を理由とする商標登録の取消の審判(改正前商標法第50条)を請求いたしました。 上記取消審判請求は,平成2年8月17日付にて,登録原簿に登録されましたが,ルイ・ヴィトン社は,それ以前の同年7月16日に,日本工業新聞に「VUITTON」の商標を付し,商品名として香水等を記載した広告を掲載いたしました。 上記審判手続において,ルイ・ヴィトン社は答弁を行わなかったために,平成4年3月2日付にて,商標登録の取消の審決がなされました。 そこで,ルイ・ヴィトン社は,この審決の取消を求めて,同年,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起いたしました。 なお,上記登録商標は,審決取消訴訟係属中に,ルイ・ヴィトン・マルチェ社に譲渡されましたため,原告も同社に変更されております。 |
2.争点 | ||||
本件で争点となった主要点は,以下の2点です。
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3.裁判所の判断 |
東京高等裁判所は,平成5年11月30日に判決を言い渡し,原告ルイ・ヴィトン・マルチェ社の請求を棄却しました。
判決は,上記《1》の争点については, 「改正前商標法50条による登録商標の不使用取消の審判の制度の趣旨は,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であって,一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないかあるいは発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなるし,他方,不使用の登録商標に対して排他的独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し,かつその存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めるから,審判請求をする利益を有する者の請求によりこのような商標登録を取り消させることにある,というべきである。一方で,改正前商標法2条3項3号は,商標の広告的な使い方にも信用の蓄積作用があるから,商標を広告に用いる場合にも商標の使用とみるべきだとする見地に立っていると解される。そうすると,単に不使用取消の審判を免れる目的で名目的に商標を使用するかのような外観を呈する行為があっただけでは,改正前商標法2条3項3号にいう商品に関する広告に標章を附して展示又は頒布する行為には該当せず,したがって同法50条による不使用取消の審判請求を免れることはできないと解すべきである。」 と判断いたしました。 また,上記争点《2》については, 「ある商標が使用された場合においてその標章と登録商標とが外観等で若干相違していても,当該指定商品の取引者,需要者に同一の標章と認識できる程度の差異であるときは,登録商標の使用として認めることができることは,パリ条約5条C(2)の規定をまつまでもない。しかし,甲第5号証の1ないし6,第6号証の1ないし4によれば,上記(2)において認定した「LOUIS VUITTON」の標章は,全体が合体して上記第1502683号の登録商標として使用されており,文字の構成においては本件商標と同一である「VUITT0N」の部分の独立性は完全に失われており,本件商標とは同一性がないことが認められるから,上の事実により本件商標が使用されたということはできない。また,前記のとおり,昭和57年2月26日に商標登録第1502683号により「LOUIS VUITTON」との欧文字からなる商標が原告を権利者として商標登録されたにもかかわらず,本件商標がこの商標と連合商標とされないまま商標法7条2項により拒絶されないで昭和60年8月29日登録されたことを考慮に入れれば,上記原告承継参加人の主張は失当である。」 と判断いたしました。 |
4.検討 |
商標権の存続期間は10年間ですが,存続期間満了の際に,過去3年間においての登録商標の使用の実績を明らかにすることにより,更新登録を受けることが可能となります(第19条)。
他方で,存続期間中でも,3年以上継続して使用の実績が存在しない場合には,第三者から商標登録の取消審判を請求することが認められております(第50条)。 本件は,この取消審判請求が問題となった事件でありますが,裁判所は,まず,商標取消の審判を免れる目的で,他目的に商標使用の外観を整えてみても,それでは商標の使用の事実があるとは認められないと判断しました。 この点は,商標登録の実務上では,非常に重要な判断であると思われます。 また,他の独立の商標の使用が,同時に,これとは異なる他の商標の使用に該当するか否かについても,上述のとおり判断しました。 この点も,オーソドックスな判断であると考えられます。 |