発明 Vol.98 2001-10
判例評釈
ジャックス富山地裁判決,
J−PHONE東京地裁判決との比較において
〔富山地裁平成12年l2月6日判決(平成10年(ワ)323号)判例時報1734号3頁〕
土肥 一史
〔事件の概要〕

 原告は,割賦購入斡旋等を主たる事業とする信販会社であり,「ジャックス」を商号として昭和51年から継続的に使用するとともに, その発行するクレジットカード等に別紙記載の商標1を付し,かつ,平成6年には,指定役務を第35類,第38類及び第42類として別紙記載の商標2を商標登録している。被告は,簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする有限会社であるが,平成10年5月26日,登録機関から,「jaccs.co.jp」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割当・登録を受けた。
 被告は,平成10年9月ころ以降,図1のホームベージを開設し,そのホームページ画面には,「ようこそJACCSのホームページヘ」というタイトルの下に,「取扱い商品」,「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており,右リンク先の画面において,被告の扱う簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。その後,被告は,右ホームページの画面を図2記載のとおりに変更し,「ようこそJACCSのホームページヘ」中の「JACCS」の下に「ジェイエイシーシーエス」とふりがなを記載するなどしていた(もっとも,本件口頭弁論終結時における被告のホームページの画面は,図3記載のとおりであり,画面上に「JACCS」は記載されていない)。この間,被告は,原告に対し,相当な対価の下に本件ドメイン名の譲渡等が可能である旨の交渉を行っていた。これに対して,原告が,被告による右ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は,不正競争行為(不正競争防止法2条1項1号,2号)に当たるとして,右ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めた。被告は,本件ドメイン名の使用が商品等表示の使用に該当しないこと,また原告は,先願申請の努力をすることなく,その有する商品等表示が著名であることを理由にドメイン名の使用を制限できるかのように主張することは権利の濫用に該当する,として争った。





〔判 旨〕
 「ドメイン名が,登録者の名称等登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。しかしながら,ドメイン名が,常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳ではなく,むしろ,登録者は,ドメイン名で使える文字を組み合せて,可能な限り,自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録している場合が多い。そして,インターネットを利用する者においても,ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の登録につき先願制が採られていることなどから,ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも,ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには,当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。
 そして,このように,ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば,ドメイン名の登録者がその開設するホームベージにおいて商品の販売や役務の提供をするときには,ドメイン名が,当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり,ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か,すなわち不正競争防止法二条一頃一号,二号所定の『商品等表示』の『使用』に当たるか否かは,当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。」
 そこで,本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに,別紙ホームベージ画面<1>の表示内容からすると,「この場合の本件ドメイン名は,右ホームページ中の『JACCS』の表示と共に,ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており,『商品等表示』の『使用』と認めるのが相当である。」
