発明 Vol.96 1999-4
判例評釈
被告製品の製造,リース行為が意匠権の直接侵
害にも間接侵害にも当たらないとされた事例
〜「足場板用枠」意匠事件〜
[東京地判平成9年12月12日(民29),判例タイムズ959号250頁,判例時報1641号115頁]
<控訴審:東京高判平成10年6月24日,判決速報No.279−8167(控訴棄却)>
角田 政芳
1.事件の概要

 X(原告)は,足場板用枠に関する登録第793819号の登録意匠(以下,「本件登録意匠」という。)の意匠権(以下,「本件意匠権」という。)を有する者である。本件意匠権には,類似第1号ないし第3号の意匠(以下,「本件類似意匠」という。)が合体している。
 本件登録意匠に係る物品は,建設工事現場でH型鋼を断面がH形となる形態(「腹起こし」ともいう。)で用いた梁の上に足場板を支持し,同時に手摺を仮設するもので,水平取付部材がスライド自在に構成され,手摺柱にはフックが上下動自在に装着されているものである(判決理由中の「本件登録意匠の要部」を参照)。
 本件登録意匠の基本的構成態様は,棒状の水平支持杆と,その一方の端において直角に交わり上方に伸びる手摺柱とが,側面視においてL字形または逆L字形(以下単に「L字形」という。)の形状をなし,側面視においてほぼ三角形をなす水平取付部材が,その水平管状部分において,水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり,その具体的構成態様は,水平取付部材の一部である梁部固定部右側面視において左方下垂板が極めて短い7の字に近い形で,梁部固定部の右方下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記右方下垂板中ほどにかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され,また,水平支持杆の他方の端の水平支持部が下方へ向けた板状の2枚の突起部を備え水平支持杆の末端を包むような形で設けられているものである。
 Y(被告)は,業として別紙物件目録記載の意匠の足場板用枠(以下,「被告製品」といい,その意匠を「被告意匠」という。)を製造し,これを他にリースしており,現在もこれを続けている。
 被告意匠の基本的構成態様は,棒状の水平支持杆と,その一方の端において直角に交わる極めて短い手摺柱起立部を有し,側面視においてほぼ三角形をなす水平取付部材が,その水平管状部分において,水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり,その具体的構成態様は,右側面視において,水平取付部材の一部である梁部固定部の左縁を構成する板が比較的大きなほぼ三角形状をなし,その三角形状の板の下部には固定ねじが配され,梁部固定部の右緑を構成する下垂板と水平管状部分の右端から前記下垂板の下端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され,水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられているものである。
 なお,本件意匠権には類似意匠1〜3が登録されており,そのうち類似意匠2および3には,本件登録意匠の基本的構成態様のほか,具体的構成態様において,水平取付部材の一部をなす梁部固定部を構成する板がほぼ三角形状をなし,その三角形状の板の下部には固定ねじが配され,水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられている(したがって,被告意匠の具体的構成態様のうち本件登録意匠の具体的構成態様と相違する部分は本件類似意匠2および3の具体的構成態様に含まれている。)。
 被告製品は,Yからそのリースを受けた建設業者等のユーザーによって,これに手摺柱を立てた形態で使用されるものであり(以下,その形態を「A意匠」という。),さらに被告製品をそのまま何も取り付けないで使用する場合があり,Yから被告製品と共にリースされた長短2様の横手摺を備えた伸縮自在手摺(以下,「ラージテッスル」という。また,短棒ラージテッスルの形態を「B意匠」といい,長棒ラージテッスルの形態を「C意匠」という。)を立てて使用される場合がある。
 そこで,Xは,Yが被告製品を製造,販売,リースする行為は,本件意匠権を直接侵害するものであり,仮にこの主張が認められないとしても被告製品は,本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物であるから,Yがこれを製造,リースする行為は間接侵害に当たるとして,その行為の差止めと損害賠償を請求した。
 本件は,東京高裁に控訴され平成10年6月24日,控訴棄却となった。Xは,直接侵害については,なお被告意匠がL字形をなし,その手摺起立部が本件登録意匠の手摺柱起立部より短くても,足場板用枠の全体観察においては,類似するなどと第1審におけると同様の主張をし,間接侵害についても被告製品の手摺柱起立部にポールを立てたら,本件登録意匠と類似の形態となるなどと主張したが,控訴審判決は直接侵害および間接侵害のいずれについても,第1審判決と同様の判断をした。
 本稿では,第1審判決の研究を行うものである。
 当事者の主張
 (1)Xの主張
 (a)Xによる直接侵害の主張は,次のとおりである。
