発明 Vol.106 2009-3
判例評釈
プログラムの著作物につき「法人等の発意」があり
 「職務上作成する著作物」に当たるとして
   法人等が著作者となるとした事例
  −宇宙開発事業団事件控訴審判決−
知財高判平成18年12月26日判例集未登載(平成18年(ネ)第10003号)LEX/DB28130223
東海大学短期大学部非常勤講師内田剛
事実の概要
 Xは、Aの権利義務を承継し成立したYの職員であり、本件各プログラムの作成時においてAの職員であった。Xは、YおよびAに対してプログラム等の作成支援を行っていたYに対し、XとYらとの間において、主位的に本件各プログラムについてXが著作権および著作者人格権を有することの確認、予備的に本件プログラム2、3および5を二次的著作物とし、本件プログラム11、13および19をそれぞれ原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求めた。
 これに対して、Yらは、本件プログラム5、11ないし13および15は著作物性を有せず、本件プログラム1から6は、Yの技術者が作成したものであり、Xが、本件各プログラムを作成(創作)したといえず、本件各プログラムをXが作成したとしても、職務著作としてAがその著作権および著作者人格権を取得したものであると反論した。
 なお、Xは、昭和55年8月14日から約1年6カ月間、フランスの国立宇宙研究センター(CNES)に留学していた。また、留学中の昭和56年8月18日より休職し、昭和57年2月18日に復職している。この休職期間中に、Xは本件プログラム12を作成した。
 原判決(注1)は、本件プログラム1から6については、Xが創作したものではなく、仮にXが創作したものであるとしても、本件各プログラムは、いずれも職務著作として、Aが著作者となるものであるとして、Xの主位的請求、予備的請求のいずれも棄却した。
 本件は、Xが原判決を不服として、その取り消しおよび著作権等の確認を求めて控訴したものである。


判旨控訴棄却
1.本件プログラム5、11ないし13および15は著作物といえるか
 「プログラムに著作物性があるといえるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要するものであって、プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地もなくなり、著作物性を有しないことになる。そして、プログラムの指令の手順自体は、アイデアにすぎないし、プログラムにおけるアルゴリズムは、『解法』に当たり、いずれもプログラムの著作権の対象として保護されるものではない。」
 「本件プログラム15・・・・・・本件プログラム5・・・・・・本件プログラム12・・・・・・本件プログラム13は、・・・・・・式の展開、入出力その他の条件の設定に対応して、各ステップの組合せ、その順序、サブルーチン化などで、多様な記載が可能であるところ、作成者の工夫がこらされており、その個性が認められるから、著作物性を有するものというべきである。」
 「本件プログラム11は、全体として表現に選択の余地がほとんどなく、わずかに表現の選択の余地のある部分においても、その選択の幅は著しく狭いものであるから、上記計算式を基礎にFORTRAN言語でプログラムを作成しようとする場合、本件プログラム11のようになることは避けられず、作成者の個性を反映させる余地はないものとして、その著作物性は否定すべきである。」

2.Xは、本件各プログラムを作成(創作)したか
 Xが本件プログラム15、19、12および13を創作した者と認められるとしたうえで、AとY間の契約がXの解析作業を支援するためのものであって、Yの技術者は、Xの業務を補助するものとして、Xらの指示監督のもとでXと共同でプログラミング作業を行い、共同で本件プログラム1から6を完成させたものと認められるとして、XがYの技術者と共同で本件プログラム1から6を創作した者というべきであるとした。

