発明 Vol.101 2004-5
判例評釈
観光ビザにより日本に滞在した外国人が作画した図画を
使用したアニメーション作品において,図画を作画した
外国人が著作権法15条1項の「法人等の業務に従事する者」
に該当しないとした原審判断を違法とした事例
−アニメーションRGBアドベンチャー事件−
〔最高裁平15.4.11第2小法廷判決・判夕1123号94頁〕
大家 重夫
〈事実の内容〉

 原告は,中国本土出生で昭和51年から香港に居住する中国(香港)国籍の者である。
 被告は,日本のアニメーション等の企画撮影等を業とする会社である。
 原告が作画した別紙目録記載の本件図画を使用した被告のアニメーション作品「RGBアドベンチャー」がテーマパークで上映されたが,原告の氏名が表示されていなかったため,原告は,本件図画に基づく著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権に基づいて,被告に対し,本件図画を使用したアニメーション作品の頒布,頒布のための広告及び展示の差止め及び損害賠償の支払いを請求した事案である。
 (第1回目)
 原告は,平成5年7月15日,観光ビザで来日した。被告代表者Aは,被告において,原告を雇用することとし,賃金は月額12万円,原告のため賄い付き住居を提供し,就労条件を説明し,原告も了承した。Aは,その後,原告に就業規則を示した。就業規則中には従業員が業務上作成した著作物の著作権は,被告に帰属する旨の条項があった。被告は,原告作業に必要な事務用品類一切を用意した。
 平成5年7月頃,原告は,被告から訴外Cのためのキャラクターの作成を指示されデザインを作成し,Aの指示に基づき修正し本件図画1ないし5,同18ないし22を完成し,Aへ交付した(計10枚)。右企画は採用されなかった。
 (第2回目)
 原告は,在留期間徒過のためいったん帰国,同平成5年10月31日,観光ビザで再来日した。原告は,被告から訴外Dのためのキャラクターの作成を指示されデザインを作成し,Aの指示に基づき修正し,本件図画6及び9を完成させ,Aへ交付した(計2枚)。この企画も不採用だった。原告は,平成6年1月29日在留期間徒過で帰国した。
 (第3回目)
 平成6年5月15日,原告は,今度は,いわゆる就労ビザで来日した。
 被告は,RGBアドベンチャー(以下RGB)を製作しようとしていた。被告は,既に原告が作画した本件図画1ないし6,同9,同18ないし22をRGBに用いることとした(計12枚)。さらに被告は,平成6年3月,香港滞在中の原告に対し,本件図画8の追加を指示して作成させた(4月上旬)。来日後の5月下旬に本件図画7を,同年10月から11月までに本件図画10ないし17を,それぞれ完成させた(計10枚)。平成7年3月頃から,原告被告間に意見の対立が生じ,原告は,平成8年6月6日,退職した。
 (第1回目)(第2回目)の来日期間,原告は基本給の名目で毎月12万円(平成5年8月分は特別手当の名目でさらに5万円)の支払いを受け,内訳記載の給与支払明細書も交付された(平成6年1月29日帰国。平成6年3・4・5月分は不支給)。
 (第3回目)原告は,就労ビザで平成6年5月15日来日した後から同8年6月6日退職までの間,被告から平成6年6月分から毎月基本給名目で24万円,特別手当名目で1万円(平成7年5月分以降別に交通費9000円)の支給を受け,これから雇用保険料,所得税,雑費の控除を受けていた。平成5年7月から同年12月まで,賄い付きで被告従業員宅に居住,右費用は被告が負担した。
[1審東京地裁平成11年7月12日判決]
 原告と被告との間に平成5年7月15日頃,雇用契約が締結されたと解した。
1.被告の代表者Aは,原告と契約締結にあたって,勤務時間,給与等の諸条件を説明し,原告もこれを了解し,その合意内容は雇用契約と解するのが合理的である。
2.被告から原告に対し,デザイン作成の出来高と関係なく,給与等の名目で毎月定額が支払われ,給与支払明細書が交付され,その後,雇用保険料等の源泉徴収がされ,原告が一切異議を述べなかったことに照らし,請負等の業務に対する対価と解する余地は全くない。
3.原告に賄い付き下宿を提供し,原告のアニメーションに関する技術習得の希望に沿って協力していた事情に照らすと,給与としても必ずしも低額はでない。
4.作業状況を見ると,就業に必要な作業場所,道具はすべて被告が用意し,被告は原告に対し,デザイン作成について個別的具体的な指示をし,その指示に従って,原告が作業している。これらの事情を総合的に考慮すると,原告と被告間の契約は,雇用契約である。
 本件図画は原告被告間の雇用契約に基づいて作成されたというべきであるから,本件図画は,法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである。認定事実に照らし,本件図画は,被告の法人名義の下に公表することが予定されているものであるといえる(被告の就業規則中には,著作物の作成者に著作権を留保する旨の別段の定めはなく,かえってその著作権を被告に帰属させる趣旨の定めがある)。原告に著作権が帰属することを前提とする本件請求は理由がない。
[2審東京高裁平成12年11月9日判決](判例時報1746号135頁)
 2審では,被告・被控訴人において,就業規則を印刷したのは平成6年1月以降と認定し,Aが原告・控訴人へ就業規則を示して勤務条件を説明した事実を認めなかった。
