判例評釈 |
商標権の共有者が単独で無効審決の 取消訴訟を提起することの許否 |
(最判平成14.2.22平成13(行セ)142号,判例時報1779号81頁) |
盛岡 一夫 |
〔事実の概要〕 |
訴外A会社は,平成4年12月17日に「ETNIES」の欧文字を横書きした商標につき,指定商品を第25類洋服等として商標登録出願をし,平成8年1月31日に設定登録された(以下,「本件登録商標」という。)。本件登録商標に係る商標権はA会社からX(原告・上告人)に対し一部移転され,平成11年1月21日,その旨の登録がされ,以後XとA会社は商標権を共有している。 |
〔判 旨〕 |
原判決を破棄し,本件を原審に差し戻した。
「いったん登録された商標権について商標登録の無効審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権が初めから存在しなかったこととなり,登録商標を排他的に使用する権利が遡及的に消滅するものとされている(商標法46条の2)。したがって,上記取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の一人が単独でもすることができるものと解される。そして,商標権の共有者の一人が単独で上記取消訴訟を提起することができるとしても,訴え提起をしなかった共有者の権利を害することはない。」 「商標権の共有者の一人が単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解しても,その訴訟で請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び(行政事件訴訟法32条1項),再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになる(商標法63条2項の準用する特許法181条2項)。他方,その訴訟で請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,無効審決が確定し,権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる(商標法46条の2)。いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じない。さらに,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は,類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合の上審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされる。」 「以上説示したところによれば,商標権の共有者の一人は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると解するのが相当である。」 |
〔評 釈〕 |
1 本判決は,商標権の共有者の1人は,共有に係る商標登録の無効審決がされたときは,商標権の消滅を防ぐ保存行為として,単独で無効審決の取消訴訟を提起することができると判断するものであり,最高裁判所として初めての判決であり,意義のあるものである。 商標権が共有の場合,各共有者の全員が共同して審判請求をしなければならない旨規定されている(商56条1項・特132条3項)が,審決取消訴訟については共同で訴えなければならないか否かについては規定されていない。そこで,審決取消訴訟の場合にも共有者は全員で訴えを提起しなければならないか否かが問題となる。 商標法は,商標登録出願により生じた権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡することができないとしている(商13条2項・特33条3項)。商標権が共有に係るときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡し,その持分を目的として質権を設定し,その商標権について専用使用権を設定し,又は他人に通常使用権を許諾することができないとしている(商35条・特73条1項・3項)。