発明 Vol.104 2007-1
判例評釈
昭和28年に公表された映画の保護期間は
平成15年12月31日の終了をもって
満了したとされた事例
〔東京地裁平成18.7.11決定 平成18年(ヨ)22044号、判例時報1933号68頁〕
東洋大学法科大学院教授 盛岡 一夫
事案の概要
 債権者Xは、映画の製作および配給等を主たる事業とする米国法人であり、昭和28年、「ローマの休日」、「第一七捕虜収容所」と題する映画(以下、「本件映画」という。)を製作して、それぞれ同年中に米国内において最初に公表し、著作権登録を了した。
 債務者Yは、著作権の保護期間が満了した映画のDVD商品の製造販売を主とする株式会社であり、平成17年10月ごろから、本件映画を複製したDVD商品(以下、「本件DVD」という。)を日本国内で製造頒布している。本件DVDは、Yの卸した書店、レコード店等において、格安の価格にて販売されている。
 Xは、次のように主張して、わが国における本件DVDの製造頒布行為の差止請求等を求めた。
 本件映画の著作権は、平成15年12月31日午後12時の経過によって、50年の存続期間が満了すべきところ、改正法の施行は、平成16年1月1日午前零時である。
 平成15年12月31日午後12時と平成16年1月1日午前零時とは同時と考えられることから、本件映画については、改正法附則2条に関し、改正法の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存していたものであり、これにより、保護期間が平成35年12月31日まで延長されたと主張した。
 これに対し、Yは本件映画の著作権は、平成15年12月31日をもって50年の存続期間が満了しており、改正法の施行はあくまでもその翌日の平成16年1月1日であると主張した。
判 旨
(1)改正法附則2条の適用関係について
 「本件映画の保護期間の終期の計算については、本件映画が公表された日の属する年の翌年である昭和29年から起算する(著作権法57条)。そして、改正前の著作権法54条1項によれば、映画の著作物の著作権は、公表後50年を経過するまでの間、存続するから、年による暦法的計算をして(民法143条1項)、50年目にあたる平成15年が経過するまでの間、存続することになる。期間は、その末日の終了をもって満了する(同法141条)から、改正前の著作権法の下では、本件映画の著作権は、平成15年の末日である同年12月31日の終了をもって、存続期間の満了により消滅する。
 本件改正法は、平成16年1月1日から施行され(附則1条)、本件改正法附則2条は、『この法律の施行の際』と規定しているところ、『施行の際』とは、附則1条の施行期日を受けた平成16年1月1日を指すものである。そして、附則2条の規定は、この法律の施行期日である平成16年1月1日において、現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物か、又は、現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物かによって適用を分ける趣旨のものと解される。
 本件映画の著作権は、改正前の著作権法によれば、上記のとおり、平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了するから、本件改正法が施行された平成16年1月1日においては、改正前の著作権法による著作権は既に消滅している。よって、本件改正法附則2条により、本件改正法の適用はなく、なお従前の例によることになり、本件映画の著作権は、既に存続期間の満了により消滅したものといわざるを得ない。」

(2)本件映画の本来の保護期間が平成15年12月31日午後12時までであって、平成16年1月1日午前零時と同時であるから、本件改正法の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存していた旨の主張について
 「本件映画の保護期間の満了を『時間』をもって表現すれば、平成15年12月31日午後12時となる。しかしながら、著作権法54条1項及び57条の規定は、『年によって期間を定めた』(民法140条)ものであって、『時間によって期間を定めた』(民法139条)ものではない。年によって期間を定めた場合は、『期間は、その末日の終了をもって満了する。』(同法141条)とされるから、あくまでも、保護期間の満了を把握する基本的な単位は『日』となるというべきである。
 そして、本件改正法附則2条の規定は、この法律の施行期日である平成16年1月1日において、映画の著作物の著作権の存否を問題とするものである。本件改正法が同日午前零時から施行されて効力を有するとしても、著作権の存否を『年によって期間を定め』、『末日』の終了をもって満了することを前提とする限り、本件映画について、平成16年1月1日まで著作権が存続していたということはできない。
 そもそも、本件改正法の附則中に、映画の著作物の著作権の存否を問題とするにあたって、一瞬を指す意味の『時間』の単位でとらえるべきであるとする文理上のてがかりはない。また、本件改正法が平成16年1月1日午前零時の瞬間から施行されるとしても、『施行の際』との文言によって、その施行の一瞬を切り取るべきものでもない。
 なお、時間の概念として、前日の午後12時と翌日の午前零時の指す時刻は同時であって、同一時刻をそれぞれ両日のうちの一方の日からみた表現であるとしても、その時刻を平成15年12月31日午後12時ととらえれば、本件映画の著作権は存しているということができても、この時刻を平成16年1月1日午前零時ととらえる以上、本件映画の著作権は消滅したものといわざるを得ない。
 このことは、法制一般について、『この法律は、平成11年3月31日限り、その効力を失う。』と規定されている場合に、平成11年3月31日午後12時まで効力を有し、同年4月1日午前零時に効力を失うと解釈されていることからも明らかである。
 以上のとおり、本件改正法附則2条の適用関係に関するXの解釈及び文化庁の見解は、文理解釈上、採用することができない。」