 (第1回目及び第2回目の来日期間中約6カ月間に合計77万円の支払いを受けているが)「そこには,健康保険料や雇用保険料,所得税等の控除はなく」,控訴人が右額の支払いを受け,支払名目が給料であっても,「控訴人が被控訴人との間で雇用契約を締結したことを認めることはできない。」
 「第1回目及び第2回目の来日期間中に控訴人が創作した著作物が雇用契約に基づくものであると認めるためには,控訴人が就業規則を提示されたことの確認書あるいは雇用契約書の存在など何らかの明確な客観的な証拠を要するところ」本訴において証拠はない。
 「控訴人は,第3回目の来日期間中の平成6年(1994年)5月16日から平成8年(1996)年6月5日までの間,被控訴人から,1か月当たり基本給名目で24万円,特別手当名目で1万円(平成7年5月分以降は更に交通費9000円)の支給を受け,これから雇用保険料(1002円又は1127円),所得税(1万3170円又は1万2800円)及び雑費(平成7年4月分まで月額4万円)の控除を受けるに至っており,右内訳が明記された給与支払明細書の交付も受けていること」「第3回目の来日の平成6年(1994年)5月15日の翌日からは,控訴人は雇用契約に基づき被控訴人に勤務するようになったものと認めることができる。」とした。
 すなわち「第1回目の来日期間中に作成,創作された」本件図画1ないし5,19ないし23(筆者注,1審では,18ないし22である),「第2回目の来日期間中に作成,創作された」本件図画6及び9,「その後の香港滞在中に作成,創作された」本件図画8については,「雇用契約に基づき職務上作成されたもの」ではなく,「著作権法15条1項の規定に基づき被控訴人が著作者であると認めることはできない」。
 従って,本件図画は,控訴人が被控訴人の業務に従事する者として作成したものではなく,被控訴人がその著作者であるとすることはできない,被控訴人による本件アニメーション作品の制作等は,控訴人の著作権,著作者人格権の侵害に当たる。
 「しかし,第3回目の来日期間中に作成,創作された」本件図画7,10から17までのものは,「雇用契約が成立した後に作成,創作されたものであり,」「被控訴人の発意に基づくもので」「これらの本件図画は被控訴人の法人名義の下に公表されることが予定されているものであると認められるので,」法15条1項の規定に基づき,被控訴人が著作者であると認める」とした。被告・被控訴人は上告及び上告受理の申立てをし受理された。
[最高裁判決平成15年4月11日判決](判例タイムズ1123号94頁)
 最高裁は,原審の判断を次の理由で是認しなかった。
 「(1)著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が『法人等の業務に従事する者』であることを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明かであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である。」
 「被上告人は,1回目の来日の直後から,上告人の従業員宅に居住し,上告人のオフィスで作業を行い,上告人から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払いを受け,給与支払明細書も受領していた」,「被上告人は,上告人の企画したアニメーション作品等に使用するものとして本件図画を作成した」。「これらの事実は,被上告人が上告人の指揮監督下で労務を提供し,その対価として金銭の支払いを受けていたことをうかがわせるものとみるべきである。ところが原審は,被上告人の在留資格の種別,雇用契約書の存否,雇用保険料,所得税等の控除の有無等といった形式的な事由を主たる根拠として,上記の具体的事情を考慮することなく,また,被上告人が上告人のオフィスでした作業について,上告人がその作業内容,方法等について指揮監督をしていたかどうかを確定することなく,直ちに3回目の来日前における雇用関係の存在を否定したのである。そうすると,原判決には著作権法15条1項にいう『法人等の業務に従事する者』の解釈適用を誤った違法がある」。原審の判断に判決に影響を及ぼすことが明かな法令の違反がある。原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。さらに審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻す。

<評 釈>

 はじめに
 著作権法第15条について,次のような解釈と評価がある。
 (1) 自然人でない法人等(2条6項により法人格がなくても代表者の定めがあればよい)が著作物を創作しうるということを定めた点から,法人著作と呼ばれる。(注1)
 (2) また,法人等の業務に従事する自然人が職務上著作した著作物の著作者を法人とする点に着目し,職務著作とも呼ばれる。
 (3) 特許法35条は,法人が発明者となることを認めていないが,自然人たる従業員の職務上の発明について,法人が権利者たることを認めている。自然人が権利を原始的に取得し,使用者たる法人は通常実施権を取得し,また特許権を承継できる。この職務発明に比べて,法人等が著作者たりうる職務著作は,職務発明と対照的である。職務発明においては,法人が権利の譲渡を受けた場合,「相当の対価」を支払わねばならないが,著作権の場合,そのような悩みはない。