「本件ドメイン名は,『http://www.jaccs.co.jp」であるが,前記のとおり,『http://www.』の部分は通信手段を示し,『co.jp』は,当該ドメインがJPNIC管理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず,多くのドメイン名に共通のものであり,商品又は役務の出所を表示する機能はなく要部とはいえず,本件ドメイン名と原告の営業表示が同一又は類似であるかどうかの判断は,要部である第三レベルドメインである『jaccs』を対象として行うべきである。」
 本件の事実関係からすれば,「被告による本件ドメイン名の登録は,偶然ではなく,原告の営業表示である『JACCS』と同一であることを認識しつつ行われたと認められる。そして,本件ドメイン名の登録後間もなく,前記(一)のとおり,原告に対し,本件ドメイン名に関して金銭を要求していることからすれば,被告は,当初より,原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認せざるを得ない。本件における右のような事情及び被告が本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当たることを争っていることに照らせば,被告は,本件ドメイン名の使用を今後も継続するおそれがあるというべきであり,原告の営業表示と混同されたり,原告の営業表示の価値が毀損される可能性があり,したがって,原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。」

〔評 釈〕
  近時,サイバー空間におけるドメイン名を巡る紛争,いわゆるサイバースクワッティング紛争が多発しているが,この行為を直接規制する法規定を欠くこともあり,裁判外紛争処理手続きにより主として解決が図られていた。このような状況の下で,本判決は,株式会社ジャックスが,ドメイン名「jaccs.co.jp」を登録・使用する被告に対し,当該ドメイン名の使用の差止めを求めた事案に対する,我が国で初めての裁判所の判断として重要な意味を有する。この訴訟において,富山地裁は,不正競争防止法2条1項2号を適用し,被告のホームページで「JACCS」の表示を使用することの禁止,そしてドメイン名の登録機関である社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター※1(以下,JPNICという。)が登録しているドメイン名の使用の禁止を命じた。不正競争防止法2条1項2号の適用があるためには,原告表示の著名性,被告のドメイン名の商品表示性,商品等表示としての使用,双方の表示の同一・類似性及び営業上の利益が害されるおそれがあること,が求められる。本判決はこれらをいずれも肯定して,被告のドメイン名の使用を禁止したものである。本判決の採用した論理構成は,第二のドメイン名判決である東京地裁判決でも継承されているが,細かな点では差異を示すところも見られる。筆者は,この富山地裁判決については既に評釈する機会を与えられているので*2,ここにおいては,東京地裁判決との比較的観点からの検討を行いたいと考えている。
  不正競争防止法2条1項1,2号との関係で,ここで論ずるドメイン名問題を解決しようとする場合,最初の問題であると同時に最も問題となるのは,ドメイン名の使用行為が商品等表示の使用に該当するかどうかである。この点について,両判決とも総合的な判断により決すべきことを判示する。本判決では,(1)ドメイン名の文字列が有する意味(一般利用者が通常それから読み取る意味)と,(2)当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容,を総合すべしとするが,東京地裁判決では,(2)については同様であるが,(1)については「当該ドメイン名が使用されている状況」と述べている。その具体的に意味するところは明らかではないが,判決のその後に続く部分を見ると,大半がウエブサイトでの「J−PHONE」表示についての具体的認定部分であり,それ以外の部分としては,「http://www.j−phone.co.jp」の構成部分の機能を説明し,「本件ドメイン名『j−phone」は,『http://www』の部分及び『co.jp』の部分と切り離して,それ自体で商品の出所表示となり得るもの」と判示する部分しかなく,ここを捉えて「当該ドメイン名が使用されている状況」というのであれば(反対に,ここだけの言葉尻を捕らえると,ドメイン名自体が商品表示になり得るとも述べ,正確ではない),むしろ富山地裁判決のように,素直にドメイン名の文字列が有する意味と述べたほうが分かりやすいように思われる。さらに細かい点であるが,富山地裁判決は,ホームページでの表示内容といい,東京地裁判決はウエブサイトというが, その違いは,ホームページはウエブサイトの最初の画面と理解する一般的な見解に従えば,東京地裁判決のほうがより正確な表現を採用していることになる。表示は「もの」のそのままの状態の表面に付されているものに限らないことは,ピアノに付された表示の例でも知られているところだからである。
