発明 Vol.102 2005-11
判例評釈
応用美術の著作物性および著作権
使用許諾契約における錯誤と公序良俗違反
−チョコエッグ・フィギュア事件−
〔大阪地判平成16年11月25日(判決速報357号12851事件,判例集未登載)
平成15年(ワ)第10346号 違約金等請求本訴事件
平成16年(ワ)第5016号 不当利得返還請求反訴事件〕
三浦 正広
〈事件の概要〉

 模型の製造販売等を業とする原告X((株)海洋堂,反訴被告)は,各種菓子類の製造販売等を業とする被告Y(フルタ製菓(株),反訴原告)に対し,Yの製造販売する菓子類「チョコエッグ」「妖怪シリーズ」「チョコエッグ・クラシック」「アリス・コレクション」のおまけとして各種フィギュアの模型原型をXが製造し,これをYに提供するにあたり,両者間で複数の著作権使用許諾契約(本件各契約《1》〜《14》〔資料:本件契約一覧〕参照)を順次締結し,許諾料(ロイヤルティ)および違約金について定めていたところ,YがXに商品の製造数量について実際より過小の虚偽の報告をし,あるいは未払いのロイヤルティがあると主張して,これらの契約にもとづくロイヤルティおよび約定違約金の支払い,ならびに商事法定利率による遅延損害金の支払いを請求した。
 反訴として,YはXに対し,本件契約のうちの一部について,本件各契約における違約金支払規定は,模型原型が著作物であるという錯誤に陥っていたとして無効を主張し,ロイヤルティの2倍相当額を違約金とした違約金支払規定は,公序良俗に反し無効であるなどと主張して,YがXに対して支払ったロイヤルティの一部を不当利得として返還請求している。
 Xは,フィギュアの世界では,わが国のみならず世界的に周知されたフィギュア造形集団であり,Xの造形集団としての創作性,芸術性,技術力の高さおよび知名度を紹介する資料は枚挙にいとまがなく,単なる「おまけ」制作の域にとどまるものではないこと,本件各契約の対象物である各種フィギュアの模型原型(以下「本件模型原型」という。)の模作には思想,感情の働きが認められ,本件契約《1》ないし《8》,《13》,《14》の対象物たる模型原型においても創作性を肯定でき,著作物性が肯定されること,「美術の著作物」には美術工芸品も含まれ,仮に意匠権が成立するような場合であったとしても著作権法上の保護が否定されるわけではなく,また,量産品であることによって著作物性を否定されるものではないことなどを主張した。
 これに対し,Yは,本件模型原型は,自然界に実在する動物等を実物に近い形で模型にしたものであって,抽象化された特徴を有するものではなく,図鑑等を参照しながら制作されているから,思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)とはいえず,本件契約《1》ないし《8》,《13》の対象物たる本件模型原型は,著作権法上の著作物ではないこと,本件模型原型は,純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の制作に応用した応用美術であって「美術の著作物」とはいえず,応用美術が「美術の著作物」といいうるのは,作品が形状,内容及び構成などに照らして純粋美術に該当しうると認められる高度の美的表現を具有するときに限られる,などと反論した。





