1.商標法3条1項3号
「商標法は、商品等の立体的形状の登録の適格性について、平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが、同法4条1項18号において、商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については、登録を受けられないものとし、同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと、商品等の立体的形状については、特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される。
そうすると、商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については、商品等の機能を効果的に発揮させ、商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば、立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも、以下のイで述べるように、識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。)、また、出願に係る立体標識を使用した結果、その形状が自他商品識別力を獲得することになれば、商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。
イ 以上を前提として、まず、立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア) 商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、商品・役務の出所を表示し、自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように、商品等の製造者、供給者の観点からすれば、商品の形状は、多くの場合、それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また、商品等の形状を見る需要者の観点からしても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品に機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。
そうすると、商品等の形状は、多くの場合に、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり、客観的に見て、そのような目的のために採用されると認められる形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、同号に該当すると解するのが相当である。
(イ) また、商品等の具体的形状は、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが、一方で、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、通常は、ある程度の選択の幅があるのといえる。しかし、同種の商品等について、機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として、同号に該当するものというべきである。
けだし、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でないからである。
(ウ) さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても、当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには、商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
けだし、商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に、商品等の機能の観点からは発明ないし考案として、商品等の美感の観点からは意匠として、それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば、その限りにおいて独占権が付与されることがあり得るが、これらの法の保護の対象になり得る形状について、商標権によって保護を与えることは、商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると、商品等の形状について、特許法、意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。」
「本願商標の立体的形状は、審決時(平成19年2月6日)を基準として、客観的に見れば、コーラ飲料の容器の機能又は美感を効果的に高めるために採用されるものと認められ、また、コーラ飲料の容器の形状として、需要者において予測可能な範囲内のものというべきである。」
2.商標法3条2項
「立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは、当該商標ないし商品等の形状、使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、広告宣伝のされた期間・地域及び規模、当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして、使用に係る商標ないし商品等の形状は、原則として、出願に係る商標と実質的に同一であり、指定商品に属する商品であることを要する。
もっとも、商品等は、その製造、販売等を継続するにあたって、その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり、また、技術の進展や社会環境、取引慣行の変化等に応じて、品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば、使用に係る商品等の立体的形状において、企業等の名称や記号・文字が付されたこと、又は、ごく僅かに形状変更がされたことのみによって、直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく、使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお、立体的形状が需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で、立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。」
そこで、上記の観点から、本願商標が使用により自他商品識別力を備えるに至っているか否かについて、判断している。
(1)わが国でリターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に販売が開始されて以来、その形状は変更されず、一貫して同一の形状を備えてきたこと
(2)リターナブル瓶入りの原告商品の販売数量は、昭和46年には23億8000万余本を売り上げ、その後も年間9600万本が販売されてきたこと
(3)宣伝広告は、媒体費用だけでも、平成9年以降年間平均30億円であること、リターナブル瓶入りの原告商品の形状が需要者に印象づけられるような態様で広告が実施されてきたこと
(4)本願商標と同一の立体的形状の無色容器を示された調査結果において、6割から8割の回答者がその商品名を「コカ・コーラ」と回答していること
(5)リターナブル瓶の形状については、相当数の専門家が自他商品識別力を有する典型例として指摘していること
(6)本願商標の立体的形状の特徴を兼ね備えた清涼飲料の容器を用いた商標で、市場に流通するものは存在しないこと、また、Xは、第三者がリターナブル瓶と類似する形状の容器を使用する事実を発見した際は、直ちにその使用を中止させてきたこと
(7)リターナブル瓶入りの原告商品の形状は、それ自体が「ブランド・シンボル」として認識されるようになっていること
「以上の事実によれば、リターナブル瓶入りの原告商品は、昭和32年に、我が国での販売が開始されて以来、驚異的な販売実績を残しその形状を変更することなく、長期間にわたり販売が続けられ、その形状の特徴を印象付ける広告宣伝が積み重ねられたため、遅くとも審決時(平成19年2月6日)までにはリターナブル瓶入りの原告商品の立体的形状は、需要者において、他社商品とを区別する指標として認識されるに至ったものと認めるのが相当である。」
「リターナブル瓶入りの原告商品の形状をみると、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告等の態様及び事実、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果等によれば、リターナブル瓶の立体的形状について蓄積された自他商品の識別力は、極めて強いというべきである。そうすると、本件において、リターナブル瓶入りの原告商品に『Coca−Cola』などの表示が付されている点が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認めている上で障害になるというべきでない(なお、本願商標に係る形状が、商品等の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標といえないことはいうまでもない。)。」
「リターナブル瓶の立体的形状と本願商標とは、口部において、前者が王冠用であるのに対して、後者がスクリューキャップ用であるという点で相違する。
口部の形状は、機能に直結する形状であるとともに、ありふれた形状であって、特段の事情のない限り、需要者が商品を識別する対象とはなり得ないというべきであるから、そもそも、本願商標の特徴的な部分ということはできない。また、本件において、特段の事情は存在しない。
のみならず、リターナブル瓶入りの原告商品の形状について、当該形状の長年にわたる一貫した使用の事実、大量の販売実績、多大の宣伝広告等の態様及び事実、当該商品の形状が原告の出所を識別する機能を有しているとの調査結果について蓄積された自他商品識別力は、極めて強いというべきであるから、リターナブル瓶入りの原告商品の口部の相違が、本願商標に係る形状が自他商品識別機能を獲得していると認める上で障害となるというべきではない。」
「本願商標については、原告商品におけるリターナブル瓶の使用によって、自他商品識別機能を獲得したものというべきであるから、商標法3条2項により商標登録を受けることができるものと解すべきである。」