 重要な点は,いずれの判決もURLに使用されるドメイン名の使用だけでは商品等表示の使用とは認めていないということである。ウエブサイト(富山地裁判決では,ホームページ)での使用の態様が問われ,そこで商品の出所表示として使用されていることが求められる。この構成では,無理をして商品を探さなければならない弊害が生ずるように思われる。筆者は別の機会に,このような構成ではなく,ちょうど雑誌のタイトルとしてドメイン名という表示が使用されているのと同じように考え,雑誌の内容としてどのような商品が提供されていてもいなくても問わない構成を述べた※3。サイバー空間の問題はリアルワールドとは別でも構わないと割り切り,ウエブサイトという媒体の表示としてドメイン名を理解する考え方である。それが行き過ぎであれば,不正競争防止法が元来規定している,営業の出所表示として理解しておくことが望ましい。東京地裁判決では,原告が営業の出所表示としての使用を主張しているのに対し,判決は,商品の出所表示としての使用を認定しているのはいかなる理由によるものであろうか※4
  平成5年の不正競争防止法の全面改正により,新しい不正競争行為として創設された著名商品等表示無断使用行為は,創設の理由※5に反して,利用されることは少なかったが,ドメイン名を巡る紛争で注目されることとなった。理由は,1号の下で広義の混同理論を含め多くの判例理論が形成され,2号が想定した著名商品等表示の使用行為の場合であっても,1号で十分対応できる※6ということが指摘できようが,同時にその反面,ドメイン名のような従来にない「表示」については,1号の判例理論の成果が当然に適用できるとは限らないことにもあろう。ドメイン名が電話番号にも類する識別子であるとすると,混同のおそれをどうして立証するかという問題が残る。果たして,両裁判所は,2号の不正競争行為の問題として処理した。
 その結果,まず問題となるのが,著名性の問題である。両判決を比較すると,まず,認定時を異にする。富山地裁判決では被告のドメイン名使用時に著名性を認定するが,東京地裁判決では,被告に対する本件ドメイン名割当時で認定する。割当時と使用開始時が異なる場合を考えると,著名性の認定時は,富山地裁判決の認定をもって原則とすべきである。認定主体については,両判決とも直接明示していないが,いずれも一般消費者,一般国民を想定しているように推測される。認定手法については,使用期間,使用範囲及び使用態様によってなされるべきではないかと考えるが,富山地裁判決の事例では22年の使用期間と広告その他による使用態様に論及するが,使用範囲は格別触れていない。東京地裁判決の事例では,7ヵ月足らずの使用期間と東京を中心とした日本全国の範囲,そして東京を中心とした全国的かつ集中的な広告活動による使用態様に論及している。それぞれの付加的事由として,富山地裁判決では,原告表示が商標登録されている事実,東京地裁判決では,原告だけでなく携帯電話の通話エリアごとに設立されている関連会社を含めた表示としての著名性が認められた事実を指摘しておく。
  その余の点を見よう。まず,類似性については,富山地裁判決は,明確に第3レベルで類似性を判断すべきであると判示するが,東京地裁判決では漫然と第3レベルでの類似性の判断がなされている。いずれも,大文字か小文字かの外観の違いは重要ではないという観点て一致する。
 営業上の利益を害されるおそれについて,比較する。富山地裁判決では,原告が本件ドメイン名に関して金銭を要求されていることから,被告は当初から金銭を取得する目的でドメイン名を取得したものとして,営業上の利益を侵害されるおそれがあることを認定している。従来の判例理論からすると,不正競争行為が成立する限り,特段の事情のない限り,営業上の利益を害されるおそれがある※7,と導くか,あるいは不正競争行為それ自体から営業上の利益の侵害のおそれを導くことが考えられるが,いずれの手法も取らず,富山地裁判決は,不正競争行為と直接関連性のない加害目的に基づいて認定している。この点は,JPドメイン名紛争処理方針を意識したものではないかと思われるが,従来にない観点である。これに対して,東京地裁判決では,よく理解できないところがあるが,結局,被告はアダルトページを設けていた等の事実もあり,「本件ウエブサイトを開設しているのが原告であるとの誤解を受け」,原告表示に対する一般需要者の印象を損なうおそれが認められる,とするもののようである。損なわれる著名表示それ自体の有する印象を,仮に名声ないし評価とすると,本判決は2号に関して著名表示それ自体の毀損につながる判断を示すものとして注目される。