〈判 旨〉

本訴請求一部認容,反訴請求棄却
論点《1》について
 「本件模型原型は,いわゆる美術の範囲に属するものであることは明白であって,当事者においても争いのないところである。・・・・・・『思想又は感情を創作的に表現』するというときの創作性とは,表現が当該作者の何らかの知的活動の成果によるものであって,著作者の個性が現れていることをいい,必ずしも独創性が要求されるわけではない。他人の創作を模倣するにすぎないものや,たとえ他人の模倣ではないとしても,表現としてありふれたものであったり,表現方法が限定されているために誰が表現しても同じような表現となったりする場合には,作者の個性が現れているということはできず,創作性が否定される。
 ・・・・・・チョコエッグ(本件契約《1》ないし《8》)及びチョコエッグ・クラシック(本件契約《13》)に使用されているおまけの模型原型は,市販の図鑑等を参照して,実在する,あるいはかつて実在した動物(ツチノコを除く。)の形状,姿勢,毛並み,色彩,模様等を可能な限り細部まで実物に近づくように作成されたものであり,その制作過程では高度の模倣手段・技術を用いて作成されたものと認められ,出来上がった模型原型及びその複製物は,市販のお菓子のおまけとして頒布されるフィギュアとしては,実在し,あるいはかつて実在した動物(ツチノコもこれに準じて考えられる。)に極めて近いものになっていると認められる。しかしながら,このように,実在の動物の形状等を可能な限り写実的に模倣して制作される模型原型については,機械的に写真に撮影したとか,誰が作成してもほぼ同じような表現にならざるを得ないような類型的な表現方法によった場合と異なり,高度に写実的な動物の模型を制作するという表現手段の中に,様々な技術や工夫が用いられており,著作者の個性が現れた創作行為が存在することは否定できない。そうすると,本件契約《1》ないし《8》及び本件契約《13》において対象となった模型原型は,著作権法2条1項1号にいう『思想又は感情を創作的に』表現した成果物という面については,これを肯定することができる。
 また,妖怪シリーズ(本件契約《9》ないし《12》)の造形原型は,Eにおいて,古くから存在する百鬼夜行の妖怪にも示唆を受けて,リアルな形態の立体的な妖怪を各種制作したものであるが,既存の特定の絵画等をそのまま模して作成されたものとは認められず(そのような事実を認めるに足りる証拠はない。),古来我が国でいろいろな画家等が描いてきた妖怪とそれ程違いがあるわけではないにしても,制作者の個性が現れていないとはいえないから,『思想又は感情を創作的に表現したもの』であること自体は,これを肯定することができる。
 一方,・・・・・・アリス・コレクション(本件契約《14》)は,ルイス・キャロルの物語『不思議な国のアリスの冒険』『鏡の国のアリスの冒険』の挿絵としてジョン・テニエルが描いた線画を忠実に立体化させ,上記物語の内容に沿うように彩色されたものであって,出来上がった模型原型及びその複製物は,ジョン・テニエルの描いた挿絵(線画)を忠実に三次元の像としたものと認められる。なお,X従業員が行った彩色と,ハリー・シーカーや英国マクミラン出版社の行った彩色との異同は不明であるが,アリス・コレクションはジョン・テニエルの描いた挿絵(線画)の雰囲気を三次元の像においても維持することを目的になされているため,その彩色はハリー・シーカー等のものと同様か,少なくとも挿絵の思想又は感情を超えて新たな思想又は感情を表現するようなものではなく,通常ジョン・テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろうありふれた彩色であると推測される。そうすると,アリス・コレクションにおける忠実な立体化やありふれた彩色によって制作された模型原型は,作者の何らかの個性が創作的に表現されているものと認めることはできない。
 ・・・・・・『美術の著作物』については,著作権法2条2項が『この法律にいう「美術の著作物」には,美術工芸品を含むものとする。』と定めている。同条項は,絵画,版画,彫刻等のような純粋美術のほかに,実用品であっても一品製作による手工的な『美術工芸品』が『美術の著作物』に含まれていることを明らかにしている。この点に関し,美術工芸品以外のいわゆる応用美術についても著作権法によって保護されるかどうかが問題になるところである。現行著作権法制定の経緯や,著作権法による保護と意匠法等の工業所有権法による保護との関係等に照らせば,著作権法上の前記条項は,実用に供され,あるいは産業上利用されることを目的とする美的な創作物,すなわち,実用品と結合された美術的著作物,量産される実用品のひな型として用いられることを目的とする美術的著作物,実用品の模様として利用されることを目的とする美術的著作物等,一般に応用美術の範疇に含まれるものについては,専ら美の表現のみを目的とするいわゆる純粋美術と同視できるような創作性,美術性を有するもののみを,『美術工芸品』に準じて,著作権法上の『美術の著作物』として著作権法による保護の対象とした趣旨であると解するのが相当である」。
 「チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は,・・・・・・高度の技術が用いられて,実在の動物を写実的に模したものであり,お菓子のおまけとして安価で広く頒布されるフィギュアとしては美的な価値も備えており,この種のフィギュアの蒐集家にとっては,その精巧さや種類の豊富さもあって,それなりに美的鑑賞の対象ともなり得ることは否定できないところである。しかし,動物を写実的に模すのに,制作者の技術や工夫が見られるといっても,大量に製造され安価で頒布される小型のおまけであるから,純粋美術の場合のような美的表現の追求とは異なり,一定の限界の範囲内での美的表現にとどまっていることも否定できないのであり,客観的にみて,一般の社会通念上,美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえない。したがって,チョコエッグ及びチョコエッグ・クラシックの模型原型は,著作権法2条2項の規定の趣旨に照らして,『美術の著作物』には該当しないものというべきである。
 なお,本件契約《3》の対象とされたツチノコについても,弁論の全趣旨によれば,未確認ではあるが日本の山野に棲息しているとして,だんだんその目撃談が紹介され絵にも描かれている『ツチノコ』を,これらの公刊物等を参照して制作された模型原型であると認められ,上記の動物の場合と同じく,大量に生産される小型のおまけの模型原型として制作されたものであり,その制作の内容に照らしてみても,純粋美術と同視し得るようなものとは評価できない。したがって,『ツチノコ』も,『美術の著作物』」には該当しない。
