発明 Vol.105 2008-3
判例評釈
著作権に基づく差止請求権不存在確認請求訴訟における
確認の利益、および、
著作権表示の著作権法・不正競争防止法上の意義等について
大阪地方裁判所平成19年1月30日判決(最高裁ホームページ・判例時報1984号86ページ)評釈
小島 喜一郎
事案の概要
 被告Y(コピーライツ・ジャパン)は、ベアトリクス・ポター(1943年没)創作の「THE TALE OF PETER RABBIT」(本件絵本)およびその二次的著作物の著作権を有する訴外FW社(Frederick Warne and Company Limited)より、日本における当該権利の管理業務(商品化許諾業務)の主体として、自身をライセンサーとし、日本国内企業をライセンシーとする商品化許諾契約(ライセンス契約)を締結する権限を得ている。
 Yは、当該管理業務として、著作権侵害等に対し法的措置を講じることをウェブページや新聞広告等で明示するとともに、商品化許諾を行う条件として、ライセンシーに対し、その者の商品または役務に「(C)Frederick Warne & Co.,20XX」(本件(C)表示)、「Licensed by Copyrights Group」、および、本件(C)表示等の全部または一部(被告表示3ないし5)の表示義務を課しており、ライセンシーはこれらの表示が付された商品(被告ライセンス商品)を販売している。
 Xは、本件絵本の著作権保護期間の満了を受け、その絵柄の一部(本件絵柄)を使用したバスタオル等(原告製品)の製造販売を計画したところ、本件絵柄の著作権に関する問い合わせ・クレームへの対応の困難等を理由に、取引先店頭での販売を拒絶された。Xは、こうした取引先の対応が、Yの管理業務により本件絵柄を含む本件絵本の著作権が存続しているとの誤解を生じさせることに起因すると主張し、Yを相手方として、《1》日本における本件絵柄の著作権の存続期間満了を理由とする、YがXに対して著作権に基づく差止請求権を有しないことの確認、および、《2》本件(C)表示等の被告各表示(被告表示1ないし5)の使用が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当するとして、同表示の使用等の差止め、《3》不正競争防止法4条に基づく、もしくは、《4》民法709条に基づく損害賠償を求めて本件訴えを提起した。
 これに対しYは、請求《1》につき、本案前の抗弁として、当事者間に本件絵柄の著作権をめぐる具体的紛争が生じておらず、当該権利の有無につき争いがないこと、原告による本件絵柄の利用は商標法および不正競争防止法により差し止められるべきものであること、被告による差止請求が業務内容に照らしあり得ないことを理由に、本件訴えに確認の利益がない旨を主張した。また、請求《2》および《3》、《4》について、(C)が自社名の一部であること、本件絵本を原著作物とする二次的著作物について方式主義を採用する国々における著作権法上の保護を受けるうえで、万国著作権条約2条に基づき、(C)表示を用いる必要性があること等を理由に請求棄却を求めた。

