発明 Vol.87 1990-10
判例評釈
商号等使用禁止等請求事件
(アメヨコ事件)
〔名古屋地裁・平成2年3月16日判決・昭和63年(ワ)1192号
・棄却・不競1条1項2号・工業所有権関係判例速報No.179〕
清瀬信次郎
<コメント>

 商店群の通称,すなわち集団による営業の地域的名称が全国的に周知となり,それと同一または類似の名称の表示を使用した場合,集団の営業に混同を惹起せしめるおそれある行為を規制できるかについての判例である。
 商店群の地域の名称の事件としては,最初の事件である。
 原告の請求は棄却せられた。商店群の総称は,地域の通称てある。不正競争防止法に基づく保護は,当該表示が自己の営業表示であることを要するのである。商店群の総称はこれに当たらないとする。
 はたして,商店群の名称は不正競争防止法上の保護に値しないものであろうか。


<事実の概要>
 原告(アメ横商店街連合会・以下Xという)は,JR線・上野駅から御徒町駅に至るガード下およびその周辺て約500の卸売業者および小売業者を会員として構成された社団であり,会員の経済的地位の向上を主目的とし,会員全体の宣伝広告,定期・臨時の大売り出し等を行うために発足したものである。Xは団体としての組織を備え,事業の目的,代表者選出,総会・理事会・会計に関する諸規則を定めた権利能力なき社団である。Xは設立当初から「アメ横」・「アメ横連合会」の通称で著名であった。「アメ横」なる名称は,戦後本件地域付近で飴を売る卸・小売業者が軒を連ね,それが「アメヤ横丁」として全国的に著名となり,次いで,アメリカ軍の物資その他舶来品を扱う店が増えたことから,これら業者を総称して「アメ横」と呼称されるようになり,一大商店街を形成するに至った。現在では地域の名称にとどまらず,商店群を総称する名称になったのである。
 Xは,昭和30年に,地域内のすべての商店を会員とする社団として発足した。Xはそれ自身で商号登記・商標登録ができないので,Xの会員一人の個人名で「アメ横」なる名称の商号登記を了した。
 「アメ横」なる名称は,Xの発足後全国的に周知となり,「アメ横」という名称でXの主催の下に大売り出しおよび催し事が行われた。
 昭和36年ころから,全国各地の商店または商店会の要請により,同42年ころから,全国各地のデパ−ト,量販店等の要請により,「アメ横バーゲン」Jアメ横バザール」等の名称の大売り出しを実施するため「アメ横」という名称の使用を許可し使用料を徴収していた。
 「アメ横」なる名称が周知となり,昭和40年ころから,Xの許可なしに「アメ横バーゲン」等の表示使用者が増加した。Xはこれらに対し,「アメ横」という名称の使用差止めの警告を発し,仮処分申請を行ってきたのである。
 そこでXは,「アメ横」なる名称を商号の主要部分とする被告(株式会社第二アメ横ビル・以下Yという)に商号使用差止め・商号登記抹消・損害賠償・遅延損害金を請求したのである。 Yの商号使用の態様については,Yは,不動産の売買および賃貸借を行うことを業とする会社であり,Yの本店所在地に第二アメ横ビルなる店舗ビルを所有し,その屋上に「アメ横」と表示した看板を設置し,入り口および案内図にも「第二アメ横ビル」・「アメ横」の表示をし,入居者店舗群があたかも「アメ横」という名称の社団であるXの構成員であるかのような外観を作り出している。
 建物内の店舗群の大売り出し,催し物を「アメ横ビル」の催しとして宣伝または広告する行動をとっている。
