X(原告・控訴人)は,意匠に係る物品を「減速機」とする登録第798521号の意匠権(以下「本件意匠権」といい,この意匠権に係る登録意匠を「本件登録意匠」という)を有している。Y(被告・被控訴人)は,モーターに減速機を取り付けたイ号物件及びロ号物件(以下,併せて「Y製品」という)を製造販売している。Xは,Yに対し,Y製品における意匠が本件登録意匠と類似関係又は利用関係にあり,YがY製品を製造販売する等の行為が本件意匠権を侵害するとして,それらの行為の差止め及び損害賠償を求めた。
原判決(東京地判平成15年1月31日(平成14年(ワ)第5556号)最高裁ウェブサイト)は,本件登録意匠の要部がケーシングのモーター側端の具体的な形状にあること,Y製品がいずれも,開口されている一端にフランジが形成されている円筒状の第1のケーシング(減速機部分)と,該第1のケーシングの他端に,その一端を連結し他端には開口部を有する円柱状の第2のケーシング(モーター部分)とからなり,第1のケーシングと第2のケーシングの連結部分は,ねじによって固定されており,第1のケーシングの膨出部の存在により僅かな間隙が形成されているが,そのモーター側端の形状全体は外部からは認識できないこと等を認定した上で,次のように述べて,Xの請求を棄却した。
《1》 本件登録意匠に係る物品とY製品の物品は異なり,Y製品の意匠は本件登録意匠と同一又は類似であるということはできない。また,利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても,本件登録意匠の要部は,「Y製品の意匠においては,外部から認識できないから,このような場合には,利用関係が存すると認めることはできず,したがって,利用関係による意匠権の侵害も認められない」。
《2》 Xは本件登録意匠との類否判断の対象となるべき製品はY製品の減速機部分であると主張するが,「減速機部分は減速機付きモーターの一構成部分にすぎないというべきであるから,Y製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできないというべきである(もっとも,利用関係の判断に当たっては,減速機部分のみを類否判断の対象にすることがあり得るが,利用関係も成立しないことは前述のとおりである。)」。
「意匠法の保護の対象となるのはあくまで物品の外観であって,外観に現れず,視覚を通じて認識することがない物品の隠れた形状は,意匠権侵害の判断に当たっては考慮することはできないというべきであり,この点は,利用関係の判断に当たっても変わらないというべきである」。
これに対して,Xは控訴し,意匠保護の根拠は創作の保護であると解すべきであり,物品を内製さえすれば意匠の創作を冒用しても許されるような解釈は不当であり,また,意匠法は意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり,「形態価値」を保護するためには保護されるべき意匠が物品の流通過程で見えるかどうかは問題ではなく,モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と,減速機付きモーターとしての「使用される場面」に注目しなければならないのであり,自己の商品に他人の意匠の創作をそのまま冒用するような行為は,たとえ最終的な製品において他人の意匠が外部から認識できなくても許容されるべきではないと主張した。