判旨 一部認容、一部棄却
1.差止請求権不存在確認について
 「一般に、確認の訴えにおける確認の利益は、原告の権利又は法律的地位に現存する不安・危険を除去するために、判決によってこの権利関係の存否を確認することが必要かつ適切である場合に認められるところ、消極的確認訴訟の場合においては、被告が権利の存在を何らかの形で主張していれば、特段の事情のない限り、原告としてはその権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存することになるものというべきであり、これを除去するために判決をもってその不存在の確認を求める利益を有する・・・・・・。」
 「被告が表示させている本件(C)表示は、著作権の存続期間が満了している本件絵柄とそうでない二次的著作物を何ら区別することなく、包括的に著作権を表示するものとなっており・・・・・・、実際上の機能として、本件絵柄について著作権の存続期間が満了しているにもかかわらず、いまだ著作権が存続しているとの印象を与えるおそれのあるものであり、かつ、実態として〔本件絵柄の無許諾利用が著作権侵害であると想起させる〕警告的作用を有している。また、被告は・・・・・・本件絵柄を含むベアトリクス・ポターの創作した絵柄(原画)と二次的著作物とを特に区別することなく、その著作権がいまだ存続していることを前提に、その侵害に対しては断固とした法的措置を執ることを言明している。・・・・・・その結果、本件絵柄を使用した原告製品を取り扱うことを予定している百貨店等の取引者が・・・・・・被告からの著作権に基づく権利行使を受けることをおもんぱかり、これを一因として原告製品の取扱いを躊躇しているものである。そうすると、原告には、被告から著作権に基づく権利行使を受けることなく原告製品を販売し得るという法律的地位に不安・危険が生じているということができ、このような不安・危険を除去するためには、原告が、本件絵柄について被告が原告に対する著作権に基づく差止請求権を有しないことを確認する旨の判決を得るのが有効適切である」
 「被告は、本件訴訟上、本件絵柄について著作権が消滅したことを認めていて、その権利の有無につき原告及び被告の間に争いはないから確認の利益を欠く旨主張するが、被告は、原告の同著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求に対し、同請求を認諾しているわけではなく、かえって、本案の答弁において、原告の上記請求を棄却する旨の判決を求めているから、被告が同著作権が消滅していることを認めているからといって、著作権に基づく差止請求権の有無に関して原告と被告との間で争いがないとはいえず、上記確認請求の訴えが確認の利益を欠くものということはできない・・・・・・。」
 「原告の法律的地位に不安・危険が生じている以上、原告と被告との間で、被告の原告に対する同著作権に基づく差止請求権の不存在を判決をもって確認する利益は肯定されるのであって、これとは別に、被告が原告に対し原告製品の販売が商標権侵害ないし不正競争行為に当たるとしてその差止めを求める権利を有すると解されるとしても、このことによって、本件確認請求に係る訴えが確認の利益を欠く不適法なものと解することはできない。」
 「本件絵柄を含む本件絵本の言語的部分及び絵画的部分に係るFW社の著作権は、日本においてその保護期間がいずれも平成16年(2004年)5月21日をもって終了し、現在では消滅していることは、当事者間に争いがないから、被告は、原告に対し、本件絵柄の著作権に基づく差止請求権を有しない・・・・・・。」