 まず,本件登録意匠の形態の要部は,次の3点である。(1)水平取付部材が,ほぼ三角形状,かつ水平支持杆に対してスライド自在に構成されている。(2)手摺柱が水平支持杆の末端から起立している。水平支持杆の末端に手摺柱起立部を設けて手摺柱を起立させた場合も含む。(3)水平支持杆の先端が腹起こし上面の反対側に載置する構成である。
 そして,本件登録意匠と被告意匠の類似関係については,類似被告製品の水平支持杆の末端には手摺柱はないが,本件類似意匠1と同様に手摺柱起立部が設けられていて,全体としてL字型をなしているから,本件登録意匠と類似する。また,被告意匠は,手摺柱が取り付けられていないが,手摺柱起立部には手摺柱を起立させることが予定され,使用時には安全確保のため必ず手摺柱が起立させられるから,被告製品の手摺柱起立部に手摺柱を起立させた状態で本件登録意匠と比較すべきである。そうすると,被告意匠は,本件登録意匠と右要部において類似している。
 被告意匠の具体的構成態様のうち,水平取付部材の梁部固定部は,比較的大きなほぼ三角形状(ひれ型)をしており,ここが,看者の注意を引く要部である。この点は,本件類似意匠2および3と酷似している。したがって,本件類似意匠2および3を参酌して本件意匠の類似範囲を確定すれば,被告意匠は,本件登録意匠と類似している。
 (b)Xによる間接侵害の主張は,次のとおりである。
 被告製品のリースを受けた建設業者等のユーザーが使用するA意匠と本件登録意匠を対比すると,A意匠は本件登録意匠の要部の形態をすべて具備しており,両意匠の相違点は水平取付部材の下部の梁部固定部の形状のみである。しかし,本件類似意匠1ないし3の構成および一般需要者による肉眼による間接対比,全体観察の見地からすれば,A意匠と本件登録意匠とは一般需要者が彼此混同を生じるほどに類似している。
 したがって,被告製品のリースを受けたユーザーが,手摺柱起立部にポールを立てて使用する行為は,本件登録意匠の侵害となる。
 また,被告製品は,手摺柱起立部が設けられているから,そこに手摺柱を起立させないことはあり得ない。もし,被告製品に手摺柱を立てない場合は,手摺柱起立部をあそばせることになるが,それは本来のふさわしい用法ではなく,常識的,経済的に実用的な用法ではない。したがって,被告製品は,本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物である。
 仮に,被告製品がA意匠の形態のみで使用するものでないとしても,それ以外の使用方法は,被告製品と共にラージテッスルのリースを受けた建設業者等のユーザーが,短棒と長棒のラージテッスルを立てて使用するものである。これらに取り付けられた2本の横手摺は,「別の用途目的のために取り付けられた付加部分であり,この2本の棒が設けられたことによって」本件登録意匠とB意匠およびC意匠とが非類似となるものではない。被告製品のリースを受けたユーザーが手摺柱起立部にラージテッスルを立てて使用する行為は,本件意匠権の侵害となる。
 被告製品のリースを受けた建設業者等のユーザーは,手摺柱起立部にポールを立てたA意匠,短棒ラージテッスルを立てたB意匠,長棒ラージテッスルを立てたC意匠のいずれかの態様で使用するものであり,そのいずれの場合も本件登録意匠に類似するから,被告製品は,本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物である。
 (2)Yの主張
 Yは,本件登録意匠と被告意匠に係る物品の同一性につき否認し,次のように主張した。
 直接侵害に関しては,手摺柱が設けられた本件登録意匠は,全体としてL字形の形状をなすが,被告意匠は,全体として横I字形をなすものだから,両意匠は看者に異なった美感を与えるものであり,非類似である。
 間接侵害に関しては,「被告意匠(被告製品の誤りであろう)は,本件登録意匠に係る物品の製造にのみ使用する物とはいえない。」と主張し,とくに,被告製品は現場の用途に応じて,手摺柱を立てずに使用されることもあるし,ユーザーが被告製品の手摺起立部に任意のポールを立てて,全体として足場用手摺柱として使用することもあるが,各々のユーザーの工事現場で異なるものが使用されており,被告意匠のポールを立てて使用した場合でも,本件登録意匠と類似した意匠となるとは限らない。ラージテッスルを立てて使用される場合の形態は,本件登録意匠と全く異なる。ラージテッスルの横手摺の水平棒の部分は,意匠の類否判断に影響する重要な構成部分である。


2.判旨
 (1)判旨第1点(直接侵害について)
 「本件登録意匠に係る物品の用途,機能等からみて,右物品について看者の注意を引く要部は,前記基本的構成態様及び具体的構成態様の双方であると認められる。」・・・・・・「本件登録意匠と被告意匠を比較すると,まず,基本的構成態様においては,棒状の水平支持杆を有すること,側面視において略三角形をなす水平取付け部材が,その水平管状部分において,水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されていることは,共通しているが,本件登録意匠では、水平支持杆の一端から直角に手摺柱が上方に伸び,これと水平支持杆とが,側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,被告意匠では,水平支持杆の一端から直角に上方へ向いた極めて短い手摺柱起立部と水平支持杆とが側面視においてキセル型の形状をしていることが相違している。