しかし,商標権の使用については,各共有者は契約で別段の定めをした場合を除き,他の共有者の同意を得ないで使用することができるとしている(商35条・特73条2項)。 このように制限されていることについては,組合財産における合有のように共同目的の存在するがゆえの制限ではなく,知的財産権という無体の財貨の特殊性からくる制限であると解されている(中山信弘「特許を受ける権利の共有者の一人による審決取消訴訟の適格性」知的財産をめぐる諸問題(田倉整先生古稀記念)550頁以下)。すなわち,合有とは,共同所有者間に共同目的があり,この共同目的達成のために持分処分の自由その他の制約を必要とする共同所有形態であるが,商標権等の共同所有にはこのような共同目的が存するとは認められないから,民法上の通常の共有であると解されている(牧野利秋・注釈特許法(紋谷暢男編)363頁)。 手続きに関し,共有に係る商標権について商標権者に対し審判を請求するときは,共有者の全員を被請求人として請求しなければならず(商56条1項・特132条2項),商標権又は商標登録出願により生じた権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならないとしている(商56条1項・特132条3項)。 2 まず,主な裁判例を順を追ってみることにする。《1》東京高判昭和33年6月17日(行裁例集9巻6号1182頁)は,共有に係る登録意匠の無効審決の取消訴訟において,共有者全員に合一にのみ確定すべきであり,全員が提起すべきであるとしている。《2》東京高判昭和35年4月7日(行裁例集11巻4号1012頁,《3》の原審)は,共有者全員に合一にのみ確定すべきであり,出願人全員が提起すべきであるとしている。《3》最判昭和36年8月31日(民集15巻7号2040頁)は,《2》判決を是認している。《4》東京高判昭和43年2月27日(判夕221号148頁)は,特許の無効審決の取消訴訟において,《イ》共有者全員に画一的に確定すべきであること,《ロ》特許権の共有は民法所定の共有と異なり,権利は全部として共有者全員に不可分的に帰属するから,全員が提起すべきとしている。《5》東京高判昭和50年4月24日(無体裁集7巻1号97頁)は,実用新案登録を受ける権利の共有者の一人が提起した審決取消訴訟を保存行為として認めている。《6》東京高判昭和51年12月1日(無体裁集8巻2号454頁,《7》の原審)は,実用新案の登録を受ける共有の権利に関する審決取消訴訟は共有者全員について合一にのみ確定すべき固有必要的共同訴訟であるとしている。《7》最判昭和55年1月18日(判時956号50頁)は,保存行為として共有者の一員が単独で審決取消訴訟を提起することはできないとしている。《8》東京高判平成6年1月27日(判時1502号137頁,《9》の原審)は,実用新案登録を受ける権利の共有者は保存行為として単独で審決取消訴訟を提起することができるとしている。《9》最判平成7年3月7日(民集49巻3号944頁)は,共有者全員につき合一に確定する必要があり,固有必要的共同訴訟であるとしている。以上のうち,《1》及び《4》は,当事者系の場合であり,《2》《3》《5》《6》《7》《8》及び《9》は査定系の取消訴訟である。 次に,共有者が提起する審決取消訴訟に関する裁判例・学説をみることにする。 (1) 固有必要的共同訴訟説 前掲《3》判決は,「審決の取消訴訟において,審決を取り消すか否かは,登録を受ける権利を共同して有する者全員に対し,合一にのみ確定すべきものであって,その訴は共有者が共同して提起することを要するものである」としている。また,前掲《7》判決は,「実用新案登録を受ける権利の共有者がその共有に係る権利を目的とする実用新案登録出願について共同して拒絶査定不服の審判を請求しこれにつき請求が成り立たない旨の審決を受けたときに訴を提起して右審決の取消を求めることは,右共有に係る権利についての民法252条但書にいう保存行為にあたるものであると解することができないところ,右のような審決取消の訴において審決を取り消すか否かは右権利を共有する者全員につき合一にのみ確定すべきものであって,その訴は,共有者が全員で提起することを要する必要的共同訴訟である」としている。