 (4) この条文により法人等は,著作者人格権ももつ。
 (5) コンピュータ・プログラムを職務著作した場合は,その他の著作物を創作した場合と要件を異にし,「法人が自己の名義で公表する」ことを不要としている。
 この日本の職務著作の規定は,外国法と比べてみると独特で(注2),「大陸法系諸国が腰を抜かすような」大胆な規定であるという批評もある(注3)
1.まず,原告は外国人であるが,準拠法が日本法であることについて争いはなく,1審,2審とも日本法であることを前提としている。職務著作の準拠法について,著作権の効力の準拠法である日本と考えるべきであろう。不法行為地の法(法例11条)あるいは著作物作成者と法人等の雇用者との間の契約関係についての準拠法によると考えることもできる(注4)
2.原告の描いた図画は,被告のアニメーション映画に使用されたが,原告が「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」ではなく,また原告も映画の著作物の著作者,著作権者であるとの主張はしていない(16条や29条でなく15条の問題)。原告は,被告に自己の著作物本件図画を提供したが,委任あるいは請負といった対等の立場で行ったと主張,15条の適用外と主張していると考えられる。被告は15条の適用を主張している。
3.この15条の立法趣旨は,加戸守行氏によれば,ア.「従業員等の職務上の著作物に関し,使用者及び従業員の意思を推測して,一定の場合に使用者に著作者である地位認めた」,また,イ.「著作者は自然人が原則だが,現実に会社が著作物を作成し出版するという形で,社会的にもその著作物に関する責任を負い,会社として対外的信頼を得ているという場合が多い」ことがあげられている(注5)。さらに田村善之教授のいわれるように,ウ.法人等の著作活動にインセンティブを与えるため,エ.個別の創作者の権利行使を制限し,権利の所在を集中するため,ということもある(注6)
4.条件。15条1項は,次の要件を充たせば,原始的に法人が著作者になると定める。
 《1》法人その他の使用者(以下,法人等)の発意に基づく(著作であること)こと。《2》法人等の業務に属する者の(著作であること)。《3》職務上作成する(著作であること)。《4》法人等が自己の著作の名義の下に公表すること。《5》作成時に契約,勤務規則その他の別段の定めがないこと。この条件が,全部充たされれば,被告会社が著作者となる。本件は,この《2》の問題,15条の「法人等の業務に従事した者」の解釈について判断した初めての最高裁判決である。
5.要件の検討
 (1)「法人その他の使用者の発意」
ア.まず,「法人その他の使用者」には,個人としての使用者が含まれるか,という問題がある。この点について,法2条6項により,「法人格を有しない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」が「法人」の取扱いを受けることから,「その他の使用者」には,個人の使用者が入ると解され,学説も一致している(注7)
イ.この使用者が個人の場合は,「発意」は明確だが,法人の場合は不明確な場合が多いと思われる。この点について,斉藤博教授は,「法人等のイニシヤチブは,著作物作成の前段階で示される必要がある」とする(注8)。野一色勲教授は,「法人等の発意」とは,使用者が創作の方針を示し,従わせ従業者の作成した表現を自由に修正しうる立場で,その権限を自由に行使できることを意味し,「発意」には「使用者の強固な意思」がこめられていると考える(注9)
 これに対し,半田正夫教授は,使用者には個人の使用主を含み,「使用者の発意に基づかないで被用者が任意に職務上作成した著作物については,法文上はその適用を否定すべきように見受けられるが,そのように厳格に解すべきでな」く「使用者による事後の承諾が得られた場合」「さらに広く,使用者の意図に反しない場合には,この要件をみたしたと解して差し支えない」とされる(注10)
 私も半田正夫教授と同じく,使用者の発意は,厳密に解さず,使用者の意図に反しない程度であればよいと解する。
 (2)「法人等の業務に従事する者」について
 さて,この事件において,原告が「法人等の業務に従事する者」かどうか,である。
ア.「法人等の業務に従事する者」に,まず,雇用関係にある者が入ることに異論がない。雇用関係になくても,法人等の「指揮監督」の下にある者をどう考えるか,である。
 半田正夫教授は,「使用者の指揮監督下に服するのであれば,それは委任契約や組合契約に基づく場合であってもこれに含めて差し支えない。」という(注11)
 加戸守行氏は「雇用関係のない部外者に対して委託し,あるいは委嘱して作成してもらったものは,使用者の支配下にある業務従事者の作成物に該当しない」といわれるが,しかし,派遣労働者について,「具体的な指揮命令は派遣先から受けるということを形式的身分関係より重視し,積極的に解してより」という(注12)
 田村善之教授も「雇用契約か否かということは問題なのではない」「形式上,委任や請負という形でも」「実態において,法人等の内部において従業者として従事している者と認めらるる場合は別論である。」とされる(注13)
 作花文雄内閣法制局参事官も「相当程度に具体的な指揮命令を行っていれば」業務に従事する者に含める趣旨のようである(注14)。文化庁「コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書」(平成4年3月)(注15),辰巳直彦教授(注16),小畑明彦弁護士(注17)も同様の見解である。
