発明 Vol.106 2009-4
判例評釈
商品の包装に係る立体的形状のみからなる商標に
 登録が認められた事例
  −コカ・コーラ・ボトル立体商標事件
知財高判平成20.5.29平成19(行ケ)第10215号審決取消請求事件
判例時報2006号36頁、判例タイムズ1270号29頁
東洋大学教授盛岡一夫
事実の概要
 X(原告・ザコカ・コーラカンパニー)は、コーラ飲料の容器の形状について指定商品を第32類として、立体商標の出願をしたが拒絶査定を受けたので、これを不服として、XはY(被告・特許庁長官)に対し、審判請求をした(その後、指定商品を第32類「コーラ飲料」と補正された)。審決は、本願商標は、商品もしくは商品の包装または役務の提供の用に供する物(以下、「商品等」という)の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから、商標法3条1項3号に該当するとしている。
 また、本願商標それ自体が自他商品の識別標識としての機能を有するに至っているとはいえないから、同法3条2項の要件を具備していないと判断している。すなわち、使用に係る商標は、立体的形状からなる包装容器(瓶)の中程に、「Coca−Cola」の文字部分を有するものであるから、立体的形状のみからなる本願商標と使用に係る商標とは構成において同一のものとは認められない。使用に係る商標は需要者等において、「Coca−Cola」の文字部分(平面標章部分)を自他商品の識別標識としてとらえるのに対し、立体的形状部分はそれ自体自他商品識別標識としてとらえることはない。両商標の上部のキャップ部分をみると、リターナブル瓶の立体的形状と本願商標とは、前者が王冠用であるのに対し、後者はスクリューキャップ用であるという点で相違し、両者は同一といえない。調査結果報告書の内容に適切を欠くものがあること等を理由に登録は認められないとしている。
 そこで、Xは、本件審決の取り消しを求めて訴えを提起し、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした審決は誤りであるとして、本願商標の特徴的形状は、美感、機能を高めるためではなく、同形状に自他商品識別力を持たせることを目的としてXが開発、採用したものであって、まさに生来的な自他商品識別力を有するものであること、また、本願商標が商標法3条2項を具備していないと認定判断したことに対して、本願商標の特徴的形状が長年にわたり使用された結果、本願商標に係る立体的形状は、単独で自他商品識別力を獲得するに至っており、Xによる独占使用が公益に反することもないこと、「Coca−Cola」の文字等を有する平面標章部分は、強い自他商品識別力を有しているが、本願商標の特徴的形状は、平面標章部分に匹敵する自他商品識別力を獲得するに至っており、自他識別に平面標章部分が不可欠であるとはいえないこと等を主張した。

判旨請求認容
1.商標法3条1項3号
 「商標法は、商品等の立体的形状の登録の適格性について、平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが、同法4条1項18号において、商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については、登録を受けられないものとし、同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと、商品等の立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
 そうすると、商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については、商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば、立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも、以下のイで述べるように、識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。)、また、出願に係る立体標識を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
イ 以上を前提として、まず、立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品に機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
 そうすると、商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されると認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また、商品等の具体的形状は、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるのといえる。しかし、同種の商品等について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として、同号に該当するものというべきである。
 けだし、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないからである。
(ウ) さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
 けだし、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、商品等の形状について、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。」
