知的所有権判例ニュース |
松本清張の作品の映画化,テレビドラマ化リストに 著作物性が認められないと判断された事例 |
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(東京地方裁判所平成11年2月25日判決) |
水谷直樹 |
1.事件の内容 |
原告林悦子氏は,作家の故松本清張の小説のうち,映画化ないしテレビドラマ化された作品について,その項目立て,脚本作成者,主な出演者の記載等に工夫を加えて作成されたリストの作成者であると主張しております。
他方,被告(株)中央公論社が発行している書籍2冊(松本清張小説セレクション第18巻「空の城」,「松本清張あらかると」)の各巻末には,いずれも松本清張の小説についての上記同様のリストが掲載されております。 これらのリストは,いずれも被告阿刀田高の著作にかかるものであるとして掲載されております。 そこで,原告は,被告両名に対して,上記2冊の書籍の巻末に掲載されているリストは,いずれも原告の作成にかかるリストの著作権および著作者人格権を侵害するものであると主張して,平成10年に,上記書籍の出版の差止,損害賠償の支払,謝罪広告の掲載等を求めて,東京地方裁判所に訴訟を提起しました。 |
2.争点 |
同事件での争点は,原告が作成したと主張されているリストは,著作権法の保護を受ける著作物,特に編集著作物に該当するのか否かとの点でありました。
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3.裁判所の判断 |
東京地方裁判所は,平成11年2月25日に判決を言渡しましたが,同判決中で,まず,
「原告リストは,別紙「松本清張作品映画化リスト」及び「松本清張作品テレビ化リスト」記載のとおり,まず,松本清張の小説の映画化に関する事項のうち,題名,封切年,製作会社名,監督名,脚本作成者名,主な出演者名を,また,そのテレビドラマ化に関する事項のうち,題名,放送年月日,番組名,放送局名,制作会社名,監督名,脚本作成者名,主な出演者名,視聴率を,それぞれ一覧表にまとめたものである。」と認定したうえで, 「原告リストは,前記のとおり,松本清張の小説の映画化及びテレビドラマ化に関する事項を一覧表にまとめたものであり,該当事項以外には何らの言語的記載がないから,その記載内容をもって,思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。したがって,原告リストが言語の著作物に当たるということはできない。」と判断し,更に, 「もっとも,原告リストは,一応,事実情報を素材とした編集物ということができるから,その素材たる事実情報の選択や配列に創作性があれば,編集著作物として著作権法上保護される余地がある。そこで,更にこの点について検討することとする。・・・・・・(略)・・・・・・ 前記認定の事実に照らせば,小説の映画化に関する事項に関し,題名,封切年,製作会社名,監督名,脚本作成者名,主な出演者名を,また,小説のテレビドラマ化に関する事項に関し,題名,放送年月日,番組名,放送局名,制作会社名,監督名,脚本作成者名,主な出演者名,視聴率を,それぞれ項目として選択し,その順序に従って配列して,右の該当事実を整理・編集することは,従来の事実情報資料においても採られていたものであって,原告リストがこの点において何らかの独自性,新規性を有するとは認めることができず,また,題名,監督名,脚本作成者名,主な出演者名等の各事項における個々の事実情報の選択・配列の点においても,原告リストが著作物として保護すべき創作性を有するものとは認められない。 なお,原告は,原告リストについて,その作成の困難性や資料としての価値の高さを強調するが,著作権法により編集物著作物として保護されるのは,編集物に具現された素材の選択・配列における創作性であり,素材それ自体の価値や素材の収集の労力は,著作権法によって保護されるものではないから,仮に原告が事実情報の収集に相当の労を費やし,その保有する情報に高い価値を認め得るとしても,そのことをもって原告リストの著作物性を認めることはできない。 以上検討したところによれば,原告リストが編集著作物に当たるということもできない。」と判示して,原告の請求を全て棄却いたしました。 |
4.検討 |
本事件は,上記したリストの著作物性が争われた事件であります。
判決は,まず,このリストが言語の著作物に該当するのか否かを検討しておりますが,問題となるリストが,単に題名,放送年月日等の事実に関する事項を一覧表としてまとめたのみであって,これ以外に言語的表現が存在しないことを認定したうえで,そうである以上は,言語の著作物とは言い難い旨判示しております。 次に,上記リストが編集著作物に該当するのか否かについても,上記各事項を一覧表としてまとめることは,従来から一般的に行なわれてきたことであり,そうである以上は,素材の選択,配列の点で創作性を欠くものであるとして著作物性を否定しております。 以上のとおりでありますが,ここで検討すべきは言うまでもなく,上記リストの編集著作物性の点にあると考えられます。 すなわち,ある作品が編集著作物であると認められるためには,素材の選択と配列に創作性が要求されることは言うまでもありませんが(著作権法12条),本件では,素材の選択および選択された素材の一覧表上での配列の仕方に創作性が認められるか否かが,問題となるリストの著作物性の有無を結論付けることになると考えられます。 すなわち,素材の選択と配列の結果として作成された一覧表を通じて認識できる素材の選択と配列に関する表現において,創作的表現の存在を認めることができるのか否かが,著作物性の有無を決定することになるものと考えられます。 本件では,上記引用したとおりの根拠に基づき,その著作物性を否定しておりますが,判決中で認定されている事実を前提とする限りは,妥当な判断であると考えられます。 なお,同判決は,素材の価値や収集の労力は,それが相当程度に達していたとしても,著作物性の判断に影響を与えない旨判示しておりますが,この部分は電話帳の著作物性を否定した米国連邦最高裁判所のファイスト判決を彷彿とさせ,重要な判示であると考えられます。 |