イ.斉藤博説。これらの見解に対し,斉藤博教授は,「法人等の業務に従事する者を法人等と雇用関係にある者に限ろうとする見解」である(注18)。「職務著作は,『雇用契約に基づき著作される著作物』につき論じうる」とされ,「昭和45年法の背景にもこのような考えが存していたといえよう。」といわれ,著作権制度審議会答申及び同説明書を根拠とされる(注19)。さらに,労働者派遣契約に関しても,「15条の定める『使用者』に対応する被用者を考えるとき,それに,団体その他の雇い主が『著作者』の地位を取得する制度の特異な性格に照らすとき,『業務に従事する者』を雇用関係の外にある者にまで広げることは妥当でない。『著作者』の地位を取得できる『使用者』は,雇用関係から生ずる社会保険や安全配慮義務など,労務についても全面的な責任を負う者でなければならないであろう。」とし,雇用関係にある者に限定される(注20)
ウ.請負による著作物の作成・「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備に関する法律」(労働者派遣事業法)により,派遣の場合について
 従って,斉藤博説では,「請負人には著作物の作成上より強い独立性が認められ,したがって,請負人が『著作者』の地位を獲得する」とされ,請負人が「法人等の業務に従事する者」になることは,考えられない(注21)。また斉藤博説は,あくまで雇用関係にある者に限定し,派遣労働者が派遣先の「法人等の業務に従事する者」に該当する余地はない(注22)
 多数説は,委任や請負の場合でも,実態が従業者としてであれば,あるいは具体的な指揮命令を受けていれば,「法人等の業務に従事する者」であるとする(注23)
 私も,この多数説に賛成する。
 加戸守行氏は,前述のように雇用関係を原則としつつも,「具体的な指揮命令は派遣先から受けるということを形式的身分関係より重視し,積極的に解してよい」とされ(注24),作花文雄内閣法制局参事官は,派遣プログラマーの協力を得る場合,「派遣プログラマーは派遣元と雇用関係があるとはいえ,具体的な指揮命令は派遣先から受けるものであること等の実態から判断し」,本条の「業務に従事する者が職務上」作成するものに当たるとする(注25)
 もっとも,辰巳直彦教授,小畑明彦弁護士は,派遣労働者の場合は雇用関係に準じて認め「法人等の業務に従事する者」に含めるが,「法人等の業務に従事する者」とは,「契約の種類を問わず,法人等の組織事業上・営業上の一体関係の中に組み入れられて,その指揮命令下に,法人等との関係で自らに割り当てられた職務を遂行するという関係にある者」であるとする見解を提出している(注26)
 この見解は,法人からの指揮命令があるだけでは,広すぎると考え,「契約の種類を問わず,法人等の組織事業上・営業上の一体関係の中に組み入れられて」いることを要件とする。法人からの指揮命令,指揮監督関係のある場合は,ほとんど,「法人等の組織事業上・営業上の一体関係の中に組み入れられている」関係であり,一体的関係があれば,指揮監督でき,両者は実質的に同じと考えるが,この表現による見解を支持したい。
 本事件で,被上告人(原告・控訴人)は,「法人等の業務に従事する者」である。
 (3) 職務上作成すること
 通常,業務に従事する者であれば,(3)の「職務上作成する」であるが,事実関係によっては,法人等の業務に従事する者だが,「職務上」のものではないこともある。職務上作成するものでない場合,たとえば新聞社のカメラマンが,海外出張を命ぜられ,職務上撮影しなければならない写真を撮影し,ついでに自己の個人的趣味の動植物の写真を撮った場合,これらの写真の著作権は,職務上のものではなく,15条の適用はない。
 (4) 法人等が自己の名義の下で公表すること,について
 次のような考え方がある。
第1説,創作の時点で,当該著作物が法人等の名義で公表されることを予定されたものであるもの(注27)
第2説,当該著作物が公表される予定のないものであっても,仮に公表されるとすれば,その公表が法人名義でなされるもの(注28)
第3説,法人名義で公表する性質のあるもの(注29)
 本事件の第1審は,第2説をとっており,これが多数説で私もこれに賛成したい。
 (5) 作成時に契約,勤務規則その他の別段の定めのないこと
 この規定があるため,従業員が一人で作成した著作物をのちに,個人の著作物として返戻してもらい個人の名前で発表することも,外部の作家がある会社の歴史を請け負って執筆しても,一定期間が経過すれば,自己の作品として,個人の全集に採録することもできる。
 新聞社等で,従業員たる記者が連載記事を書き,署名入りでも就業規則等により新聞社が著作権をもつが,のちに単行本にする場合,加筆の程度等一定の条件を定め,記者に印税が支払われる例が多いが,これも「別段の定め」を行っているからである。
 著作権法15条を廃止し,すべて契約で処理せよ,という意見があるが,私はこの「別段の定め」を活用すれば,契約で処理と同じことができると考える。
6.この判決について
 この最高裁判決は,被上告人の1回目及び2回目の来日に関し,職務著作の成立を否定した原審について,原審は,雇用契約書の作成がない等の形式的な面を重視し,被上告人の業務の実態,指揮監督の有無等についての審理が不十分と上告審は考え破棄した。