3.本件各プログラムについて、職務著作としてAが著作者となるか
 「法は、旧15条及び現行15条1項を通じて、著作行為をし得るのは、自然人であるとの前提に立ちつつ、著作権取引等の便宜を考慮し、法人等において、その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し、これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみ、法人等を著作者と擬制し、所定の著作物の著作者を法人等とする旨規定したものである・・・・・・(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・判時1822号133頁参照)」
 「『法人等の発意』の要件については、法人等が著作物の作成を企画、構想し、業務に従事する者に具体的に作成を命じる場合、あるいは、業務に従事する者が法人等の承諾を得て著作物を作成する場合には、法人等の発意があるとすることに異論はないところであるが、さらに、法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には、法人等の具体的な指示あるいは承諾がなくとも、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、『法人等の発意』の要件を満たすと解するのが相当である。
 また、『職務上作成する著作物』の要件については、業務に従事する者に直接命令されたもののほかに、業務に従事する者の職務上、プログラムを作成することが予定又は予期される行為も含まれるものと解すべきである。」
 以上のように解したうえで、本件プログラム1から6、15および19は、職務著作としてAがその著作者となるものというべきであるとした。
 「本件プログラム12の作成は・・・・・・『海外研修計画』の記載から、Aにおいて、Xの研修の成果として予定又は予期し得るものであったというべきである。
 したがって、本件プログラム12は、Xの研修期間中の職務の遂行上、その作成が予定又は予期されていたということができるから、『法人等の発意』があり、Xによる『職務上作成する著作物』に当たるというべきである。」
 「以上によれば、本件プログラム12の作成は、Aの職務著作であるというべきである。」
 「Xは、昭和57年7月20日、昭和57年度の業務計画明細書・・・・・・とともに、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案したが認可されず、再度、同様の提案をするに当たって、Aの認可がないままに、本件プログラム13を作成したものである。」
 「しかし、Aの認可の有無にかかわらず、Xによるドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施の提案は、Aにとって意味があったものということができる。」
 「そして、Xは、上記のとおり、自己の職務として、昭和57年度の業務計画明細書とともに、ドップラーデータに基づき、カルマンフィルタを用いた解析実施を提案しており、更に検討を重ねていたのである。
 したがって、Xによる本件プログラム13の作成を、Aが認可していなかったとしても、Xの職務の遂行上、その作成が予定又は予期されるものであったと認めるのが相当であり、『法人等の発意』の要件を満たすものというべきである。」
 「また、本件プログラム13は、上記の経過で作成されたものであるから、Xの『職務上作成する著作物』であることが認められる。」
 「以上によると、本件プログラム13は、職務著作として、Aがその著作者となるものと認められる。」
 「以上によれば、Xの本訴請求中・・・・・・主位的請求・・・・・・は、いずれも理由がない。」

4.本件プログラム2、3、5は本件プログラム11、13、19を、それぞれ翻案したものか
 「本件プログラム11は、著作物性がないから、・・・・・・本件プログラム13・・・・・・、本件プログラム19は、事業団の職務著作であって、控訴人に著作権及び著作者人格権がないから、・・・・・・控訴人の本訴請求中、・・・・・・予備的請求・・・・・・は、いずれも理由がない。」


評釈
本件判決の判例上の地位
 本件は、特殊法人の職員が単独または他社の技術者と共に作成したプログラムにつき、その著作物性、創作(作成)者および職務著作の成否が問題となった事件である。本件判決は、本件プログラム11を除き、本件各プログラムの著作物性を肯定したうえで、Xが単独でまたはYの技術者と共同で本件プログラムを作成したとしたが、休職期間中に作成したものおよび法人等の許可がないまま作成したものを含めて職務著作に当たるとして、Xの著作権および著作者人格権の確認請求を棄却した原判決を維持した。
 その判断の過程において、本件判決は、プログラムの創作性判断の対象について単に著作権法(以下「法」という。)2条1項10号の2のプログラムの定義を述べる従来の判決とは異なり、「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラム全体」から創作性を判断するとしたものである。また、本件判決は、プログラムの具体的な表現に関与した者ではないプログラムの表現とは直接的には関係のない作業に関与した者を創作者としたものである。さらに本件判決は、従来の判決が別個独立の基準により判断していた法15条の「発意」と「職務上作成」の各要件を一定の場合、「業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される」かどうかという同一の基準により判断することができるとしたものである。
 以上の点について、本件判決は、従来の判決とは異なる見解を述べたものといえる。
 しかし、本件判決の本件各プログラムが職務著作に当たるとして、Xの請求を認めなかった結論およびその理由については、職務著作の要件の解釈、適用の観点から疑問がある。
 そこで以下では、本件判旨各点について検討していく。