前掲《9》判決は,「共有者の提起する審決取消訴訟は,共有者が全員で提起することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきである」とし,その理由として,「右訴訟における審決の違法性の有無の判断は共有者全員の有する一個の権利の成否を決めるものであって,右審決を取り消すか否かは共有者全員につき合一に確定する必要があるからである」としている。 学説においても,審査と拒絶査定不服審判が続審の関係にある場合においても(特158条),共有者各人の処分権は維持されているのであって,審判と審決取消訴訟との関係は,審査と審判の関係より希薄であり,共有者各人の処分権はなお維持されると考えられるから,審決取消訴訟は固有必要的共同訴訟であると解している(仙元隆一郎・特許法講義〔第3版〕385頁,この固有必要的共同説として,土肥一史・知的財産法入門〔第2版〕199頁,高林龍・最高裁判所判例解説49巻1号219頁・同・ジュリスト1071号104頁,玉井克哉・特許研究21号67頁等がある)。 (2) 固有必要的共同訴訟であるが,審判手続と審決取消訴訟との間に実質的連続性を認める説 審判手続と審決取消訴訟との関係について,審判手続が行政処分であることは否定できないとするが,両者の関係を第一審と控訴審のような連続関係を認めて旧民事訴訟法62条(現民訴40条)の類推適用により,共有者の一人の提訴は他の共有者全員のために効力を生ずると解する(小室直人「審判手続と審決取消訴訟手続との関係」工業所有権法の諸問題(石黒・馬瀬還暦記念)302頁,布井要太郎・民商法雑誌83巻4号112頁,村林隆一・パテント20巻3号41頁。なお,吉田和彦・NBL595号43頁は,基本的には保存行為説をとるべきであるが,旧民訴法62条(現民訴40条1項)類推適用性をとる余地もあるとの立場である)。 (3) 固有必要的共同訴訟説をとるが,不当な結果に対処する方法として,共同提訴を拒む者を被告側に入れる説 固有必要的共同訴訟が訴訟共同の必要及び合一確定の必要という訴訟上の問題であることから,実体法の利益状況に応じつつ,その必要性は訴訟上柔軟に判断されるべきであり,原告側で共同訴訟を拒否する者,あるいは争わない者は,それらを被告に加えて訴えることにより,他の共有者の訴訟適格を肯定すべきであると解する(紋谷暢男・無体財産権法概論〔第9版補訂版〕68頁)。共同相続人間における遺産確認の訴え,共有地についての境界確定の訴え等において,共有者が提訴を拒んだ場合には被告側に入れたら固有必要的共同訴訟の要件は満たされるとの見解がある(新堂幸司・民事訴訟法〔第2版補正版〕474頁,小島武司・民商法雑誌66巻6号178頁,徳田和幸・判例評論373号38頁,大阪高判平成9年2月13日判時1606号51頁)。 (4) 保存行為説(類似必要的共同訴訟説) 前掲《8》判決は,保存行為説をとる理由づけとして,《イ》共有に係る実用新案登録を受ける権利の共有の性格は,合有ではなく,民法の定める共有であるから,合有であることを理由に共有者が提起する審決取消訴訟を固有必要的共同訴訟であると解する根拠はない。《ロ》審決取消訴訟は,実用新案権等の付与の可否を直接に決する手続きではなく,審決の適否の判断を通じて権利付与の可否の判断の適否を間接的に統制する制度であることからすると,共有者間における権利付与の可否についての合一確定の要請から,直ちに固有必要的共同訴訟でなければならないとはいえない。共有者の一部の者が提起した審決取消訴訟において,請求が棄却されて確定した場合には審決は確定し,反対に,請求が認容されて確定した場合には,審決取消訴訟の効果は他の共有者にも及ぶことになり,再び審判請求に対する審理が続行されることになるから,共有者間において権利付与の可否についての判断が区々になる事態が生ずることはない。なお,共有者が別々に審決取消訴訟を提起する場合には,合一確定の要請から類似必要的共同訴訟になると解すべきであるから,この場合にも判断の統一は担保されている。《ハ》実用新案登録出願に対する拒絶査定及びこれを維持する審決は,実用新案登録を受ける権利の実現を阻害するという意味で妨害行為に当たるから,共有者の一部の者がかかる妨害行為を排除するために審決取消訴訟を提起する行為は,実用新案登録を受ける権利の保存行為に当たると解している。 