 この最高裁判決は,雇用契約にある者は含まれるが,それにとどまらず,指揮命令に従う関係にある者も含むか,については判断しておらず,不明とみるべきであろう。したがって,この判決からは,斉藤博説である可能性も排除されていない。
 ただ,高裁判決が,在留資格の存否,雇用契約書の存否等の形式的な事由等でもって,雇用契約関係にあるかどうかを判断しているのを問題としているのである。
 直接,半田正夫説,斉藤博説にふれてはいない。しかし,1審及び最高裁判決が,半田正夫説と親和性があり,原審は,斉藤博説に結びつきやすいと思える。
 私は,次のように考える。
ア.日本では,明治20(1887)年版権条例以来,学校,会社等団体の名義で書籍等が出版され,団体等が著作権者としてはもちろん,著作者たりうることについて,違和感がなかった。版権条例は,官庁学校会社協会等が,その著作の名義をもって,出版した文書図画の版権は,原始的に官庁学校会社協会等に帰属するとした(7条4項)。この版権条例は,従来の出版条例が版権を出版する時にと表現していたが(明治8年出版条例2条は「図書ヲ著作シ・・・・・・出版スルトキハ30年間専売ノ権ヲ与フベシ,此専売ノ権ヲ版権ト云フ」),「版権ハ著作者ニ属シ著作者死亡後ニ在テハ其ノ相続者ニ属スルモノトス」(版権条例7条1項)と,明瞭に,版権を著作者に帰属するとしたことである。つまり,7条1項と7条4項を読めば,官庁学校会社協会等が「著作者」という解釈も導き出せると思う(なお,版権条例は,官許専売制から登録制とし(3条),22条,未公表著作物の保護規定で,公表権の,28条の規定で同一性保持権,氏名表示権の萌芽を見ることができ,21条では,現在の不正競争防止法の規定する混同招来行為的な行為を罰している。)。
イ.現行著作権法制定のための著作権制度審議会は,昭和37年から始まったが,当時の民法学界において,法人実在説(有機体説)が法人擬制説より優勢で,15条の創設について特に異論はなく,昭和37年5月から昭和41年4月までの著作権制度審議会の委員には,東季彦,戒能通孝,勝本正晃,中川善之助,平賀健太,江川英文,高野雄一,田上穣治といった法律学者がおられたが,条文案に意見を述べる機会が全くなかったとは思えない(注30)
ウ.法人を著作者にするについて,自然人とできるだけ内実において同等とみなしうる団体に限定する考え方よりも,外観からみて現実に活動している団体を想定したと考えていた。だから,代表者の定めさえあれば,権利能力なき社団財団も法人と取り扱った。
エ.著作権法2条6項という規定の存在は,「法人」を厳格に限定するという考えを採用していないことを示している。
オ.以上のような観点から見て,外観的にみて,団体(個人経営者を含む)の下で働く者が,その団体の具体的な指揮命令に服し,その団体の従業員の一員とみなしうる状況にあれば,「法人の業務に従事する者」と考えていいという解釈が現行著作権法制定後30年間定着している(注31)。雇用契約にある者は,もちろん,(著作権法15条の)「法人等の業務に従事する者」であるが,この雇用契約にあるかどうかの解釈にあたって,在留資格の種別,雇用契約書の存否等の形式的な要件を重視した原審高裁判決を排斥した最高裁判決を支持する。
 (なお,1審では,原告作画の1,2,3,4,5,6までと,9,18,19,20,21,22までの12枚,香港滞在中作画の8,3回目に来日の時の7,10,11,12,13,14,15,16,17の10枚,合計22枚について,すべて,総合的に考慮し,職務著作のものとした。
 2審では,1,2,3,4,5及び19,20,21,22,23,それに6,9,香港滞在時の8の合計13枚は,職務著作に当たらないが,しかし,3回目来日以来の,7,10,11,12,13,14,15,16,17,の9枚は職務著作に当たるとした。
 1審では,1から22までに番号をふっているが,2審では,合計で同じく22枚だが,[18]が存在しない。これは,どういうことか不明である。)


(おおいえ しげお:久留米大学法学部教授)


《注》

 明治32年の旧著作権法には,法人名義の著作物の保護期間の規定はあったが,法人が著作者たりうるか,についての規定はなかった。
著作権法(明治32年3月4日公布)第6条「官公衛学校社寺協会会社その他団体に於て著作の名義を以て発行又は興行したる著作物の著作権は発行又は興行のときより30年間継続す」との規定を置いたが,明治20年版権条例7条4項,明治26年版権法7条4項の規定は置かなかった。
版権条例(明治20年12月28日公布)には,次の条文があった。
第7条第4項「官庁学校会社協会等に於て著作の名義を以て出版する文書図画の版権は其官庁学校等に属するものとす。」
第10条3項に「官庁又は学校会社協会等に於て著作の名義を以て出版する文書図画並著作者死亡の後に出版する文書図画の版権年限は版権登録の月より計算し35年とす。」
版権法(明治26年4月13日公布)に2つの条文は,そのまま引き継がれた。
第7条第4項を旧著作権法が引き継がなかったことは,水野錬太郎の失策と思われる。
旧法制定時,国会質問された。貴族院の著作権法案特別委員会(明治32年1月21日審議)。
「委員 菊池大麓 学校にて著作したるものは誰の版権に属するや。
政府委員(水野錬太郎)学校が版権者なり。
委員 菊池大麓 若学校より出版するも著作者の署名ありたるときは如何。
政府委員(水野錬太郎)勿論著作者が版権を有するなり。若し之を学校に譲与したるときは学校の所有者に属するなり。