 最後に,被告の抗弁についていえば,富山地裁判決では,権利濫用の抗弁が,東京地裁判決では,普通名称の抗弁と先使用の抗弁が出されている。いずれも,一般論としては興味深い問題であるが,両事件では適切な抗弁とは評価されなかった。原告が先願申請の努力をしないで,不正競争行為であることを主張することにおいて,どのような権利を濫用しているか明確ではないが,いわゆるリバースドメイン名ハイジャッキング(reverse domain name hijacking)※8に当たるという抗弁として整理される。本件はその事案ではないが,今後問題となり得る抗弁である。東京地裁判決での先使用の抗弁は,本件表示が著名となる以前から被告の使用のあることを原則とするが,被告のドメイン名割当時より約6ヵ月前に,東京を中心とした全国的な集中的広告宣伝により,本件表示は著名となっていたことを理由に採用されなかったというものである。また,普通名称であるという抗弁※9は,商標法理論では,誰にでも自由に使用されるべき領域として排他的使用が許されないと理解されているが,一部に議論はあるものの,ドメイン名の領域では排他的使用を認める運用がなされている。これらについては,別の機会に論ずることとしたい。
  両判決の主文についても見ておこう。富山地裁判決は,ドメイン名の使用禁止の請求に対し,まず「社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成10年5月26日受付の登録ドメイン名『http://www.jaccs.co.jp』を使用してはならない」と命じているが,東京地裁判決では,登録の日時の指定なしに,「j−phone.co.jp」のドメイン名を使用してはならない,と命じている。ドメイン名の登録は,東京地裁判決の示すように「j−phone.co.jp」の部分のみなされるし,「http://www.」の部分は通信手段を示すものであることから,使用禁止の対象となるドメイン名の特定は,東京地裁判決が正しい。また,登録時を限定してドメイン名の使用禁止を命ずる富山地裁判決では,判決の実行性を確保できない嫌いがある。現行の登録規則では,使用禁止の判決が確定すると登録機関は当該ドメイン名を抹消するが(登録規則31条4項),その後6ヵ月間登録制限の状態に置き(同25条),この期間満了前1月前から登録を受け付けるが,この登録期間は原告を優先する期間ではなく,被告を含めた誰でも申請可能な同時申請期間であるから,抽選の結果,再度被告が登録を受ける(同8条1項)ことも十分あり得るからである。
インターネットホームページあるいはウエブサイトでの表示の使用禁止については,東京地裁判決がアドレスを特定して,そこで開設するウエブサイトから特定の表示の抹消を求めるのに対し,富山地裁判決では,広く,被告「のホームページによる営業活動に」本件表示の使用を禁止する。これではインターネット上のあらゆる営業活動において本件表示の使用を禁止してしまうおそれがあるように思われる。
  現在,工業所有権仲裁センターにおいても,ドメイン名を巡る紛争に対して仲裁裁定が出されている※10。この裁定は,「JPドメイン名紛争処理方針」に基づく,ドメイン名登録者に不正の目的が認められることを理由とする裁定であり,裁判所における裁判と整合性を持たせる必要性のあることから,第151通常国会において,不正競争防止法が改正された。まず,ドメイン名を「インターネットにおいて,個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号,記号又は文字の組合せに対応する文字,番号,記号その他の符号又はこれらの結合(改正不正競争防止法2条7項)」と定義し,さらに「不正の利益を得る目的で,又は他人に損害を加える目的で,他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章その他の商品又は役務を表示するものをいう)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し,若しくは保有し,又はそのドメイン名を使用する行為(同2条1項12号)」を新しい不正競争行為として追加した※11