2.被告各表示の使用と不正競争防止法2条1項13号
(1)不正競争防止法2条1項13号の趣旨
 「自己の商品又は役務(以下「商品等」ということがある。)に関し、他の商品等と差別化を図り、自己の商品等の優秀性をアピールする適正な情報をその商品や商品の広告等に表示して需要者に示すことは、これにより商品等を的確に選択させる有益な情報を需要者に提供し、その商品等の正当な需要を喚起し、ひいては事業者間の競争をより健全かつ活気あるものにする。他方、商品等若しくはその広告等に表示する原産地、品質、内容等を偽り、需要者の誤認を招くような表示をすることは、適正な表示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち、需要者の需要を不当に喚起する一方、適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになる。そして、このような行為を放置すれば公正な競争秩序を阻害することにもつながる。不正競争防止法が・・・・・・〔同法2条1項13号の〕行為を不正競争行為としたのは、このような趣旨に出たものと解される。」
(2)被告表示1について
 「『(C)』は、それ自体として著作権表示とか、(C)表示などと称されることがないとはいえないものの・・・・・・、著作権者の名、最初の発行の年と相まって著作権表示を構成するものであって、『(C)』一文字だけで著作権表示といえるものではない。さらに『(C)』はその一文字だけでは、『A』や『B』などと同様に、単なる符号、記号として表示される例も少なくないと認められるから、『(C)』の一文字だけでは、当然に万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示を表し、ないし象徴するものとはいえず、それが単独で商品等に表示されたとしても、原告の主張するような『本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続している』ように誤認させるような表示とはいえない」
(3)被告表示2について
 「『(C)』の一文字だけで万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示を表すものとはいえない・・・・・・。また、コピーライツ社や被告を含むコピーライツグループの名称が、著作財産権の代表的内容である『複製権』を表す『copyright』の頭文字の『C』を大文字とした上、これを○で囲む『(C)』の記号と紛らわしい表示を含んでいるものの、この表示自体が万国著作権条約上の保護要件を満たす著作権表示といえない・・・・・・、需要者の通常の判断能力を前提として同表示を含む実際の使用態様である被告表示3ないし5全体の表示を観察すれば、被告表示2は、やはり『コピーライツグループ』のロゴとして使用されているものと認識されるというべきであって、これをもってFW社ないし被告もその構成員となっている『コピーライツグループ・・・・・・』が本件絵柄の著作権を有していることを表示しているものとは外観上も解することができない。したがって、被告表示2は・・・・・・『本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのに、いまだに著作権が存続している』ように誤認させるような表示とはいえない・・・・・・。」
(4)被告表示3ないし5が被告ライセンス商品の品質を誤認させるか
 「商品の品質とは、その商品の有する性質や性能をいい・・・・・・、タオルに絵柄が描かれている場合、その絵柄が著作権による保護の対象となる著作物であるということが、13号の不正競争行為にいう・・・・・・商品の品質ということはできない・・・・・・。」
(5)被告表示3ないし5が被告ライセンス商品の内容を誤認させるか
 「タオル等の商品に使用された絵柄が消費者等の需要者の需要を喚起するもの、すなわち、消費者等の需要者が・・・・・・タオルに使用された絵柄に着目して当該商品を選択する場合、その選択の基準となるのは、その絵柄そのものの美しさや芸術性の高さ等によるのであって、消費者等の需要者は、その絵柄が著作権の保護を受ける著作物であるか否かによってこれを購入するか否かを決定しているものではない・・・・・・。」
 「したがって、被告表示3ないし5は、それが本件絵柄の著作物について日本においては著作権保護期間が満了しているのにいまだに著作権が存続していると誤認させるものであるとしても、13号の不正競争行為である『商品の内容』に関する誤認表示には該当しない・・・・・・。」
(6)被告表示3ないし5の必要性
 「被告ライセンス商品中、本件絵柄に上記のような新たな絵柄が付加され、又は改変が加えられているなどの新たに付与された創作的部分が存在するときは、その創作的部分については原画の著作権とは別に著作権が成立し・・・・・・、その著作権はFW社に帰属するところ、被告表示3ないし5はその創作的部分に付されているとみることもできなくはない。そうすると、被告表示3ないし5を使用することは、直ちに本件絵柄の著作物についていまだに著作権が存続していることを誤認させることにはならない・・・・・・原著作物に対していかなる範囲が創作的部分として原著作物に対する著作権とは別の著作権が成立するのかは一義的に明確であるとはいえず、新たな創作的部分については著作権表示をしてその無断使用を禁ずる警告的機能を果たさせる必要性があることも否定できないし、新たに付与された創作的部分を他の部分と区別して著作権表示をすることを求めることは実際的でない・・・・・・日本において著作権表示が果たす役割は・・・・・・警告的機能を超えるものではなく、それが日本の著作権法によって保護されるべき著作物であることを保証するものではないことにかんがみると、上記のような二次的著作物である被告ライセンス商品について、被告表示3ないし5を表示することが商品の品質・内容の誤認惹起表示として禁止されると解することはできない。」
 「さらに・・・・・・ある著作物が著作権の保護に関して方式主義を採用している締約国で著作権の保護を受けるためには、既に著作権の保護期間が満了している国を含め、著作権者の許諾を得て発行されたすべての複製物について著作権表示をすることが要求されているのであり、・・・・・・既に著作権の保護期間が終了している国において著作権表示をすることができないとすると、当該著作物については方式主義を採用している締約国においては保護され得ないという不合理な結果を招来する・・・・・・。」
 「万国著作権条約が一般的に、方式主義を採用している締約国で著作権の保護を受けるためには、すべての複製物について著作権表示を要すると規定している以上、既に著作権の保護期間が満了している国において著作権表示をすることを13号の不正競争行為に該当するものとして禁圧することは、同条約の趣旨に合致しないといわざるを得ない。」
(7)被告表示3ないし5が被告役務の品質・内容を誤認させるか
 「原告の主張する『営業上の利益を侵害されるおそれ』とは、原告は、著作権保護期間の満了した本件絵柄を使用した原告製品の販売を計画し準備しているところ、他者が本件絵柄について著作権に基づく著作権管理業務を行っているという表示を付した商品が現実に市場で競合しており、そのような虚偽の表示により、原告製品の販売を行うのに支障を来すおそれがあるというにあるものと解される。しかし、役務に関する誤認惹起表示等を不正競争行為とした趣旨は、前記のとおり、役務若しくはその広告等に表示する質・内容等を偽り、需要者の誤認を招くような表示をすることは、適正な表示を行う他の事業者より競争上不当に優位に立ち、需要者の需要を不当に喚起する一方、適正な表示を行う誠実な事業者は競争上不当に劣位に立たされて顧客を奪われるなど営業上の利益を害されることになるからである。したがって、13号の不正競争行為により侵害される営業上の利益もかかる観点からその存否が検討されるべきところ、原告は、被告と競争関係に立つ商品化許諾業務を営む事業者ではなく、したがって、商品化許諾業務という役務の質・内容を誤認させる表示により、本件における需要者すなわち被告商品化許諾業務における日本のライセンシーを奪われるという関係に立たないことが明らかである。」
 「原告は、被告に対し、被告表示3ないし5を自ら使用することや、ライセンシーをして使用させること及び同表示を使用し、又は使用させた商品の販売等や役務の提供等の差止めを求める権利を有さず(不正競争防止法3条1項)、また、同法4条に基づく損害賠償請求権を有しない・・・・・・。」