このように《8》判決は主に訴訟法上の観点から理由づけているが,前掲《5》判決は,実用新案登録を受ける権利の共有は民法の共有に属するから,侵害行為に対する妨害排除と同じく,共有者各自が自己の権利を保存するため単独で訴えを提起できるとし,専ら実体法の観点から理由づけている。 学説の多くは保存行為説をとっている(村松俊夫・特許判例百選〔第1版〕124頁,瀧川叡一・特許訴訟手続論考32頁,吉井参也・特許判例百選〔第2版〕124頁,牧野利秋・前掲363頁,中山信弘・前掲549頁,同・工業所有権法上特許法〔第2版〕278頁,大場正成・特許管理31巻3号277頁,仁木弘明「特許制度における必要的共同審判と必要的共同訴訟」特許争訟の諸問題(三宅正雄喜寿記念)561頁,同・特許管理31巻3号231頁,吉田・前掲43頁,潮海久雄・法学協会雑誌114巻3号339頁,古沢博・ジュリスト平成7年度重要判例解説229頁,同「実用新案登録出願人の名義変更届出と出訴期間の遵守」判例特許訴訟法(内田修古稀記念)507頁は,民法252条但書の保存行為の理由づけなしに各共有権者の共有持分に基づき当事者適格を認めてもよいと解する)。 3 本判決は,査定系と当事者系を区別して論じている。すなわち,本判決は,商標法は共有者が有することとなる一個の商標権を取得するについては全員の意思の合致を要求しているが,これに対し,いったん商標権の設定登録がなされた後は,他の共有者の同意を得ないで登録商標を使用することができる旨規定していると述べた後,次のように判示している。いったん登録された商標権についての商標登録の無効審決がされた場合に,これに対する取消訴訟を提起することなく出訴期間を経過したときは,商標権は消滅するので登録商標を排他的に使用する権利を失うことになる。したがって,無効審決取消訴訟の提起は,商標権の消滅を防ぐ保存行為に当たるから,商標権の共有者の一人が単独でもすることができるとし,このように解しても訴えを提起しなかった共有者の権利を害することはないと述べている。 また,保存行為説による場合に合一確定の要請が充たされるかについては,《イ》請求認容の判決が確定した場合には,その取消しの効力は他の共有者にも及び,再度,特許庁で共有者全員との関係で審判手続が行われることになり,他方,《ロ》請求棄却の判決が確定した場合には,他の共有者の出訴期間の満了により,無効審決が確定し,権利は初めから存在しなかったものとみなされることになる。《イ》及び《ロ》いずれの場合にも,合一確定の要請に反する事態は生じないとし,さらに,各共有者が共同して又は各別に取消訴訟を提起した場合には,これらの訴訟は類似必要的共同訴訟に当たると解すべきであるから,併合のうえ審理判断されることになり,合一確定の要請は充たされると判示している。 4 従来,固有必要的共同訴訟説を採っていたが,この見解によると,共有者の一人でも協力しない場合には審決取消訴訟を提起できないことになって不合理であるので,これを解決するために,審判手続と審決取消訴訟との間に実質的連続関係があると解し,旧民事訴訟法62条(現民訴40条)を類推適用することによって妥当な結論を得ようと考えていた(盛岡・発明80巻3号75頁)。しかし,次のような理由により,保存行為説の立場を採りたい(学説・判例にはそれぞれ問題点があるとの批判については,中山・工業所有権法上277頁,高林・最高裁判所判例解説前掲277頁,玉井・前掲72頁参照)。 商標登録出願により生じた権利及び商標権における共有は,合有的性格が強いが,処分権の制限は組合財産のように共同目的達成のためではなく,共同所有の対象が無体財産であるという特殊性から生ずるものであり,他の共有者の経済的利益保護のために共有者の同意を必要としたものである。したがって,民法上の通常の共有であると解されている。 審決取消訴訟が固有必要的共同訴訟であるとするか否かは,共同所有形態が共有か合有かということだけによって導くべきではなく,それを固有必要的共同訴訟とする必要があるかという点によって決すべきであるといわれている(中山「特許を受ける権利の共有者の一人による審決取消訴訟の適格性」前掲552頁)。従来,共有関係の訴訟において,裁判例は,共有関係そのものを共有者が第三者に対して主張するのは固有必要的共同訴訟であるとし,持分権,保存行為,不可分債権・債務というように実体法上個別性が許容されるものに関わる場合は固有必要的共同訴訟を否定しているといわれている(高橋宏志「必要的共同訴訟の試み」法学協会雑誌92巻10号1282頁)。 