 次に,妖怪シリーズで制作された妖怪の模型原型は,想像上のものであり,実在するものではないものの,Yの製造販売に係る菓子等のおまけにするために全く新たに創作されたものではなく,・・・・・・旧来から人々の間に語り継がれ,絵画等に表されてきたものを参照して,立体化したものである(『百鬼夜行』については,過去の文献である『百鬼夜行』に掲載された妖怪を立体化したものであることも認められる。)。しかるところ,本件模型原型は,旧来,絵画等に表されてきた妖怪と比較して,それらをそのまま模したものではなく,創作者の個性がそれなりに現れたものであるとは考えられるが,やはり,前述のチョコエッグ等と同じく,大量に製造され安価で頒布される小型のおまけのために製造された模型原型であるから,制作者の技術や発想において優れたものがあり,創作的表現がされているとしても,純粋美術の場合のような美的表現の追求とは異なり,一定の限界内での美的表現にとどまっているといわざるを得ない。したがって,妖怪シリーズのフィギュアの模型原型についても,客観的にみて,一般の社会通念上,美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえないから,『美術の著作物』には該当しないものというべきである。なお,妖怪シリーズのフィギュアも,上記のチョコエッグの動物フィギュアと同じく,細部にわたるまで細かな成形,彩色が行われており,それらは,模型制作上の技術が高いことをうかがわせるが,そのことは,必ずしも,純粋美術と同視できるような創作性の存在に直結するわけではない。
 なお,量産品のひな型であっても,専ら美の表現を追求した純粋美術と同視できる創作性,美術性を有するものが存在することは否定し得ず,そのような創作性,美術性を有するものが存在したとすれば,それについて,量産品のひな型であるという理由によって,著作権法上の『美術の著作物』への該当性が否定されることはないというべきである。
 しかし,・・・・・・本件各契約の対象となったフィギュアの模型原型は,そのもの自体に,純粋美術と同視できる創作性,美術性を備えているとは認められず,その故に著作物に該当しないというべきであって,量産品の原型であることによって直ちに著作物であることが否定されるものではない。
 Xは,量産されるものであっても著作物性が否定されるものではなく,本件模型原型には純粋美術と同視し得る創作性,芸術性があると主張するが,Xの主張は,リアルな模型原型を制作する技術力について述べるものにすぎない。技術力と創作性や芸術性は異なるから,Xの主張は失当である。
 よって,本件模型原型は,いずれも著作権法上の著作物性を肯定することはできない」。
論点《2》について
 「XY間の本件各契約において,ロイヤルティ支払方式が採られた理由は,模型原型がXの著作物であることを前提に,その使用料を支払うという趣旨からそうなったものではなく,新たな商品開発を行うに当たり,いかなる模型原型を制作するか決する権限をXに与え,販売数量の多寡による利益と不利益をXへのロイヤルティに反映させ,Xに,より優れた模型原型を制作するように動機付けを与える趣旨であったというべきである。
 チョコエッグは予想以上に販売が伸び,そのため本件契約《4》以降は契約書を取り交わすことになり,当該契約書の前文には,模型原型が著作物であってその権利をXが有していることが明記された。しかし,そうであるとしても,前記認定の契約当初からの経緯に照らすと,C(X専務取締役)とB(Y常務取締役)が,模型原型が著作物であり,その著作権をXが有し又は管理していることを前提として,著作物の使用料としてロイヤルティを支払う方式を採ったとは考えられない。むしろ,模型原型が著作権法上の著作物に該当するか否かにかかわらず,Xがより優れた模型原型を制作し,それによってYの菓子等の売上が増加した場合に,YのみならずXもそれによる利益を享受し得るようにする点に,ロイヤルティ方式を採る趣旨があったとみる方が,前記認定のXY間の契約をめぐる経緯に合致するというべきである。
 さらに,契約書には,虚偽の数量報告をした場合には,報告しなかった数量分についてロイヤルティの2倍に相当する違約金を支払う旨の規定(違約金支払規定)が入れられたが,その趣旨は,ライセンシーによる報告数量の真実性を担保するため,予めロイヤルティよりも多い金額を違約金として定めたものと認められ,Xに著作権が帰属することからそのような違約金支払規定を置いたとは認められない。
 以上によれば,本件各契約の違約金支払規定の合意において,模型原型が著作物であり,Xが著作権を有しあるいは管理していることが要素となっていたということはできない。したがって,本件模型原型に著作物性が認められないとしても,あるいはXが著作権を有しても管理してもいなかったとしても,そのことをもって本件各契約,とりわけその中の違約金支払規定が,錯誤により無効となるものではない」。
 「契約の本質(要素)は,契約書等の文言のみならず,当該契約が締結されるに至った過程等を踏まえて,当事者の合理的意思解釈から決定されるべきである(どんな些細な事柄であっても錯誤がある以上は無効が主張できるとすることは取引の安全性を著しく害することとなる。)。本件各契約における契約書において,模型原型が著作物であって,その著作権をXが管理又は所有していることを根拠として,違約金支払規定が入れられたことをうかがわせる事情はない上,仮にこれが契約の本質(要素)となっていたのであれば,平成14年1月のアリス・コレクションに関して第三者から著作権等の侵害であるとの指摘を受けたときに,あるいは同年5月の妖怪シリーズの造形師がYとの間ではロイヤリティ方式ではなく買取方式を採っていることが判明したときに,この点についてXに問い合わせるなどするはずのところ,Yはそのような行動を一切起こしていない。
 したがって,Yの主張は失当である」。
論点《3》について
 「違約金支払規定は,Yが虚偽の報告をした場合に限り適用されるものであるから,Yが虚偽の報告をしない限りこれを支払う必要はない。また,数量が正確に報告されることを前提として成り立つロイヤルティ支払方式が採られる場合,報告数量の正確性を担保するために虚偽報告の事実が判明したときにはロイヤルティの2倍以上の違約金を支払うとの合意をすることは合理的であり,また通常行われているものと推測されるから,ロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払う旨の規定が暴利行為であるなどということはできない。なお,暴利行為として公序良俗に反すると評価されるのは,一方当事者の窮迫,無知,無経験などにつけ込んで,他方当事者が過度に不公正な取引を行う場合であるが,本件においてYは本件各契約締結前からおまけの原型に関する取引等を行っており,窮迫,無知,無経験等の状況にあったということはできないから,その点においてもロイヤルティ支払規定及びその適用が暴利行為であるということはできない。本件においてXがYに対して膨大な違約金を請求しているのは,Yも認めるとおりYが膨大な製造数量をXに報告しなかった結果にすぎない。
 真実の数量を報告することを前提にするロイヤルティ支払方式に合意した上で,その真実報告義務に違反しながら,違約金支払規定及びその適用は公序良俗違反であるとするYの主張は,到底採用できない」