3.民法709条に基づく損害賠償について
 「不正競争防止法が、一定の表示媒体、表示事項及び行為態様を特定し、13号の不正競争行為に該当する行為を限定している趣旨にかんがみると、13号の不正競争行為に該当しない行為を民法上の不法行為として損害賠償責任を負わせることは、極めて例外的な場合であると解され、被侵害利益の重大性、行為態様の悪質性に照らして違法性が極めて高いものに限られるものというべきである。」
 「本件についてみると、・・・・・・被告表示1、2はそもそも著作権表示に該当しないものであり、取引者をして前記のような誤認を生じさせるものではないから、これを表示することが不法行為を構成するものでない・・・・・・。他方、被告表示3ないし5は、一応著作権表示又はこれと紛らわしい表示を含むものであり、取引者をして原告製品に使用された本件絵柄がいまだ著作権による保護を受けるものであり、これを取り扱えば、被告ないしFW社から著作権に基づく権利行使を受けるのではないかとの危惧を生じさせ得るものといえる。しかし・・・・・・日本は著作権の保護に関していわゆる方式主義を採用しておらず、このような著作権表示の有無と著作権に基づく権利行使の可否とは無関係であり、被告表示3ないし5が本件絵柄に著作権が存続していることを法律上保証するような表示ではないこと、被告としては万国著作権条約上、いわゆる方式主義を採用している国においてFW社による著作権に基づく権利行使の機会を確保するために、被告の発行するすべての著作物について著作権表示をしていることが要求されるのであり、被告表示3ないし5を被告ライセンス商品に表示することについて正当な利益を有するものといえること、また・・・・・・FW社は、本件絵柄について、原告製品であるタオル類を含む『布製身の回り品』を指定商品に含む登録商標の商標権を有していることが認められ、同事実によれば、被告表示3ないし5のみが原告製品を販売することに対する障害になっているものとはいえないこと、FW社は、もともと本件絵柄について著作権を有していたものであり、被告は、被告商品化許諾業務を遂行するために、著作権の保護期間終了後も被告表示3ないし5を表示し続けたのにすぎないものであること、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、被告が被告表示3ないし5を使用することが、原告に対する不法行為責任を生じさせるほどの違法性を有するものではない」

評釈
1.本判決の概要
 本判決は、著作権に基づく差止請求権の不存在の確認を求める訴えの利益の有無、いわゆる著作権表示((C)表示)の著作権法・不正競争防止法上の意義、および、不正競争防止法上の不正競争に該当しない行為の不法行為性について判断を示したものである。