(3)現行の著作権法の立法過程において、政府委員がXの解釈を前提とした答弁をしているなど、このような解釈を前提とする著作権実務が運用されてきている旨の主張について
 「昭和45年12月31日に保護期間が満了する著作物につき、昭和46年1月1日に施行された現行の著作権法に適用されるか否かに関する説明や質疑はされていない。」
 「本件改正法の国会における審議の会議録には、本件改正法附則2条の適用関係に関する記載や、保護期間を延長した場合に対象となる映画やその公表時期に関する記載はなく、本件改正法の適用関係について、国会における立法段階での具体的な審議はされていないものと推認される。よって、本件改正法附則2条については、平成15年12月31日に保護期間が満了する著作物を保護するためのものであったという立法者意思を認めることはできない。」

(4)文化庁「著作権入門(平成16年版)」等には、昭和28年に公表された映画の著作物にも、保護期間を公表後70年とする本件改正法が適用されることが明記されていることなどの主張について
 「上記各文献の見解は、文化庁の見解を示したものにすぎず、法案を提出した文化庁が主観的にそのような意図を有していたとしても、本件改正法附則1条及び2条の文言上同見解が採用できない」ことは、前記に判示したとおりである。

(5)最高裁昭和54年4月19日判決が、あたかも1日前倒しの形で効果の生ずる結果を是認したものである旨の主張について
 「出生応当日の前日に当該年齢に達するとした判断は、一般に年齢計算につき理解されたところに従った結論にすぎず、Xが主張するように、1日の時間的な始点と終了点を持ち出して、形式的には翌日に生じるように読める効果を前日に認めたり、形式的には前日に効力が消滅しているように読める効果を翌日まで認める解釈をしたものとはいえない。」

(6)Xの解釈を前提とする著作権実務が運用されて定着しており、Xの解釈を否定すると、法解釈の安定性を害し、知的財産権の保護を重視する時代の要請にも反することになるとの主張について
 「本件改正法附則2条の適用関係に関する文化庁の上記見解は、従前司法判断を受けたものではなく、これが法的に誤ったものである以上、誤った解釈を前提とする運用を将来においても維持することが、法的安定性に資することにはならない。」
 「著作権侵害が差止め及び損害賠償の対象となるのみならず、刑事罰の対象となること(著作権法119条以下)をも併せ考えれば、改正法の適用の有無は、文理上明確でなければならず、利用者にも理解できる立法をすべきであり、著作権者の保護のみを強調することは妥当でない。」
評 釈
1.本決定は、本件DVDの製造頒布行為の差止請求の準拠法について、初めに述べている。著作権に基づく差止請求は、著作権の排他的効力に基づくものであり、著作権を保全するための救済方法である。著作権を保全するための救済方法の準拠法に関しては、ベルヌ条約5条2項により、保護が要求される国の法令の定めるところによるから、わが国の法律を準拠法とすべきである。
 また、本件映画の保護期間については、ベルヌ条約7条8項により、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによるから、わが国の法律が適用される。

