知的所有権判例ニュース |
フィルム一体型カメラの第三者による再刊用に対して 実用新案権等の行使を認めた事例 |
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「東京地方裁判所平成12年6月6日決定」 |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
債権者コニカ(株)は,フィルム一体型カメラについて実用新案権,意匠権を有しております。
債務者(有)某は,債権者が製造,販売したフィルム一体型カメラ中の使用済みプラスチック製筺体部分に,フィルム,電池を再充填して販売しておりました。 そこで,債権者は,債務者の上記行為は,債権者の実用新案権,意匠権を侵害していると主張して,債務者の上記行為の差止めを求めて,平成11年に,東京地方裁判所に仮処分命令の申立てを行いました。 |
2.争点 |
本事件の主要な争点は,以下の2点でした。
《1》 債務者製品は,債権者の実用新案権にかかる考案の構成要件を充足しているか,また債権者の登録意匠と同一の意匠であるか。 《2》 債務者の債務者製品の販売等に対して,債権者の実用新案権および意匠権の効力が及ぶか(消尽の成否)。 |
3.裁判所の判断 |
東京地方裁判所は,平成12年6月6日に仮処分決定を下しましたが,上記《1》の争点については,これを肯定したうえで,さらに上記《2》の争点につき,
「1 前記のとおり,右債務者製品は本件各考案の技術的範囲に属し,その意匠は本件登録意匠と同一であるから,債務者が債務者製品を販売する行為は,債権者の各権利を形式的に侵害することになる。 ところで,実用新案権ないし意匠権の権利者が,我が国において,当該権利の実施品を譲渡した場合には,当該権利の実施品については,実用新案権ないし意匠権は,目的を達したものとして消尽し,もはや実用新案権ないし意匠権の効力は,当該実施品を更に譲渡する行為等には及ばないということができる(最高裁判所平成9年7月1日第3小法廷判決民集51巻6号2299頁参照)。このように,実用新案権ないし意匠権の効力が,当該実施品を更に譲渡する行為等には及ばないと解すべき所以は,一般に,譲渡人は目的物について有するすべての権利を譲受人に移転するものであり,権利の実施品が市場での流通に置かれる場合,譲受人が目的物につき権利者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等できる権利を取得することを前提として取引が行われると解するのが相当であって,仮に権利の実施品の譲渡等の度ごとに権利者の許諾を格別に要するとするならば,市場における商品の自由な流通が阻害され,権利の実施品の円滑な流通が妨げられ,法が権利者に対し独占権を与えた目的に反することになるからである。 したがって,当該取引について,その対象となった実施品の客観的な性質,取引の態様,利用形態を社会通念に沿って検討した結果,権利者が,譲受人に対して,目的物につき権利者の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等できる権利を無限定に付与したとまでは解することができない場合に,その範囲を超える態様で実施されたときには,権利者は,実用新案権ないし意匠権に基づく権利を行使することができるものと解される。 2 そこで,右の観点から,本件について検討する。 疎明資料によれば,以下のとおりの事実が一応認められる。 債権者製品は,いわゆるフィルム一体型カメラであり,消費者は,本体にあらかじめフィルムが装填された商品を購入してそのまま撮影し,撮影が終了すると,フィルムが本体に内蔵されたままの状態で現像に出され消費者には本体筺体は返還されない製品である。そして,債権者商品は,装填されたフィルムを取り出すために,通常は本体の一部を破壊せざるを得ない構造とされている。消費者自らがフィルムを交換し,再利用するのは著しく困難が伴うように設計されている。また,債権者製品には,『撮影が済みましたら・・・・・・このまま現像にお出し下さい。・・・・・・なお,フィルム以外の構造部品はお戻しいたしませんので,あらかじめご了承下さい。』との注意書きがある。さらに,債権者は本体筺体の回収に努めており,回収された本体筺体は,仕分け,分別,解体後,検査の上,使用可能な部品については新たな債権者製品の部品として再利用されている。 右認定されたとおり,債権者製品の客観的な性質,取引の態様,通常の利用形態等に照らすならば,債権者製品は,販売の際にあらかじめ装嗔されているフィルムのみの使用が予定された商品であることが明らかである。これに対し,債務者の販売等の行為は,本件各考案及び本件登録意匠の実施品である債権者製品の使用済みの筺体にフィルム等を装填したものを販売する行為であって,製品の客観的な性質等からみて,債権者が債権者製品を市場に置いた際に想定された範囲を越えた実施態様であるということができる。 したがって,このような実施態様については,債権者が,債権者製品について,これを譲渡した際に,権利者の権利行使を離れて自由に業として再譲渡できる権利を付与したと解することができないような場合であるから,債権者は,債務者に対し,実用新案権ないし意匠権に基づく権利を行使することができるものと解される。」 と判示し,債権者の申立てを認容いたしました。 |
4.検討 |
本事件は,特許権者等の権利者以外の第三者が,権利者が製造,販売した使い捨てカメラの筐体部分を再利用して,再度製品として販売することの可否が争われた事件です。
この問題は,権利の消尽の成否と裏表の問題と考えられますが,消尽とはいっても,条文上の根拠や定義があるわけではなく,権利者と第三者,ないしは公共の利益のバランスを,どこに求めるのかの問題であると思われます。 本決定は,この点につき上記引用のとおり判断いたしましたが,本件の事実関係を前提とする限りは相当と思われます。 今後,リサイクル型社会を迎え,このタイプのさまざまな紛争が生じてくることが予想され,本事例も,その一つとして参考になると思われます。 |