2.確認の訴えの利益の有無に関する判断について
 確認の訴えの利益の有無に関する判断について、本判決は冒頭で一般論を展開するところ、これは過去に最高裁が述べてきたものと同趣旨と解される(注1)。ここから、本判決はこうした判例理論を踏襲することが窺われる。
 本判決の特徴は、この具体化を図ろうとするところにあり、「被告が権利の存在を何らかの形で主張していれば、特段の事情のない限り、原告としてはその権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存する」と述べている。
 上記「権利の主張」に関する具体的判断として、本判決は、被告が本件(C)表示を本件絵本に付していることを挙げている。もとより、わが国は著作権の発生につき無方式主義を採用し、本件(C)表示はわが国において何らかの法的効果を生じるものではないものの、同表示は方式主義を採る国における保護を目的とするものであるから、当該表示が付された著作物を無許諾で利用する者に対して著作権を行使する可能性があることを警告する機能があることをその根拠とする。
 この判示を文字通りに受け止めると、本判決は、産業財産権のように公示される権利につき、当該権利をめぐる具体的紛争の当事者となる蓋然性があると言い難い者についても、消極的確認訴訟の確認の利益が原則として認められるとの立場にあるように見受けられる。
 しかし、訴えの利益は、請求について本案判決を原告が求める必要性および本案判決することの実効性からなる訴訟追行利益であり、その有無に関する判断においては、原告の利益のみならず、被告ならびに裁判所の利益をも考慮されるべきことを鑑みると(注2)、被告が権利の存在を何らかの形で主張していれば、特段の事情のない限り、原告としては当該権利行使を受けないという法律的地位に不安・危険が現存するとして、確認の利益を認めることには疑問を覚えるところである。
 もっとも、本判決は、具体的結論を導く場面において、前述のような本件(C)表示を本件絵本に付すという被告による権利主張の存在のみならず、これを一因として、本件絵柄を利用した原告製品の販売が妨げられていることも斟酌していることが窺われる(注3)
 そうすると本判決は、一方の訴訟当事者による権利主張の存在が、直ちに、他方によるに訴えの利益を認める根拠となり得ると理解しているとみるべきではなく、一方当事者の権利主張が、他方当事者の企業活動等の具体的な妨げとなっている、もしくは、少なくとも具体的妨げとなる蓋然性が高いことを要求しているものと考える。
 なお、本件訴えの利益について、被告は次の三つの点を理由として、それが存在しないとの主張を行っている。
 第一は、本件絵柄の著作権をめぐる具体的紛争が生じておらず、当該権利の有無につき当事者間に争いがないこと、第二は、原告による本件絵柄の利用は商標法および不正競争防止法に基づいて差し止められるべきものであること、第三は、被告による差止請求がその業務内容に照らしあり得ないことである。
 第一点についてみると、確かに、本件絵本の著作権の保護期間が満了していることに争いはないものの、本判決において、被告は本件訴訟の訴訟物である著作権に基づく差止請求権の不存在確認請求について請求棄却判決を求めたことが明らかにされている。このことは、本件絵本の著作権に基づく差止請求権の存否を争う姿勢を示したことを意味するから、本件訴訟において本件絵柄の著作権をめぐる具体的紛争が顕在化したとみることができ、被告主張は、その前提を欠くと解するのが素直である(注4)
 また、第二点について見ると、本件訴訟では著作権に基づく差止請求権の存否が争われているから、本判決が述べるように、原告による本件絵柄の利用が商標法もしくは不正競争防止法に基づく差止めの対象となり得ることは、本件訴えの利益の有無に影響を与える事柄ではないといえる。
 さらに、第三点については、そもそも、被告が表明している商品化許諾業務の内容と矛盾するものである。
 したがって、これらの被告主張を排斥した本判決は妥当性を有すると考える。