 「本願商標の立体的形状は、審決時(平成19年2月6日)を基準として、客観的に見れば、コーラ飲料の容器の機能又は美感を効果的に高めるために採用されるものと認められ、また、コーラ飲料の容器の形状として、需要者において予測可能な範囲内のものというべきである。」

2.商標法3条2項
 「立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品等の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
 そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。
 もっとも、商品等は、その製造、販売等を継続するにあたって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり、また、技術の進展や社会環境、取引慣行の変化等に応じて、品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば、使用に係る商品等の立体的形状において、企業等の名称や記号・文字が付されたこと、又は、ごく僅かに形状変更がされたことのみによって、直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく、使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお、立体的形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。」
 そこで、上記の観点から、本願商標が使用により自他商品識別力を備えるに至っているか否かについて、判断している。
(1)わが国でリターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に販売が開始されて以来、その形状は変更されず、一貫して同一の形状を備えてきたこと
(2)リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は、昭和46年には23億8000万余本を売り上げ、その後も年間9600万本が販売されてきたこと
(3)宣伝広告は、媒体費用だけでも、平成9年以降年間平均30億円であること、リターナブル瓶入りの原告商品の形状が需要者に印象づけられるような態様で広告が実施されてきたこと
(4)本願商標と同一の立体的形状の無色容器を示された調査結果において、6割から8割の回答者がその商品名を「コカ・コーラ」と回答していること
(5)リターナブル瓶の形状については、相当数の専門家が自他商品識別力を有する典型例として指摘していること
(6)本願商標の立体的形状の特徴を兼ね備えた清涼飲料の容器を用いた商標で、市場に流通するものは存在しないこと、また、Xは、第三者がリターナブル瓶と類似する形状の容器を使用する事実を発見した際は、直ちにその使用を中止させてきたこと
(7)リターナブル瓶入りの原告商品の形状は、それ自体が「ブランド・シンボル」として認識されるようになっていること
 「以上の事実によれば、リターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に、我が国での販売が開始されて以来、驚異的な販売実績を残しその形状を変更することなく、長期間にわたり販売が続けられ、その形状の特徴を印象付ける広告宣伝が積み重ねられたため、遅くとも審決時(平成19年2月6日)までにはリターナブル瓶入りの原告商品の立体的形状は、需要者において、他社商品とを区別する指標として認識されるに至ったものと認めるのが相当である。」
 「リターナブル瓶入りの原告商品の形状をみると、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告等の態様及び事実、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果等によれば、リターナブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は、極めて強いというべきである。そうすると、本件において、リターナブル瓶入りの原告商品に『Coca−Cola』などの表示が付されている点が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認めている上で障害になるというべきでない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。」
 「リターナブル瓶の立体的形状と本願商標とは、口部において、前者が王冠用であるのに対して、後者がスクリューキャップ用であるという点で相違する。
 口部の形状は、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であって、特段の事情のない限り、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないというべきであるから、そもそも、本願商標の特徴的な部分ということはできない。また、本件において、特段の事情は存在しない。
 のみならず、リターナブル瓶入りの原告商品の形状について、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告等の態様及び事実、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果について蓄積された自他商品識別力は、極めて強いというべきであるから、リターナブル瓶入りの原告商品の口部の相違が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害となるというべきではない。」
 「本願商標については、原告商品におけるリターナブル瓶の使用によって、自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。」


評釈