委員 加藤弘之 此6条の協会会社と云ふようなことは何かしっかり区別があるのか,斯んなやうに分けて唯書いたのですか。
政府委員(水野錬太郎)実は此字は極くぼんやりした字で現行法に斯う云やうな協会会社と云ふことがありますから現行法を真似ただけでしっかりした区別はない・・・のです。」
 (団体が著作権者になりうることは明らかだが,著作者になるかどうかは不明である。)
 学説は両説に分かれていた。
ア.団体が著作者になりうるという説。前述のような国会答弁をした水野錬太郎は,「著作権法」(明治38年法政大学講義録)復刻版80頁(句読点筆者)で,次のように述べ,この説を採った。「法人著作権の主体は必ずしも自然人に限らず。国府県,協会,会社等の如き法人も亦其主体たることを得。例えば此等法人が其機関たる自然人をして著作せしめたる場合に於ては著作物の著作権は其自然人に属せすして法人に属するか如し。唯この場合に法人は事実著作したるものに非さるか故に原始著作権(オリジナルライト)を有するものに非すして伝来著作権(デリバチブライト)を有するものなりとの説あり。即ち原始著作権は自然人に属するものにして法人は其著作権を継承したるに過ぎすと云ふにあり。此説も亦一理ありと雖も我が著作権法に於ては,法人の原始著作権を認むるものの如し(第6条)。」。勝本政晃「日本著作権法」61頁(78頁)(昭和14年)は「公務員,社員,被用者等が職務に関して為したる著作」「に関しては,特約又は職務規定に依り,官署,会社,使用主が直接に著作者」「其名義によりて公表せらるることが予定せらるるものなる場合に於ては,之等の者は,其著作に関しては,官署,法人の機関(Organ)乃至手足(Instrument)として著作せるものと云ふべく,従って,直接に官署,法人,使用者が著作者」。城戸芳彦「著作権研究」260頁。榛村専一「著作権法概論」90頁,萼優美「条解著作権法」96頁,同旨。[判例]龍渓書舎事件(東京地裁昭和52年3月30日判決判時845号25頁)は法人が著作権を原始的に取得したとする(著作権法附則4条は「新法第15条及び16条」は,新法「施行前に創作された著作物」に適用せず,としていた。龍渓書舎事件では,旧法も新法と同趣旨と考えた。)。
イ.否定説。小林尋次「現行著作権法の立法理由と解釈」98頁は団体が著作者であるという説に反対。旧法6条は,団体が著作者であるという論拠にならぬ。ドイツ法(大家注,1901年のLUG3条 公法上の法人を発行者とし且その著者名を表紙献文序文末尾に表示しないで著作物を公表した場合当該法人を著作者と見なす。)に当たる規定がないという。小林前掲138頁。山本桂一「著作権法」77頁は,6条は,「団体が当然著作権者になるという定めではなく,団体が著作権者となった時の規定である。」とした。
 諸外国の状況。[ドイツ]法人,団体が著作者になることはない。UrhG7条,UrhG2条2項。[フランス]雇用者の指示で創作しても著作権は被用者に原始的に帰属。集合著作物については,その名の下で公表される自然人又は法人が著作者の権利を付与される。13条,9条3項。後掲長塚真琴論文参照。[イギリス]職務の過程で作られた著作物又は映画の著作物は,反対の特約がなければ,原始的に雇用者に帰属する。9条2項,11条2項,45条2項,4項。著作者人格権までは帰属させていない。[香港]イギリスとほとんど同じ。14条。[アメリカ]著作物が職務著作物に当たる場合,使用者又はその著作物を他者に作成させる者が著作者とみなされ,当事者の署名による反対の書面の合意がないかぎり,著作権に含まれるすべての権利が使用者等に帰属する(201条b)。(「外国著作権法概説−英・米・独・仏・伊」2003年著作権情報センターによる)。斉藤博論文(後掲「職務著作とベルヌ体制」)によれば,雇用者に著作者の地位まで取得させる国は,カナダ,中国,アイルランド,イスラエル,オランダ,ニュージーランド,トルコ,イギリス,アメリカ。日本。ほとんど,英米法系のコモンロー・アプローチ。日本は,コンチネンタル・アプローチなのに,職務著作は別。
 斉藤博「変動する国際著作権界」法政理論23巻3・4号374頁1991年。
 長谷川浩二・L&T22号68頁。長谷川は,特許権についての最高裁平成14年9月26判決民集56巻7号1551頁(FM信号復調装置事件)判決を引用し,不法行為地として日本法(法例11条1項),著作権等の効力の準拠法としても日本法とする。職務著作についても著作権の効力としてみれば同じ。職務著作を法人等と著作物作成者との契約関係とみても契約について,暗黙の合意があるとみるか,行為地が日本であるとも見うるとする。田村善之「著作権法概説[第2版]」565頁は使用者と被傭者の労働関係の準拠法国の著作権法の職務著作の規定で一元的に処理すべしと説く。東京高判平成13.5.30判例時報1797号131頁キューピー事件2審判決参照。
 加戸守行「著作権法逐条講義 四訂新版」144頁。
 田村善之「職務著作の構造」ジュリスト1132号38頁,特に39頁。
 金井重彦・小倉秀夫「著作権法コメンタール」259頁,斉藤博236頁,半田正夫「著作権法概説11版」64頁,田村善之「著作権法概説2版」379頁。指揮命令しうる小説家,漫画家,ボス教授が,弟子に作品を書かせ,自分の名義で発表するいわゆる「代作」について,著作権法121条に非親告罪の罰則があるが,15条により合法化される場合がある。釈然としないがやむをえない。斉藤博「職務著作」(半田正夫・紋谷暢男「著作権のノウハウ第6版」100頁),柳澤眞実子「ゴーストライターの氏名表示権」(半田正夫先生古稀記念論集111頁),大家重夫「著作権を確立した人々 第2版」172頁参照。