2.映画の著作物の保護期間は、公表後50年であったが、平成15年の改正により、公表後70年を経過するまでの間、存続することになった(著54条1項)。この施行期日について、附則1条で平成16年1月1日から施行すると定め、映画の著作物の保護期間についての経過措置として、附則2条は、改正後の著作権法54条1項の規定は、この法律の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し、この法律の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による旨定めている。
 本件映画の保護期間は、平成15年12月31日の終了をもって消滅したのか、それとも、改正後の著作権法が適用されるのかが問題となる。
 Xは、本件映画の本来の保護期間が平成15年12月31日午後12時までであって、平成16年1月1日午前零時と同時であるから、改正法の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存していた旨主張している。
 また、文化庁は、平成18年に著作権の存続している著作物として、昭和28年以降に公表された映画の著作物があるとし、これは平成16年1月より、公表後50年から公表後70年に延長されたことに伴うものであると述べている注1
 加戸守行氏は、「例えば昭和7年に死亡した著作者の著作物は、昭和45年12月31日午後12時をもってその保護期間が満了することになるわけでございますが、その満了時点は同時に新法施行時点である昭和46年1月1日午前零時でもありますから、新法施行時点においてはその著作権はまだ消滅していないと解されるわけでございます。つまり、『この法律の施行の際』という時点は、昭和46年側からみれば昭和46年1月1日午前零時であり、昭和45年側からみれば、昭和45年12月31日午後12時でもあるということでありまして、同一時点が法律上の二面性を有しているところから導き出される結論なのでございます」と述べている注2
 作花文雄氏は、「昭和7(1932)年に死亡した著作者の著作物の保護期間は、旧法により昭和45年12月31日午後12時まで存続し、そして同時刻は現行法施行日である昭和46年1月1日の午後零時でもあることから、新法の保護期間の規定が適用され、死後50年、つまり昭和57年末まで存続したことになる」と述べている注3
 これらは、現行著作権法が施行された際の附則2条の解釈についての見解である。
 民法141条は、日、週、月または年によって期間を定めたときは、期間は、その末日の終了をもって満了する旨定めている。
 星野英一東京大学名誉教授は、「例えば今日が7月5日であるとして、1年後ということにすると、7月5日を算入しないから、6日から計算し、それに応当する日の前日、つまり来年7月5日の24時、すなわち、6日午前零時ということになる」と述べている注4
 しかし、本決定が判示しているように、本件映画の著作権は、平成15年12月31日の終了をもって存続期間は終了するから、平成16年1月1日においては、著作権は消滅していると解すべきであろう注5
 本決定は、「時間の概念として、前日の午後12時と翌日の午前零時の指す時刻は同時であって、同一時刻をそれぞれ両日のうちの一方の日からみた表現であるとしても、その時刻を平成15年12月31日午後12時ととらえれば、本件映画の著作権は存しているということができても、この時刻を平成16年1月1日午前零時ととらえる以上、本件映画の著作権は消滅したものといわざるを得ない」と述べている。
 東京地裁平成18年10月6日判決は、映画の著作物の著作権の存続期間は、年によって定められているから、その期間はその末日の終了により満了し、その期間の認定は日を単位としてされ、一方、改正著作権法の適用の可否の基準となる改正法の施行日も日をもって定められており(附則1条)、適用区分の認定も日を単位としてされるところ、このように日を単位としてみれば、平成15年12月31日と改正法の施行日である平成16年1月1日とは異なることになり、両者に重なりも認められないというべきであるから、改正法が施行された時点では、平成15年12月31日は既に終了しており、この日に著作権の存続期間が満了する映画の著作物は、既に消滅していると解している注6
 改正前の著作権法54条1項によれば、映画の著作物の著作権は公表後50年間存続し、その保護期間の計算は、著作権法57条によれば、著作物が公表された日の属する年の翌年から起算することになっており、民法143条1項により、暦に従って計算すると、本件映画は、昭和28年に公表されているから、昭和29年から起算すると、平成15年が50年目にあたることになる。映画の著作物の著作権の存続期間は、年によって定められているから、民法141条によれば、その期間はその末日の終了をもって満了し、平成15年12月31日の満了をもって本件映画の著作権の存続期間が満了することになる。
 執行期限例の規定例として、「この条例は、平成○年3月31日限り、その効力を失う」と規定されている場合には、理論的には、3月31日の午後12時まで効力を有し、4月1日午前零時に効力を失うと解釈されている注7
 附則2条に「この法律の施行の際」と規定されているのは、附則1条の改正後の著作権法の施行期日を受けた平成16年1月1日を指すものと解する。改正後の著作権法54条1項により映画の著作物の著作権の保護期間は公表後70年に延長され、附則2条に改正後の著作権法54条1項の規定は、この法律施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用する旨定めているから、平成16年1月1日の時点で著作権が消滅していないところの、昭和29年公表の映画の著作物には適用されることになる。
 したがって、昭和29年以降に公表された映画の著作物の著作権の存続期間は、70年に延長されたことになる。
 附則2条は、「この法律の施行の際、現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従前の例による」と定めているから、前述のように昭和28年に公表された映画の著作物の著作権は、平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了しており、平成16年1月1日において著作権は消滅していることになる。
 したがって、本件映画は、昭和28年に公表されており、改正後の著作権法54条1項は適用されない。