1.本判決の位置づけ
 平成8年商標法改正によって、立体商標制度が導入され、商標の構成要素として、2条1項に追加された(特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編「平成8年改正工業所有権の解説」発明協会、1996年、159頁参照)。
 商標法は、3条1項3号において、「その商品の・・・・・・形状(包装の形状を含む。)・・・・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定し、同条2項において、「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」と規定している。
 しかし、4条1項18号において、「商品又は商品の包装の形状であって、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は、3条の規定にかかわらず、使用により自他商品識別力を取得しても商標登録が認められない。これは、特許法との抵触を避けるためである(渋谷達紀「商品形態の商標登録」紋谷暢男教授還暦記念「知的財産権法の現代的課題」発明協会、1998年、318頁以下参照)。
 本判決は、商品の包装に係る立体的形状のみからなる商標の、商標法3条1項3号該当性については、従来の裁判例と同様の見解をとっているが、その判断基準を詳細に明示している。本判決は、3条2項該当性判断について、使用に係る商品等の立体的形状において企業の名称、文字等が付されていること、ごくわずかな形状変更がなされたことのみによって、直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当でなく、諸事情を総合的に勘案したうえで、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきであると判示している。商品の包装に係る立体的形状のみからなる商標について、登録を認めた初めての判決であり、妥当であると考える。商品の立体的形状のみからなる商標の登録を認めた裁判例として、マグライト立体商標事件(知財高判平成19.6.27判時1984号3頁)がある。

2.商標法3条1項3号
 従来の裁判例は、審決の判断を支持しているものが多い(筆記具事件、東京高判平成12.12.21判時1746号129頁等)、ヤクルト容器事件(東京高判平成13.7.17判時1769号98頁)は、乳酸菌飲料を指定商品とする容器形状の立体商標登録の事案であるが、審決は、「本願商標は、その指定商品との関係よりすれば、多少デザインが施されてはいるが、特異性があるものとは認められず、通常採用し得る形状の範囲を超えているとは認識し得ないので、全体としてその商品の形状(収納容器)の一形態を表したものと認識させる立体的形状のみよりなるものといわざるを得ないから、これをその指定商品について使用しても、単に商品の包装(収納容器)の形状を普通に用いられる方法をもって表示するにすぎないものと認める。したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する」と判断したものを、支持し、飲料に係る商品の容器の形状は、「容器自体の持つ機能を効果的に発揮させたりする等の目的で選択される限りにおいては、原則として、商品の出所を表示し、自他商品を識別する標識を有するものということはできない」と判示している。
 サントリー角瓶事件(東京高判平成15.8.29最高裁HP)においては、商品の包装の形状そのものからなる立体商標は、原則として、取引に際し必要適切な表示として特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当とせず、また、商品の包装の用途、機能から予測し難いような特異な形態や特別な印象を与える装飾的形状等を備えている場合を除き、商標法3条1項3号に該当すると述べている。
 釣竿用導糸環事件(東京高判平成13.12.28判時1808号96頁)は、本願商標がその指定商品である釣り竿用導糸環の形状そのものと認識するにとどまるから、本願商標は、指定商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として、商標登録を受けることができないとしている。
 これらの裁判例に対し、チョコレートの立体的形状が商標法3条1項3号に該当しないと解する判決がある。チョコレート立体商標事件(知財高判平成20.6.30最高裁HP)は、商標法3条1項3号に該当する商標の類型として、最判昭和54年4月10日(判時927号233頁)が、(1)「取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの」であり、(2)「一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないもの」であると説示しているので、この観点からチョコレートの立体的形状について検討している。
 その検討の結果、本願商標は(1)に該当するものと認めることはできないとし、(2)については、「チョコレート菓子の選別においては、多くの場合、第一次的には味が最も重要な要素であるといえるが、同時にその嗜好品としての特質からチョコレート菓子自体の形体も外形からチョコレート菓子の識別を可能ならしめるものとして取引者・需要者の注目を引くものと見ることができるのであり」、「チョコレート菓子の外形、すなわち形体が、美感等の向上という第一次的要求に加え、再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っている」と判示している。