 斉藤博「職務著作」(斉藤博・牧野利秋編「裁判実務大系27巻」236頁)。
 野一色勲「職務上の著作」(知財管理51巻3号348頁)。
 半田正夫「著作権法概説 第11版」65頁,判例時報1001号158頁(地のささめごと事件の評釈)。
 半田正夫「著作権法概説11版」65頁。半田教授は,地のささめごと事件判決(東京地裁昭和55年9月17日判決判時975号3頁)の判例批評(判時1001号158頁)において,すでに,1.法人等と著作行為従事者との間に指揮監督の関係にあり,2.後者の著作行為が当事者の意図に反しない場合という要件を設定されている。
 加戸守行「著作権法逐条講義・四訂版」145頁(平成15年)。加戸守行「著作権法逐条講義」(昭和49年),「改訂 著作権法逐条講義」(昭和52年),「三訂 著作権法逐条講義」(昭和54年)までは,雇用関係のない部外者への委託,委嘱による著作物は該当しないとしたが,「全訂 著作権法逐条講義」(平成元年)以降,いわゆる労働者派遣事業法による派遣労働者について,「具体的な指揮命令を派遣先から受けるということを形式的関係より重視」し,積極的に解するとする。「雇用関係のない部外者に対して委託し,あるいは委嘱して作成してもらったものは,使用者の支配下にある業務従事者の作成物には該当しません」とあるから,派遣労働者の場合のみに限定し,具体的な指揮命令を受ける場合一般に拡大するのではないようである。
 田村善之「著作権法概説2版」381頁。
 作花文雄「詳解著作権法2版」187頁。
 民商法雑誌107巻4・5号618頁収録。
 辰巳直彦「法人著作−コンピュータ・ソフトウエアを中心として」民商法雑誌107巻4・5号539頁,特に561頁。雇用関係にある者に限らない。派遣労働者も入る。
 金井重彦・小倉秀夫編「著作権法コンメンタール上巻」261頁において,「契約の種類を問わず,法人等の組織事業上・営業上の一体関係の中に組み入れられて,その指揮命令下に,法人等との関係で自らに割り当てられた職務を遂行するという関係にある者」が妥当とする。
 斉藤博「著作権法」(2000年3月)114頁以下。
 著作権制度審議会答申「法人著作,職務著作 雇用契約に基づき使用者の指揮と監督の下における職務遂行の過程において,使用者の業務の範囲に属する事項の用に供するため,使用者の発意に基づいて創作される著作物で,使用者の指示とその著作名義の下に公表されるものの著作者は,その使用者であるものとする。なお,以上のほかは,職務著作について特段の規定を設けることはしないものとする。」
 (答申説明書)「1.従来,著作の能力は自然人のみが有するものとされてきたが,今日の著作物の創作の実態からすれば,法人等の活動としての著作行為がなされるものと解することを適当とする事例も多いと認められる。また,著作物を創作した者が,著作者であり,著作権は原始的に著作者が取得するものとする原則についても,雇用契約に基づき著作される著作物に関しては,使用者と創作者たる被用者との関係につき特別の考慮を要するものがある。しかしながら,一般に法人等団体の作成した著作物,雇用契約に基づき職務上著作された著作物といっても,その創作態様はさまざまであり,雇用契約の内容も一様ではない。したがって,法人著作・職務著作について何らかの規定を設ける場合には,これが著作権制度上の著作者,著作権者に関する原則の例外であるところからも,その適用範囲は限定されたものでなければならない。よって,著作物の創作の実態に即するとともに社会的に妥当と認められるものとして,この種の著作物のうち使用者の指示とその著作名義の下に公表されるものについてのみ,その著作者は,当該使用者であるとし,その著作権も使用者が原始的に取得するものとすることとした。
2.以上に従って措置するほかは,雇用契約に基づいて創作された著作物の著作権の帰属については,その態様がさまざまであり権利関係を画一的に律する規定を設けるに適しないこと,法律上特に規定しなくとも雇用契約の内容において解決することが可能であること,および前述のような規定を設けるとすれば,職務上の著作に係る著作権の帰属に関する問題の相当部分が解決されるものと考えられることから,法律上特に規定を設けることはしないこととした。」
 斉藤博「著作権法」118頁。
 半田正夫・紋谷暢男「著作権のノウハウ6版」100頁。
 斉藤博「職務著作」(裁判実務大系27斉藤博・牧野利秋編「知的財産関係訴訟法」238頁)),斉藤博「著作権法」118頁。
 水戸重之弁護士は,「雇用関係のない外部の者に業務委託(請負契約または委任契約等)して作成させた場合の外部スタッフは入らない」としつつ「形式上委任や請負という形をとっていても,実態において,法人等の内部において従業者として従事している者と認められる場合は,『法人等の業務に属する者』に該当する」,とする(「著作権の法律相談」129頁)。田村善之「著作権法概説2版」381頁は,委任や請負という形をとっても実態が法人等の内部において従業者として従事していると認められれば別とする。
作花文雄「詳解著作権法2版」187頁は「受託者の創作活動について,委託者が雇用者と同様に相当程度に具体的な指揮命令を行っている場合」は,受託者は,業務に従事する者が,職務上作成に該当する。SMAP事件(東地判平成10年10月29日判例時報1658号166頁)におけるフリーライターの記者は,法人としての活動に収斂されるとし結論妥当とする。