 また,具体的構成態様においては,右側面視において,水平取付部材の一部をなす梁部固定部の右方(右縁)下垂板と水平管状部分の右端から前記下垂板の中程又は先端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状を構成する点は共通しているものの,梁部固定部が本件登録意匠では右側面視で左方下垂板が極めて短い7の字に近い形であるのに対し,被告意匠ではその左縁を構成する板が比較的大きな略三角形状をなし,その三角形状の板の下部には固定ねじが配されている点で相違し,水平支持杆の他方の端の水平支持部の形態が,本件登録意匠では,下方に向けて板状の2枚の突起部を備え,水平支持杆の末端を包むような形で設けられているのに対し,被告意匠では,水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられている点において相違がある。
 なお,本件類似意匠2及び3はいずれも,本件登録意匠の基本的構成態様を有すると共に,具体的構成態様として,水平取付部材の一部をなす梁部固定部を構成する板が略三角形状をなし,その三角形状の板の下部には固定ねじが配され,水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられていることが認められる。
 3 右認定の本件登録意匠と被告意匠の構成態様の共通点と相違点によれば,被告意匠の梁部固定部及び水平支持部の具体的構成態様が本件類似意匠2及び3のそれと共通する部分があることを参酌しても,要部である基本的構成態様において,本件登録意匠では,手摺柱が上方に伸び,これと水平支持杆とが,側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,被告意匠では,短い手摺柱起立部があるのみである点で,両者は大きく異なっているから,本件登録意匠と被告意匠は,全体として,看者に異なる美感を与えるものであって,両者が類似しているということはできない。よって,Xの直接侵害の主張は理由がない。」
 (2)判旨第2点(間接侵害について)
 判旨第2点は,「被告製品のリースを受けた建設会社等は,建設工事現場において,腹起こしの状態で設置されたH形鋼の上に足場板を設けるための足場板用枠として被告製品を使用するに当たり,被告製品の手摺柱起立部にポールを立設し,これに横手摺となるパイプを連結する場合の外,被告製品を手摺柱起立部に何も立設せず,そのまま足場板を支持するものとして使用する場合,手摺柱起立部に短棒ラージテッスルを立設する場合,手摺柱起立部に長棒ラージテッスルを立設する場合が現実にあること・・・・・・が認められる。・・・・・・被告製品は,短棒,長棒のラージテッスルを立てた状態及びそのままの状態でも工事現場で実用されるものである。」と認定したうえで,「本件登録意匠と被告製品の手摺柱起立部にラージテッスルを立てた場合の意匠との類否について」,まずB意匠との類否については,「本件登録意匠とB意匠との共通点と相違点によれば,B意匠の梁部固定部及び水平支持部の具体的構成態様が,本件類似意匠2及び3のそれと共通する点があることを参酌しても,要部である基本的構成態様において,本件登録意匠では手摺柱が上方に伸び,これと水平支持杆とが側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,B意匠では上方に伸びる支柱が,水平支持杆と側面視においてL字形の形状をなすのみではなく,支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より短い二本の横手摺が伸び,正面視の全体は略逆F字形状をなしている点で,大きく異なっており,本件登録意匠とB意匠とは,全体として看者に異なる美感を与えるものであって,両者が類似しているということはできない。」とした。また,本件登録意匠とC意匠との類否についても,「要部である基本的構成態様において,C意匠では,支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より長い2本の横手摺が伸び,左端近くで上下の横手摺間に補強杆が設けられると共に,正面視において右方向に2本の横手摺が伸び,正面視の全体は片足のない鳥居形状をなしているのに対し,本件登録意匠には,これに対応する部分がないのであって,両者は要部である基本的構成態様において大きく異なっているから,全体として,看者に異なる美感を与えるものであって,B意匠と同様に両者が類似しているということはできない。」としたうえで,「横手摺部分はB意匠及びC意匠の要部である基本的構成態様をなすものであり,この部分の有無によりB意匠及びC意匠が全体として看者に与える美感が相違するものであるから,当然意匠の類否判断において考慮すべきものである。」とした。そして,「以上によれば,短棒又は長棒のラージテッスルを被告製品に立てた場合のB意匠,C意匠は,本件登録意匠に類似しないところ,被告製品は,ラージテッスルを立てる用途にも供されるものであり,また,被告意匠は本件登録意匠に類似しないところ,五に判断したとおり,被告製品はそのままの状態でも使用されるのであるから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品が,本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物に当たると認めることはできず,Xの間接侵害の主張には理由がない。」とした。