民法252条但書の保存行為として,共有者の一人が審決取消訴訟を提起した場合に,当該訴訟の結果は他の共有者に不利益を与えるのであろうか。《イ》請求認容の判決が確定した場合には,本判決も述べているように取消しの効力は訴えを提起しなかった他の共有者にも及ぶことになる(行政事件訴訟法32条1項),《ロ》取消請求棄却の判決が確定した場合は,《a》拒絶審決又は無効審決が確定するだけであって,他の共有者に不利益を与えるわけではない(多くの場合は出訴期間が経過しているであろう)。《b》出訴期間が経過していない場合は,共有者の一人の敗訴判決の既判力が訴えを提起しなかった他の共有者に及ぶことはないと解する(民訴115条1項)(高部眞規子・ジュリスト1233号123頁参照)。このように共有に係る商標登録出願により生じた権利及び商標権に係る審決取消訴訟を,共有者の一人が保存行為として提起することができると解しても,他の共有者の利益を害することもなく,また,合一確定の要請に反することもない。 最高裁は,本判決の6日後に,商標登録の無効審決の取消訴訟において,本判決と同様の判決をし(《10》最判平成14年2月28日判時1779号81頁),また,約1カ月後に,特許権の共有者の一人は,共有に係る特許の取消決定がされたときは,特許権の消滅を防ぐ保存行為として,単独で取消決定の取消訴訟を提起することができる旨の判決をした(《11》最判平成14年3月25日判時1784号124頁)。 本判決が本件と事案を異にする従来の判決とは,前掲《3》,《7》及び《9》の3件の最高裁判決であり,これらはいずれも実用新案登録出願に関する拒絶査定不服審判の審決取消訴訟であって,共有者の一人が単独で提起することはできないと判示したものである。 本判決は,共有に係る商標登録の無効審決に対する取消訴訟を固有必要的共同訴訟であると解して,共有者の一人が単独で提起した訴えを不適法であるとすると,商標権の設定登録から長期間経過して他の共有者が所在不明になる場合,共有者それぞれの利益・関心の状況が異なることから訴え提起について他の共有者の協力が得られない場合に不当な結果となりかねないとの実質的理由も述べている(前掲《10》判決は,さらに,無効審決後に持分を放棄したにもかかわらず,出訴期間内に登録が完了しなかった場合も挙げている)。訴え提起について他の共有者の協力が得られないようなことは,商標登録を受けた後のみでなく,商標登録を受ける前にも生じるのであり,登録の前後によって大きな違いはないと思われる(田倉整・発明99巻6号94頁,生駒正文「共有者の一部による審決取消訴訟の可否」特許・実用新案の法律相談(村林隆一・小松陽一郎編)233頁参照)。 前掲《11》判決は,特許権の共有者の一人が特許異議の申立てに基づく当該特許権の取消決定について単独で取消訴訟を提起することができると判示しており,このことは,商標の登録異議の申立てに対する取消決定(商43条の3第2項)の場合にもその射程が及ぶものと解される(高部眞規子・ジュリスト1234号109頁)。 最高裁判所は,無効審判の無効審決に対する取消訴訟(本判決及び前掲《10》判決)及び特許異議の申立てに基づく取消決定に対する取消訴訟(前掲《11》判決)においては,共有者の一人は保存行為として単独で訴えを提起することができるとしているが,拒絶査定不服の審判に対する請求不成立審決の取消訴訟の場合には(前掲《3》,《7》及び《9》判決),共有者は全員で訴えを提起すべきであるとの立場を採っている。しかし,本判決が本件と事案を異にしているとしている前掲《3》,《7》及び《9》の場合にも,共有者の一人は単独で訴えを提起することができると解すべきであろう(田倉・前掲100頁は,大法廷に回付して判例変更を明示すべきではなかったか,と述べている)。 固有必要的共同訴訟から生ずる不当な結果は,無効審決の取消訴訟の提起の場合のみでなく,拒絶査定不服の審判に対する請求不成立審決につき提起する取消訴訟の場合にも生じるのであるから,両者を区別することなく共有者の一人は保存行為として単独で取消訴訟を提起することができると解すべきであろう。 |