 著作権法逐条講義・四訂新版145頁。
 作花文雄「詳解著作権法2版」187頁。
 辰巳直彦「法人著作−コンピュータ・ソフトウエアを中心として」民商法雑誌107巻4・5号561頁以下。小畑明彦「著作権法コメンタール上巻」(金井重彦・小倉秀夫編)261頁。
 中山信弘「著作権判例百選3版」84頁。野一色勲・民商法雑誌107巻4・5号603頁。
 新潟鉄工事件1審,2審判決東京高裁昭和60年12月4日判決判例時報1190号143頁,本件の1審2審もこの説をとる。多数説が支持。野一色勲「民商法雑誌107巻4・5号589頁」は,第2説を採用するならば,15条2項の新設は不要とする。また条文に素直であり,第1説を妥当とする。又,この条文を「法人等の自己の著作の名義を表示した」著作物というように,「公表」を削除することを主張する。
 紋谷暢男・コピライト510号5頁。
 「著作権法百年史 資料編」(平成12年・監修文化庁)249頁以下。
 なお,現著作権法制定時の意見として,国立国会図書館「著作権法の諸問題」78頁〜83頁によれば,伊藤信男・日大法学32巻2号62頁,久々湊伸一・著作権研究1号71頁,森田孝・愛知学院大学論叢法学研究10巻11号131頁が,15条を批判している。1950年代から1970年代ころまでは,我妻栄「民法総則(民法講義I)」(昭和26年)(岩波書店)の(法人について)「個人以外に,これと同様に,一箇独立の社会的作用を担当することによって,権利能力の主体たるに適する社会的価値を有するもの」とする有機体説が有力で,1970年ころから川島武宜「民法(三)」(有斐閣全書)(昭和30年3版),同「民法総則」(法律学全集)(有斐閣)(昭和40年)の法人擬制説が有力になったと思う。著作権法は有機体説の影響下に制定されたとも考えられる。
 名古屋地裁平成7年3月10日判決(判例時報1554号136頁在庫管理プログラム事件)は,雇用関係に限るとしているが,東京高裁平成10年2月12日判決判例時報1645号129頁,東京地裁平成10年10月29日判決知的裁集30巻4号812頁,東京地裁平成5年1月25日判例時報1508号147頁,大阪地裁平成7年3月28日判決知的裁集27巻1号210頁等は,指揮命令(監督)関係説を採っていると考えられる。


◎参考文献

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千野直邦「法人著作の概念−世界の著作権法にみられる二つの思潮」(「民法と著作権法の諸問題−半田正夫教授還暦記念論集」499頁)
小泉直樹「知的財産と法人の権利」民商法雑誌107巻4・5号495頁1993年2月
斉藤博「職務著作とベルヌ体制」民商法雑誌107巻4・5号514頁1993年2月
辰巳直彦「法人著作−」民商法雑誌107巻4・5号539頁1993年2月
三木茂「ソフトウエアの委託開発と法人著作の関係」民商法雑誌107巻4・5号572頁1993年2月
野一色勲「法人著作と退職従業者」民商法雑誌107巻4・5号589頁1993年2月
岡邦俊「職務著作と著作者人格権」著作権研究23号26頁1997年3月
斉藤博「職務著作」(「裁判実務大系27 知的財産関係訴訟法」234頁)1997年6月
長塚真琴「ソフトウエアの職務著作に関するフランス法」
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田村善之「職務著作の要件構造」ジュリスト1132号38頁1998年4月15日
斉藤博「著作権法」有斐閣・2000年3月
柳沢眞実子・コピライト478号63頁(高裁判決の判例紹介)2001年2月
野一色勲「職務上の著作」知財管理51巻3号345頁2001年3月
加戸守行「著作権法逐条講義三訂新版」2001年7月
田村善之「著作権法概説第2版」2001年11月
山川隆一・荒木尚志「労働判例この1年の争点」日本労働研究雑誌496号11頁(2002年11月)2審東京高裁平成12年11月9日判決の労働判例研究である。
斉藤博「職務著作」(半田正夫・紋谷暢男編「著作者のノウハウ[第6版]」100頁2002年)
水戸重之「職務著作」(TMI総合法律事務所編「著作者の法律相談」127頁2002年
作花文雄「詳解 著作権法第2版」2002年8月
中嶋士元也「職務著作の前提となる『雇用関係』の成否」ジュリストNo.1235号98頁(2002.12.1)2審東京高裁平成12年11月9日判決の労働判例研究である。
柳沢眞実子「ゴーストライターの氏名表示権」(「著作権法と民法の現代的課題−半田正夫先生古稀記念」111頁2003年)2003年3月
半田正夫「著作権法第11版」2003年8月
紋谷暢男「職務著作−職務発明等他の職務上の創作との関連」コピライト510号4頁(2003年10月)
2003年12月13日,著作権法学会において,シンポジュウム「職務著作」が行われた。小泉直樹「司会・総論」,上野達弘「大陸法から見たわが国『職務著作』」,長塚真琴「集合著作物との対比」,茶園成樹「日本法の視点から」,前田哲男「著作権法29条と15条」,岡邦俊「職務著作と契約関係」,潮海久雄「比較法の視点から」が発表された。
長谷川浩二「重要判例解説」L&T22号65頁(2004年1月)
岡邦俊「当事者の合意による『職務著作』は可能か」JCAジャーナル2004年1月号74頁