3.評釈
 (1)本件判決の判例上の地位
 本件判決の直接侵害に関する部分について結論および理論構成ともに妥当であるが,間接侵害に関する部分についてはその結論および理論構成のいずれにも反対である。
 本件判決は,登録意匠に係る物品の一部を構成する製品を製造,リースする被告の行為について,その被告製品がユーザーによって部品を取り付けられて,登録意匠と類似する意匠の態様のほか,単独で使用され,また登録意匠と類似するかどうか紛らわしいか利用関係にあると思われる態様で使用されている場合において,これが意匠権の直接侵害と間接侵害に当たるかどうかを問題とした事例であり,従来の判例においては見当たらなかった事例である。
 本件における被告製品は,本件登録意匠の構成態様すべてを備えていないものであり,本件登録意匠に係る物品の一部を構成する物ということができる。
 わが国の意匠法は,今年の改正により,いわゆる「部分意匠制度」を導入して,意匠の創作の保護を強化した(平成10年法律第51号)。この改正は,従来物品の部分については,例えば,カップの握り手や急須の注ぎ口などの形状は,物品としての統一性を欠くことを理由として,物品の形状とはされなかったが,その「広く強い意匠権」の保護を実現したものである(1)。本件は,登録意匠に係る物品の一部を製造しリースする第三者の行為が問題とされたもので,私見によれば,間接侵害に該当するとされるべき事例である。今回の意匠法改正においては,本件のような現行法上の登録意匠に係る物品の一部をなす物の製造,販売,貸し渡しの意匠権の間接侵害については議論されることがなかったようであるが,改正法の意匠の定義規定では,「物品」には「物品の部分を含む」ものとされ,かつ組物の意匠に関する「第8条を除き,以下同じ。」と規定されているが(改正意匠法2条),間接侵害に関する意匠法38条における「物品」には「物品の部分」は含まれないものと解される。また,議論の対象にされなかった理由の一つには,本件判決と同様に,意匠権の間接侵害の成立要件を厳格に捉えすぎていることも挙げることができるように感じられる。
 わが国の現行意匠法においては,登録意匠に係る物品の一部分の無断利用については,間接侵害の法理により意匠権の保護がなされ得ることとされているのであり,意匠の創作の保護が強化される方向にある今日,本件のような場合における意匠権の保護が真剣に考慮されるべきものと思われる。その意味で,本件判決を検討する今日的な意義があるものと思われる。
 なお,わが国における意匠権の間接侵害に関する判決例とされて従来公表されているものとしては,東京地判昭和38.10.12判夕154号132頁「水筒」事件判決,東京地判昭和58.9.2特許管理別冊判例集(昭和58年,No.28)294頁「包装用箱」事件判決が報告されている。しかしながら,「水筒」事件判決は,登録意匠の範囲に属する「水筒の製品及び半製品(機械工程完了のものをいう)は,本件侵害の行為を組成した物であり,製造型器は侵害の行為に供した設備」であるとしてこれらの廃棄および除却を認めた事例であって,意匠権の間接侵害の事例ということはできない。「包装用箱」事件判決は,被告が登録意匠の範囲に属する第一物件を2個接続し,これを容易に第一物件に分割できるようにした第二物件の納入を受けた需要者が,必ずこれを2つの第一物件に分割して使用している場合において,この「第二物件は第一物件の製造のみに使用する物であり,これを業として製造している被告の行為は,原告の専用実施権を侵害する。」としたものであるが,むしろこの事例においては直接侵害物を2個販売していると評価すれば足りたものと思われる。
 したがって,本件判決はわが国意匠法上,初めて意匠権の間接侵害が問題とされた事例であるということができる。
 なお,今年の意匠法改正により,類似意匠の制度が廃止されたが,本稿は改正前の法状態の範囲において議論をすすめるものである。
 (2)判旨第1点について
 判旨第1点は,直接侵害に関する。
 判旨は,本件登録意匠の看者の注意を惹く要部は,認定した基本的構成態様および具体的構成態様の双方であるとしたうえで,本件登録意匠と被告意匠は,その具体的構成態様において本件類似意匠2および3のそれと共通する部分があることを参酌しても,「要部である基本的構成態様において,本件登録意匠では,手摺柱が上方に伸び,これと水平支持杆とが,側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,被告意匠では,短い手摺柱起立部があるのみである点で,両者は大きく異なっているから,本件登録意匠と被告意匠は,全体として,看者に異なる美感を与えるものであって,両者が類似しているということはできない。」とした。
 判旨が本件登録意匠の要部認定に当たって,類似意匠2および3を参考にしている点は,類似意匠が登録意匠の類似範囲に属するものについてその登録が認められていたことからすれば妥当と思われる(2)。そして,本件登録意匠に係る物品が,建設工事現場でH形鋼を断面H形となる形態(腹起こし)で用いた梁の上に足場板を支持するとともに,手摺を仮設する足場板用枠であって,H形鋼の外側板の上方へ向いた端部に固定して用いられるものである点を考慮すれば,公知意匠などの存在など,格別判旨の要部認定を否定する認定事実もない本件においては妥当なものといえよう。
