インクジェットプリンタ用インクタンクの特許権を有する原告が、実施品である原告製品の使用済み品を利用して製品化された被告製品を輸入する被告に対し上記特許権に基づき、製品の輸入、販売等の差止め及び廃棄を求めたのに対し、被告が特許権の消尽等を主張し争った事案である。
(1)原告の有する特許権
特許番号 第3278410号
発明の名称 液体収納容器、該容器の製造方法、該容器のパッケージ、該容器と記録ヘッドとを一体化したインクジェットヘッドカートリッジ及び液体吐出記録装置
出願日 平成11年4月27日
登録日 平成14年2月15日
(2)構成要件の分説
ア 本件発明1の構成要件分説
A 互いに圧接する第1及び第2の負圧発生部材を収納するとともに液体供給部と大気連通部とを備える負圧発生部材収納室と、
B 該負圧発生部材収納室と連通する連通部を備えるとともに実質的な密閉空間を形成するとともに前記負圧発生部材へ供給される液体を貯溜する液体収納室と、
C 前記負圧発生部材収納室と前記液体収納室とを仕切るとともに前記連通部を形成するための仕切り壁と、
D を有する液体収納容器において、
E 前記第1及び第2の負圧発生部材の圧接部の界面は前記仕切り壁と交差し、
F 前記第1の負圧発生部材は前記連通部と連通するとともに前記圧接部の界面を介してのみ前記大気連通部と連通可能であるとともに、
G 前記第2の負圧発生部材は前記圧接部の界面を介してのみ前記連通部と連通可能であり、
H 前記圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く、かつ(I及びJは欠番)、
K 液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている
L ことを特徴とする液体収納容器
イ 本件発明10の構成要件分説
A′〜H′(D′欠番を除き、A〜Hと同じ)、
I′液体収納容器を用意する工程と、
J′前記液体収納室に液体を充填する第1の液体充填工程と、
K′前記負圧発生部材収納室に、前記液体収納容器の姿勢によらずに前記圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体を充填する第2の液体充填工程と、
L′を有することを特徴とする液体収納容器の製造方法。
(3)原告製品
原告は、本件発明1及び10の実施品として製品番号BCI−3eBK、BCI−3eY、BCI−3eM、BCI−3eCのインクジェットプリンタ用インクタンク(「原告製品」又は「本件インクタンク」)を日本国内で製造し一部を日本国内で販売する。海外では原告、原告関連会社又は商社が原告製品を販売する。少なくとも原告らが海外で販売した原告製品については、国際消尽の問題となるが、原告らは、海外における原告製品の譲受人との間で、販売先又は使用地域から我が国を除外する旨の合意をしていないし、その旨の合意をしたことを原告製品に明確に表示していない。
(4)被告製品
被告は、中国マカオの会社(「甲会社」)から所定の構成を有するインクタンクを輸入した(以下、「被告製品」)。甲会社の関連会社(「乙会社」)は、原告製品のインクを使い切って残ったインクタンク本体(「本件インクタンク本体」)を北米、欧州及び日本を含むアジアから収集しそれを乙会社の子会社(「丙会社」)に売却する。丙会社は次の手順で本件インクタンク本体を製品化する。
《1》 本件インクタンク本体の液体収納室の上面に、洗浄及びインク注入のための穴を開ける。《2》 本件インクタンク本体を洗浄する。《3》 本件インクタンク本体のインク供給口からインクが漏れないようにする措置を施す。《4》 《1》の穴から、負圧発生部材収納室の負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分まで及び液体収納室全体にインクを注入する。《5》《1》の穴及びインク供給口に栓をする。《6》 ラベル等を装着する。甲会社は丙会社から被告製品を買い入れ日本に輸出している。被告は、平成16年6月までに被告製品を2445個輸入し1561個販売した。
(5)被告製品の構成要件充足性
被告製品は本件発明1及び本件発明10の各々の構成要件をすべて充足し各々の技術的範囲に属する。