判旨第一点(プログラムの著作物性)
 本件判決は、プログラムの著作物性の判断対象を「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラム全体」としており、「指令の組合せ」のみから創作性を判断する従来の判決(注2)と異なる。そこで、本件判決の示した判断対象がプログラムの著作物性を判断するうえで妥当なものであるかを検討する。
 まず、指令の表現自体については、プログラムの文法が厳格であるため(注3)、ほとんど下記の表現の選択の余地がなく、創作性判断の対象としては適切ではない。次に指令の表現の組み合わせについては、著作権法のいうプログラムが指令の組み合わせに着目したもの(法2条1項10号の2)であるから、当然に創作性判断の対象となるべきものである。しかし、本件判決においては、この指令の表現の組み合わせ以外に「その表現順序」からも創作性を判断するとしており、この組み合わせは表現の順序を除いた純粋な組み合わせを意味することとなる。創作性判断の対象を「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序」とすることには、著作権法におけるプログラムの定義がその指令の表現やその順序を一見含まないように見えることから、それを確認するという意味があるようにも思われる。しかし、プログラムの創作性の判断は、「表現したもの」によってなされるのであるから、基本的には、その順序を含めた指令の組み合わせとしての「表現」というのと変わらない。そのため、本件判決のようにあえて「指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序」を分けて創作性を判断するのではなく、従来の判決と同様に定義どおり、その順序を含めた指令の組み合わせとしての「表現したもの」から創作性を判断すれば足りるように思われる(注4)
 また、本件判決は、「プログラムに著作物性があるといえるためには」、上記の創作性判断の対象に「選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要する」としている。このような解釈は、プログラムに特有のものではない(注5)
 従来の判決において、創作性は、何らかの個性の表れと解されているが(注6)、表現の選択の余地がないか、または、選択の余地があっても、選択の幅が極めて小さい場合には、表現に創作性がないと解されている(注7)。また、ありふれた表現についても、創作性を欠き著作物とは認められないとされている(注8)
 学説においても創作性は、何らかの個性の表れと解されているが、近時、創作性を表現の選択の幅の有無のみによって判断する学説が唱えられている(注9)。しかし、この見解は、個性から離れて表現の選択の幅の有無のみによって創作性を判断するものであるため、表現の選択の幅さえあれば、他者の表現を模倣した表現にも著作権による保護が与えられることとなり得る(注10)。そのため、創作性の判断において、表現の選択の幅は、本件判決のように個性が表れているかを判断するための前提として考慮されるべきであり、表現に選択の幅があったとしても、その表現に個性が表れていない場合には、創作性は否定されるべきである。
 ありふれた表現については、学説上、本件判決と同様に創作性を認めないという見解と「何をもって『ありふれた表現』と評価するかには、かなり微妙な問題であ」り、また、「幅広く著作物性を認めても実際の支障はな」いため、創作性を「ある程度ありふれたものであっても肯定的に捉えるべき」との見解がある(注11)。思うに、従来の判決においてありふれた表現とされたものの多くは、短い表現(注12)や用語(注13)、または事実やアイデアからその表現方法が限定されるもの(注14)であり、上記の表現の選択の幅により創作性がないとされるものがほとんどである。そのため、あえて評価の困難なありふれた表現を創作性がないとするのではなく、表現の選択の幅の問題として判断すれば足りるように思われる。
 なお、本件プログラムへの当てはめについては、少なくとも各ステップの記載が明示されている本件プログラム11につき、本件判決の述べるとおり、表現の選択の余地がないか著しく狭いものであり、個性の反映の余地はないといえるため、著作物性を否定した結論は妥当であると思われる。

判旨第二点(プログラムの創作者)
 本件は、本件各プログラムについてXが著作権および著作者人格権を有することの確認を求めた事件であるが、著作者人格権を有するというためには、著作者すなわち「著作物を創作する者」であることが必要である(法17条1項)。本件判決は、資料の提供、改修、アルゴリズムの作成、入力条件作成、数式の説明、追加する機能の数式および入力の態様の指示、プログラミングの過程でのチェック、検証、プログラム作成後の検証作業、ソフトウェアの改修、機能検証確認、計算、助言をしたXがYの技術者と共同で本件プログラム1から6を創作したものというべきであるとした。
 これに対して、従来の判決は、「その者の思想又は感情を創作的に表現したと評価される程度の活動を行っていない者は、創作した者ということができない」としている(注15)。また、プログラムの著作物の創作者の判断に際しても、その判断の対象をプログラムの具体的記述としている(注16)
 具体的な当てはめにおいても、従来の判決は、Xが行った資料の提供(注17)や改修(注18)を創作行為とはしていない。また、アルゴリズムの作成(「解法」法10条3項)、入力条件、入力の態様(仕様)、数式、プログラミングの過程でのチェック、検証は、著作物として保護される表現を創作したとはいえない。さらに、検証作業、機能検証確認、計算、具体的助言(注19)は、プログラムの作成後に行われたものであり、かつ創作的な表現をするものでもない。そのため従来の判決の基準によると、本件プログラム1から6は、Xが創作したものとはいえない。
 これに対して、学説上、共同著作物の著作者となるためには、単独の著作者となるよりも低い程度の創作的寄与で足りるとする見解がある(注20)。そして、同見解は、「個々の寄与が『素材の提供の域を出ない』場合であっても共同著作者となりうる」(注21)として、事実行為としての創作行為を行うことまでは要しないとする。
 本件判決は、プログラムの表現とは直接的には関係のない作業における関与をもって、XがYの技術者と共同で本件プログラム1から6を創作したものであるとしており、共同著作物の著作者についての上記学説の考え方を採用したものと思われる。しかし、共同著作物の著作者の場合にのみ事実行為としての創作行為を必要としないのであれば、事実行為としての創作行為を行うことが必要とされる単独の著作者の場合に比べてバランスを欠くこととなり、妥当でない(注22)
 したがって、上記学説の考え方を採用し、Xを本件プログラム1から6を創作した者であるとした本件判決の結論、理由ともに妥当でない。