〈評 釈〉

1.本判決の意義および位置づけ
 本件の主たる論点は,《1》本件各種フィギュア模型原型が著作物といえるか否か(著作物性),《2》フィギュア模型原型が著作物であるとの錯誤を理由として,本件契約における違約金支払規定は無効といえるか,《3》ロイヤルティの2倍相当額を定めた違約金支払規定が公序良俗違反といえるか,というものである。
 本判決における応用美術の著作物性をめぐる判断,すなわち,少なくとも著作権法2条2項の「美術工芸品」に関する解釈は,基本的に従来の裁判例の考え方にもとづいたものであり,本件各種フィギュアの模型原型が純粋美術と同視しうるものであるか否かの価値判断については,応用美術の著作物に関する最近の裁判例と同様に,消極的な立場を採っている。
 また,本件各契約における違約金支払規定について,Yが本件各契約の対象である本件各種フィギュアの模型原型を著作物であると信じたことの錯誤による無効,およびロイヤルティの2倍相当額を定めた違約金規定の公序良俗違反について,本件各契約における当事者の意思解釈の合理性について検討し,錯誤無効および公序良俗違反を否定した。
2.応用美術の著作物性
(1)応用美術の著作物性判断における本判決の論理
 本判決は,本件フィギュア模型原型の著作物性について,「本件模型原型は,いわゆる美術の範囲に属するものであることは明白であって,当事者においても争いのないところである」と述べた後に,本件フィギュア「模型原型は,著作権法2条1項1号にいう『思想又は感情を創作的に』表現した成果物という面については,これを肯定することができる」(本件契約《1》ないし《8》および《13》,本件契約《9》ないし《12》についても同趣旨の判示がある)と述べて,本件フィギュア模型原型がいかにも著作物としての成立要件を充たしているかのような言い回しをしながら,結果的に,本件模型原型は「著作権法2条2項の規定に照らして,『美術の著作物』には該当しない」,すなわち,「美術の範囲に属するもの」であり,かつ「思想又は感情の創作的表現」であっても,「美術の著作物」とはいえないという結論に達している。本判決は,美術の範囲に属するものであって,思想または感情を創作的に表現したものを「著作物」ではなく「成果物」と表現しているところに特徴がある。

美術の範囲に属するもの
思想または感情の創作的表現
美術の著作物

 そして,著作権法2条2項における「美術工芸品」の解釈について,立法者意思としては,「一品製作」のものにかぎって保護しようという趣旨であったと理解することができるが,応用美術の著作物性の判断をめぐるこれまでの裁判例は,一品製作ではなく,大量生産品であっても,純粋美術と同視しうる創作性や美術性を備えていることを要件として,美術の著作物として保護する傾向にあったといえる。

「美術工芸品」(2条2項)の解釈
美術工芸品
=  
一品製作
(立法趣旨)
   (応用美術)



大量生産品
(裁判例)

