知的所有権判例ニュース |
異議申立と拒絶理由の通知 |
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神谷 巖 |
[事実関係] |
原告Xは、昭和55年5月26日必須要件項が3つ、実施態様項が5つからなる特許出願(発明の名称:磁気特性を改善した非晶質金属合金及びその製法)をしたところ、拒絶査定を受けたので、査定不服の審判を請求した。そして昭和63年6月17日出願公告されたが、Yほか1名から特許異議の申立てがなされ、その結果Yの異議申立には理由があるとする決定とともに、右審判請求に対して、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決がなされたので、Xは審決取消訴訟を提起した。
この訴訟においてXは、本件審決の取消理由として、審判手続の違法性を主張した。 1 本件審判は、審査段階における拒絶査定の理由とは異なる、Yの特許異議申立書に記載された理由で本願発明にかかる特許は拒絶すべきであるとしたのであるが、その際、審判官はその理由に関して拒絶理由の通知をしなかった。したがってこの手続は、特許法159条2項が準用する同法50条に反し、違法である。 2 本願発明は、昭和62年改正前の特許法38条但書によって認められた複数の発明の併合出願の方法で出願されたものであり、特許庁は本来すべての発明について審査を行うべきであった。そして審判官が本願発明の特許請求の範囲《5》ないし《7》の発明についてまで審査を行っていたならば、これらの発明には特許性があるとの判断に達したはずである。本件においては、特許が与えられるべき上記発明について原告が審査の機会を奪われることのないように、裁量権を行使して拒絶理由通知をすべきであったのに、原告に対し全く手続補正をするようにとの連絡をしないまま本件審決をし、その結果、原告がこれらの発明について特許を受ける利益を失うという、重大な結果を招いた違法がある。 |
[裁判所の判断] |
東京高等裁判所は原告の請求を棄却した(平成4年10月1日判決)。その理由は以下のとおりである。
一 取消理由の1について 特許法159条2項により同法50条が準用される趣旨は、拒絶査定不服の審判が請求された場合において査定の理由と異なる拒絶理由が発見されたときに直ちに新たな理由による特許出願の拒絶を許容することは、特許出願人にその理由についてなんらの弁明の機会も与えないことに帰し、特許出願人に酷であるとともに、審判官も過誤を犯すおそれがないわけでもないから、このようなときにはまず特許出願人に意見書を提出して意見を述べる機会を与える一方で、同法159条2項により準用される同法64条にしたがい願書に添付した明細書又は図面を補正する機会を与え、また同時に特許出願人から提出された意見書を資料として審判官に再度の考案をするきっかけを与えて審判の公正を担保しようとするにあると解される。本件のように、拒絶査定不服審判の請求の後に特許異議が申し立てられ審判官が特許異議の申立書又はそれに準ずる書面に記載された事由により出願された特許を拒絶すべきものと判断した場合において、事由が従前審査官により拒絶理由として通知されていないときであっても、同法159条3項により準用される同法57条にしたがいこれらの書面の副本が特許出願人に送達されている限りは、特許出願人は意見書を提出して意見を述べ、願書添付の明細書又は図面を補正することもできる結果、特許出願人に酷な事態もないし、審判の公正も担保されるといってよいのであるから、審判官は、もはや特許出願人に対し重ねて拒絶理由を通知する必要性はないと解するのが相当である。 二 取消理由の2について 特許出願人は、複数の発明については当然別々に複数の特許出願をすることができるところ、改正前の特許法38条但書による併合出願は、複数の発明についても一定の要件のある限り、1個の特許出願をする道を選ぶことを許し、出願の際の手数、費用等を省くことを許容するものであるが、一旦併合出願の方法が選択されたときは、そのうちたとえ1つの発明についてでも特許を拒絶すべき事由があるときは、その余の発明について拒絶すべき事由があるか否かにかかわらず、同法49条により出願の全体について拒絶査定を免れないものである。 |
[解説] |
取消理由の1に対する判断は、これまでにも繰り返しなされたものである(例えば、昭和43年8月16日東京高等裁判所判決・判例タイムズ225号118頁以下、昭和59年7月31日東京高等裁判所判決)。したがって、昭和43年の判決においては、「新たな拒絶理由の発見とは、拒絶理由通知書または異議申立の結果、意見書および答弁書提出の機会を与える処置がとられたことのない、全然新たな拒絶理由を発見したことをいうものと解される。」と述べられている。要するに、特許法159条が同法50条を準用している理由は、本件判決の述べるとおりであるから、意見書の提出および手続補正の機会がすでに与えられた拒絶理由に関しては、重ねてそれらの機会を与える必要はないのである。したがって審査段階では現れながら、審判段階の拒絶理由通知には現れなかった引用例をもって、特許を拒絶する旨の審決をしても、何ら違法性はないのである(昭和52年1月26日東京高等裁判所判決・無体財産権関係民事行政裁判例集9巻1号1頁以下)。
ただし拒絶理由とは引用例に記載された技術内容をいうのであるから、適用法条を同一にはするが、別個の技術の内容を拒絶理由とする場合は、拒絶理由自体が相違するから、新たに拒絶理由開示の手続をしなければならない(昭和32年12月24日東京高等裁判所判決・行政事件裁判例集8巻12号2226頁以下)。 また取消理由の2に対する判断は、やはり以前から同様になされていたものであって、昭和57年3月30日東京高等裁判所判決は、「本法57条本文は、特許出願に係る発明中1つでも拒絶する理由があるときは、拒絶査定すべきことを規定していると見るべきであって、拒絶査定に対する審判においても、出願に係る発明中1つでも特許すべからざる事由があるときは、その旨を判断し、他の発明に対する判断を省略し得るものと解すべきである。」と述べている。特許法49条本文の趣旨は本件判決が述べたとおりであるので、本件判決に賛成する。 |