判旨第三点(職務著作の成否)
 本件判決は、本件各プログラム(本件プログラム11を除く)が職務著作であるとして、Aが著作者となるとしたものである。また、本件判決は、その判断の過程において、法15条の趣旨、発意および職務上作成の要件の解釈についても言及するものであるからこれらの点につき以下、検討していく。
 まず、本件判決は、法15条の規定の趣旨につき[RGB事件最高裁判決](注23)を参照し、「著作行為をし得るのは、自然人であるとの前提に立ちつつ、著作権取引等の便宜を考慮し、・・・・・・法人等を著作者と擬制し」たものであるとする。しかし、[RGB事件最高裁判決]を含む従来の判決は、著作行為をなし得るのが自然人のみであることや法15条が法人等を著作者と擬制していることを述べてはいない。
 学説上、法人が著作行為をなし得るかについては、法15条が「著作行為をなしうるのはあくまでも自然人であるとの前提に立ちながら、一定の要件を具備した著作物についてだけ著作権取引の便宜上、法人を著作者と擬制したに過ぎないと解すべき」とされている(注24)。本件判決は、この学説の考え方を採用したものと思われる。
 次に「発意」の要件につき、本件判決は、著作物を作成するかどうかの意思が法人等の判断にかかっているものと解する従来の判決(注25)とは異なり、雇用関係があり、「法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合」法人等において「業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り」発意の要件を満たすと解している。
 学説上、この発意の要件は、法人等が「具体的判断を下していなければならない」と厳格に解する見解(注26)がある一方で、「使用者の意図に反しない場合」も含むとする見解(注27)がある。さらに、従業者の著作物の創作が予定される業務に従事する場合には、当然にその著作物の作成は法人等の意に沿うことから、職務上作成の要件に吸収されるという考え方もある(注28)。この見解に対しては、発意の要件には職務上の作成以上のものが要求されているとして、発意の要件に「正規の社員であるか、派遣社員であるか、臨時社員であるか、等の事情も考慮」するような積極的な意味を見いだす見解が存在する(注29)
 このような状況の下で、本件判決は、「雇用関係」があり、「法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行」している場合に限定されるが、発意の要件を下記の「職務上作成」の要件と同一の基準により判断することができるとしたものであるといえる。
 ただし、本件判決は、「雇用関係」があること、「法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行」していること、および「当該著作物の作成が予定又は予期される」ことを、原判決とは異なり「間接的な法人等の発意」と結びつけておらず、「雇用関係」の存在等を「法人等の発意」の要件を満たすために要求している理由を何ら説明していない。
 また、「著作物の作成が予定又は予期される」か否かを、発意を受け、それに基づき著作物を作成する業務に従事する者の側から判断するのではなく、発意する法人等の側からのみ判断する点には、「法人等の発意に基づき・・・・・・作成する」という文言の解釈としては、疑問を感じる。
 次に、本件判決は一般論として「職務上作成」の要件を「職務上」「プログラムを作成することが予定又は予期される行為」と解する一方で、当てはめにおいては、同要件を「職務の遂行上、その作成が予定又は予期されていた」か否かにより判断しており、一般論を述べる部分と整合していない。「職務上、プログラムを作成することが予定又は予期される」場合には、職務上の義務として作成が予定または予期されるもののみが含まれるのに対して、「職務の遂行上、その作成が予定又は予期されていた」場合には、職務上の義務を遂行するために必要となり、作成されるものも含むこととなる点で、その相違は、結論に影響を及ぼすこととなる。
 従来の判決は、「職務上作成」の要件について、職務遂行の過程において職務に関連して創作したのでは足りず、職務上の義務として創作したことを要すると解しており(注30)、本件原判決も「職務上作成することとは、法人等の業務に従事する者が自己の職務として作成することを意味する」として、同旨を述べる。
 また、学説においても、「その作成が被用者の職務に照らし、その義務の範囲内に無ければならない」(注31)とする見解があり、立法担当者の解説でも、職務を遂行している過程において、職務との関連で作成したものは含まないとされている(注32)。これに対して、「法人等の業務に従事する者の職務上の義務遂行として通常予期され又は予定される著作行為を含」むとする見解がある(注33)
 本件判決は、当てはめにおいて「職務の遂行上・・・・・・作成が予定又は予期されていたか」により「職務上作成」されたかどうかを判断しており、上記の立法担当者の見解とは異なり、「職務上作成」の要件を満たすためには著作物の作成が法人等の業務に従事する者の職務であることを要しないと解している。
 そのうえで、本件判決は、本件プログラム13につき、発意の要件および職務上作成の要件において要求されている予定または予期を解析実施の提案とその提案の法人等にとっての意義から判断している。しかし、認可されなかった提案に関するプログラムの作成は、その作成の前提となる職務上の義務が存在しないため、「職務の遂行上、その作成が予定又は予期され」るとはいい難い。また、「職務の遂行上、その作成が予定又は予期されていた」著作物については、事前に契約による著作権処理が可能であり、本件判決のいう著作権取引等の便宜を図る必要性はなく、そのような場合にも職務著作の規定を適用することは、本件判決が述べるように例外規定である法15条を不必要な範囲にまで拡張するものであり妥当でない。
 そのため、少なくとも本件プログラム13については、職務著作の成立を否定すべきであり、同プログラムにつき職務著作の成立を認めた本件判決の結論は妥当でない。