 本判決は,「一般に応用美術の範疇に含まれるものについては,専ら美の表現のみを目的とするいわゆる純粋美術と同視できるような創作性,美術性を有するもののみを,『美術工芸品』に準じて,著作権法上の『美術の著作物』として著作権法による保護の対象とした趣旨であると解するのが相当である」と述べ,さらに,「量産品のひな型であっても,専ら美の表現を追求した純粋美術と同視できる創作性,美術性を有するものが存在することは否定し得ず,そのような創作性,美術性を有するものが存在したとすれば,それについて,量産品のひな型であるという理由によって,著作権法上の『美術の著作物』への該当性が否定されることはないというべきである」と述べており,従来の裁判例と同様に,一品製作であれ大量生産品であれ,純粋美術と同視できる創作性,美術性を有するものについては,美術の著作物として保護する趣旨であると考えることができる。
(2)応用美術
 著作権法に関する一般的な解釈において,応用美術とは,「実用に供され,あるいは,産業上利用される美的な創作物」であり,より具体的には,《1》美術工芸品,装身具等実用品自体であるもの,《2》家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,《3》文鎮のひな型等量産される実用品のひな型として用いられることを目的とするもの,《4》染織図案等実用品の模様として利用されることを目的とするもの,であると理解されている
 また,「美術の著作物」の保護について著作権法上の条文を確認すると,まず「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(2条1項1号)が著作物であるという定義づけをし,さらに「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含む」(2条2項)という規定の後に,著作物の例示として,「絵画,版画,彫刻その他の美術の著作物」(10条1項4号)という規定を置いている。
 一方,ベルヌ条約は,1948年のブラッセル改正条約において,2条の保護を受ける著作物の例示のなかに「応用美術の著作物」を規定し,応用美術の保護については国内法による保護に委ねている。すなわち,ベルヌ条約上は,応用美術は著作物として保護を受けることとなっている。
(3)裁判例における応用美術の解釈
 応用美術の範囲および著作物性に関する裁判例の解釈については,すでに述べたように,一品製作品であるとか大量生産品であるとかにかかわりなく,純粋美術と同視しうる創作性や美術性ないし芸術性があると判断された場合には,著作物性を認定するのが裁判例の考え方であるといえる。そこで,応用美術の著作物性が争われた主要な裁判例を紹介することとする。
 人形師が製作する人形の原型をもとに,粘土製の人形生地を素焼きし,絵の具で彩色した工芸品である博多人形の著作物性について(博多人形「赤とんぼ」事件),長崎地裁佐世保支部は「美術的作品が,量産されて産業上利用されることを目的として製作され,現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。・・・・・・本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである」と判示している。この決定は,著作物性が認められうる応用美術の範囲を拡大し,美術工芸品が,起草者が言うところの一品製作に限定されるものではなく,産業上利用されることを目的とした量産品であるという理由で著作物性が否定されるべき理由はないことを明言した。すなわち,大量生産品であっても純粋美術と同視しうる程度の美術性が認められる場合には著作物性を認めてよい場合もあるということを明言した決定であると理解することができる。
 また,仏壇内部を飾る各部品の種々の紋様や形状を有する仏壇彫刻の著作物性をめぐる争いについて(仏壇彫刻事件),神戸地裁姫路支部判決は,「一般に,美術は,(1)個別に製作された絵画・版画・彫刻の如く,思想または感情が表現されていて,それ自体の鑑賞を目的とし,実用性を有しない純粋美術と,(2)実用品に美術あるいは美術上の感覚・技法を応用した応用美術に分かれ,後者すなわち応用美術はさらに,(イ)純粋美術として製作されたものをそのまま実用品に利用する場合,(ロ)既成の純粋美術の技法を一品製作に応用する場合(美術工芸品),および,(ハ)純粋美術に見られる感覚あるいは技法を画一的に大量生産される実用品の製作に応用する場合等に細分されていることは周知のところである」と判示して,判決において,純粋美術と応用美術について定義づけをしている。
 これらの裁判例に対し,佐賀錦袋帯の図柄の著作物性が争われた事案において(佐賀錦袋帯事件),京都地裁は,純粋美術としての性質を有するか否かについては「主観的に制作者の意図として専ら美の表現のみを目的として制作されたものであるか否かの観点からではなく,対象物を客観的にみてそれが実用性の面を離れ一つの完結した美術作品として美術鑑賞の対象となりうるものであるか否かの観点から」判断すべきであると述べ,これまでの裁判例と同様の立場に立ちながらも,結論として「本件図柄・・・・・・は,帯の図柄としてはそれなりの独創性を有するものとはいえるけれども,帯の図柄としての実用性の面を離れてもなお一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となりうるほどのものとは認め難い」として,帯図柄の著作物性を否定した
 また,天然木の木目を幾何学化したデザインが施された化粧紙の原画の著作物性が争われた事案においても(木目化粧紙事件),東京高裁は,「本件原画に見られる天然木部分のパターンの組合せに,通常の工業上の図案(デザイン)とは質的に異なった高度の芸術性を感得し,純粋美術としての性質を肯認する者は極めて稀であろうと考えざるを得ず,これをもって社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない」と判示して,木目化粧紙原画の応用美術としての著作物性を否定した
 これら応用美術の著作物性を否定した佐賀錦袋帯事件および木目化粧紙事件に関する両判決が,いずれも当該対象物について「社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない」,「一つの完結した美術作品として美的鑑賞の対象となりうるほどのものとは認め難い」などと述べ,対象物が応用美術であることを前提としたうえで価値判断をして,その著作物性を否定したのと同様に,本判決も,「客観的にみて,一般の社会通念上,美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえない」から,「美術の著作物」には該当しないとして,本件フィギュア模型原型の応用美術の著作物性を否定した。
3.本件フィギュア模型原型の著作物性に関する本判決の判断
 本判決は,著作権法2条2項の解釈の結論として,本件各種フィギュアの模型原型の美術の著作物性を否定した。著作物性を認めるか否かは価値判断の問題に帰着するものであるので,説得力のある議論をすることにはそもそも限界があると思われる。基本的には,従来の裁判例における応用美術に関する解釈を前提としたうえで,佐賀錦袋帯事件や木目化粧紙事件判決と同様に,当該対象物が著作物性を認めるに足りるものではないという評価をくだしたことになるといってよい。少なくとも理論的には十分に理解しうる判断であるといえよう。しかし,すでに述べたように,本判決が,本件各種フィギュアの模型原型の著作物性を判断するにあたり,「『思想又は感情を創作的に』表現した成果物」であり,しかも「美術の範囲に属するものであることは明白である」とまでいっておきながら,「美的鑑賞を目的とする純粋美術に準じるようなものとまではいえない」と判示して,純粋美術と同視しうる創作性,芸術性を否定したことは,従来の裁判例にはみられない論法であり,表現の方法として必ずしも適切とはいえず,誤解を招きかねない。結論としては,価値判断を回避することができないわけであるから,説得力を期待することはできなくても,素直にこれまでの裁判例の考え方にしたがって,本件フィギュア模型原型は応用美術の範囲に含まれるものではあるけれども,純粋美術と同視しうる創作性,芸術性は認められない,という判示で十分ではなかったかと思われる。
 またXは,本件模型原型の創作性ないし美術性・芸術性について,これまでの裁判例の基本的な考え方にしたがい,本件模型原型は,量産されるものであるからといって著作物性が否定されるものではなく,純粋美術と同視しうる創作性,芸術性があると主張したが,本判決は,「Xの主張は,リアルな模型原型を制作する技術力について述べるものにすぎない。技術力と創作性や芸術性は異なるから,Xの主張は失当である」と判示した。すなわち,本判決は,Xが主張する「純粋美術と同視しうる創作性,芸術性」というのは,「リアルな模型原型を制作する技術力」のことであり,「技術力」と創作性や芸術性は異なる,という理解にもとづいて,Xの主張を排斥した。
 しかしながら,本判決が述べるように,「純粋美術と同視しうる創作性,芸術性」と「リアルな模型原型を制作する技術力」とは異なるから,模型原型を制作する技術力があるからといって,創作性や芸術性がないとする説明には全く説得力がない。
 ここでいう「技術力」というのは,創作的な表現を形成するための基礎となる卓越した能力を意味するものであり,この技術力が発揮されてこそ本件模型原型の創作性や芸術性が表現されるものであると考えられるので,「純粋美術と同視しうる創作性,芸術性」が認められないことを否定するために,ここで「技術力」という表現を用いることは適切ではないと考える。
4.各種フィギュア模型原型が著作物であるとの錯誤を理由として,本件各契約の違約金支払規定は無効といえるか
 XY間の本件各契約は,平成11年9月,「日本の動物コレクション第1弾」として,動物24種類の模型原型について,Yの報告する販売数量に応じたロイヤルティを支払う旨の契約(本件契約《1》)を口頭にて締結したことから始まる〔本件契約一覧参照〕。
 その後チョコエッグの売行きが好調で販売数量が多くなったため,本件契約《4》以降は,XY間で契約書を取り交わすこととした。契約書には,前文に「甲(注記:X)が著作権を管理又は所有する別紙記載の著作物(以下「本件著作物」という)を使用した別紙記載の商品(以下「指定商品」という)の製造,販売,または頒布について,以下の通り契約を締結する。」と記載され,また,XがYに対し「本件著作物」を使用した指定商品を製造,販売又は頒布することを独占的に許諾すること,独占的許諾に対するロイヤルティとして,希望小売価格に一定のパーセンテージおよび指定商品の製造数量を乗じた金額を支払うこと,支払方法は毎月末に製造数量を集計のうえ,翌月20日にX指定の金融機関口座に振り込む方法にて支払うこと,製造数量は集計した翌月10日までにXに報告すること,仮に実際の製造数量が報告数量を上回っていた場合には,契約の解除の有無にかかわらず,YはXに対し,上回っていた指定商品1個につき,ロイヤルティ単価の倍額の違約金を支払うことなどが規定された。なお,本件契約《4》以降に締結された契約の契約書は,本件契約《11》を除き,いずれも同様の条項が記載されている。
 Yは,本件各契約において違約金支払規定にまで合意したのは,本件契約《4》ないし《10》,《12》ないし《14》の契約書により本件各種フィギュアの模型原型が著作物であること,そしてXがその著作権を有しているということを信じたからにほかならず,したがって,模型原型が著作物ではなく,Xがその著作権を有していない場合には,本件各契約,その中でも違約金支払規定に関し重要な要素に錯誤があるといえるから,違約金支払規定は無効である,と主張している。Yは,模型原型が著作物であり,Xがその著作権者であると信じたことについて,本件各契約自体の錯誤無効を主張しているのではなく,違約金支払規定だけについて錯誤無効を主張しているわけである。
 本判決は,Yが,模型原型が著作物であり,Xがその著作権者であると信じたことにつき,本件各契約のなかの違約金支払規定について重要な要素の錯誤があり無効であるという主張を拒絶するために,本件各契約における当事者間の意思解釈を行い,ロイヤルティ方式が採用されていることの理由について解釈した。すなわち,本判決は「XY間の本件各契約において,ロイヤルティ支払方式が採られた理由は,模型原型がXの著作物であることを前提に,その使用料を支払うという趣旨からそうなったものではなく,新たな商品開発を行うに当たり,いかなる模型原型を制作するか決する権限をXに与え,販売数量の多寡による利益と不利益をXへのロイヤルティに反映させ,Xに,より優れた模型原型を制作するように動機付けを与える趣旨であったというべきである」と解釈している。
 本判決の判断は,一連のXY間の本件契約の解釈としてはきわめて妥当な解釈であると思われる。XY間の著作物使用許諾契約の実態は,本判決が述べるように,フィギュア模型原型が著作物であることを前提としている契約ではなく,ロイヤルティ契約によって,X制作の模型原型の表現力や技術力に対する評価は,販売数量の結果を通じて,Xも負担することになるという趣旨であったと解すべきである。フィギュア模型原型が著作物であるか否かということは,本件契約においては必ずしも重要な要素とはいえず,そもそも錯誤無効を主張する根拠があるとはいえない。したがって,ロイヤルティ単価の倍額の違約金の支払いを定めた規定が錯誤により無効であるとはいえないと考える。
資料:本件契約一覧

