発明 Vol.91 1994-6
知的所有権判例ニュース
名称の使用の禁止,商号登記の抹消登記手続を求めた事件
水谷 直樹
1.事件の内容
 本件はクレジットカードの発行などで知られる米国のアメリカン・エキスプレス・インターナショナル社が,日本で広告代理業および不動産業を営む(株)アメツクス・インターナシヨナルに対して,不正競争防止法違反を根拠として,その名称の使用の禁止,商号登記の抹消登記手続き等を求めて,平成2年に,東京地方裁判所に提起した事件です。
 
2.争点
 本件で争点となった主要な点は,以下の3点です。
《1》
 原告にとって「アメックス」は,同社の周知の営業表示といえるか。
《2》
 仮に《1》が認められた場合に,原告の「アメックス」と,被告の名称,商号は類似しているといえるか。
《3》
 さらに《2》も認められた場合には,原告と被告との間に,営業表示の類似を根拠とする取引上の誤認混同が生ずる可能性があるか。

3.裁判所の判断
 (1)東京地方裁判所は,平成4年6月29日に判決を言い渡して,原告の請求を認容しました。  すなわち,まず判決は(1)の「アメックス」の周知性については,昭和54年に日本のマスコミが,原告を「アメックス」と呼ぶようになり,原告自身も,昭和61年以後自ら「アメックス」と名乗るようになり,この間原告の売り上げ,広告・宣伝の頻度,費用等の点からすると,「アメックス」が,原告の営業表示として周知であることを認定できると判断しました。
 なお,本件では,上記のとおり,当初は,昭和54年に,マスコミが原告を「アメックス」と呼びはじめたところ,被告は翌年の55年に設立されており,原告が自らを「アメックス」と名乗るようになったのは,その後の昭和61年であったため,この点につき,被告に,先使用権が認められるのか否かが問題となりましたが,判決は,
 「原告が,自社を指す名称として原告表示を使用して広告をするようになったのは昭和61年以降であり,それ以前は,原告以外の第三者が誰いうともなく原告を指す名称として原告表示を使用していたものである(弁論の全趣旨)が,そのことを理由に,原告の本件請求が失当となるものではない。」
 と判断しております。
 次に,《2》の争点については,判決は,被告の「アメツクス・インターナシヨナル」中の「インターナシヨナル」の部分は,「インターナショナル」を認識されると認定し,「インターナショナル」は国際的という程度の意味であるから,その名称の要部は「アメツクス」の部分であると判断しました。そのうえで判決は,「アメックス」と「アメツクス」を比較して,その相違点は「ツ」の部分を大きく表示するか否かの点のみであるので,両者は類似すると判断しました。
 最後に《3》の争点,とりわけ原告と被告の業種が異なる点について,判決は,
 「そして,各被告表示と原告表示とは右のとおり同一または類似するものであり、かつ原告が前記一1認定のとおりの規模を有する会社で,原告表示が,原告の営業であることを示す表示として,日本国内において広く認識されるに至っていることからすれば,被告が自己の営業を表示する名称として各被告表示を使用する行為は,取引者又は需要者において,被告の営業が原告又は原告と緊密な関係にある会社の営業であるとの誤認混同を生ぜしめるものといわなければならない。」
と判断しております。
 《2》そこで,被告が東京高等裁判所に控訴しましたが,平成5年4月28日付判決で,同裁判所も第一審判決を維持し,特に,原告が自ら営業表示「アメックス」を使用開始した時期が,被告の設立よりも後であった点について,
 「不正競争防止法一条一項二号によって保護されるべきいわゆる周知の営業表示とは,『本法施行ノ地域内二於テ広ク認識セラルル』営業表示を意味するところ,このように『広ク認識セラルル』状態は,その状態の形成が不法不当な手段で行われた場合を除き,もっぱら客観的に観察されるべき事柄であるから,営業主体が特定の営業表示を周知にするよう特段の努力をした結果,その営業表示が広く認識されるに至った場合のみならず,ある表示が自然発生的に特定の営業主体の営業を示す表示として広く認識されるに至った場合を当然含むものと解するのが相当であるからである。
 これを本件についてみると、前示一1(一)に認定の事実と弁論の全趣旨によれば,控訴人が控訴人表示及び控訴人商号の使用を開始する前である昭和54年末までには,被控訴人の商号の一部であるアメリカン・エキスプレスの名称は,被控訴人もその一員であるところの旅行関連サービスを含む総合的金融サービス事業を世界的に展開するアメリカン・エキスプレス企業グループの営業を示す表示として,わが国においても周知であったことが推認され,この事実と,前示三2に認定の事実から明らかなように,『アメックス』の語が,披控訴人名の英語表記に由来する略称であることに照らせば,披控訴人が自社を指す名称として披控訴人表示を使用して広告をするようになった以前の昭和54年当時,
 既に,『アメックス』の語は,自然発生的に被控訴人の営業を示す表示として、わが国において広く認識されていたと認められ,それだからこそ、前示三1に認定した各記事において,特段の説明を加えることなく,『アメックス』の名称が披控訴人を指す名称として使用されたものと認められる。
 以上のとおり,披控訴人が控訴人表示及び控訴人商号の使用を開始した昭和55年1月9日当時,既に,被控訴人表示は,被控訴人の営業表示として,わが国において周知であったのであるから,控訴人主張の抗弁は,控訴人表示及び控訴人商号を採用した理由について立証させるまでもなく,失当である。」
 と判示しました。
 《3》そこで,被告は,最高裁判所に上告しましたが,同裁判所も,平成5年12月16日付判決で,「不正競争防止法一条一項二号にいう広く認識された他人の営業であることを示す表示には,営業主体がこれを使用ないし宣伝した結果,当該営業主体の営業であることを示す表示として広く認識されるに至った表示だけでなく,第三者により特定の営業主体の営業であることを示す表示として用いられ,右表示として広く認識されるに至ったものも含まれるものと解するのが相当である。」
 と判示して,上告を棄却しました。

4.検討
 本事件の争点は多岐にわたりますが,そのうちの1つが,原告の営業表示を,第三者が使用することにより周知になった場合の問題です。
 この点については,上述のとおり,地方から最高裁まで一貫した内容で判断されており,結果として妥当であると考えられます。


みずたに なおき 1973年,東京工業大学工学部卒業.1975年,早稲田大学法学部卒業後,1976年,司法試験合格。1979年,弁護士登録後,現在に至る(弁護士・弁理士)。知的財産権法分野の訴訟,交渉,契約等を数多く手がけてきている。