 図利加害の目的によるドメイン名の取得行為を不正競争行為とすることは,工業所有権仲裁センターでの裁定と裁判をリエゾンするものであり,裁定に対する不服の訴えが相次いでいる現在,可及的速やかに求められていた措置である。ここで問題としておきたいのは,特定商品等表示という従来不正競争防止法にはない概念を新設したことである。1号の商品等表示が商品表示と営業表示を含む概念であるのに対し,特定商品等表示が商品又は役務を表示する概念であることを明確にし,ICANN(Internet for Assigned Names and Numbers)の「統一ドメイン名紛争処理手続」ルールにそろえたという説明がなされるのであろうが,不正競争防止法にいう商品等表示は商品及び役務表示を含む概念であるから,このような概念を特に設ける必要があったかについては意見が分かれよう。特定商品等表示の概念を設けないとすれば,1号の商品等表示のカッコ書きの中にドメイン名を入れることになろうが,同じにサイバースクワッティング行為に,1号及び2号の不正競争行為の適用を,法文上明確に認めることを意味するが,それは好ましくないということなのかもしれない。しかし,すでに見てきたように,裁判所の判断はまだ2件とはいえ,ドメイン名が商品等表示に該当することを明確に認めていることからも,当初案での改正のほうがすっきりしたのではないかと考える。


(どひ かずふみ:一橋大学教授)

(注)

 社団法人日本ネットワークインフォメーンョンセンターは,第一レベルを,「.jp」とするカントリーコードドメイン名の登録機関(レジストリ)である。今年2月から登録を開始したjp汎用ドメイン名については,レジストリ業務を(株)日本レジストリーサービスに委ねている。
 拙稿「『ドメイン名の使用差土を求めたジャソクス訴訟』に係る亀山地裁判決」法律のひろば,2001年5月号67頁参照。
 拙稿「前掲評釈」法律のひろば,2001年5月号70頁参照。
 さらにいえば,東京地裁判決は,「ウエプサイト中に表示された商品の出所を織別する」商品等表示としての使用を認定しつつ,著名性の認定のところでは,「営業を示す表示として著名」であることを認定し,さらに,判決の他の部分では「サービス名称」という語を使用している。
 通商産婁省知的財産政策室「遂条解説不正競争防止法」33頁は,たとえ混同が生じない場合であっても営業上の努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力に「ただ乗り(フリーライド)」すること,及び著名表示とその保有者との観念的結合関係の稀釈化ないしダイリューションをもたらすことを禁止し,著名表示の良質のイメージが不健全な連想等により汚染することを防止することにある,と説明している。
 シャネル事件において,高裁判決が(東京高判平成6年9月29日知的裁集26巻3号1132頁)が混同のおそれを認めなかったのに対して,最高裁(最判平成10年9月10日判時1655号160頁)はこれを認定して,判決を破棄し,差し戻したことは,1号の下での集積された判例理論により,2号の適用される事案についても解決できることを示唆する。
 「マックバーガー事件」最判昭和56年10月13日民集35巻7号1129頁。他に,「写植機用文字盤事件」東京地判昭和63年1月22日判時1262号35頁,「ポパイ事件」東京地判平成2年2月19日判時1343号3頁等。
 この抗弁は,ICANN紛争処理方針による裁定ではすでに認容されている(例として,DW.COM,D2000−1202.SAFARICASINO.COM,eRESOLUTION D−0288)。
 普通名詞は商標登録では拒絶事由であるが,ドメイン名登録では,議論はあるものの先占を認める傾向にある(先占を認める例:MYMP3COM,D2000−0579,先占を認めない例:CREW.COM,D2000−0054。JPDRPの例では,MP3.CO.JP,JP2001−0005があり,この裁定は先占を認めていない)。ドイツ最高裁は,2001年5月17日,普通名詞は先占の対象となると判示している(Pressemitteilung des Bundesgerichtshofs,Nr 42/2001 vom18.Mai 2001,“mltwo hnzentrale.de” WRP 2001,836.)。
 今日まで12件の申立てがあり,3件が申立取下げ,9件か移転裁定になっているが,裁定が実施されたのは4件であり,その他は出訴等を理由に実施されていない。低コストで短期間での紛争解決を謳ったJPドメイン名紛争処理手続ではあるが,出訴にいたる比率の高いことも留意されるべきことである。
 他に,損害額の推定規定として,ドメイン名の不正取得行為に対し,通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己か受けた損害の額としてその賠償を請求できる旨の規定が設けられたほか,この改正を機に外国公務員等に対する不正の利益供与の禁止規定(不正競争防止法10条の2)を整備した。