本件契約 おまけ付き菓子 フィギュア 契 約 日 契約期間 ロイヤルティ単価 未報告数量 違 約 金
 ※(1) チョコエッグ 日本の動物コレクション(1)  24種類 平成11年9月 11.9-12 150円(希望小売価格)
  ×2.5%=3.75円
2,050,040個 ※7,687,675円
 ※(2)            〃         (2)  24種類 平成11年9月頃 11.12-12.2
 ※(3)            〃         (3)  48種類 平成12年2月頃 12.2-5
(4)            〃         (4)  24種類 平成12年10月1日 12.9.25-13.9.24 8,813,976個 66,103,976円
(5)            〃         (5)  24種類 平成13年3月1日 13.3.1-14.2.28
(6) ペット動物コレクション(1)  20種類 平成12年10月1日 12.9.25-13.9.24 8,479,295個 63,594,712円
(7)            〃         (2)  14種類 平成13年3月1日 13.3.1-14.2.28
(8) レッド・データ・アニマルズ 10種類 平成12年10月1日 12.7.10-13.7.9 200円×3%=6円 229,536個 2,754,432円
(9) 妖怪シリーズ 百鬼夜行I                  8種類 平成12年10月1日 12.7.10-13.7.9 300円×3%=9円 361,800個 6,512,400円
(10)    〃  II                   9種類 平成13年3月1日 13.3.1-14.2.28
※(11) 百鬼夜行総集編             17種類 平成13年10月1日 13.10.1-14.2.28 51,910個 934,380円
(12) 妖怪根付                   25種類 平成13年8月26日 13.8.27-14.8.26 200円×3%=6円 631,568個 7,578,816円
(13) チョコエッグ・コレ
クション
日本の動物コレクション・バージョ
ンアップ版                 24種類
平成13年9月10日 13.9.10-14.9.9 150円×3.2%=4.8円 307,712個 2,954,035円
(14) アリス・コレクション アリス・コレクション        18種類 平成13年頃 ? 200円×3%=6円 265,500個 ※1,593,000円
               ※(1)〜(3)は契約書なし。(11)は覚書
               ※違約金欄(1)〜(3)、(14)の数値は、未払いロイヤルティ