 判旨は,本件登録意匠と被告意匠の類否判断において,その基本的構成態様と具体的構成態様のいずれをも要部としているが,このように意匠の類否判断において基本的構成態様と具体的構成態様に分けて観察する手法は,最近の判例の採用する方法となっている(3)。意匠の基本的構成態様とは,「物品の用途・機能・使用態様から直接導き出される」ものであって,「願書必須記載事項である物品名を基礎づける要素がどのように選択され,配置されているかとういう構成」であり,具体的構成態様とは「物品を基礎づける最低限の要素ではないが,当該意匠を特徴づける要素とその配置」であるとされ,裁判例がこのような考察を行うのは「基本的構成態様が大きく相違していれば,装飾の対比をするまでもなく異なる意匠であると認定できる」ためであるとされる(4)
 判旨は,このような判例に沿った手法によっているということができ,基本的構成態様において,本件登録意匠が「側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,被告意匠では,短い手摺柱起立部があるのみである点で,両者は大きく異なっているから,本件登録意匠と被告意匠は,全体として,看者に異なる美感を与えるものであって,両者が類似しているということはできない。」としているのも妥当であろう(5)
 これに対して,本件登録意匠と被告意匠の類否判断においては,「具体的構成態様が本件類似意匠2及び3のそれと共通する部分があることを参酌しても,要部である基本的構成態様において,・・・・・・両者は大きく異なっているから,本件登録意匠と被告意匠は,全体として,看者に異なる美感を与えるものであって,両者が類似しているということはできない。」としている点は,あたかも本件登録意匠の基本的構成態様のみを要部と見たように思われる。
 ただし,判旨がいうように,「基本的構成態様において,本件登録意匠では,手摺柱が上方に伸び,これと水平支持杆とが,側面視においてL字形の形状をなしているのに対し,被告意匠では,短い手摺柱起立部があるのみである点で,両者は大きく異なっているから,本件登録意匠と被告意匠は,全体として,看者に異なる美感を与える」とし,両意匠を非類似とした点は妥当な結論であろう。
 もっとも,Xが主張したように,被告製品の手摺柱起立部は,必ず手摺柱が立てられることが予定されているものといえよう。Y自身も,被告製品の物件目録中の名称説明図において,水平支持杆と直角に交わる部分が「手摺柱起立部」であることを認めており,その説明部分の「これに取り付けた柱は手摺柱という」という記載を否定してはいない。
 このように,登録意匠の構成要素の一部を欠いた被告製品において,その欠落した一部の構成要素が取り付けられて用いられるように,構成上特定されている場合には,その被告製品の購入者か,本件のようなリースのユーザーが当然登録意匠の構成要素を完全に充足した態様で実施,利用することが明らかである。認定事実によれば,本件におけるYは,被告製品のユーザーに対しては,短棒と長棒のラージテッスルを被告製品と共にリースしているわけである。2種類のラージテッスルを被告製品と共にリースしているYの行為は全体としては登録意匠の構成要素を充足した物品のリースと同一視するという評価ができないかどうか検討の余地があるように思われる。
 ただ,本件におけるXの主張はそのような立論ではなかったし,また,特定された被告製品が,手摺柱を備えていないものである限り,判決がいうように「直接侵害の成否を考える際には,現実の被告製品の意匠を本件登録意匠と比較すべきであるところ,被告製品は手摺柱が起立していない」ため判旨の結論はやむをえない。このように登録意匠の構成要素から一部の要素を欠いた意匠に係る物品を製造・販売・貸渡等をする行為については,Xが主張したように,まさに意匠権の間接侵害の適用が問題とされる場面となる。Yがラージテッスルを被告製品と共にリースしている本件においてはなおさらということができよう。
 (3)判旨第2点について
 判旨第2点は,間接侵害に関する。
 意匠権の間接侵害については,意匠法38条が「業として,登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物を製造し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為は,当該意匠権又は専用実施権を侵害するものとみなす。」と規定している。
 意匠権の間接侵害に関するものとされている従来の判決例には,これに当たるものがなかったことは既に述べたとおりである。
 意匠権の間接侵害に関する従来の学説は,特許権の間接侵害の場合と同様に考慮すれば足りるものとしているように思われる。しかしながら,本件にみられるように,登録意匠に係る物品の構成要素から一部の構成要素を除き,その構成要素を取付可能としたような物品が製造,販売,リースなどが行われるようなケースにおいては,基本的には間接侵害が成立するものと思われる。しかしながら意匠法38条に規定されている「登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物」とは,その物を使用した態様が登録意匠またはこれに類似する意匠でなければならず,本件におけるように「手摺柱」という本件物品の部分と同一の物をその取付け用の「手摺柱起立部」に取り付けて使用する態様が,登録意匠と類似しない場合には意匠権の間接侵害が成立しない。