 なお,Yは,名古屋市内に,「第一アメ横ビル」なる名称の建物を所有し、それについても,以上と同様の方法で管理運営を行っている。
 「アメ横」という名称はXの通称であり,Y商号の通称の主要部分と類似する。
 「アメ横」の名称の下にYは多数多品種の小店舗を入居させ「安売り」の宣伝・広告の行動をするのはXが会員全体の催しとしての宣伝・広告と同様である。
 Xは,Yの管理する建物がXのそれと誤認した一般需要者の声を耳にした。
 「アメ横」を表示するYの商号および「アメ横」の表示はXの営業の施設・活動と混同を生じさせる行為である。
 Xは,昭和38年ころから,「アメ横」という名称の使用料を徴収している。Yが前記の営業を実施するようになり,評判が悪く,中京・関西地域で使用料収入は減少した。そこでXは,「アメ横」なる名称に対する信用力,イメージが低下し,営業上の利益を害されたと主張した。
 Xは,営業上の利益を害されたとして,損害賠償,不正競争防止法1条1項2号に基づき,商号および営業表示の使用差止めならびに商号の抹消登記手続を求め,また,不法行為後の遅延損害金の支払いをも求めた。
 Yの主張は,Xは,自ら営業を行うものではなく,周知性の前提を欠く。
 Yの営業は,店舗ビル賃貸を業とする商人であり,名古屋地区でこれを行い,競業関係なし,また,Yビルの賃貸店舗は,電気機器の店舗が中心であり,誤認・混同はない。
 中京地区・関西地区での「アメ横バーゲン」の企画が少ないのは,Yの活動とは無関係である。
 「アメ横」なる名称は,原告の通称ではない。それは地域の名称である。出所地誤認行為(不正競争防止法1条1項4号)とならない限り,許容される。
 「アメ横」なる名称は,商店群の総称であり,商店群は,一つの営業主体ではない。各業者は相互に競争し,資本的結合や協力的関係なし。商店群を一つの営業主体とできず,「アメ横」なる名称がこれら商店群の営業を表示するものではない。
 Xは商店群の営業を承継していない。故に,Xはこれら商店群の営業表示である「アメ横」なる名称を承継していない。
 不正競争防止法1条1項にいう「営業」とは,競業関係を生ずべき事業を指すのである。Xのいうように,本件地域の発展とその会員相互の共存共栄を図る事業は他者と競業関係を生ずる余地はない。
 Xが,会員から会費を徴収しても,内部の経費分担で,事業遂行のためのものではない。
 Xが,「アメ横」なる名称の使用料を第三者から徴収していても,それはトラブル回避のための謝礼ないし寄付金である。
 以上のYの主張に対し,Xの反論は,XはXの構成会員である商店群からなる商店会ないしは連合体である。商店群とXは事業目的・運営・経理等の面で密接不離である。「アメ横」なる名称は,原告を指称するものである。
 「アメ横」なる名称は,原告の通称として知られている。昭和40年ころから全国各地で毎年30件以上で「アメ横バーゲン」,「アメ横バザール」という名称で催しが行われ,「アメ横」の名称の使用を有料で許諾するという事業を行うようになっている。
 不正競争防止法にいう「営業」は,営利・非営利を問わず,収支相償う程度の意図でなされる継続的事業で足る。Xは大売り出しの催し・防犯・防火・交通整理等,商店群の営業活動と関連する事業を継続的に行い,構成会員自体の営利活動の一端を担うことにより営利事業を営むものである。
 事業の経費は,構成会員の会費および個別事業の分担金で収支相償うものである。「アメ横」なるXの名称の使用料徴収の事業も行っている。故にXは,不正競争防止法上の営業を行っているものである。