3.不正競争防止法2条1項13号該当性について
(1)不正競争防止法2条1項13号の趣旨について
 不正競争防止法2条1項13号の前身にあたる、旧不正競争防止法(昭和9年法律第14号)1条1項5号の趣旨について、産業構造審議会・知的財産政策部会報告書では、「商品、役務を供給するに当たり、他社の商品等との差別化を図り、需要者の購買意欲を高めるため、品質、内容、数量等の面におけるものと同様に、表示の面においても激しい競争が行われている。かかる競争を通じて、他の事業者より業績を上げようとすることは、健全な企業努力であり、自由かつ公正な競争に属するものであるが、それが行き過ぎた場合には、商品等の品質・内容などを偽り、又は誤認を与えるような表示を行って、需要者の需要を不当に喚起することもある。虚偽又は誤認を生じる表示を行う事業者は、適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つこととなり、他方、適正な表示を行う事業者は顧客を奪われ、このような行為を放置すれば、公正な競争秩序を阻害することとなる」と述べられていることが指摘されている(注5)。そして、この趣旨は現在も不正競争防止法2条1項13号において維持されていることが窺えるところ(注6)、同規定の趣旨に関する本判決の説示に照らすと、本判決もこれと同様の立場を採るものと考える。
(2)被告表示1について
 被告表示1は、それ単体ではアルファベットの「C」を丸で囲んだ文字と評価されるのみであり、そもそも商品・役務の内容等を表すものとは言い難く、著作権表示の要件とされる「(C)」を意味すると解することも困難と思われる。
(3)被告表示2について
 本判決は、被告表示2が「(C)表示」と紛らわしいものと認めつつも、被告が帰属する法人の集団である「コピーライツグループ」のロゴとして使用されているものと需要者に認識され、著作権の保護期間を満了した絵柄について著作権が存続する旨を表示したものとは言えないと判示したうえで、被告表示2の使用が不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為に該当しないとの判断を示している。一般に、商品・役務の内容等を意味する語句が商号等に含まれている場合、これと異なる商品・役務に当該商号を使用することが、商品・役務の内容等に誤認を生じさせる不正競争行為に該当すると解すべきかが問題となる。この点につき、最高裁は、そうした商号の使用が直ちに不正競争行為に該当すると判断しないものの、商品・役務の内容等に誤認を生じさせるおそれがある場合には、不正競争行為と認定しようとする方向にあることが窺える(注7)。本判決の説示は、これと同様に立場にあることを窺わせる。
 もとより、商品・役務の内容等を意味する語句が含まれている商号等の使用に対する賛否は別論として、こうした姿勢は、自己の名称を使用する利益と、商品・役務の内容等を誤認させる表示の規制の必要性との調和を図ったものとして、肯定的にとらえるべきと考える。
(4)被告表示3ないし5について
 本判決は、被告表示3ないし5の使用を、被告ライセンス製品という商品での使用と、被告商品化許諾業務という役務での使用とに分けて判断を行っている。
 前者についてみると、第一に、商品に描かれている絵柄の著作権の保護期間が満了しているか否かが当該商品の需要を左右するものではないことを理由に、被告表示3ないし5の使用が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当しないとの判断を示しているものと解される。
 ところで、本判決は、この判断基準として「消費者等の需要者」を前提としている。しかし、本件訴えは、原告製品が百貨店等の取引者に店頭での販売を拒絶されたことに起因するものであり、このことは、本判決も訴えの利益の有無に関する判断において前提とされている。そうすると、不正競争防止法2条1項13号の該当性に関する判断においても、その対象が原告製品ではなく、被告商品であるという違いは存するものの、百貨店等を需要者として判断を行うべきではなかったかと思われる。
 また、著作権表示は特定の著作権者からライセンス許諾を受けているとの外形を生じさせることから、著作権表示が有する警告的機能の反射的効果として、当該商品に関する権利関係について、需要者に安心感を与える傾向にあるように見受けられる。こうした傾向に鑑みると、被告表示3ないし5が需要者に影響を与えないとしている本判決には疑問を覚える。
 しかし、被告表示3ないし5は、それが付されていない他の商品が著作権を侵害している商品であるとの誤認を生じさせるおそれがあるものの、それが付された被告ライセンス製品について誤認を生じさせるものではない。また、著作権表示の法的性質に照らすと、それが付された商品の法的な安全性を何ら保障するものではないことも考慮に入れると、被告表示3ないし5の使用が不正競争防止法2条1項13号の不正競争に該当しないとの結論は、同規定の解釈としてやむを得ないものと考える。
 本判決は、被告表示3ないし5の使用が不正競争防止法2条1項13号に該当しないと判断する理由の第二として、被告ライセンス商品記載の絵柄の中には、本件絵本を原著作物とする二次的著作物もあるとともに、本件絵本についても、その著作権の保護期間が満了していない国もあり、被告表示3ないし5が、本件絵本の著作権の存否に関する虚偽の表示であるとは必ずしもいえず、むしろ、当該表示の必要性が認められることを挙げる。
 もとより、国内市場における被告ライセンス商品の流通のみを前提とするならば、少なくとも本件絵本に関する限り、被告表示3ないし5は、著作権の保護期間が満了しているにもかかわらず、それが満了していないとの外観を与えるにすぎないものといえる。しかし、本判決が述べるように、被告ライセンス商品が国外へ輸出される可能性は否定され得ないことに鑑みると、著作権の保護期間がいまだ満了していない国もある以上は、被告表示3ないし5を虚偽と判断することは困難である。むしろ、そうした国において著作権に基づく本件絵本の保護を十全なものにする必要性から、被告による被告表示3ないし5の使用が許容されるべきとの判断が導かれると考える。
 次に、後者の被告商品化許諾業務という役務での使用に関する判断についてみると、被告表示3ないし5が、被告役務の内容・品質について誤認を生じさせるとしている。被告表示3ないし5は、本件絵本の著作権がいまだ存続し、本件絵柄等を利用するためには被告のライセンス許諾を獲得する必要があるとの誤認を抱かせるものであり、本判決は首肯できる。
 もっとも本判決は、原告が被告と競争関係に立つ商品化許諾業務を営む事業者ではなく、不正競争防止法が述べる「営業上の利益」を侵害されるおそれがある者とはいえないとして、Yが被告表示3ないし5をその役務に使用することに対する差止請求を棄却している。
 しかし、本件訴訟は、Yによる被告表示3ないし5の使用により、本件絵柄の利用に際してYの許諾が必要であるかのような外観を創出した結果、Yからライセンスを得ていない者は著作権を侵害する者との評価がなされ、X商品の販売が困難となっていることに起因するものである。Yによる被告表示3ないし5の使用の問題点は、本件絵柄の利用に際してYの許諾が必要との誤認を生じさせているところにあるから、本判決が商品化許諾業務に関する競争関係を求めている点には疑問を覚える。本件では、本件絵柄を利用した企業活動に関する競争関係に着目すべきであり、少なくとも、本件絵柄をはじめとする本件絵本を構成する著作物につき、被告表示3ないし5の使用の差止めを許容する余地はあると考える。
 もとより、被告ライセンス商品における被告表示3ないし5の使用に関する判断で述べられているように、被告ライセンス商品記載の絵柄の中には本件絵本を原著作物とする二次的著作物もあるとともに、本件絵本についても、その著作権の保護期間が満了していない国もあり、被告表示3ないし5が、本件絵本の著作権の存否に関する虚偽の表示であるとは必ずしもいえず、むしろ、当該表示の必要性が認められる。したがって、この点を考慮に入れると、現段階において、Yによる被告表示3ないし5の使用のすべてが不正競争に該当すると判断することは困難といえる。役務の判断においても、本判決は、この点を根拠とすべきであったと考える。