(うちだつよし)


《注》

東京地判平成17年12月12日判例時報1949号113頁。
例えば、東京高決平成元年6月20日[システムサイエンス事件]判例時報1322号138頁。
前掲注2[システムサイエンス事件]。
本研究会においては、本件判決の基準を支持する見解もあった。
言語の著作物につき、[YOL事件控訴審判決](知財高判平成17年10月6日LEX/DB28102000)。
東京高判昭和62年2月19日[当落予想表事件]判例時報1225号111頁。プログラムにつき、[製図プログラム事件](東京地判平成15年1月31日判例時報1820号127頁)。
東京地決平成3年2月27日[IBF事件]知財集23巻1号138頁。
東京地判平成7年12月18日[ラストメッセージin最終号事件]知財集27巻4号787頁。プログラムにつき前掲注6[製図プログラム事件]。
中山信弘『著作権法』52頁以下(有斐閣、2007年)。
ただし、「模倣者は創作者ではないから、そもそも権利が模倣者に原始的に帰属することはありえない」としている(前掲注9・中山58頁)。
作花文雄『詳解著作権法(第3版)』(ぎょうせい、2004年)89頁。
前掲注8[ラストメッセージin最終号事件]、前掲注5[YOL事件控訴審判決]。
大阪地判平成17年7月12日[初動負荷事件]LEX/DB28101482。
東京高判平成13年1月23日[けろけろけろっぴ事件]判例時報1751号122頁、前掲注5[YOL事件控訴審判決]、東京地判平成17年11月17日[チャート事件]判例時報1949号95頁。
本件原判決、東京地判平成16年2月18日[家庭内暴力書籍事件]判例時報1863号102頁。ただし、例外的事例と評される[脳波数理解析論文事件](京都地判平成2月11月28日無体集22巻3号797頁)においては、原稿等を執筆していない共同研究者が共同著作物の著作者とされた。
本件原判決、大阪地判平成14年3月28日[スーパー土木作図システム事件]LEX/DB28072661、大阪高判平成16年4月23日[あいこっち事件]LEX/DB28091322。
前掲注16[スーパー土木作図システム事件]。
前掲注15[家庭内暴力書籍事件]。
前掲注16[あいこっち事件]は「著作権の帰属を基礎づけるような関与」となり得ることを示唆する。
柳沢眞実子「判批」別冊ジュリ157号99頁(2001年)。
前掲注20・柳沢99頁。
上野達弘「著作者の認定」『新判例実務体系22著作権関係訴訟』226頁(青林書院、2004年)。
最判平成15年4月11日判例時報1822号133頁。
半田正夫『著作権法概説〔第13版〕』64頁(法学書院、2007年)。
東京地判平成8年9月27日[四進レクチャー事件]判例時報1645号134頁。同旨、東京地判平成18年2月27日[計装士技術講習資料事件]判例時報1941号136頁。
斉藤博『著作権法[第三版]』(有斐閣、2007年)125頁。
前掲注24・半田65頁。
紋谷暢男「職務著作」コピライト43巻10号5頁(2003年)、田村善之『著作権法概説〔第2版〕』380頁(有斐閣、2001年)、辰巳直彦「法人著作」民商法雑誌107巻4・5号561頁(1993年)。
前掲注9・中山176頁。
津地判平成6年1月31日[津医療生活協同組合事件]LEX/DB28042082。
前掲注26・斉藤128頁。
加戸守行『著作権法逐条講義五訂新版』(著作権情報センター、2006年)144頁。
前掲注28・辰巳563頁。