<判旨>(請求棄却)
 「アメ横」なる名称はXの営業表示ではない。これは,本件地域内の通りないし地区の通称である。「アメヤ横丁」が略称されたものである。
 周知性を有する営業表示と認めるためには営業とともに名称を承継することが前提である。本件地域の商店群は個々の商店ごとに各別に営業を行うもので,この商店群を一つの営業主体ということはできない。商店群全体の通称である「アメ横」なる名称は営業の表示ではない。また,本件地域の個々の商店の営業を表示するものではない。
 有償で「アメ横」という名称の使用許諾したこと,無断使用者に警告・仮処分を求めたことは,事実上管理したものにすぎない。
 「アメ横」という名称の周知性を高めたとしても,X自身の営業表示として広く知られたのではない。
 「アメ横」という名称ないし表示は,不正競争防止法1条1項2号にいう「広ク認識セラルル他人ノ営業タルコトヲ示ス表示」であるとは認められない。Xの請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

<評 釈>
(1) 本件の名称について
 本件の「アメ横」なる名称は,商店群の名称であり,またその地域の通称である。それはすでに全国的に著名になっている。この名称は商号ではなく,その登記はできない(商店群の一人に登記させている)。また,商標の登録もできない(出願したが拒絶されている)。この名称は,はたして保護に値するや研究してみる。
 商店群の名称というか,企業グループについての名称の保護は既に認められている。フランチャイズの名称(札幌ラーメン事件・東京地判昭和47.11.27判,判時710号76頁)・チェーン店の名称(アマンド事件・東京地判昭和42.9.27,タイムズ218号236頁)・同系列の企業名称(三菱建設事件・大阪高裁昭和41.4.5,高裁民集19巻3号21頁)・家元の名称(花柳流舞踊事件・大阪地裁昭和56.3.30,時報1028号83頁)などがある。
 フランチャイズの名称も営業群・商店群の名称といえるが,これは不正競争防止法の保護を受けた。これを「アメ横」なる地域の名称と比較してみる。
 フランチャイズの場合は,営業の本部が加盟店との契約で自己の営業の名称を用いて同一の営業のイメージのもとで営業を行う権利を与え,加盟店は一定の対価を支払う両者の継続的債権関係である。この場合は同一営業のイメージを有する広範囲の商店群であるのに対し,「アメ横」の場合は一定の地域の商店群である。
 「アメ横」なる名称は,選定により成立したものではない。自然的な発生であり,選定者を知ることもできない。もしこれに選定ということを問題にすれば,この一定の地域に店舗を構え,「アメ横商店街」に加入することであり,事後的選定である。フランチャイズの場合は,本部のみが選定するのであり,その点を大いに異にする。また,フランチャイズの場合は各加盟店に統一的特色があるが,「アメ横」の場合は,一地域で店舗を持つということと,安売りということと,店のスタイルにおいて多少の特色を保有している。
 「アメ横」なる名称は,各店舗がこれを統一的に表示するものではなく,各店舗が独自の商号または営業表示を有しているが,フランチャイズの場合は,商店群の名称があり,各店舗は営業表示を有することなく,統一的営業表示を使用している。「アメ横」の場合は,「アメ横」の何々というように,頭の部分の表示を省略しているとも考えられるが,各店舗は別個の名称を表示している。
 判示において,「アメ横」なる名称を商店群の営業上の名称たりえないとするも,判例の流れとして,不正競争防止法はフランチャイズの名称を認め,家元制度の名称をも認め,同系列の企業名称をも認め,チェーン店の名称をも保護しているのである。「アメ横」なる名称は,地域の商店群全体の通称であるが,営業表示ではないといえない。地域の名称も商店群の営業上の名称として,不正競争防止法の保護に値するものである。

(2) 不正競争防止法の営業について
 不正競争防止法にいう営業は,商法にいう営業とは異なる。Xは,商店群全体の発展に寄与するものであり,アメ横商店街連合会といい,会員の経済的地位の向上を目的とし,会員全体の宣伝広告,定期および臨時の大売り出しを行い,また「アメ横」なる名称の管理をも行っている。これは団体としての組織を備えており,権利能力なき社団である。このような事業者団体は営業を行うものではない。
 判示に,Xは本件地域または同地域の商店群の通称である「アメ横」という名称を営業の表示として承継したとはいえないとしている。それは,当該表示に係る営業とともに承継することが前提であるとしている。
 ここでXは営業の承継および営業を行うことは必要としないのである。Xは事業者団体なのである。
 ここで営業とは,商法のそれよりかなり広いのであり,収支相償う事業てあればよいと解すべきである(都山流尺八事件・大阪高決昭和58.8.29,タイムズ396号138頁,少林寺拳法事件・大阪地判昭和55.3.18,無体財産判例集12巻1号65頁,花柳流舞踊事件・前掲)。また,営業の形態は時代とともに変遷していくものである。なお新しい態様の営業形態が創設されていくのである。フランチャイズのような商店群・営業集団的営業も出現したのである。これによれば,札幌ラーメン事件(前掲)ではその標章は本部の保有するものとし,その標章の権利者は本部なりと解していたが,次の,8番ラーメン事件(金沢地判昭和48.10.30,判時734号91頁)では,その標章は本部のものであると同時に各加盟店全員のものであると解している。前者では本部が原告となり,後者では一加盟店が原告となっている。
 本件においても,地域の名称を管理するXは営業の承継なく原告だるの資格なく,正当なる当事者たりえないという論は当たらない。