5.ロイヤルティの2倍相当額を定めた違約金支払規定は公序良俗違反といえるか
 Yは,ロイヤルティの2倍相当額を定めた違約金支払規定が公序良俗違反に当たるとして,次のように主張した。すなわち,業界の通例では,商品に付されるおまけを複製するための原型を制作する場合,請負契約等を締結し,模型原型1体の制作費として数万円から十数万円を支払うのが一般的であるが,本件各契約がロイヤルティ支払契約となった結果,YはXに対し,すでに4億円程度のロイヤルティを支払っており,この金額は,業界の通例の場合の金額と比較すると,著しく高額であること,また,Xが造形原型を外注した場合,Xは,制作者に対し,業界の通例と同様に原型1体を基準とした制作費を支払っているにすぎないはずであり,他方でYから多額のロイヤルティを受け取っているから,差額として多額の利得をしているはずであることを理由として,ここからさらにXが違約金を取得することを認めるならば,その結果は取引における対価の相当性を著しく逸脱することとなるから,違約金支払規定は暴利行為というべきであって,公序良俗に反するから,民法90条により無効となる,と主張した。
 しかしながら,ロイヤルティ支払方式の契約における違約金支払規定において,ロイヤルティの2倍相当額の違約金を支払うという合意は,ごく一般的に行われているものと推測され,きわめて合理的であり,また,本件Yは,本件各契約締結前からおまけの原型に関する取引等を行っており,本件に限って,XがYの窮迫,無知,無経験などにつけ込んで契約を締結したという事実が認定されていない以上は,ロイヤルティの2倍相当額を定めた違約金支払規定が暴利行為であるとはいえず,公序良俗違反とはいえないと結論づけた本判決の判断はきわめて妥当である。