4.民法709条の不法行為の成否について
 本判決は、不正競争防止法が同法2条1項13号に該当しない行為を民法上の不法行為とすることは極めて例外的場合に限られるとする立場を採ることを明らかにしている。不正競争防止法が不正競争の類型を限定列挙している趣旨は、同法が企業活動を規制するものであり、評価規範としてのみならず、行為規範としての役割が重要となることから、「不正競争」の内容の明確化を図り、もって企業活動を阻害することを予防するところにあると認められる(注8)。また、本件についてみると、本判決が述べるように、不正競争に該当する可能性も否定できなくはない被告表示3ないし5の使用についても、その必要性が認められないわけではないことから、結論として、民法709条の不法行為の成立を否定した本判決は支持され得ると考える。



(こじま きいちろう)


《注》

最判一小昭和47年11月9日民集26巻9号1513頁は、本文記載の一般論を展開したうえで、学校法人の理事会または評議員会の決議の無効の確認を求める訴えは許容されるべきとの判断を示した。

訴えの利益の趣旨、および、それをめぐる訴訟当事者等の利益の関係については、梅本吉彦『民事訴訟法〔第3版〕』355頁以下参照。

本件訴訟のほか、本件絵本に関連する商標法・不正競争防止法上の法的紛争がXとFW社との間で生じており、そうした点も考慮されている可能性を指摘することができる。

本件被告が本件絵本の著作権に基づく差止請求権の不存在を争う姿勢を示すことは、単に、訴訟上の形式的な行為であり、これを重要視することを疑問とする見方もできなくはないものの、こうした姿勢が示されること自体に本件絵柄の著作権をめぐる紛争が潜在することを窺うことができ、この点に、本件訴えの利益を認める根拠が求められると考える。また、被告の上記姿勢は、不正競争防止法や商標法に基づく差止請求権が存在することを視野に入れたものと解することもできなくはないものの、後述のように、これらは、本件で問題とされている著作権に基づく差止請求権とは法的根拠を異にする問題であるから、このような理解は採り得ないと考える。

小野昌延『不正競争防止法概説』223頁(有斐閣・平成6年)参照。

経済産業省知的財産制作室編著『逐条解説不正競争防止法・平成18年改正版』87頁以下(有斐閣・平成19年)参照。

東京地判昭和36年6月30日判時269号30頁は、ライナービヤー株式会社が、ビールに該当しない発泡酒に、「ライナービヤー株式会社」と表示することは、ビールとの誤認混同を生じさせるものではないとする一方、「ライナービヤー」の表示については、同表示が商品名として用いられているとの認定のもとに、「ビヤー」の部分が誤認混同を生じさせるとして、「ビヤー」の表示について、不正競争防止法に基づく差止めを許容する判断を示しており、この判断は、控訴審(東京高判昭和38年5月29日判時342号16頁)および上告審(最判二小昭和40年6月4日判時414号29頁)において支持されている。

山本庸幸『要説不正競争防止法〔第3版〕』35頁以下(発明協会・平成14年=初版・平成5年)参照。