(3) 原告の名称管理について
 判示に,「アメ横」なる名称はXの営業表示ではない。営業とともに承継する必要があり,周知性を有するというも,それが前提であるとする。しかし,Xに各商店の営業の承継を必要とすることはないことは前述(2)で述べたとおりである。地域商店群を一の営業主体とみるのではない。Xを商店群の各営業の管理者とみるものであり,その管理の中に「アメ横」なる名称の管理をも包含しているのである。これは目的を営業とせず,管理にある。Xは事実上この名称を管理している。このXには営業の承継を必要としない事業者団体なのである。
 Xのこの管理のために,各商店群の営業者より,会費を徴収しており,また,他の「アメ横」なる名称の使用者に対し使用料をとっているのである。全国各地のデパートなどに「アメ横バーゲン」,「アメ横バザール」などの名称の大売り出しの実施に「アメ横」なる名称の使用を許可し,その使用料を徴収しているのである。またこの冒用者に「アメ横」なる名称の使用差止めの警告を発し,仮処分の申請を行っている(仮処分事件は和解に終わっている)。

(4) 本件名称の周知性について
 本件で判示に,Xが営業を承継することを前提とし,「アメ横」という名称がXの営業表示として周知性を有するに至ったといえないとしているが,営業承継不要とする前述よりの立場から,本件の「アメ横」なる名称は周知性を有するものである。
 「アメ横」なる名称は全国的に知れわたっている。Xの会員は,全国各地の業者から,鮮魚・海産物をはじめ多品目の商品を継続的に仕入れており,この名が原告の通称となっている。また,「アメ横」という名称を付した各種の大売り出しおよび催し事がすべてXの主催の下で行われ,個々のXの会員自身ではこれを「アメ横」の名称では行うことができなくなっている。故にXの「アメ横」なる名称は周知性ある表章てあり,その周知の範囲は一地方ではなく,わが国全国に及んていると解すべきである。その周知度は極めて高いものである。

(5) 原告の請求について
 本件でXの請求は,Yに対する「株式会社第二アメ横ビル」の商号および「アメ横」という表示の使用差止めおよびYの「株式会社第二アメ横ビル」の商号抹消登記手続の請求が中心であり,損害賠償請求のほうはむしろ付属的なものである。この1500万円の損害額の算定は,Yが「アメ横」なる名称を使用することにより受けた利益というのであろうか。
「アメ横」なる名称はXにとり法律上保護に値するものと考えうべきものである。「アメ横」はその地域の商店群の営業者の共有の名称であり,商店群の名称ということではフランチャイズの場合と異ならない。
 「アメ横」なる名称は,この共有者以外の者の使用は禁ずべきものである。この名称の下に営業をいとなむ各営業者は運命共同体であり,他の者の使用により信用を害せられるおそれがあり,冒用の放置はダイリューショを生じ,また,この名称が一地方の商店群の名称とはいえない事態をも生ずる。
 本件では,Xに差止の利益あり,不正競争防止法1条1項2号で保護されるべきものである。
 また,本件ではXの保護のみならず,差止請求を認めることは,一般消費者の保護の考慮ともなりうるものである。X自身の営業についてのみ論ずべきものではない。
 不正競争の問題として,一定地域の商店群を問題とした事例は本件が初めてのことであると思う。Xには親睦団体としての色彩もあるようにみえるが,地域名称をも管理しているのであり,この名称管理に無形の価値を有するものである。

(6) むすび・あとがき
 本件は,地域商店群の名称の保護について問題となっているが,企業グループについての保護の問題は,既に認められている。フランチャイズの名称・チェーン店の名称・同系列の企業名称・家元の名称などと同じ流れの中にあるのが本件である。地域商店群は,これらのものと相違点も多数あるが,不正競争防止法の保護を受くべきものである。その詳細は前述したとおりである。故に本件判決に賛成しない次第である。
 本件判決を新聞紙上で知り,何か保護の理論はないものかと思っていたところ,発明協会の工業所有権判例研究会でこれを担当することとなり,以上述べた理論を考えてみたのである。
 この問題は,今後も考えていきたいと思っております。研究会でご指導下さった諸先生に感謝いたします。


(きよせ しんじろう:亜細亜大学法学部教授)