 これに対して,仮に本件のようなケースが特許権や実用新案権の侵害事件である場合には,「手摺柱」が取り付けられていさえすればその形状のいかんが問題とならない点で意匠権の間接侵害の場合とは相違点が生じる。その意味では,意匠権の間接侵害のほうが,特許権や実用新案権の間接侵害より成立しにくいということができよう(6)
 前述のように,本件においては,被告製品は本件登録意匠の構成要素の一部を欠いており,被告製品自体の製造,リースが本件意匠権の直接侵害に当たるとすることは困難である。しかしながら,意匠法38条によれば,被告製品が,それに他の部分を取り付けた場合には,本件登録意匠と同一または類似する意匠に当たる場合には,被告製品は「登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物」に該当する可能性が生じる。間接侵害が成立するためには,さらに,被告製品が登録意匠またはこれに類似する意匠に係る「物品の製造にのみ使用する物」でなければならない。
 判旨は,被告製品に短棒と長棒のラージテッスルを取り付けた態様の意匠であるB意匠とC意匠が本件登録意匠とは類似しないという判断をし,類似しない態様での「他の用途」を有している被告製品は,意匠法38条にいう「にのみ使用する物」に当たらないとの論理を採用していることが明らかである。
 ここで,本件における被告製品が間接侵害を構成する物であるか否かの判断に必要なことは,(1)被告製品が「にのみ使用する物」に該当するか否かを,そもそも「他の用途」の存否にのみ基づいて判断することが許されるかどうか,(2)また,「他の用途」の存否によって間接侵害の成否を判断する特許法上の判例に基づく場合であっても,本件における被告製品のユーザーの使用態様である,被告製品に何も取り付けないそのままの使用や,Yにより被告製品と共にリースされている短棒と長棒の横手摺を備えたラージテッスルを取り付けた使用が「経済的,商業的および実用的な用途」といえるかどうか,そしてそれで足りるのであるかどうか,(3)さらに,被告製品に本件登録意匠に係る物品もその「手摺柱」に取り付けて使用することを前提としている「横手摺」を取り付けて一体として使用するだけの形態の意匠が,本件登録意匠と類似しないといえるのかどうか,(4)また,そのような形態の意匠は,本件登録意匠の利用意匠に当たるのではないか,利用意匠に当たるとすれば意匠法38条に定められる間接侵害はこの場合にも適用されるのではないか,(5)そして,Yが被告製品のユーザーに対して上記ラージテッスルを被告製品と共にリースしていることをどのように評価すべきであるかなど,が検討されなければならない。
 ただし,このうち,(4)の点については,本件ではXが主張していないことであるから,判旨がそこまで判断していないことに問題がない。(1)の点については,とくに特許権の間接侵害に関する判例が「他の用途」の存否にのみ基づいて判断しており,判旨はこれに従ったものということができる。しかしながら,特許権の間接侵害に関する判例が「他の用途」の存否のみに基づいて判断している点は,極端なケースにおいては被告の「麺類連続茹上装置」は水を入れれば麺類の水洗いにも使用できるとして間接侵害を否定したものもあり(7),このような判例の態度は,特許法や意匠法が間接侵害の法理を採用した根拠,つまり特許権や意匠権の実質的保護の実現に反するという点で疑問である。
 (2)の点については,特許権の間接侵害に関する判例が,「あらゆる物が他の用途を有しないものはない」との反省から,「他の用途」に絞りをかけて,「経済的,商業的および実用的な他の用途」がある場合には「にのみ使用する物」とはいえないとするに至っていることに従ったものと思われる(8)。判旨が,被告製品のユーザーによる使用態様について,「他の用途」として被告製品だけの使用,手摺柱に短棒と長棒の横手摺を備えたラージテッスルを取り付けて使用する態様のある事実を認定し,これらの用途が「実用」されている事実を認定しているのは,そのためである。
 しかしながら,特許権の間接侵害に関する判例上の判断基準とされている「経済的,商業的および実用的な他の用途の存否」は,単にそのような事実をつくりあげることにより間接侵害責任,ひいては権利侵害を免れるための手段ないし方法を提供するものとなる可能性がある。
 例えば,本件のように,被告製品のユーザーは,これに手摺柱を取り付けて使用している事実がまず認定されているのであり,「手摺柱起立部」がわざわざ設けられている被告製品の意匠からも明らかなように,被告製品はそのような目的のために製造し,リースされている物である。また,手摺柱起立部を有する被告製品をそのまま使用する態様は,Xがいうように本来の用法でないことが明らかである。また,2種類のラージテッスルを取り付けたユーザーの使用態様も,まずそのラージテッスルには「手摺柱部分」が備わっており,これに2本の「横手摺」を備えたにすぎないものであって,これは,Xが主張しているように「手摺柱」に取り付けられた「付加的部分」にすぎず,もともと本件登録意匠の使用法に予定されているものでもある。したがって,このような「付加的部分」である「横手摺」を備えた「手摺柱」を取り付けて使用する方法は,そもそもリースする側であるYの行為により,判例のいう「経済的,商業的および実用的な他の用途」がつくりだされているのであり,このような方法は侵害を免れるために採られたものというべきである。特許権の間接侵害においても同様であるが,対象とされた物が「にのみ使用する物」に該当するか否かは,その物の製造された目的,構造,機能,取引方法およびユーザーにおける使用態様等を総合的に判断してなされるべきことである(9)。本件における被告製品は,「手摺柱」を起立させて用いるために製造,リースされ,ユーザーにおいて登録意匠に類似するというべきA意匠の態様により使用されているのであり,B意匠やC意匠の態様による使用はむしろ間接侵害責任を逃れるためにYによって創出されているにすぎないものであって,そのことがYの行為が間接侵害を構成することを妨げるものではない。