 本判決は、出願に係る立体商標を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることを前提として、(ア)商品等の形状は特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当する。(イ)同種の商品等について、機能または美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、3号に該当する。(ウ)需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観定から選択されたものであるときは、3号に該当すると述べている。
 本判決が述べているように、商品等の機能または美観の観点から、特許法、意匠法等によって独占権が付与されることがあり得る。特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて、商標法によって半永久的に保護することは、公益に反することになるであろう(竹田稔「知的財産権侵害要論[特許・意匠・商標編第5版]」発明協会、2007年752頁以下、渋谷・前掲318頁以下、三山峻司「判例評論514号」35頁以下、田村善之「商標法概説[第2版]」弘文堂、2000年187頁以下参照)。したがって、商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当しないと判断される事案は少ないものと考える。本願商標の立体的形状は、コーラ飲料の容器の機能または美感を効果的に高めるために採用されるものと認められ、また、コーラ飲料の容器として、需要者において予測可能な範囲内のものと述べており、妥当な判決であろう(なお、本願商標の色彩は、緑色の色彩を特定したものではないとしている)。
 本研究会においては、本判決が商標法と特許法、意匠法等との抵触に関して述べていることについて反対の意見があった。
 なお、商標法3条1項3号該当性について、特許庁「商標審査基準」は、指定商品の形状(指定商品の包装の形状を含む)または指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない商標は、3号の規定に該当するものとしている。
 特許庁の「商標審査便覧」(41.100.02)は、立体商標の識別力の審査に関する運用について、「需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識するにすぎない形状のみからなる立体商標は、識別力を有しないものとする。この場合、指定商品等との関係において、同種の『商品(その包装を含む。)又は役務の提供の用に供する物』(以下、「商品等」という。)が採用し得る立体的形状に特徴的な変更、装飾等が施されたものであっても、全体として指定商品等の形状を表示してなるものと認識するに止まる限り、そのような立体商標は識別力を有しないものとする。」との審査の考え方を示している。

3.商標法3条2項
 サントリー角瓶事件において、出願商標と使用に係るウイスキー瓶とは、その立体的形状は同一と認められる範囲内のものであるが、両者は、立体的形状よりも看者の注意を引く程度が著しく強く商品の自他商品識別力が強い平面標章部分の有無において異なっているから、全体的な構成を比較対照すると同一性を有しないとしている。ヤクルト容器事件では、原告の商品である乳酸菌飲料「ヤクルト」について、その収納容器に「ヤクルト」の文字商標が付されないで使用されてきたことを認めるに足りる証拠はないとし、原告の商品「ヤクルト」の容器が、その形状だけで識別力を獲得していたとは認められないと述べている。
 これらの裁判例に対し、本判決は、使用に係る商品等の立体的形状において、文字等の平面標章が付されたこと、ごくわずかに形状変更がなされたことのみによって、直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく、総合勘案したうえで、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきであると判示している。マグライト立体商標事件においても同様に述べられている。実際に使用されている立体商標には平面標章が付されているのが通常であり、妥当な判決である。
 通常、市場で流通する商品には平面標章が付されているのであるから、出願商標が立体的形状のみからなるものであるのに対し、提出された証拠中の使用に係る商標には平面標章が付されている場合に、両商標は同一でないとして、一律に、そのような証拠に基づき使用により識別力を有するに至った商標と認めることはできないとすることは妥当でないとの見解もある(青江秀史「商標・意匠・不正競争判例百選」15頁、中塚智子「商品等の形状からなる立体商標に係る登録要件の判断基準について」知財研フォーラム74号36頁)。
 なお、商標審査便覧は、使用により識別力を有するに至った商標として認められるのは、その商標と同一の商品等およびその商標を使用していた商品等と同一の商品等に限られるとするのが原則であるとする。したがって、出願に係る商標が立体的形状のみからなるものであるのに対し、提出された証拠中の使用に係る商標には、立体的形状に文字、図形等の平面標章が付されている場合、両商標の全体的構成は同一ではないことから、原則的にはそのような証拠に基づき使用により識別力を有するに至った商標と認めることはできないと定めている。
 商標審査基準は、商標が使用により識別力を有するに至ったか否かは、(ア)実際に使用している商標および商品または役務、(イ)使用開始時期、使用期間、使用地域、(ウ)生産・譲渡数量等、(エ)広告の内容等、(オ)一般紙等における記事掲載の回数等、(カ)需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果、これらの事実を総合勘案して判断するものとしており、本判決も、これらの事実を検討し、リターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に販売されてから形状を変更することなく、販売数量も驚異的(昭和46年には23億8000万本、その後も年間9600万本)であり、その形状の特徴を印象づける広告宣伝(年間平均30億円)等がなされたので、リターナブル瓶入りの原告商品の立体的形状は、自他商品識別力を獲得したと判断している。
