知的所有権判例ニュース |
商標法にいう「商品」とは |
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神谷 巌 |
[事実関係] |
本件は商標法および不正競争防止法に基づく訴であるが、ここでは商標法上の「商品」の意義を問題にしたいので、不正競争防止法に関する部分は省略する。
原告Xは、指定商品を旧第三二類の食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)とし、「パワーステーション」の片仮名文字を横書きにした商標権を有している。これに対して被告Y1は、昭和六十三年三月ごろから「POWER STATION」の名称で本件レストランを開設し、ビルの表の看板およびレストランの入り口に、「POWER STATION」と表示したほか、「POWER STATION」と大きく書いた上に小さく「nissin」の文字等を付加して看板および入り口に表示していた。Y2は、平成四年九月ごろ以降、本件レストランの営業をY1から承継し、同じ看板、表示を使用している。これに伴い、Y1は訴訟から脱退し、Y2が訴訟を引き継いでいる。 原告は、Y1等が販売しているホットドッグ、ハンバーガー、サンドイッチ等は、本件商標の指定商品中の加工食料品であり、またY1等の販売態様から、商標法にいう「商品」に当たると主張した。即ちY1等は、ホットドッグ等を、本件レストランの地下三階と、本件レストラン入り口から入ったすぐの地下一階で、「POWER STATION」の文字を付した、持ち帰り可能なプラスチック容器または包装紙に入れて、テイクアウトすることをとくに禁止せず販売している。 |
[裁判所の判断] |
東京地方裁判所は、平成五年六月二十三日、原告の請求を棄却する旨の判決を下した。商標権侵害に関する判示は、次のとおりである。
本件レストランに入場した客は、席についてまたは立見で、生演奏されるロックを観賞するようになっている。そしてレストランの営業時間は、コンサートの内容により異なるが、通常午後六時ごろから九時ごろまでであり、Y1等は毎回異なったロックのアーチストを出演させてコンサートを催している。本件レストランに入場するためには、あらかじめ三千円ないし四千円程度のコンサートのチケットを購入する必要がある。そして客がホットドッグ等を購入する場合は、カウンターで注文し、「POWER STATION」の標章を付した透明なプラスチック製の容器または紙袋に入ったホットドッグ等を受け取って代金を払う。Y1等は、本件レストランにチケットを買って入場した客以外にはホットドッグ等を売らず、客がホットドッグ等を持ち帰ることを予定していないので、そのための紙袋や包装袋も用意してなく、また店員が客の注文を聞く際に、客に持ち帰りかその場で食べるかを確認することもない。客が購入したホットドッグ等を持ち帰ることは禁止していないが、ほとんどすべての客が本件レストラン内においてホットドッグ等を喫食しており、店外に持ち出す者は皆無に近いのが実情である。なお、Y1等の使用する「POWER STATION」の標章は、アメリカの有名なレコーディングスタジオまたはイギリスのロックグループの名にちなんだものである。 右認定の事実によれば、本件レストランでは、コンサートのチケットを買って入場した客がその場で食べて消費するものとして調理され、販売されているのであり、一般市場て流通に供されることを目的として販売されているものとは認められない。そうすると、Y1等の販売するホットドッグ等は、商標法にいう「商品」に当たるとは認められない。 |
[解説] |
従来商標法上の「商品」とは、一般市場で交換することを目的として生産される有体財産をいい、流通性のないもの、例えば飲食店で供給される料理やカップにそそがれたコーヒー、紅茶等も商標法上の商品とはいえない(有斐閣発行、網野誠著、商標(新版)、三十二頁、三十三頁参照)とされてきた。そして昭和六十一年十二月二十五日の大阪地方裁判所の判決でも、「商標は元来複数の出所からの商品の存在が予定される場において自己の商品を他から識別させるためのものであり、商標法は商標の有するこの商品識別機能を保護することによって商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図りもって産業の発達に寄与しあわせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるから、商標法上の『商品』は本来的に流通性を有するものであることを予定しているものと解しなければならない。ところが、店内で飲食に供され即時に消費される料理は、提供者自身の支配する場屋内で提供されるものであるため、出所との結びつきは直接かつ明白であって、そこには他人のものとの識別を必要とする場は存在しないものであって、流通性は全くないものというべきである。したがって、飲食店内で顧客に提供される料理は商標法上の『商品』には該当しないものと解するのが相当である。」と述べ、商品の意義を明らかにし、東京地方裁判所昭和六十二年四月二十七日の判決も、同様の趣旨を述べている。
ところが一方、昭和六十一年六月十八日の広島高等裁判所岡山支部は、「店舗内で提供される複合体としての飲食物であっても、本件指定商品たる中華そばめんは中華そばの最も主要な材料であって、右飲食物が独自の味覚を持つなどとして文字図形をもって他に表示され、広く一般の顧客を招致するにおいては、右文字等が該飲食物の特色を表象するものとして他に意識されるとともに、その出所(材料)の特色をも示すものとして他に理解される機能を有するに至るものとみられるのであって、本件標章は、披控訴人の店舗(直営店及びチェーン店)を他と識別する機能を有するものであるとともに、延いては同店舗で提供される飲食物たる中華そばをその主要材料である中華そばめんとともに、その特色を他に表示するものとみられ」るとして、飲食店で提供される食品も商標法上の商品であるとした。そしてこの判決が最高裁判所昭和六十二年六月十八日の判決で支持されたため、「商品」の意義について混乱がみられた。 しかしその後の判決は、最高裁判所の判断に従わず、その指導的意義は失われたものと思われる。即ち、昭和六十三年三月二十九日の東京高等裁判所の判決は天麩羅について、飲食店の店舗で供される飲食物は、商標法にいう「商品」ではないとしたのである。今後も本件判決と同様の判決が下されるものと思われる。 |