(みうら まさひろ:岡山商科大学法学部教授)


(注)

Yが製造販売する「チョコエッグ」「チョコエッグ・クラシック」は,卵形のチョコレートの中におまけが入っている商品シリーズ,「妖怪シリーズ」「アリス・コレクション」は,キャンデーにおまけを付した商品シリーズであり,そのおまけに関し,Xが模型原型を製造してYに渡し,Yが当該模型原型の複製品をおまけとして使用し,菓子と一体化した商品である。Xは,Yとの間で商品企画を検討した後,当該企画に適する模型原型造形師を選定し,Xの専務取締役であるCと当該造形師が中心となって,模型原型のサイズ,セールスポイントとなる特徴,数等を打ち合わせ,それにしたがって,造形師がもととなる画を作成し,Xが検討修正した後に造形にとりかかり,造形師が造形した原型(造形原型)は,Xのチェックを受けた後,X従業員の塗装担当者によって彩色される。彩色された原型が本件模型原型である。
 チョコエッグおよびチョコエッグ・クラシックは,さまざまな種目・科に属する実在の動物(本件契約《3》の対象となった「ツチノコ」を除く。)を正確に模したフィギュアをおまけとして卵形チョコレートのなかに入れる商品シリーズであり,妖怪シリーズは,いわゆる百鬼夜行に示唆を得て制作されたフィギュアをおまけとして,アリス・コレクションは,ルイス・キャロルが制作した物語「不思議の国のアリスの冒険」および「鏡の国のアリスの冒険」に使用されていた,ジョン・テニエルの挿絵にもとづき,正確に立体化し彩色したフィギュアをおまけとして,キャンデーと共に箱詰めされる商品シリーズである。
本件はYによって控訴されたが,控訴は棄却された。しかし,控訴審である大阪高裁は,本件動物フィギュアおよび本件アリスフィギュアの模型原型については,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえないとして,それらの著作物性を否定したが,本件妖怪フィギュアについては,制作過程において制作者の個性が強く表出され,「高度の創作性」が認められるという認識を前提として,「本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,・・・・・・一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから,応用美術の著作物に該当するというのが相当である」と判示して,著作物性を認めている(大阪高判平成17年7月28日,最高裁ホームページ)。
加戸守行『著作権法逐条講義(四訂新版)』65頁以下,120頁(著作権情報センター,2003年)。
「著作権制度審議会答申説明書」8頁(文部省,昭和41年7月)。応用美術の著作物性に関する学説として,半田正夫『著作権法概説(第12版)87頁以下(法学書院,2005年),作花文雄『詳解著作権法(第3版)』100頁,132頁以下(ぎょうせい,2005年),斉藤博『著作権法(第2版)』81頁以下(有斐閣,2004年),田村善之『著作権法概説(第2版)』31頁以下(有斐閣,2001年)など参照。そのほか,半田正夫「応用美術の著作物性について」『転機にさしかかった著作権制度』43頁(一粒社,1994年),同「応用美術の保護−木目化粧紙の著作物性−」『著作物の利用形態と権利保護』58頁(一粒社,1989年)参照。
長崎地佐世保支決昭和48年2月7日〔博多人形「赤とんぼ」事件〕無体例集5巻1号18頁。牛木理一・著作権判例百選(第2版)22頁,松尾和子・著作権判例百選(第3版)24頁参照。
神戸地姫路支判昭和54年7月9日〔仏壇彫刻事件〕無体例集11巻2号371頁。紋谷暢男・著作権判例百選(第3版)22頁参照。同様に,ティーシャツに印刷された図案の著作物性が争われた事案において,判決は,本件原画は,「全体として十分躍動感を感じさせる図案であり,思想又は感情を創作的に表現したものであって,客観的,外形的にみて,ティーシャツに模様として印刷するという実用目的のために美の表現において実質的制約を受けることなく,専ら美の表現を追求して制作されたものと認められる。したがって,原画・・・・・・は,・・・・・・純粋美術としての絵画と同視しうるものと認められ,著作権法上の美術の著作物に該当するということができる」と判示し,著作物性を認定している(東京地判昭和56年4月20日〔ティーシャツ事件〕無体例集13巻1号432頁,判時1007号91頁。小野昌延・著作権判例百選(第2版)24頁参照)。
京都地判平成元年6月15日〔佐賀錦袋帯事件〕判時1327号123頁,判夕715号233頁。河野愛・著作権判例百選(第2版)26頁,生駒正文・著作権判例百選(第3版)26頁参照。
東京高判平成3年12月17日〔木目化粧紙事件〕知的裁集23巻3号808頁,判時1418号120頁。松井正道・著作権判例百選(第2版)28頁,土肥一史・著作権判例百選(第3版)28頁参照。