 (3)の点については,(2)において述べたように,被告製品は,本件登録意匠に係る物品もその「手摺柱」に取り付けて使用することを前提としている「横手摺」が取り付けられて使用されているにすぎない。かかる「付加的部分」が備わったにすぎない形態の意匠は,本件登録意匠と類似するというべきではなかろうか。
 判旨は,B意匠およびC意匠の「横手摺部分」は,要部である基本的構成態様をなすものであり,「この部分の有無によりB意匠及びC意匠が全体として看者に与える美感が相違するものであるから,当然意匠の類否判断において考慮すべきものである。」としたが,疑問である。
 また,被告製品のユーザーがYからリースを受けて使用している短棒と長棒のラージテッスルは,公知ないし周知の「手摺柱」を取り付けさらに「横手摺」を付加したにすぎないものと評価できるのではないだろうか。
 かかる公知ないし周知の構成態様を含む意匠の類否判断については,判決例には,「意匠のうち周知の部分は意匠の要部になりえないとはいえない」とするものもあるが(10),「需要者がしばしば目にするようなありふれた部分は,看者の注意を惹く箇所とはいえないし,そこにいわゆる意匠の要部があるともいえないからである」とするものもあり(11),学説も,意匠の要部とされた構成態様の一部の差異が「微差といえない程度のものであっても,周知の極めてありふれた態様のものであって,看者,すなわち取引者,需要者にその部分から両意匠が美感を異にするとは認識されないときは,両意匠は類似する意匠である。しかし,周知の態様であっても,必ず看者に美感の差の決め手とされるとはいえない。周知の態様が他の態様と結合することにより他方の意匠―引用意匠・イ号意匠―とは異なった美感を持つものと認識されることがあるから,このような場合には両意匠は類似しない。」とするものがある(12)
 このような判例・学説によれば,本件における被告製品のユーザーが被告製品にラージテッスルを使用した態様の意匠は,本件登録意匠と要部において類似と評価する余地があったと思われる。
 (4)の点については,登録意匠またはこれに類似する意匠と,B意匠およびC意匠におけるような「付加的部分」を備えた意匠は,仮に類似関係にないとしても利用関係にあるものと考えられる。そのような利用関係にある本件のようなケースにおいては,被告製品は,意匠法26条に定められている利用される「他人の登録意匠若しくはこれに類似する意匠」に係る物品の製造にのみ使用する物として,その製造,リース行為にはなお間接侵害の成立が肯定されるものと考えられる。
 意匠の利用関係に関する判例(13)のうち,リーディングケースというべき「学習机」事件判決は,登録意匠に係る「学習机」に「書架脚」をもって「書架」を結合させた「書架付机」について意匠登録し実施しているケースにおいて,原告と被告の意匠に係る物品には同一性がなく,両意匠は非類似としたが,被告の意匠は原告の登録意匠を利用するものであるとして,意匠権の侵害を認めた。この「学習机」事件判決によれば,「意匠の利用とは,ある意匠がその構成要素中に他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を,その特徴を破壊することなく,他の構成要素と区別しうる態様において包含し,この部分と他の構成要素との結合により全体としては他の登録意匠とは非類似の一個の意匠をなしているが,この意匠を実施すると必然的に他の登録意匠を実施する関係にある場合をいうものと解するのが相当である。」とされ,「意匠法26条は登録意匠相互間の利用関係について規定するが,・・・・・・意匠の利用関係は登録意匠と未登録意匠との間にも成立するものであり,他人の登録意匠又はこれに類似する意匠を利用した未登録意匠の実施が,他人の当該意匠権の侵害を構成することは勿論である。」とされた(14)
 そして,この「学習机」事件判決によれば,「意匠の利用関係が成立する態様は,大別すると次の2つとなる。その1は意匠に係る物品が異なる場合であり,A物品につき他人の登録意匠があるばあいに,これと同一又は類似の意匠を表わしたA物品を部品とするB物品の意匠を実施するときである。その2は意匠に係る物品が同一である場合であり,他人の登録意匠に更に形状,模様,色彩等を結合して全体としては別個の意匠としたときである。」としている。本件におけるB意匠とC意匠は,この「学習机」事件判決がいうところの第1の利用関係が成立する態様といえよう。
 また,本件におけるB意匠とC意匠は,いずれも「横手摺」部分を有し,しかもそれは一体として構成されているが,この「学習机」事件判決によれば,利用意匠とされる被告の製品が一体不可分である場合については,まず「意匠中に他人の登録意匠の全部が,その特徴が破壊されることなく,他の部分と区別しうる態様において存在することを要求,もしこれが渾然一体となって彼此区別しえないときは,利用関係の成立は否定されることを免れない。」としたうえで,「類否の判断にあたっては意匠の全体を相互に比較すべきことはいうまでもない。これに反して,意匠の利用関係の有無は,双方の意匠が全体観察においては非類似であることを承認しつつ,一方の意匠中に他の登録意匠の全部が包含されているか否かを問題とするものであるから,その判断は,一個の意匠を構成する一部が登録意匠全部と同一又は類似であるかを検討することによってなされるべきことはむしろ当然である。」とされている。