3.Xは、最高裁昭和54年4月19日判決および大阪高裁昭和54年11月22日判決は、それぞれ期間に関する法解釈が問題になった事案であり、あたかも1日前倒しの形で効果の生ずる結果を是認したものであるとし、これらの裁判例の考え方からして、日をもって一単位とする計算の場合、一単位の始点から終了点までを一日と数えることになり、ある日の終了時点と翌日の開始時点とが接続していることから、形式的には翌日に生じるように読める効果を前日に認めること、また、形式的には前日に効力が消滅しているように読める効果を翌日まで認める解釈も可能になると主張している。
 この最高裁の判決は、満60歳で勧奨退職するという規定の適用について、明治45年4月1日生まれの者が満60歳に達するのは、出生日を起算日とし、60年目のこれに応当する日の前日の終了時点である昭和47年3月31日午後12時であるところ(年齢計算に関する法律・民法143条2項)、日を単位とする計算の場合には、上記単位の始点から終了点までを一日と数えるべきであるから、上記終了時点を含む昭和47年3月31日が上記者の満60歳に達する日と解することができると判示している注8
 この判決については、本決定が述べているように、形式的には翌日に生じるように読める効果を前日に認めたり、形式的には前日に効力が消滅しているように読める効果を翌日まで認める解釈をしたものとはいえないであろう。
 Xは、Xと同一の解釈を前提とする著作権実務が運用されて定着しているから、このような解釈を否定すると、法解釈の安定性を害し、また、知的財産権の保護を重視する時代の要請にも反することになると主張している。
 前掲東京地裁平成18年10月6日判決は、解釈は社会一般人が通常読み取ることのできる解釈によるべきであるとし、「著作権法は、保護の対象とする権利の範囲やその権利を侵害することになる行為の範囲を規定し、その権利を侵害する行為について、民事上の差止請求や損害賠償請求の対象とするだけでなく、懲役刑や罰金刑などの刑事上の罰則の対象ともしていることから、著作権法により保護されている権利の範囲やその権利を侵害することになる行為の範囲は一義的に明確にされている必要性が高く、その規定が一義的に明確といえないような場合は、社会一般人に対して不測の損害を与えることのないよう、その解釈も社会一般人が通常読み取ることのできる解釈によるべきものといえる。
 このような観点から本件改正法附則2条の文言について検討するに、通常、社会一般人が同条項の文言に接した場合、本件改正法の施行日の前日が存続期間の満了日である映画の著作物に対しては同法は適用されないものと解するものと考えられ」ると述べている。

 このように著作権侵害は、民事上の差止請求等の対象となるのみではなく、刑事上の罰則の対象ともなるのであるから、社会一般人に理解できる立法にすべきであり、また、著作権者の利益のみ考えるべきでなく、利用者の利益も考えて解釈すべきである。文化庁の見解および文化庁の関係者の見解が法的に誤っている場合には、これを訂正すべきであり、従来と異なる運用をすることが、法的安定性を害するとは考えられない。誤った解釈を前提とした著作権実務は踏襲すべきでなく、これを変更して運用することが必要である。


(もりおか・かずお)


 文化庁編著「平成18年版著作権法入門」35頁。

 加戸守行「著作権法逐条講義[3訂新版]」697頁。

 作花文雄「著作権法−基礎と応用」280頁。

 星野英一「民法概論I」246頁、我妻栄=有泉亨〔清水誠(補訂)〕「コンメンタール民法総則〔第3版〕」342頁は、起算日が4月1日とすると、これから1年間の期間は翌年の3月31日午後12時に満了する。それはまた、4月1日の午前零時といってもよい時点である。ある法的効果が発生するかどうかは、その法律関係、とくにそれについて定める規定によって定まるとしている。

 牛木理一「映画DVD製造等仮処分事件」特許ニュース11831号7頁は、本決定は妥当な判断であるとしている。

 最高裁HP(平成18年(ワ)2908)、映画「シェーン」の著作権の保護期間は、平成15年12月31日の終了をもって満了しており、平成16年1月1日の時点で著作権は消滅していると判示している。本決定と同じ見解である。

 大島稔彦監修「法制執務の基礎知識」142頁、前田正道「ワークブック法制執務」253頁。

 最判昭和54年4月19日判夕384号81頁は、東京高判昭和53年1月26日判夕369号194頁の判断を是認している。