 ひよ子事件においては、本件立体商標に係る鳥の形状と極めて類似した菓子が日本全国に多数存在し、その形状は和菓子としてありふれたものであり、本件立体商標自体については、いまだ全国的な周知性を獲得するに至っていないとしている。ヤクルト容器事件においても、本件出願当時、すでに本願商標の立体形状と同様の収納容器がヤクルト以外の業者の乳酸菌飲料等の製品に多数使用されていたことが推認される点も理由の一つとして、形状だけで識別力を獲得していたとは認められないとしている。
 これに対し、本判決は、第三者がリターナブル瓶と類似する形状の容器等を使用する事実を発見した際は、Xから使用の中止をさせてきたので、類似の容器を用いた商品は市場に存在しないと述べている(マグライト立体商標事件も同旨)。裁判例は、原告の立体商標に類似する形状の商品が市場において存在する場合には、自他商品識別力を獲得したとはいえないが、類似の容器を用いた商品が市場で販売されていない場合には、出願に係る形状が自他商品識別力を獲得していると判断している。
 釣竿用導糸環事件では、原告のカタログおよび価格表に目立つように文字商標が記載されており、需要者は文字商標に注目して自他商品の識別を行ってきたのであるから、広告宣伝等が継続して行われてきたとしても、商品の形状が文字商標から独立して自他商品識別力を獲得することはないとしている。また、ひよ子事件でも、菓子「ひよ子」の販売形態、広告宣伝状況は需要者が文字商標に注目するような形態で行われていることを商標法3条2項の適用を否定する理由の一つとしている。
 マグライト立体商標事件においては、一般論として、使用に係る立体形状に平面標章が付されていたという事情のみによって直ちに使用による識別力の獲得を否定することは適切ではなく、使用に係る商標ないし商品等の形状に付されていた名称・標章について、その外観、大きさ、付されていた位置等を考慮して、当該名称・標章が付されていたとしてもなお、立体的形状が需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものであったか等を勘案したうえで、立体形状が独立して自他商品識別機能を獲得するに至っているかを判断すべきであると明言した。この観点から、本件商品(懐中電灯)は長期間にわたって、そのデザインの優秀性を強調する大規模な広告宣伝を行っていること、本件商品に付された「MINIMAGLITE」等の英文字は、本件商品全体から見ると小さな部分であり、文字自体も細線により刻まれているものであって、目立つものではないことから判断し、本願商標に係る形状は自他商品識別力を獲得していると認めている。
 この判決については、平面標章を伴わない立体商標のみの使用が立証されない場合でも、立体的形状が独立して自他商品識別機能を獲得しているか否かを判断できるということを明言したうえで、結論として本願商標が独立して自他商品識別機能を獲得したものと認定しており、妥当であるとの見解がある(上野達弘「平成19年度重要判例解説」298頁)。
 本判決は、マグライト立体商標事件と同様の一般論を述べたうえで、リターナブル瓶入りの原告商品の形状をみると、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告、調査結果等によれば、リターナブル瓶の立体形状について蓄積された自他商品の識別力は、極めて強いから、原告商品に「Coca−Cola」等の表示が付されている点が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認めるうえで障害になるというべきではないと述べている。
 マグライト立体商標事件においては、商品(懐中電灯)に付されている平面標章が商品全体から見ると小さく目立つものでなかったこと等を自他商品識別機能の認定の要素の一つとしているが、本判決は、リターナブル瓶入りの原告商品の形状が長年使用されたこと、多大の宣伝広告、調査結果等によれば、立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は極めて強いとしている。また、リターナブル瓶の口部において、使用に係る形状は王冠用であるのに対し、出願に係る形状はスクリューキャップ用である点で相違するが、口部の形状は、特徴的な部分ということはできず、口部の相違が本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認めるうえで障害とはならないと述べている。技術の進歩、流行の変化に応じて、形状を変更するのが通常であるから、ごくわずかな形状の変更がなされても、主要部分ではなく、特徴的な部分といえない場合には、特段の事情のない限り、本判決のように解するのが妥当であろう。本判決およびマグライト立体商標事件においては、アンケート調査結果が採用されているが、ヤクルト容器事件およびサントリー角瓶事件においては、調査方法、内容等が不十分であると指摘して、採用されなかったことについては批判的見解がある(足立泉「立体商標の現状と課題」紋谷暢男教授古稀記念「知的財産権と競走法の現代的展開」発明協会、2006年、542頁以下参照)。
 現実の使用に係る商品等の立体的形状には平面標章が付されているのが通常であるから、出願に係る平面標章が立体的形状のみからなるときには、平面標章の付されない立体商標の使用のみが立証されない場合でも、また、ごくわずかな形状の相違が存在する場合でも、出願に係る立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得しているか否かを判断すべきであると考えるので、本判決が商品の包装の形状に係る立体商標に商標登録を受けることができると解したのは妥当であろう。


(もりおかかずお)