 本件においても,B意匠とC意匠は,そのうち被告製品に手摺柱を取り付けた構成の部分は,本件登録意匠と類似する態様といえるものであり,これにさらに「横手摺」部分を付加したものであることが明らかであるから,「学習机」事件判決が示した利用関係の4つの要件((1)意匠の構成要素中に他人の登録意匠またはこれに類似する意匠の全部を,その特徴を破壊することなく包含していること,(2)意匠に包含された部分が,他の構成要素と区別できる態様であること,(3)この部分を包含する意匠が他の登録意匠と非類似であること,(4)この意匠を実施すると必然的に他の登録意匠を実施する関係にあること)すべてを充たしているということができる。
 (5)の点については,Yが上述のような性格を有する被告製品をユーザーにリースする際に,上述のラージテッスルをもリースしているという事実の評価に関する。Yの行為は,被告製品が登録意匠に類似する意匠の態様で使用されることを知りながら,むしろ「他の用途」を作り出して間接侵害の責任を免れるために,他の意匠の態様で使用する部材をユーザーに供給しているものと評価される。かかる者の行為を放置することが意匠権者と一般公衆の利益の調整を図ることになるといえるのであろうか。私見によれば,間接侵害の法理はまさにかかる者の行為を放置しないとするものである。
 このような考察によれば,判旨第2点は,被告製品のユーザーのA意匠による使用との関係ではもちろん,B意匠およびC意匠の態様による使用との関係でも,被告製品は「にのみ使用する物」に該当し,これを製造,リースするYの行為は間接侵害を構成すると結論すべきであったというべきである。


(すみた まさよし:関東学園大学法学部助教授)


(1) 工業所有権審議会意匠小委員会報告書(1997年11月)参照。
(2) 大阪地判昭和58.10.28特許管理別冊判例集(昭和58年−No.19)446頁「通風器」事件参照。
(3) 例えば,意匠権侵害訴訟においては,東京地判平成元.2.27取消集(7)757頁「鉄骨用吊り足場」事件判決など,審決取消訴訟においては東京高判平成元.1.22取消集(5)419頁「制水弁」事件判決,東京高判平成元.2.23無体集21巻1号45頁「配線用コンクリート」事件判決,東京高判平成元.4.27取消集(7)303頁「額縁用枠材」事件判決などがある。裁判例の一般的傾向については,佐藤恵太「意匠権侵害訴訟における意匠の類否判断」斉藤博=牧野利秋編『知的財産関係訴訟法』<裁判実務大系>1997年546頁以下を参照。
(4) 佐藤恵太・前掲論文548〜549頁。
(5) 要部である基本的構成態様が一致するとして類似とした事例には,東京高判平成元.5.30無体集21巻2号402頁「載置台用回転台」事件判決などがあり,具体的構成態様の差異と全体対比により類似しないとした事例としては,東京高判平成元.3.23取消集(6)369頁「油圧作動カッター」事件判決などがある。
(6) 特許権の間接侵害を構成する対象物については,拙稿「問接特許侵害の対象物」日本工業所有権法学会年報第11号<1988年>61頁以下参照。なお,直接侵害との関係については,拙稿「特許権の擬制侵害−直接侵害との関係を中心として−」日本工業所有権法学会年報第13号<1990年>1頁以下参照。
(7) 東京高判昭和56.10.29特許と企業156号42頁「退類連続茹上方法」事件判決。
(8) 東京地昭和50.11.10無体集7巻2号426頁「オレフィン重合用触媒」事件判決,大阪地判昭和54.2.16無体集11巻1号48頁「装飾化粧板」事件判決,最近のものとしては,東京高判平成8.5.23判時1570号103頁「位置合せ載置方法」事件判決などがある。
(9) 特許権の間接侵害の成立が,単なる「他の用途」の存在ないし出現によって左右されるべきではなく,被告製品の製造目的,構造,機能,取引方法およびユーザーによる使用状態などとの関係から総合的に判断されるべきであることについては,拙稿・前掲論文・日本工業所有権法学会年報第11号<1990年>72頁参照。
(10) 東京高判昭和60.10.15取消集(昭和60年)1272頁「断熱材被覆管用エルボー型カバー」事件判決などがあり,取消訴訟に関するが東京高判平成7.9.26知裁集27巻3号682頁「タイムカード」事件判決がある。
(11) 東京高判平成元.3.23取消集(6)369頁「油圧作動カッター」事件判決。
(12) 竹田稔『知的財産権侵害要論<特許.意匠.商標編>』1992年282頁以下。
(13) 大阪地判昭和46.12.22無体集3巻2号414頁「学習机」事件判決をはじめとして,千葉地判昭和55.1.28特許と企業170号51頁「手提袋」事件判決(肯定例),利用関係を否定した判決例としては名古屋地判昭和59.3.26無体集16巻1号199頁「豆乳仕上機」事件判決,名古屋高判昭和60.4.24無体集17巻1号183頁「豆乳仕上機」事件控訴審判決などがある。
(14) 同旨,名古屋地判昭和59.3.26無体集16巻1号199頁「豆乳仕上機」事件判決,大津地判平成2.1.22取消集(平成2)582頁「肩当パット製造用ニードルパンチングマシン」事件判決。